生き残った参加者たちが鎬を削る『戦場』からは遠く離れた、会場のとある片隅。
この場所はいうならば……『何もない』ところ。
会場の端に近いうえ、どこかへ通じる道や特別な建造物があるわけでもない。
正直用がなければ立ち寄ったりせず、またそんな用ができるわけがない場所のはずなのだが………
今、ここに一人の参加者の姿があった。
「えーと、G-5は違って……G-6も違った……G-7でもない……」
ブツブツ呟きながら手にした紙にメモしているのは泥のようなスーツを全身にまとった男―――
セッコ。
彼がこんなところで、しかも単独で何をしているのかというと……先の放送で伝えられなかった『どこかわからない』禁止エリアの捜索である。
とはいえ予想はつくと思うが、勿論セッコが自分からこんな役目を買って出たわけではない。
少し(といっても一時間以上)前―――
『禁止エリア……だぁ?』
『そう、それがどこか調べてきてほしいの』
『うぐ、うおお………それやったらよお………甘いの、くれるかああ?』
『ええ、いいわよ―――ただし『誰にも見つからないように』、ね』
『う? めんどくせーなあ……見つかっても……そいつ、殺しちまえばいいだろぉ?』
(………………)
『ダメ……とは言わないけど、できるだけやめてほしいの。
もし誰にも見つからず、うまく禁止エリアを見つけてこれたら甘いのを、そうね………十個あげる』
『じ、十個? ホントかッ!!?』
『勿論よ、なんだったらもっとあげてもいい……ほら、ここにいっぱいあるでしょう?
ムーロロはもう角砂糖をそんなに持ってないから、あたしよりたくさんあげるって言われてもだまされないようにね」
『うお、おお、おおおおお………もっと………いっぱい………』
陶酔したような表情を浮かべるセッコ。
人間の味を覚えたとはいえ、それで甘いものが嫌いになるわけではない。
片や物騒、片や普通ながら、二つの嗜好は両立しうるものなのだ。
『もし禁止エリアに入っちゃったら、まず後ずさりしてエリアの外に出なさい………
後は……そうね、調べるなら一番南東の方から―――地図もメモも持ってない?
………………ジョニィ、あなた余分に持ってないかしら?』
『うお……おおっ、甘いの……いっぱい』
(ちゃんと聞いてるのかしら……? まあ、動かしやすいのは助かるのだけど)
報酬で釣りつつ必要事項を伝えるルーシーであったが………実際のところ、彼女の中で禁止エリアの優先順位はそれほど高くはない。
ただあの狡猾な男たちを相手にすることを考えると、獅子身中の虫―――自分たちよりもムーロロと付き合いの長いセッコを抱えたままなのはリスクが大きいのだ。
さらに本人の言動を踏まえると、他の参加者と接触する際に彼がいては自分たちが困ることになりかねない。
そのため彼をしばらく遠ざけ、しかも孤立させておくための方便が例の禁止エリア捜索というわけだった。
『うおおっ、それじゃあ行ってくるぜ!
会場をダニ潰しに……じゃなくて、ハエ潰し……でもなくて、うぐぐ………ノミ潰し………飲んでる場合かよおおお―――ッ!!』
(………まちがいない、これでまちがいない………セッコ、彼が言いたいのは………『しらみ潰し』)
―――と、そういったいきさつでセッコはこのような会場のはずれまで来ていたのである。
彼が通ったルートまでは定かではないが、確かな事実と言えるのは三点。
現在位置がG-7とG-8の境目付近である事、少なくともセッコ自身は誰にも見つかっていないと認識している事、そして肝心の禁止エリアにはまだ一度も引っかかっていない事。
そんな何もない退屈ともとれそうな道中に飽きかけていたその時………セッコの先で何かが動いた。
(うお?)
反射的に動きを止め、よくよく目を凝らしてみると……なにやら『影』が見える。
月は雲に隠れ、周りには街灯も無く、影の近くにも明かりになるような物は皆無。
そのため周囲は果てしなく暗く、わかったのはかろうじて影自体が人型をしていることだけ。
―――要するに『誰かがいた』。
(あー………)
セッコの判断は、その場でできる限り物音を立てないように地面へ潜るというもの。
『誰にも見つかるな』という命令を忠実に守るために。
「………」
一方、人影のほうはセッコに気付かなかったのか首を少し落とし、自分の腕へと向ける。
時間でも確認しているのか数秒後にはまた顔を上げ、今度は周囲を確認するような動作を見せ……その動きが止まる。
そこにいた人影の元に、何処かから新たに近づく別の影を認めたことにより。
人影は近づいてくる別の影を認識するとそちらへと向き直り、静かに口を開いた。
「首尾は……?」
「………………」
元々か、それとも何かを警戒しているのかその声量はギリギリまで近づかないと聞き取れないほど小さく、子供とも大人とも、また男とも女とも判別できない。
問われた方は無言で懐に手をやり、『何か』を引っ張り出して前へと差し出す。
セッコが覗けたとしても暗がりのためその正体はよく見えず、理解したのは当人たちだけであろう。
「………」
「………………」
無言ではあったが、小さく頷いたところを見るとそれは人影を満足させる結果であったようだ。
一方差し出した側はその様子を見て、考え込むような仕草を見せる。
何やら疑問がありそうだと判断した人影は少しそちらに寄り、再びそっと囁きかけた。
「これで何かをするというわけではない―――重要なのは『奴』にこれを渡してはならないということ………」
二つの影が何者なのか、そして何を目的としているのか。
その思考は勿論、表情や性別すら窺い知れない今は、何もわからない。
やがて影が連れ立って歩き出し、再び何処かへと消えていくまでの短い間にただ一度、雲から顔を出した月の光がその手に持つ物に反射して―――
―――キラリと『赤く』光った。
「………………」
数分後。
足音が十分遠ざかったことを確認したセッコは首から上だけ出して様子を窺ったのち、浮上した。
(見つかって、ねえよなあ?)
影の正体や会話内容などどうでもよい………重要なのは『誰かに見つかったら甘いのがもらえない』ということのみ。
それでも一応気にはなったのか彼らのいた場所を眺め、もっと近くで見てみようと前進したとき―――
『おいセッコ おまえ今…禁止エリアに入ってんじゃあねーのか? なんでここにいる?』
突如響いた、殺したはずの男の声に仰天して辺りを見回すも、先ほど自分自身で確かめた通り誰もいない。
やがて聞こえてきたカウントダウンにより、ようやく声の発生源が自分の首輪で、禁止エリアに踏み込んだことに気が付いた。
ひとまず言われた通り後ずさりして脱出し、現状を再確認する。
「ここ……かよォォォ! 禁止エリアは……おっ?」
目的の場所を見つけたことに歓喜しかけるも、言葉途中でふと疑問が湧き上がる。
しばし宙を見つめた後、デイパックから時計を取り出す―――23時少し前。
「………ん~~?」
自分"だけ"が禁止エリアの警告を受けた点、それが妙に気にかかり、顔に手を当て考え込む。
先ほどの影たちには何も起こらなかったのに………19時からか21時からか、影たちのいた場所はとっくに禁止エリアになっていたはずなのに。
「やはり……あいつら……『禁止エリア』に引っかからない……入ってたのに………なんなんだあいつら…」
―――それは、影たちが殺し合いのルールに囚われる参加者ではありえないことを示していた。
「お、思い出した……! ルーシーに教えてやらなきゃあな……G-8が禁止エリア……うおお、これで甘いの……たくさん……ッ!!」
その口調からは想像しにくいが、セッコは意外と細かいことに気が付く男である。
だが、同時に決して記憶力が優れている男でもないのだ。
果たしてその疑問をルーシーか、別の誰かにぶつけるまで覚えていられるのか?
あるいは『それならそれでどうでもいい』と忘れてしまうのだろうか?
「うああ、うぐぐ……にしても……なんか……変、なんだよなああ……おれの…………からだ……どうなってんだよおおおお?
誰か答えてくれよォ~~~~重要なんだよオオオオ!」
加えて、先ほどから自覚し始めた体の変調。
どこがどうおかしいのか具体的な説明はできないのだが……とにかくおかしいというのがセッコの思考を狂わせていた。
―――それがじわじわと進みつつある『恐竜化』の兆候であることを、彼は知らない。
「チキショー、イライラするなあ……食いてえなああ……作りてえなあああ………
けど見つかるなって言われてるしなああああ………知らせたら、また遊んでいいんだよなあああああ?」
考えるべきことは多く、されどいずれの事柄も彼単独で解答に辿り着くのは極めて困難。
そして……『考えるのをやめた』、『狂人』ッ!―――この世にこれほど何をしでかすかわからない組み合わせがあるだろうかッ!?
セッコがどこまで考えるかはさておき………最優先事項は、ひとまずこれで『任務完了』ということ。
望みの報酬を受け取るべく、すぐさま方向転換し移動を始めるのだった。
―――他人から与えられるものばかりを享受し、自分自身の思考は未だ中途半端なものばかりであるセッコ。
ある意味最も迷走している彼が『答え』に辿り着くときは、果たして来るのだろうか………?
【G-7とG-8の境目付近 / 1日目 真夜中】
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、恐竜化(進行:小、それに伴い違和感)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:
基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.角砂糖ほしい
1.ルーシーのところへ戻り、甘いのいっぱいもらう
2.禁止エリアに引っかからない誰かに変な自分の体、いったいどうなってんだ?
3.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
4.
吉良吉影をブッ殺す
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
※千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。
DIOのことは完全に忘れ去りました。
※恐竜化はディエゴから距離をとっているため進行は緩やかですが、変化を意識し始めている段階です。
※ルーシーから不明な禁止エリアを調べてくるよう頼まれています。
それに伴いジョニィの基本支給品一式を譲り受けました。
ルーシーたちとどこで待ち合わせしているかなどは次回以降の書き手さんにお任せします。
【備考】
- 21時に設定された禁止エリアはG-8でした。
- 会場内に禁止エリアを無視できる何者か(最低二人)がいるようです。
正体、目的は現時点で一切不明です。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2019年05月30日 19:29