『考えるのをやめる』
さて、君たちはこの言葉についてどう思――いや、聞き方が悪いな。
考えるのをやめるということは“どういう状態のこと”をいうのだ?と質問しよう。
例えばそうだな、腹が減ったから飯を食うとして、何を食べるか考える。
この時点ですでに『食べたいモノ』『食べるという判断』『腹が減ったという認識』の三つを考えている、といえる。
この例に当てはめるなら、考えるのをやめるというのは相当に難しい。まぁ皆までは言わないが……
それではここで、今回の主人公を紹介しておこう。それにあたって、まず皆に確認しておきたいことが二つある。
マル1、『彼はおそらく、考えるのをやめることができない』
マル2、『彼は記憶の全てを本に依存しているわけではない』
前者に関してはほぼ全ての人間に当てはまるから……『彼にはボーっとする、という概念がない』とでも言い換えよう。
たとえ周囲からそう見えていたって、視界に入るすべて、耳に届く音すべてが本に記録され続けるということは、だ。
そりゃあボーっと、なんてしていられる訳がない。で、ここで後者だ。
彼はドーナツという食べ物の名前を憶えていなかった。もちろん本にはそこかしこに書いてあるだろう。でも自分の頭の中には必要ないと本に一任していた。
一方で、この会場で母を刺した感触、
リサリサを絞め殺した感触、そして千帆が自分の手を取らなかったあの瞬間の表情。それらはすぐにでも思い出せるだろう。
つまり、何を言いたいかというとだな――
『いつの間にか琢馬も姿を消していた。二人ともそんなこと、と意に介さなかった』
『あいつは妹を失ったショックで放心状態、何をすることもない無害な置物だ』
『仮に今更あのガキが動いたところで俺たちの計画になんの支障もない』
……と。
ディエゴ・ブランドーと
カンノーロ・ムーロロの二人が彼の――琢馬の事をそう評価したのなら、それはまさに琢馬の思うツボ、戦略勝ち、ということだ。
このゲーム序盤、ミスタやミキタカを相手に『普通の人間のフリ』『物を知らないフリ』をしていた琢馬には、その程度は造作もないだろう。
ジョニィやルーシーたちとソファに座っていた時。確かに何気ない所作を繰り返しているだけに見えた琢馬。だが決して“ボーっとしていた”訳ではない。
本を手元に呼び出さずに己の頭の中で、やるべきこと、やるべきではないことを考案し、耳に入る会話を記憶し、それまでの記憶と合わせ推測および検証をし。
そして仕上げに、あたかも放心した自暴自棄の少年のように部屋を出るだけだった。
「少し外の空気を吸ってくる」
少しホテルの中をフラフラしつつ――無論この時も思考を止めることはなく――どこで聞いているか分からないムーロロに向かってぽつりと呟きホテルのドアを押し開けた。
さて……いくらか歩き、ホテルからたっぷり300メートルは離れたあたりで歩みを止めた琢馬。
しかしあくまでも今の彼は『スタンドは使えるが無害な無気力少年』だ。歩き方に迷いこそなかったが、過度に周囲の警戒をすることもせず。
そういう所作が琢馬にとって必要だったからだ。しかしこれには本人も流石に冷や汗をかいただろう。
殺人者による無言の不意打ちがなかったことも、ムーロロからの警告や尾行もなかったことも。ただただ幸運だったとしか言いようがない。
だが――ここがゴールではない。あくまでもここからが本番だ。
琢馬はなにも『あいつらの遺体争奪戦に巻き込まれてたまるか!逃げ出してやるぜ!』だとか『もう何でもいいや~フラフラ』だとかのためにホテルを出たのではない。
二度ほど深呼吸をし、ゆっくりと口を開いた。
「あんたに……協力したい」
もちろん琢馬の目の前には誰もいない。傍から見れば、十人中十人が『虚ろな目をして道のど真ん中で独り言をつぶやく危ないヤツ』というだろう。
そんな風体に気付いているのかいないのか、それでも言葉は続く。
「いや、協力だなんて偉そうなことを言いたいんじゃあない。
俺はあん――あなたに“ついていきたい”ただそれだけなんだ」
そう。これこそが琢馬の辿り着いた答え。
「あなたには何か『とんでもない目標』があるんだろう?
それを達成したとき、あなたの目の前に何が映っているのか。
あるいは達成できなかったとき、あなたは一体どうなってしまうのか。
俺はそれを見てみたい。そして俺に教えてほしい」
……訂正しよう。ある意味で琢馬は答えを出すことを放棄した、とも言える。
「俺には人生を賭して果たすべき目的がある――あった。
それは達成されたとも言えるし、達成できなかったともいえる。
まだチャンスはあるかもしれないし、もう二度と訪れないかもしれない。
俺は目的を失った。ずっとそのことだけを考えて生きてきた、そんな目的を。目標を」
掠れた声色でありながら、それが消えることはない。
その目は下を向きながら、輝きを失うことはない。
「あなたに『俺に目標をくれ』なんて贅沢な頼みをするつもりはない。
教えてほしいなんて言ったが、あなたはあなたの目指すべきところに行くだけでいい。
本当に、ただただついていきたいだけなんだ。それを隣で――いや、後ろから見られるだけでいい。
それをあなたが受け入れてくれるなら、なんだってやってやる」
泣いているわけでも、怒っているわけでもない。
焦っているわけでも、恐れているわけでもない。
蓮見琢馬の表情は、いつもと変わらない無機質なそれだった。
「……」
言いたいことをすべて言い切ったのだろう。口を閉ざした琢馬の頬を緩やかな夜風が撫でた。
「……」
琢馬自身にもわかっていたことだった。
ただ、あの場で、あの状況で、そして自分の出来うることを考えに考え抜いた結果だった。
普段なら絶対にしないであろう、そんな賭け。
「……」
つまり――琢馬の言葉に、呼びかけに。
返事をするものは。
彼に答えを見せるものは。
「……」
「……」
「……なんてな」
琢馬が踵を返す。あの居心地が悪く、そして自分を縛り付ける連中の屯すホテルに戻るべく。
――と。少し琢馬から視線を変えよう。ここで登場人物その2についてだ。
彼について一言二言の説明をするなら……
マル1、『彼は究極の天才である』
マル2、『彼は別に人間を殺したいと思っているわけではない』
前者は改めて言うまでもないが、言っておかなければならない。問題はマル2の方、これが少々厄介だ。
彼が到達したい場所はあくまでも『自分が究極の生命体となること』である。
そのために脳を押す装置を作り出した。それだけでは足りないと赤石を求めた。それが偶々人間の手にあっただけである。
食事に関しても、自分が必要なカロリーを得ることができれば、何も人間や、その脳を押した吸血鬼を食わねばならないという訳でもないだろう。
世が世なら、死刑囚をあてがうとかして人間と共存さえできるかもしれない。
少々話が逸れたが、自分の邪魔をしなければ異種だろうが同種だろうが彼は――
カーズは殺さないのだ。
逆に言えば、自分に逆らうなら同種だろうとなんだろうと、問答無用でぶっ殺すって事なんだが、まぁそれはそれとして。
崖に咲く花を踏むこともなければ、犬を見殺しにすることもない。
克服すべき太陽も、その輝きを己の瞳に映せば感動の声さえ漏らすだろう。
要するに何が言いたいかと言うとだな――
「なんだって、か」
「ククク……今の演説を、まさか大統領だとかいうの“だけ”に聞かせていたわけではあるまい?」
そのバケモノじみた……いや、実際に人間から見れば十分にバケモノなんだが、目と耳が道の真ん中で呟き続ける琢馬をとらえていた。
独り言を終えて元来た道を戻ろうとする琢馬の背後。つまり先ほどまで琢馬が見つめていた方向に姿を現す。
「そうだろう?だからこそ、この
カーズを前にしてそんな顔でいられるのだろう?
私ほど『とんでもない目標』を持ったものもそうは居ないだろうからな」
振り返った琢馬の目が
カーズと合ったとき。
琢馬がギョッとしたのはほんの一瞬で、むしろ、その口角が少しだけ上がったようにさえ見えた。
夜の闇で誰にも分らないほどごくわずか。少なくとも俺にはわからなかったが――
カーズは分かったのかもしれない。
「そして――フフ。人間はこういう時、だいたいこう言うそうじゃあないか」
笑いをこらえきれない
カーズと、こちらもまた表情が緩む――安堵したような顔をした琢馬。
そう。
カーズの言った通りだった。
琢馬は自分の体に吸い込まれた『遺体』のパワーが一体何なのか。
耳に入ってくるその遺体の情報。生前が“何者”であったか。なぜこんなゲームバランス崩壊のようなものが点在しているか。
なぜそれを知っているものがいるのか。なぜスティーブン・スティールが殺されたのか。なぜ遺体と遺体が引かれあるのか。
それらを踏まえての先の独り言――演説、大立ち回り。そういっても過言ではないだろう。
ある意味では、むしろ大統領には本当に“聞かせるだけ”で
カーズのような“ドでかい目標を持つもの”に接触してもらうところまでが琢馬の作戦だったのかもしれない。
むろん、大統領が接触してくれたのなら、それはそれで琢馬にも動きようがあったのだとは容易に推測できるけど――
「MMM???今『なんでもする』って、言ったよヌァアァァ~~?」
言いながらついに高笑いを始める
カーズ。
それを静かに見守る琢馬。ほんの少しだけ洩れた溜息は安堵のものか、あるいは
カーズの言い回しに引っかかるところでもあったのか。
それは本人にしか分からないだろう。敢えて言及するのは避けさせてもらうよ。
――と。
ここで最初のテーマに戻る。
『考えるのをやめる』ということについて。
何がどうあっても考えるのをやめることが出来ないであろう
蓮見琢馬は、考えに考え抜いて、
カーズに接触した。
だがしかし、
双葉千帆のことを『考えるのをやめた』とも表現できなくもない。
一方で
カーズは一族の中でも――つまり全ての生物の中でもダントツに頭がいい大天才。考えることに関して右に出るものはそういないだろう。
だが、そんな
カーズが『考えるのをやめた』という話を我々は知っている。
さてさて、
カーズ討伐同盟やら聖人の遺体の争奪戦やらで周囲がざわつく中。
ある意味では誰よりも早く
カーズに接触したといえる……いえなくもない琢馬。
この出会いがどう転がっていくのか。皆も少し“考えて”みておくれよ。
【D-3 路上/一日目 真夜中】
【
カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(小~中に回復)、疲労(なし~小に回復)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:
基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(
J・ガイル/億泰)
ランダム支給品1~5(
アクセル・RO:1~2/
カーズ+由花子+億泰:0~1)
工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる
1.目の前の男(=
蓮見琢馬)に興味
2.
ワムウと合流
3.エイジャの赤石の行方について調べる
4.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする
[備考]
※スタンド大辞典を読破しました。
参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのは承太郎、吉良、宮本です。
まだ琢馬の事は詳細を聞いていない&見ていないので把握していません。
※死の結婚指輪が
カーズ、
エシディシ、
ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
ちなみに
カーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
(そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『
BLOOD PROUD』参照)
※遺体の左脚の入手経路は
シーラEの支給品→シュトロハイム→
カーズ です。
※
カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。
※康一たちと
カーズの移動経路はE-4→ F-4→ F-3→ G-3→G-2 です。
その間に夜(~20時)までに発動する禁止エリアは存在しませんでした。
【
蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(極小)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る……?
0.ドでかい目標を持つものについていき、『答え』をその目で見る
1.その“もの”
カーズと接触。あとは
カーズの指示次第だが――?
2.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない=思考0へ
[備考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で
岸辺露伴、
トニオ・トラサルディー、虹村形兆、
ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。
※DIOの館を手ぶらで出てきましたので、以下の所持道具を館に置いてきています。
カーズの指示次第では放置して立ち去るつもりです。
基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、
不明支給品2~3(
リサリサ1/照彦1or2:確認済み、遺体はありません) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
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最終更新:2022年02月13日 01:04