『俺たちの戦いはこれからだ』――というフレーズを聞いて、君たちは何を想像する?

打ち切り?不人気?マンネリ?テンプレ?
……まぁ、大体の人はそう感じるだろう。

が。

それは正しい表現ではない。――というより、『それだけではない』と言い換えるべきか。

つまりだな……


●●●


……ジョジョ。ジョジョ……


柔らかい日差しが水面に反射している。僕は――何をしていたんだっけ。
どこかに行くはずだったんだけど……どこだったっか。
フラフラと歩いて来たこの川辺、隣に誰かいたような。最初から一人でここまで来たような……

ふと視線を上げると、石造りの大きな橋。
そうだ、思い出した。あそこに行くために歩いていたんだ。

走っていってもいいんだろうけど、なんだか勿体無い気がする。
せっかくだし、ゆっくり行こう――穏やかな川の流れに身を任せるように。逆らわないように。
時折り髪をゆらす風が心地良い。今まで、こんなにのんびりした散歩をしたこと、あっただろうか?
天気も良いし、エリナと一緒に歩きたかったな。


――着いた。遠目から見てもかなりの大きさだったけれど、目の前にするとかなりのものだ。
そして、長い。一体どこまで続いているんだろうか。
川だと思っていた流れも、まるで海のように、どこまでも広がっている感じがする。


向こう岸まで渡ろうとここまで来たけれど、いざ一歩を踏み出そうとすると、足が震えてなかなか動かない。
そう考えた途端に、なんだか怖くなってきた。本当にこの橋を渡ってしまっていいのだろうか。


……ジョジョ。ジョジョ……


そんな橋の中ほどから、だろうか。立ちつくす僕を呼ぶ声――とても懐かしい、もう聞こえないと思っていた声。

あぁ、あなたは。あなた達は。
姿は見えない。でも。でも何故。
『あなた達が死んでしまった』なんて、思ってしまったんだろうか。
『あなた達を僕の手で殺してしまった』なんて、感じてしまったんだろうか。

なんて、なんて失礼な事を。
きっと、そう――そんな夢を見てしまったから。
とても辛く、とても悲しい夢を。だからそんな風に――

ごめんなさい。ごめんなさい。
そう言いたくても思うように口が動かない。喉が開かない。
どうして。どうして。
手を伸ばそうにも鉛を詰め込まれたように重い。


……ジョジョ。ジョジョ……


目の前の声が遠ざかってゆく。
あぁ――あぁ、行かないで。おいていかないで。ぼくをみすてないで。
それと入れ替わるように背後から近づく呼び声――この場所に来るまでに何度も聞き、これからも聞き続けるであろう声。


……ジョジョ。ジョジョ……


あぁ、君は。君たちは。
正面の光景に名残を惜しみつつ、振り返った先には共に歩いてきた仲間たち。
こちらもその姿ははっきりと見えるわけではない。ぼんやりとした輪郭。それでも彼らがどんな表情で僕を見つめているのかはよく分かる。

でも、なぜだろう。

彼らの手をすぐに、喜んでとることが少し怖い。
僕が本当に手を取りたい相手は、取るべき相手はいったい誰?
誰かの手を取らなければ僕はこの広く、美しく、そして寂しいこの場所で独りぼっちになってしまう。
けれど、どうしてもその一歩が踏み出せない。半歩ぶん足を動かすことすら躊躇わせた。


……ジョジョ。ジョジョ……


またも違うほうから呼びかけ。
そちらを向こうとする僕を必死に止めようとする目の前の彼ら。
それでもそちらを向くことを僕自身に止められない。


……ジョジョ。ジョジョ……


しかし、今度の声はいったいどこから聞こえてくるんだろう?
橋の上でもなければ、川沿いの砂の上でもない。

ふっ――と。川の中を覗き込む。
穏やかな水面に映るのは僕の不安げな表情ではなかった。

その顔は。

その声の主は。

――僕のことを呼び、手を伸ばしてくる、その顔は。

……その、口元から鋭く伸びる牙はッ!


●●●


「ディオオォッ!」
がば、と体を起こしたジョナサン・ジョースターの周囲は、彼の叫びとは対照的に、静かに夜の闇に佇んでいた。

え?という自分の疑問を確かめるように周囲をきょろきょろと見まわし――数十秒もしないうちに答えを見つけ出す。

「夢……か……」

いったいどのくらい眠ってしまっていたのだろうか――最後に肌に感じたのは夕焼けの日差しと温かさのはずだった。
しかし今この場所にあるのは、淡い月明りと、柔らかく、しかしヒンヤリした風だけ。

自分の置かれた現状をおぼろげながら把握しはじめ、ここから何をすべきなのかを考えようとした矢先。


――ほう?このDIOを葬っておきながらノンビリと夢心地だったと?ずいぶんノンキしてるじゃあないか……ジョジョ……


「えッ!?」
もう聞こえない、聞こえるはずもなく……ある意味では聞きたくもない、その声に勢いよく振り返る。
当然、その場には何もいない。あるのは厳かにそびえ立つ城のような建造物のみ。

「げ、幻聴……か」

決して記憶を失ったわけではない。つい数刻前、自分は確かに波紋の力でDIOを浄化した、はずだ。


――おいおい、あんまりな言い草じゃあないか、ジョジョ。目を凝らしてよーく見てみろよ……


「えッ!?――こっ……これはッ!?」
見えた。確かに自分の――感覚の目、とでもいうべきか。そこにはしっかりと映っていた。
“その”先に映る建物がレンズのように歪みだし、“それ”の輪郭を形作る。
“それ”の名は――そこに、姿は見えなくとも確かにいる、“そいつ”の名はッ!

『やあ。さっきぶり、ジョジョ』

「……ディオッ!?」


●●●


正直に告白しよう。それは偶然だった……計算でここまでは読めない。

おまえと落下したこの身体が水中でジョジョと衝突しなければ。

その完全なる『茜色の波紋疾走』にこのDIOは負けていたのだからな……

やはり運命は……存在した。わたしに味方する、とまでは言わないが。

波紋疾走で我が身体を貫いたその身はその直前。

私の懐に少しだけ“触れて”

そのうえで私の身体を貫通した。


ジョジョ……お前は……
(波紋で私を倒すために)波紋を『身にまとってたがゆえに』
この吸血鬼のDIOを敗北、死亡させるに至ったが。

波紋を『身にまとってたがゆえに』DIOとの因縁を抹消させるには至らなかった。


……もう少しわかりやすく説明してやろう。自分の身体だから感覚的には理解しているのだろうがな。

ついさっき、お前は“スタンド使いとして覚醒した”のだ。

――スタンドの名は『リンプ・ビズキット』ッ!
その能力は『死体を視認できないリビングデッドとしてよみがえらせ、使役すること』ッ!!


……本来、この能力で蘇ったものは、本能のまま血を求めるだけの存在になるそうだ。
しかし、このDIOにそれがないのは、おそらく“最初からそうだった”からなのだろう。
そして『この身体』になったがゆえに……この瞬間!このDIOも『太陽の克服』を達成したと感覚で理解できる!

そして――そしてッ!
この能力と生まれは違うといえ、『屍生人』をその手で葬り続けてきた貴様がッ!
あろうことか『リビングデッドを支配する能力』を身に着けることになるとはッ!

なんという皮肉!いや――“だからこそ”――そうッ!『だからこそ』というべきだろう!?
なんという運命!『幽霊』の『波紋』と書いて『スタンド』!……フフ、よくぞ言ったものだッ!


……しかし。無論、というか。選ぶのはジョジョだ。
お前の波紋でなら、『能力によって生まれた死体』であろうとも、俺を浄化することが可能だろう。
あるいは頭部に衝撃を受けたなら、DISCが吐き出されることで能力は使えなくなることだろう。

しかし、そう。

『なぜこんな姿をあえてみせるのか……それはジョジョ、あれほど侮っていたおまえを今、おれは尊敬しているからだ……
 勇気を!おまえの魂を!力を!尊敬している……それに気づいたからだ……
 神がいるとして、運命を操作しているとしたら!俺たちほどよく計算された関係はあるまいッ!』

これはかつて――いや、ジョジョ、お前にとっては未来の話になるが、ともかく――お前に送った言葉だ。
そう、今の俺は個人的にお前のことを尊敬しているし、それを抜きにしても、今のお前はこのDIOの“本体”だ。


……たかだか元チンピラのスタンド能力ごときで吸血衝動、捕食衝動を抑えられなくなるほどこのDIOは落ちぶれてはいない。
お前の命令ならばどんなことだって引き受けるとここに誓おう。代わりに戦うことも、盾になることも、喜んで引き受けよう。
このDIOを使役していいのはこの世界でもジョジョ、お前だけだ、お前にしかその資格は存在しない。


今一度いうが、選ぶのはお前だ。
しいて一言忠告をさせてもらうなら――あまりノンビリしている時間はないはずだぞ?


●●●


さてさて……これはまた大事件になってしまったな。
じゃあとりあえず、ここでDIOがジョナサンに解説したことにいくつか補足して終わりにしよう。


まずは――ん?DIOがリンプ・ビズキットの吸血衝動を超えられた理由から?
そりゃあ簡単だよ。彼自身が言った通り、DIOがもともとゾンビ以上の存在だったから。
これがもしも“人間状態のディオ”だったらダメだっただろうね。

で……そんな状態でありながら『太陽を克服した』と確信した理由だな。
まぁ、これもタネがわかってしまえば簡単だ。あくまで今のDIOは能力で生み出された『透明ゾンビ』でしかないから。
さらに付け加えるならDIOから生まれたもの――いやジョルノとかじゃあなく、『緑色の赤ちゃん』が太陽の元を歩いていただろ。
あくまでも『吸血鬼そのもの』以外には太陽光は弱点となりえない。

――という理解ができると同時に新たな疑問が浮かぶだろう。『DIOはいったい何ができるのか?』とね。
まず結論から言うと、スタンドは使えない。
これは……そうだな『アンダー・ワールドで掘り起こされたスポーツ・マックスの記憶』を例に出すと……
あれはあくまで『能力によって生み出された現象』だから、“そのひと・そのもの”ではないということ。ゆえにあの時の彼もスタンドを使用しなかった、できなかった。
今回も同様。だからDIOのもとにもう『世界』は存在しない。
吸血能力は――どうだろうか。ある意味で『ゾンビ』と劣化した存在になった以上、これも不可能“かもしれない”。
なぜ推測なのかって?そりゃあ、ジョナサンがさせないだろうから。仮にDIOを使役するとして、ディオに対して「よし血を吸って攻撃だ」とは言わないだろう。きっと。
ゆえに、純粋な身体能力――吸血鬼となって、しかも鍛え上げられた彼の肉体ならそれで十分だろうが――それしかないとみていいだろう。
ちなみにいうと、DIOが口にした『幽霊の波紋』だが、彼は幽霊じゃあなくてゾンビだから、これも可笑しな表現だな……と、話題がそれたか、ごめんごめん。

あとは――そう、『リンプ・ビズキットに課せられた制限』か。
まず、本体がゾンビたちに“命令”することは可能。もっとも、今回のDIOのような場合を除き、ほとんどは本能的に動いてるような奴らだからどこまで聞いてくれるかは微妙だが。
付け加えるなら、もちろん本体であるジョナサンには視認できているし、会話による意思疎通も可能だ。じゃなきゃあ命令も何もないからな。
次に、本体が死んだときに――もとのスポーツ・マックスのように“復活”できるのか。これは不明。いくら適応したとはいえ死ぬ瞬間にDISCが吹っ飛ばないとも限らないし。
あとは……“従えられる人数”か。たぶん主催者サイドが最も制限をきつくしたのはここだろう。殺し合いが続けば続くほどこの能力は力を増すんだから。
だが、これも具体的な人数は『不明』だ。
――え?だってそうだろう、いまジョナサンの周囲にはそれを証明できるほどの死体はないし、彼なら『安らかに眠ってくれ』とか言って蘇らせない可能性すらあるから。
強いて言うなら……仮にこのロワイヤル序盤でスポーツ・マックスが死なずに墓地やらなにやらにたどり着けていたとしても、それらの死体全てを配下にはできなかったろうね、と。そのくらい。


……さてと。いろいろ言ったが、最初の話題に戻ろうか――って、おいおい。そんなイヤそうな顔をするなよ。

『俺たちの戦いはこれからだ』

この言葉が意味する真のところは、つまり。

『だれも見ていない――見えていない――ところでも、絶対に彼らは戦いを続けている。我々にそれを知る手段がないだけで』
――そういうことだ。

だとするなら。
この話を締めくくる言葉も自然に浮かぶだろう。

『彼らの戦いはまだまだ始まったばかり!
 ジョナサン・ジョースターのバトル・ロワイヤルはこれからだッ!』

バ ァ ――z__ ン !!



【F-4 エア・サプレーナ島 / 1日目 夜中(22時ころ)】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:波紋法
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:左手と左肩貫通(応急処置済)、疲労(中~大程度に回復)、混乱(小)
[装備]:リンプ・ビズキットのスタンドDISC、透明なDIOの死体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒
1.蘇った(?)ディオをどうするか混乱中
2.仲間と合流したい
3.現状の把握をしたい

[備考]
1.DIOが所持していた『リンプ・ビズキットのスタンドDISC』がジョナサンの体内に入りました。そのほかの所持品はどうなったか不明です。
2.放送を聞き逃しました。また、当然ながら19時、21時の禁止エリア作動も気づいていません。
  ※この話の時間軸では、まだ23時の禁止エリアは作動していません。22時前後の話とお考えください※

【透明になったDIOについて】
0.能力は原作に準拠。スタンドビジョンはなく、死体を透明ゾンビとして復活させ使役する。
1.あくまでもリンプ・ビズキットによって生み出されたものなので『世界』は使用できない。
2.同様の理由で吸血もできないと予想されるが、ゾンビの本能での『食らいたい衝動』はある。ただしDIO自身の精神力で抑制中。
3.原作の描写から、遺体が動いているわけではないが、透明DIOにダメージがあれば遺体にフィードバックする模様。つまり大統領が回収したDIOの遺体に変化がある。
4.リンプ・ビズキットに課せられた制限は『使役できる人数』のみ。ただし詳細は不明。
5.DIO自身はなかなかハイな状態。しかし尊敬するジョナサンの命令には(能力を抜きにしても)従うつもりなので、彼が死ねといえば喜んで自殺するだろう……



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最終更新:2018年02月07日 22:43