「ところでオメー、怖いものってあるか?」
「………………?」

開口一番、急げばルーシーとジョニィに追いつけるといった矢先にこの質問。
カンノーロ・ムーロロの唐突な問いにディエゴ・ブランド―は思わず口を半開きにする。
とはいえ彼も狼狽えたりはしない――この程度で隙など見せるわけにはいかないのだ。

「……オレは、その質問に馬鹿ショージキに答えなくちゃならないのか?
 それとも――マンジュウに熱いお茶が一杯怖い、みたいな答えをお望みかい?」
「……なんでオメーがその返しを知ってんだ……」
「へえ、この答えになんか特別な意味でもあるのかい?
 故郷の味が恋しいとかほざいてた妙な爺さんの受け売りなんだがな……」
「………………」

会話のペースは握らせない、という態度に埒が開かないと判断したのかムーロロは両手を上げる。
先に振ったとはいえ、彼の方も時間が惜しいのは確かなのだから。
だが、思わず手の方に目が行きそうなその状況でディエゴは彼の足元に新たなトランプが寄ってきていたのを見逃さなかった。

「わかったわかった……ふざけるのは終いだ。
 目下、オレ達にとって一番の脅威となる参加者の話だけしておきたい」
「……?」

脅威、つまり怖いもの。
先ほどの質問はそういう意味かと繋ぎ合わせて考え込んだ後、ディエゴが口にした名は……

ルーシー・スティール?」
「不正解だ……このまま放っておけないって意味じゃあ確かに厄介だが
 力づくでねじ伏せられる相手を怖いとは言えんね」
「……ジョースター?」
「残念、またもや不正解……奴らは満身創痍、しかも連絡手段無しで三手に別れてる……
 おまけに根っこの部分は揃って甘ちゃんだ」
「そうなると――」

いまさら話を急ごうとはせず、ディエゴは椅子に座りなおして考え直す。
ここまで来て話を中断するというのも妙な気分だし、ルーシーたちに動きがあれば目の前の男が知らせてくるだろう。
男二人以外には部屋の隅でのそのそと『亀』だけが動く部屋で、淡々と話は進んでいく。
ディエゴは残る参加者についてムーロロほど情報は持っていない。
それでも彼が知る者のうち、脅威と考えられる相手はさほど多くなかった。

「――カーズワムウ、ってやつか」
「三度目の正直だな、正解だ……もっともワムウはついさっき死んだから、カーズひとりってことになるがな。
 優勝か、あるいは主催者打倒か――どっちにしろ奴は現時点における最大最悪の障害……
 今のうちに取り除いておかないと後で手詰まりになる」
「……フゥ~」

ディエゴは一息つく――溜息を隠しながら。
優先的に名前を出した通り、彼にとって厄介なのは遺体を所持するルーシーとジョニィのほうだった。
さらに言うなら彼自身カーズ、どころか柱の男すら直接見たことが無いため脅威のイメージが湧かなかったからなのだが。
とはいえ目の前の相手が持つ自分以上の情報収集力は侮れず、話を聞かずに飛び出すのは愚策と理解していた。

「フン、しょうがない、付き合ってやるか……率直に聞くがどうやって取り除く?」
「より正確に言えば取り除いて『もらう』だな。
 他の参加者を集めて奴を倒させる……単純極まりないが、これが最有力手だ」
「……おいおいおいおい、ワムウってのがどうやって死んだかは知らないが、同じようにやれないのか?」
「実行犯はひとりで正面から戦い、倒したが残念ながら直後に死亡、相討ちってやつだな……
 ついでに言うと、オレの見立てでは残る参加者でカーズと一対一で正面からやりあって殺せそうなのはひとりだけ……
 そして、そいつはオレのことを知ってるのさ……悪い意味でね」

いまいましいフーゴめ、と口ではそう呟きながらも残念そうな表情ではなかった。
ディエゴのほうもそんなオイシイ話は無いか、と逸れた話題を戻す。

「そいつはわかったが、集めるね……今まさに悪評をばらまかれているかもしれないオレたちが、かい?」

自分の意見にケチを付けられた意趣返しか、今度はムーロロの意見にディエゴが突っ込む。
依然、ムーロロは涼しい顔で返すのみだったが。

「それについては全く問題無し、だな。
 カーズは宮本ってガキを使って第四放送時に会場の中央で首輪の解除をするってふれまわってる……
 奴が現れる時間と場所が正確にわかるならそこに他の連中を動かすぐらい朝飯前だ」
「………………首輪の解除?」

気になった単語が投げかけられるも、代わりに返ってきたのは溜息。
無表情にも関わらず、『呆れた』とその顔には書かれていた。

「――今の流れでそいつを信じるのか? この際首輪解除が行われようが、行われたとして結果がどうなろうが関係ない……
 重要なのはその後発生する戦闘だ……残る参加者はそう多くない以上、確実に討ち取れる戦力を一度にぶつけなきゃならねえ。
 そのための駒が……」
「ジョースター、ってことね……
 やつらは教会でジョニィとも接触したようだし、そっちを抑えることでルーシー対策も兼ねてるってワケか……
 で、三手――ジョニィは数に入れないよな?――に別れてるやつらにいちいち声をかけて……」

と、ここでディエゴの言葉が遮られる。

「いいや、そこまでする必要はねえ……ひとり切り崩せばどうとでもなるさ」
「どいつ……いや、当ててやろうか…………『ジョータロー』だ、どうだい?」

反射的に聞き返そうとするも思うところがあったのか挑戦的な笑みを浮かべる。
そんなディエゴに対してムーロロは無表情に意味ありげな薄ら笑いを浮かべ返した。

「おしいおしい、確かに承太郎を味方につけられりゃ最良だが、今の時点でそれは高望みってもんだ……
 正解はジョルノ・ジョバァーナ……奴を呼ぶ」
「……オレの聞き違いか? 確認させてもらうぞ?
 『呼ぶ』って言ったのか? そのジョルノってやつを、ここへ?」
「Exactly(その通りでございます)だ……まあ、場所は必ずしもここの必要はねえが」
「……おいおいおいおい」

あまりにも馬鹿げた提案……有効とかそういう次元ではない。
敵視されているであろう相手にわざわざ姿を晒す、しかも遠隔操作のスタンドによる連絡手段があるにもかかわらずである。

「やるかどうかはともかく……オレはなるべくあいつ……あいつらとは会いたくねえんだがな」
「あー、心配するな、オレだって奴らとDIOの戦いで片棒担いだオメーを奴らに会わせる気なんざない」
「その立場、そっくりそのままおまえにも当てはまるんだがね……
 じゃあ、ひとりで会うのかい?……一応言っておいてやるが――おまえ、殺されちまうぜ?」

ディエゴのあくまでおどけているような口調を気にもせずにムーロロは続ける。
……こちらも表情は変えずに。

「リスクは承知さ。だがDIOが死んだ以上、協力していたオレがこのまま何にもしなきゃあ、どのみち狙われる……
 オレのスタンスを知ってるのは切ったフーゴに逃がしたルーシーたち……
 奴らがジョースターと接触してオレのことを話される前……つまり今動かなきゃ余裕で詰みだ」
「直接会う意味は? ついでに、ジョルノって理由は?」
「ここまで来て姿は見せたくない、じゃあさすがに信用してもらえないことぐらいガキでもわかる。
 だが向こうの要である承太郎ははっきり言ってヤバイ、会ったとたんにこの世とおさらばすることになりかねねえ……
 となりゃあ、そいつとの橋渡しができてなおかつ話が通じそうな相手――それがジョルノってわけだ」
「要は踏み台ね……間違っても向こうサイドの誰かにゃあ聞かせられない理由だな」

ディエゴの瞳かそれとも脳裏には何が映っているのか……遠いような近いような何処かへと視線が向けられる。
それも一瞬で、すぐに言葉が重ねられていくのだが。

「で、肝心のジョルノを動かせるだけの材料はあるのかい?
 呼んでみたけど断られました、って展開も多分にありそうなんだが?」
「そこで、さっきの話に戻るってわけだ」

予想していた質問がようやく来た、とばかりにムーロロは足を組み替えて頬杖をつき、逆の手の人差し指を立てる。
気取りすぎた仕草で逆に絵になっていなかったが、両者ともに気にせず会話は続く。

「『カーズ討伐同盟』……や、名前なんざどうだっていいんだがこれで交渉を持ちかける……
 要するに手を組む――振りをして情報提供と最小限の労力だけ貸しつつカーズを倒してもらうって寸法だ」
「言うは易く行うは難し……ってね。うまくいくとは思えんが」

相手のブレーンを騙す――極力省略した文字だけでも無謀さが漂ってくる。
この男、何を考えているのかといわんばかりにまじまじと顔を観察するも、相手もまたそれを意に介さない。

「まあ、交渉は任せときな……ジョースターもルーシーも、カーズを厄介と考えてるとこに付け入る隙あり、だ……
 なにより一緒にいるジョセフには『貸し』があるし、あいつならカーズの情報を欲しがることは間違いねえ……
 うまく抱きこめりゃ残る参加者の半数以上と休戦状態まで持ってくことも可能っておまけつきだ。
 それとは別に参加者の誘導やこっちの手札も揃える、とやることは山積みなのが辛いとこだがな」

よほど自信があるのか、それとも口先だけのハッタリか……
判別不能のポーカーフェイスに内心気分を害しつつも、ディエゴにとってまだ確認すべきことはあった。

「心底同情させてもらうよ……ところで、オレはその間どこで何をやってりゃいいんだい?」
「あー、オレの邪魔にならず、むやみやたらと参加者を減らさないなら何しようが構わんさ。
 ただし、今言った通りオレは忙しい……サポートは期待するな。
 カーズにうっかり出くわしちまった、なんてことのないように頼むぜ」
「わかりきってることを言うのは無駄だ……
 それと参加者を減らすなってもルーシーたちは好きにさせてもらうぜ……?」

ディエゴはこれ以上有用な情報は引き出せそうにないと判断する。
役割が無いなら何故わざわざ呼び止めてまでこの話をしたのか、とは聞かなかった。

「ああ、構わねえさ……この状況で動きが予測できない駒は、除外して構わねぇ……
 後厄介なのは味方なのに指示通りに動くかどうかわからない駒だが……オメーはどうかな?」
「……おまえ、わかってて言ってるだろう?」

質問責めに淀みなく返すあたり、既にムーロロの中でシナリオは出来上がっている。
そしてその中に自分の出番は無い――要するに相手は「しばらく出ていけ」と言っているのだ。
交渉を本気で行うかはともかく、自分がいると何か困るような事態があるのは本当なのだろう。
またしてもオレはお呼びじゃないか、と小さく呟くとディエゴは立ち上がった。

「……ま、いいさ。オレからの質問は以上だし、もう行くぜ?
 うまくいったら呼んでくれよといいたいとこだが……
 ハッキリ言うぞ――――おまえの考えてるようにはいかない」

最後の言葉だけは明らかに今までとは違う、真剣な口調だった。
言い切った根拠までは告げず、デイパックをこれ見よがしに揺らしながらディエゴは去っていく。
急ぐ様子は見られないことから、まずは支給品をじっくり見返しでもした後どこかへ行くつもりなのだろう。
やけにあっさりに見えるが、ムーロロがその動作について疑うことはしない。
彼の目当てである『遺体』について、これから呼ぶ予定の者たちは情報を持っていないことは明白なのだから。

「連絡用のを付けるぞ。ああ、そっちのジョーカーは別だ……『指示通りに動くかどうかわからない』からな……」

サポートまでは無いが連絡役という名目の監視は必要――当然それは理解している。
その証拠に後ろにトランプがついてもディエゴは何もしようとしなかったが……
まさに部屋を出ようかというその時、一度だけ振り返ると思い出したかのように言った。

「そうそう、オレにだって怖いものはあるぜ? まあ『ある』ってよりは『いる』だがね。
 どんな状況下でどんなに戦力が充実してようと、そいつとだけは関わり合いたくない、そんなやつがな……」
「おやおや、そんなことオレに教えちまっていいのかい?」
「全く問題ないね。その怖いやつっていうのは……」




                        「オレ自身、さ」




さらりと述べると、ディエゴはそのまま部屋を出て行った……ずっと控えていた、恐竜を連れて。
――二人を知る者ならわかるだろうがこの対話、信頼しあう者がくつろいで話しているような状況では断じてなかった。
微動だにしないトランプと恐竜、そして本体同士の睨み合いと口先の化かし合い……
どちらかが妙な動作をすればその瞬間に戦闘開始となりかねない、それほどまでに緊迫感の絶えない対話だった。

                    ((さて、それじゃあ……やるか))

彼らが思っていたよりは早く話は終わったが、それでも多少の時間を食ったのは事実。
支給品の確認後、ディエゴの行先は果たしてルーシーたちの元かそれとも別の何処か……?
そして、ムーロロの企む『カーズ討伐同盟』は果たして現実のものとなるのだろうか……?



【C-3 DIOの館/一日目 夜中】

ディエゴ・ブランドー
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、なかなかハイ
[装備]:遺体の左目、地下地図、恐竜化した『オール・アロング・ウォッチタワー』一枚
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2、カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
    ランダム支給品11~27、全て確認済み
   (ディエゴ、ンドゥ―ル、ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、
    犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、ブラックモア織笠花恵
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
1.ムーロロを利用して遺体を全て手に入れる。
2.ひとまず支給品を再確認、その後ルーシーたちを追う?
[備考]
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。
※装備とは別に『オール・アロング・ウォッチタワー』のカード(枚数不明)が監視についています。
※ディエゴが本来ルーシーの監視に付けていた恐竜一匹が現在ディエゴの手元にいます。


【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
    不明支給品(2~10、全て確認済み、遺体はありません)
[思考・状況]
基本行動方針:自分が有利になるよう動く
1.ジョースターを利用するべく、ジョルノに『カーズ討伐同盟』の話を持ち掛けて呼び出す。
2.ディエゴを利用して遺体を揃える。ディエゴだってその気になればいつでも殺せる……のだろうか。
3.琢馬を手駒として引き留めておきたい?
[備考]
※現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。


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前話 登場キャラクター 次話
194:キングとクイーンとジャックとジョーカー ディエゴ・ブランドー 205:化身
194:キングとクイーンとジャックとジョーカー カンノーロ・ムーロロ 204:Tangled Up

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最終更新:2019年05月30日 19:29