虫の音も聞こえない夜、ボルケーゼ公園の芝生の上でカリカリと万年筆のペン先が紙を掻く音だけが響いていた。
千帆ではなくプロシュートが、あの戦いの顛末を書き留めている。
胡坐をかいて熱心に書き込んでいる後ろ姿は、両親の離婚が決まったあの日、夜通し書き続けた自分とどこか似ている。
そう思うと声を掛けるのも躊躇われた千帆は少し離れたところで何をする訳でもなくぶらぶらとしてみる。

いつの間にか指先の痛みが無くなっていたのに気付いて包帯を外すと、傷は跡形もなくなっていた。
おそらく育朗が癒してくれたのだとプロシュートが言っていた。彼が今日一日で負った傷もすっかり消えているそうだ。

(それでも)

文字を書く音、血の臭い、バイクの上で感じた風、夕焼けの赤。五感と記憶は密接に繋がっている。
千帆は繰り返し指の痛みを思い出した。ワムウのくれた言葉を、表情を心に焼き付ける為に……




◆ ◆ ◆




今の自分の精神状態は確実に普通ではないのだろう。
書いても書いてもペンは止まらない。文字と言う形で現出した記憶がフラッシュバックを引き起こす。
育朗の反吐が出そうな甘さと踏み入る事の出来ない領域の強さ、安らかな死に顔。
書くほどに心が仄暗い水の底へと沈んでゆき、濡れて張り付いた服のように不快感がまとわりつく。
この重苦しさは何なんだ。心臓が身体中へと腐れた毒を送り込んでいるのか?
脈絡のない悪寒に思わず胸ぐらを掴む。

(こんな俺を見て、あいつ等ならどうしただろうか。なんて言うだろうか)

仲間との過去に向かう意識を、ふと背中に感じた柔らかさが引き留めた。背中合わせに千帆が座り込んできたようだ。
甘えんなと言おうとしたはずなのに口から言葉が出てこない。

「文章を書いてる時って夢中になっちゃうから、いい気分転換になりますよね」
「俺はそうでもない」

育朗は死んだ。仲間でも何でもない奴だった。
だから事実だけを簡潔に書いてしまえば一ページで済むはずなのに、そうする気になれなくてダラダラ書いている。
そんな『らしくない』自分自身が気に入らない。何故なのかわからないのが尚更不快で仕方がない。

「ワムウさんと橋沢さんの闘いを最後まで見届けますって言ったのに、また後悔が一つ増えちゃいました」
「お前のせいじゃねえだろ。俺が見届けたしこうして書いている」
「ですよね。プロシュートさんのおかげであの二人の物語が完結します」

すこしだけ間が開く。

「正直言って私にはあの二人の覚悟も生き方も、肝心なところはきっと理解できていないんだと思います。
 だから完成した小説をたくさんの人が読んでくれて、その中の誰かの心に伝わって……繋がってくれたら
 ……素敵だと思いませんか?」

あ、と声を出しそうになったのを紙一重で堪えた。
不安だったのだ。ワムウと育朗の死に際に勢いで言ってしまった繋ぐという言葉をどう実行していいかわからなかった。
あの闘いを見たせいか言葉に伴う責任を果たせないかもしれない可能性が高いという現実を嫌でも意識し、
それを拭ってしまいたくて、どうなる訳でもないのに必要以上に言葉を連ねていたのだ。
そんなプロシュートに私達が生き残ればの話ですがと千帆が笑って付け加える。

「小説にするのは私の役割です。だからプロシュートさんは私達が生き残る事に力を注いでください。
 ふたりで生き残って、繋ぎましょう」

いつの間にか人の心まで観察しやがって。
心が感じていた重苦しさは悪態と一緒に気恥ずかしいような居心地の悪さに変わり、夜に相応しい穏やかな静けさが戻ってくる。

「気持ちが落ち込んだり迷った時はお互い少しくらい甘えてもいいと思います。仲間なんですから。
 だから今くらいは背中、預けてくれてもいいですよ」


人の心を探り、偵い、進む道はそこにあるのだとそっと教えてくれるような……優しさもまたひとつの力なのだろう。


「俺が書き終わるまでだ」


前屈みの姿勢を正すと仲間の小さな背中がプロシュートの背中の輪郭にすっぽり収まる。
温かい血液が指先に巡るのをしっかりと感じると、今度こそ力強く物語を綴る音が月夜に心地よく響き始めた。




◆ ◆ ◆




月が雲に隠れ暗闇が辺りを覆った頃、カチリと万年筆にキャップが被せられたのと木陰から男が現れたのはほぼ同時だった。
わざとらしく植え込みに足を突っ込んで音を立て存在を主張すると、認識されたことを確認するや否や東の方向へ走ってゆく。
が、全速力でもない。明らかに二人を誘っていた。

「追うぞ。見た顔だ」

プロシュートは即断すると装填しておいたベレッタを構えて走り出す。千帆もあわてて後ろをついてくる。
そのまま公園の出口へと向かっていく男だったが……おかしい、あんな所に『行けるはずがない』
知らないのか? その先は――――

「止まりやがれ! その先は禁止区域だ!!」

とっくに禁止区域に指定されていたA-7に向かって迷いなく走ってゆく男がさらにスピードを上げる。
足を撃ってでも止めるか? いや走りながら撃って出鱈目なところに命中しても困る。
そんなプロシュートの迷いを見透かしたように男は急に立ち止まると両手を軽く上げてこちらに向き直った。
プロシュートもその場で止まる。やはり見た顔だ。つい数時間前にダービーズカフェに現れ、去って行った少年……






「こんばんはプロシュートさん、双葉千帆さん。僕の名は宮本輝之輔……時間がないので事実だけを簡潔に述べますと、
 僕はあなたが会ったのとは違う、主催側の人間です。そして大統領を裏切りました」






やっと追いついた千帆の荒い息使いが一瞬で止まる。
無理もない、見た目の年齢にそぐわない落ち着き払った目の前の少年の突拍子の無い言葉を信じなければならない証拠が既に提示されていたのだから。

「首輪が……無い……?」

しかし流石はプロシュート、放送前と全く印象の違うこの少年を簡単に信用などしない。
自分もマグナムを取り出そうとしてポケットで引っかかりもたもたしている千帆にゲンコツ一発、背中に隠すと
冷静に尋問を始める。

「お前のその首、それがスタンドによる目くらましでない証拠を出せ」
「僕のスタンド名は『エニグマ』。能力はこれです」

ポケットから手のひらサイズの板状の機械らしきものを取り出し、

パタパタ、パタン!

『紙に仕舞う』とその場でもう一度開き、取り出して見せる。それを二度三度と繰り返す。
自分たちが見てきた支給品の紙となんら変わりない。

「理解した。その能力なら主催側にいる理由も納得できる。なら俺が見たお前は何だ? 何故参加者になっている」
「大統領のスタンドは別次元から物や人間を連れてこられます。今回のゲームへの協力を強制され、抵抗した際に何人かの『僕』を
 目の前で殺されました。観念した時点で一人余ってただけです。ちなみにあっちの僕は意識が無かったからこの辺りの事情は知りませんよ」

別に知ったこっちゃないが悲惨な参加理由だ。
要するに自分が見たのは本来主催側に一人だけ存在する宮本の複製、いや、あちらも本物か。
同一人物が二人存在しているというのはややこしい話だが大統領の能力がそういうものならとりあえず辻褄が合う。
同時に二人が並んでいるのを見ない事にはまだ100%信じる事はできないが、少しでも情報が欲しいというのも事実。

「真偽は私達で判断します。情報をください」

言ってからこっちを窺うんじゃねえよ。最初からそのつもりだ。
もう一発軽めのゲンコツを食らわせてからメモの準備をさせると宮本に目で促す。

「その気になってくれて何よりです。さて本当に時間がありません、とりあえず銃下ろして貰えますか?」
「断る。お前の話が100%真実だったとしてもそれとこれは別だ」
「これだからギャングは……はいはいすいませんごめんなさい、まずこれを見てください」

先程出し入れした板状の機械にせわしなく親指を滑らせるとこちらに放り投げてくる。
指示される通り下部の○部分を押すと画像が現れた。簡単な地図とその上に点在するマークは生存している参加者だそうだ。
現時点で周辺には誰もいない。サン・ジョルジョ・マジョーレ教会を中心とした数エリアにほとんど集中している。
さらに現在位置を拡大すると宮本の位置はやはり狙ったように禁止エリアギリギリだ。

「首輪の役割は発信機と集音機、そして周辺のカメラを起動するスイッチでもあります。
 その端末では見えませんが本部では映像で監視しています。今のあなた達は最低20個近くのカメラに囲まれてますよ」

やはりこの会場はゲームのためだけに設えたものだそうだ。
参加者の移動に合わせて首輪が出す電波を感知した極小カメラがその都度撮影、送られた高画質映像を好きなアングルに
切り替え、好きにズームして見渡せる。ショーとして見る分には最高だ。上手く編集すれば映画にもできるだろう。
そこまで聞いて疑問が浮かぶ。なら今の状況は撮影されていないのか?

「千載一遇のチャンスでした。あの教会が派手に倒壊してくれた影響で張り巡らされたケーブルの
 いくつかが断線したり電力の供給機材が異常を起こして撮影できないスポットができたんです。
 多くはすぐに自動で復旧しましたが、いくつかの箇所は人が操作しなければなりません。今の僕みたいに」

幸い大統領の関心は教会周辺の動きに向いていて、会場の外れで明らかに休む場所を探しているだけの二人は
撮影不能のこの一帯に入り込んだ後も放置されていた。そこで他の箇所の復旧作業を行いつつ、接触してきたという宮本。
首輪については禁止区域に入ってもすぐ爆発しない事、大統領が設定したパスワードを本部で入力する以外の解除法は分からないと
役立つようで頼りない情報ばかりだ。

「この端末を渡せればいいんだけど、これが無いと本部に帰る事が出来ないんです」
「それだ。俺たちに必要なのはそういう情報なんだよ、本部の場所は? 行き方はどうなっている」
「本部は会場の外側、ローマ市内にはあるらしいんですが、窓もなければ外に出たことも無いので正確な位置はわかりません。
 会場と行き来するための場所がいくつかあります。でも現実的ではありませんよ」
「どうしてですか?」
「地図上に示してある施設でこの端末を使えば移動できます。けど侵入者対策として必ず一人づつ、
 さらに一度使うと五分は使えない仕様なんです」

ますますもって役に立たない情報だ。メモを取る千帆の眉も中心に寄ってきている。

「じゃあせめてこれが何なのか教えろ」

シャツをはだけて脈打つ心臓を露わにするプロシュート。それを見た宮本は……明らかに動揺した。




◆ ◆ ◆




「それ……は……遺体……」
「干からびてたんだからそうだろうよ。誰の遺体の一部だ」

プロシュートの問いに宮本は沈黙の後意を決したように口を開く。

「……そいつの正体は僕にもわからない。知ったところでたぶん意味などないんです。
 ただ言えるのは、そいつは『聖なるもの』なんかじゃない…………それだけはハッキリしてます。複数の参加者が
 これを集めようとしていますが、彼らは勘違いしている。騙されているんだ。だから全てが集まらないようスティールさんが
 こっそり隠した筈なのに……」
「トリニティ教会の地下シェルターで見つけたんです。隠したというより置いてあった感じでした」
「そうか……できればあなた達にはこれ以上遺体と接触しないでほしい。可能であれば見つけ次第処分してください。
 とにかく重要なのは、遺体は聖なるものではない。忘れないで下さい」

暑くも寒くもない会場に風が吹き、千帆が髪を直す間に宮本の崩れかけた表情は元に戻っていた。
宮本とプロシュートは互いに視線を外さない。


「お前に指示したのはスティールか……奴は裏切りがばれて殺されたようだが本部は今どういう状況だ」
「現在本部に居るのは僕と大統領の二人だけです。スティールさんと僕の他にも何人かが準備をさせられていましたが、
 オープニング直後に僕たち以外は全員消えてしまいました」
「なぜお前は消されていない」

端末をちらと見る宮本。時間が迫っているらしい。

「僕の能力で紙にした物は僕が死ぬと同時に紙ごと消滅します。だから大統領はまだ僕を殺せません」

それはまだ大統領にとって重要なものが支給品の中に紛れている事を意味している。
遺体だけかどうかはわかりませんけどと言いながら宮本はポケットから出した紙を開けて冊子を取り出すと千帆に渡す。
開いてみるとそこには参加者たちの顔写真にプロフィールが載っていた。

「これからですが、あなた方はジョニィ・ジョースターに接触してください。彼は大統領に一度勝利しています。
 僕はもうすこしシステムを調べ直してみます。機会があればまたこちらに来れればいいですが、あまり期待しないで下さい」
「検討する」

こうして一方的な情報提供は終わった。
時間が来たのでと去ろうとする宮本に千帆が初めて疑問をぶつける。

「宮本さんは……どうして大統領に逆らったりしたんですか?」
「ひとつはスティールさんの遺志だからです。あの人がいたから僕は絶望から救われたんだ」
「他にもあるんですか?」

雲が晴れ、三人の居る場所が月明かりに照らされる。
徐々に変わってゆく宮本の表情が苦しそうなものではあるが、それは彼の年齢相応の少年らしい顔だった。

「……スタンド使いになってこのかた、僕はいつだって誰かに利用されてばかりだ。
 写真のおやじに、アイツに、大統領に……僕はただの『アイテム』で用が済んだらもういらない便利な存在。
 けど僕は死にたくない! こんな所で殺されるのはまっぴらなんだよ!!」

思わず叫んでしまってから慌てて表情を元通り取り繕うが、一瞬間が空いてプロシュートがクックと笑って銃を降ろし、千帆もホッとした顔になる。
二人の様子に困惑する宮本。

「やっと出したな」
「は……?」
「その面だ。今の言葉には嘘はねぇみたいだし、お前の事を一応は信じといてやる」
「本当の気持ちを見せてくれてありがとうございます。また会えることを祈ってます」
「……どうも。じゃあ」


そうして今度こそ宮本は去っていった。




◆ ◆ ◆




「あーっ! まだ読んでないのに何するんですか!!」
「うるせえ帰ってから読め! お前こそなんだその大量の角砂糖は、太るぞ!」
「私じゃなくてセッコさん用の保険ですよーだ!」

公園を出た二人は付近の民家で先程の情報について語ることなく好き勝手に行動していた。
プロシュートが自分で書いた部分を読めないようホッチキスで留めてしまったせいで千帆が文句を垂れ、
千帆が無駄に大量の角砂糖をデイパックに詰めようとしてプロシュートが文句をつける。
騒がしいやり取りだが、一応大統領への目くらましの意味もあった。すでに公園で今後の方針は固めてある。

宮本が禁止エリアのA-7に悠々と去って行ったのを見た以上あの話は真実なのだろうが、彼の素の表情と本音は大統領を倒そうとする気持ちに偽りがないことを二人に信じさせた。
今後はジョニィに接触すべく彼がいるC-3方面を目指すが、その前に民家で準備を整える様子を大統領にフェイクで見せておこうという算段だ。

「でもこれ便利ですよね、『橋沢さんの支給品から出てきた』顔写真付き参加者名簿。この赤い印が危険人物、と」
「ああ、今のところカーズが最も危険だ」
「ジョニィさんにアナスイさん、セッコさん、兄さん……知った人が死んでいなくて良かったです」
「セッコは危険人物だろうが」
「それはそうなんですけど……危険だけど、善か悪かって言われたら迷うんですよね」
「ああいうのは性質が悪いってんだ。今度会ったら俺は殺すぞ」

答えの出ないやり取りを続け、曖昧なまま今後も人を探すと結論づける。
映像で監視されている事が分かった以上迂闊な動きはできないし筆談もできない。これだけだと八方ふさがりに見えるが、
いくら大統領とはいえ目と耳は二つずつしかない。参加者の動向の全てをリアルタイムに見て、聞くことは不可能だ。
宮本が言ったように今回自分たちは放置されていた。すなわち大統領は『映像を取捨選択しながら見ている』という事だ。
仲間にする人間はかなり慎重に選ぶ必要があるが、文字通り大統領の目を盗むことができれば勝機も見えてくる。
そうしていざ出発、という段になって千帆が思い出したようにつぶやいた。

「そういえば朝以降全然敵と戦ってないんですよね私達って。かなり幸運なことですけど」
「戦わずに済むならそれに越したことはない。血を流して正面からやり合うなんてのは本来最終手段だ」
「殺す……のが仕事なのにですか?」

そりゃただの殺人鬼だろうが。

「俺が戦うとして大きく分けると理由は三つある。任務として命じられた時。やらなきゃやられる時。そして……
 立ち向かわなければ誇りが失われる時だ」
「社会的、肉体的、精神的な理由ですね。私が小説を書くことで戦うのは……個人的な理由だし、どちらかといえば
 精神的な理由になるような気がします」

ああ、大統領の目的の考察か。今更の様な気もするがな。

「大統領に本当の意味での共犯者がいないって事は、動機が個人的なものだからのように思うんです。
 国のためだとか世界のためなら誰か賛同してくれる人がいるでしょうし」
「まあこの上誰かに命令されてるわきゃ無さそうだしな。で、社会的な線が消えたとしてその先はどう思う」
「……まだ考え中です」
「気長にやるんだな」



まだ夜は長い。





【B-6 民家/1日目 夜中】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 28/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
    ゾンビ馬(消費:小)、ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、 不明支給品1~2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.育朗とワムウの遺志は俺たち二人で"繋ぐ"
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
※支給品を整理しました。基本支給品×3、大型スレッジ・ハンマーがB-4の民家に放置されています
 また育朗の支給品の内1つは開けた事になっていて、本物はプロシュートが隠し持っています


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用) 、顔写真付き参加者名簿、大量の角砂糖
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作~176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯
188話 風にかえる怪物たち のくだりはプロシュートが書きましたがホッチキスで留められて読めない状態です

支給品紹介
顔写真付き参加者名簿
ディアボロに支給。
参加者全員の顔写真と簡単なプロフィール、スタンド名のみが載っており
スタンド大辞典と合わせる事で参加者の情報が完全にわかる事になる。

ディアボロと一緒に会場外に流されたが、宮本(参加者でない)によって回収され双葉千帆に渡された。
危険人物には印がつけられており、他にも宮本による書き込みがあるかもしれません。




◆ ◆ ◆




「戻りました……と、やっぱり起きてたんですね。一時間って仮眠といえなくないですか?」
「君が帰ってくるギリギリまでは寝ていた。起きてから身支度に4分、録画分も含めてモニターのチェックを始めてからはまだ2分だ。
 頼んでおいた仕事は済んだのか」
「ええ。ブレーカーの復旧にカメラの設定確認。下流に引っ掛かってたDIOと……ディアボロの死体も回収しましたよ」

宮本は大統領の左側に回るとサイドテーブルに置かれた箱に紙を無造作に投げ入れた。
吉良の時のような演出をする必要のないモニタールームは温かみの無い光で万遍なく照らされている。
大統領はゲーム開始以降もっぱらここで映像を見ているだけで放送はスティールが、システムの維持管理および雑務は宮本が担当していた。
どこから持ってきたのか、無機質な部屋に似つかわしくない肘掛椅子に合わせたオットマンに足を乗せた大統領がご苦労、と一言労う。

「死にたてのDIOはともかくディアボロは今更勘弁して下さいよ、何かに使うんですか?」
「使いたくなるかもしれんから念の為にな。他の死体も必要があれば回収してもらうかもしれん」

ええ……とゲッソリした顔の宮本を尻目に大統領は涼しい顔だ。

「機械関係については君の方が理解が深くて助かる。私があちらに行くわけにはいかないからな」
「原理は知らなくてもテレビゲームやインターネットはできますからね。間違えたら爆発するわけでもなし、
 ボタンの配置で操作は大体見当つきますよ」

会場全体で軽く数十万以上あるだろう監視カメラを統括する設備も、操作自体は少ないスタッフで円滑に行えるよう
限りなく簡略化されていて、宮本に渡されたのはノート一冊にも満たない簡素な説明書だけだったがそれでも十分だった。
外に持ちだして使っているモバイル端末も説明書無しで直感的に操作できたくらいだ。

(とはいえ大統領も拙いながら監視システムを使いこなしている。時間が経つほど僕が不利になるか……?)

時代と言うアドバンテージがあれども所詮は素人。宮本には壊れたゲーム機を直す技術もなければ
ウイルスを作成する知識もない。このままシステムの裏をかけないと先程のような現場に行けるチャンスはもうないかもしれない。


「君ならば万一参加者と接触してもごまかしが効くしな」

……カマかけだとしたら確証を持っていない証拠だ。
そうですねと無難に答えたが、大統領はそれ以上特に追及もしてこない。


「なあ宮本、通常誰にでも自然に備わっている感情である恐怖だが、何に対して最も抱きやすいと思う?」
「愚問ですね。生物は『未知』に対して本能的に恐怖を感じるようにできています」

宮本が最も熟知していることだ。
いつもの日常に突如不気味な来訪者が訪れる。有りえないと思っていた事が目の前で起こる。圧倒的な強者が立ちはだかる。
それによって未来の予測が限りなく不可能な状態に陥った時に人は恐怖を感じ、先に進もうとする意志を失ってしまう。

「突き詰めれば『この先どうなるかわからない』という不安が極大化したものが恐怖だと言えるな」

だから人は恐怖を感じた時、多くの場合自らを安心させようと本能的に行動を起こす。安全な場所への退避もそうだし
精神的な安定を取り戻そうと特定の行動を取ったり、現実逃避を図る。どれも原理は同じだ。

「かと言って確実な未来が分かれば安心が訪れるかと言えばそうでもない。不幸や理不尽が起こると分かっていて
 覚悟し立ち向かえる人間の方が稀だ。パンドラの箱からエルピスを解き放っても絶望という病が蔓延するだけだろう」

エルピス……予知だとか予兆だったか。
あの神父の思想は大統領のお気に召さなかったらしい。

「未知への恐怖を克服するだけなら経験を積み精神を鍛え、備えを怠らなければ良い。
 その一方克服しようのない恐怖として、『無限』というものは何よりも怖ろしいことだと私は思っている」
「終わりがない……僕には想像のつかない領域ですが、結果や結論に辿り着けない事が決定してるのは恐怖を通り越して考えるのをやめたくなりますね」
「まったくだ。ならば、無限という地獄から脱するためには何が必要だろうか」
「さあ?」


見当がつかないのは本当なので適当に返したが、普段仕事の指示くらいしかしてこない大統領が
今更言葉遊びを持ちかけてくるはずも無い。慎重に次の言葉を待つ。




「奇跡だよ」





◆ ◆ ◆




はじめに奴にとっての奇跡が起きた。
無限に存在する並行世界のどこかで行われる直前のバトルロワイヤル……絶望に支配されていた奴が迷い込んだ私を見つけた。

次に私にとっての奇跡が起きた。
本来の私は無限の回転に引きずられ戻ってしまったが、奴が毛色の違う私に興味を抱きD4Cごと複製してくれた。
その後オリジナルは基本世界で死亡し、私が真実『基本のファニー・ヴァレンタイン』となった。



「そこからは断片的に知ってますよ。いち参加者だったはずのあなたがいつの間にか人を集めてこの本部に乗り込み、
 奴を殺してバラバラにして燃やして……そこらに放り投げた」


「そして私はこのバトル・ロワイヤルを所有した」


「そしてあなたは奴の『遺体』を支給品としてばら撒いた」


「そして参加者たちは争って『遺体』を集める。私の為に」




◆ ◆ ◆




「奴が『聖なる者』だったとでも!?」
「宮本、君は根本的な事をはき違えている。君にとって聖なる者と邪悪なる者の境目はどこだ?
 幸福をもたらすか不幸をもたらすかで言うならそれらは表裏一体、世界の幸福と不幸は神の視点では釣り合っている」
「もし奇跡が起きて奴が生き返りでもしたらそれこそどうするんですか……」
「死は単なる事象ではなく救いだ。己の未来を代償に全ての恐怖から解き放ってくれる。『勝者になれない』というエルピスの毒に
 侵されていた奴は最後には死を受け入れた。あの方もついに蘇りはしなかったし、奴もそうはならないだろう」

そのセリフに宮本は違和感を感じた。
一度倒したという自負もあるのだろうが、思えば大統領の発言には終着点を自分でも予想できていない節がある。

「では僕からの質問です。オリジナルが死んで消滅の心配がないなら何故あなたは基本世界とやらに戻らなかったんですか。
 あそこには揃った『聖なる遺体』があるというじゃないですか。
 奴と同じ様に参加者に殺される危険に身を晒してまでこのゲームで得るものとは何なのですか?」

歴史は繰り返されるとはよく言ったもので、奪ったものは奪われる。よくある話だ。
大統領はあの吸血鬼みたいに自分だけは大丈夫と高をくくって相手を侮った挙句やられた様なやつとは違う。
どこの世界でもまた一からのし上がれるだけの才覚があるのだから、こんな事に手を染めず
社会の中で生きて行けばいいのにと思うのは宮本が凡人の範疇を出ないからだろうか?

「私は二度と基本世界に戻るつもりはない。『私』はあの世界をディエゴ・ブランドーに託し、自らの正義に殉じた。
 決着のついた事を覆しに戻るような恥知らずな真似はできないな」

キャプチャーした画像を拡大すると遺体を持った参加者の姿が各モニターに映し出されてゆく。

ルーシー・スティール
ジョニィ・ジョースター
ディエゴ・ブランドー
プロシュート
トリッシュ
カンノーロ・ムーロロ
蓮見琢馬
カーズ

「私が得ようとしているものや目的は当然言えないが、この世の真理として、事を起こす際には必ず対価が必要になる。
 聖なるものですら代償を支払わねば大きな奇跡は起こせなかったのだからな。
 地位や名誉、持てるものは全て彼方へ過ぎ去り、もはや差し出せるものは命以外なにも無い身だが
 私はこの世界で奇跡を起こしてみせる。それだけの価値がこのバトル・ロワイヤルにはあるのだ……!!」


そうだ、その目だ。
大統領、いやファニー・ヴァレンタインという男の目には希望と覚悟、そして犠牲を躊躇しない漆黒の意志が燃え盛っていた。
時折見せるあの誇り高く熱い眼差しを見るたび宮本の心は否応なくざわつき、焦がれてしまいそうになる。


(だが決して近づき過ぎてはならないよ宮本君。あれは誘蛾灯だ)


スティールは最後まで彼を悪だと断じなかった。
彼のやったことを見てきた筈なのに、これほどの目にも合わされているというのに尚不思議な事に宮本も彼を純粋な悪だと思えない。
だからこそ強い意志を持って抗わなければならないと何度も何度もスティールは念を押してきた。
今思えばあれは自らに言い聞かせていたのだろうか。
自分がこの先呑み込まれないようにするには――――支払うべき代償は―――――――



「抗いますよ、僕は」
「抗えばいい、君も私も含めて全ては流れだ。不要なものは淘汰され、あるべき場所に収束する」



きっぱりと敵対する意思を宣言すると、モニターを見つめる大統領に背を向けて宮本は背筋を伸ばし歩き出す。
監視カメラに転送装置、位置確認システム。マニュアルと実践で既に舞台装置の仕組みそのものはほぼ把握した。
悔しいが支給品の事があるといっても仕事を放棄して殺されるわけにはいかないので今はまだ命令に従おう。
次はいかに大統領の目を盗んでシステムの中枢……首輪や禁止区域の設定に踏み込むかだ。
できるなら他の参加者にも情報を送りたいが、とりあえず今はあの二人との繋がりを死守しなければ。

怖かった。前のゲームの時から自分は与えられた仕事をする以外紙に引きこもっていた。
何も見ず何も聞かず、それで嵐が過ぎ去る訳がないのはわかりきっていたのに現実逃避していたのだ。
だから自分と言う杯が右から左に渡ったときも、今思えば大統領からは抵抗どころか駄々をこねたようにしか見えなかっただろう。
最後には恐怖に支配されるまま首を縦に振るしかなかった。
そんな弱くて醜い自分に辛抱強く語りかけ、諭してくれたスティールはスタンドなど無くとも間違いなく自分より強かった。
彼が大統領に立ち向かっていった道はきっと光り輝いていたのだろう。


(僕の進む道は……デコボコですぐつまづいて……崖に向かってても気付かないくらい暗かったんだ。今までは)


目の前でスティールが死んだ瞬間、その光は宮本に受け継がれた。


(今は違う。スティールさんが照らしてくれた道はデコボコどころか穴だらけ、歩ける場所すら僅かだったけど、
 僕はひとりじゃない……だから――――やるだけやってやるッ!!)





【??(バトル・ロワイヤル本部)/1日目 夜中】
【宮本輝之輔(参加者でない)】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助を紙にした直後
[状態]:健康。黄金の精神
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:スティールの遺志を受け継ぎ、参加者が大統領を倒すサポートをする
1.システムを探り、首輪の解除や本部までの道を開く方法を探す
2.隙を見て会場に行き、情報を伝える
※宮本が死亡した場合、支給品の紙は中身ごと全て消滅します



◆ ◆ ◆





ひとりモニターを見つめ続けるファニー・ヴァレンタイン。

(スティーブン・スティール……まさかお前があんな刺客を用意していたとはな)

第3回放送時、いつもは紙に籠るばかりの宮本が珍しくついてきていた時点で何か企んでいるとは思っていたが、
スティールを殺しても折れるどころか遂に敵対宣言までしてきた。よくぞあそこまで育てたものだと心の中で賞賛を送る。
仮眠の最中仕事を頼んでおいたが、たぶん誰かと接触しているだろう。が、それならそれでいい。それもまた流れなのだから。
重要なのは誰が敵だとか味方とかではない。なにが自分にとって『吉なるもの』かだ。


エルメェス
シーラE
トリッシュ
ルーシー・スティール


「やはり、良い具合に淘汰されている……」

画像が間を開けて切り替わってゆく。
そして最後に映し出されたプロシュートの画像が少しずつ横にずれてゆき……





「双葉 千帆……」





―――ぷつん、と電源が落とされた。









投下順で読む


時系列順で読む


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189:風にかえる怪物たち 双葉千帆 207:どこへ行かれるのですか?

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最終更新:2022年02月13日 01:02