――ヒーロー。
そう聞いたとき、人はいったいなにを連想するだろうか。
魔王を倒すべく旅立つ勇者の血を受け継いだ少年かもしれない。
いかなるミッションも危なげなく完遂する諜報員かもしれない。
どんなトリックであろうとたやすく見抜く名探偵かもしれない。
潜んでいる妖怪変化を人知れず退治する霊能力者かもしれない。
人類の自由と平和を守るために日夜戦う改造人間かもしれない。
別に、そのようなフィクションの住人だけとは限らない。
ヒーローは、ブラウン管や紙の束のなかだけにいるワケじゃない。
一一〇番をすればすぐに駆けつけてくれる警察官かもしれない。
体調が悪い理由を的確に教えてくれるお医者さんかもしれない。
一打逆転のチャンスを決して逃さないスラッガーかもしれない。
沸き出す気持ちを思いのままに歌うロックスターかもしれない。
敵陣のゴールを正確無比に射抜くファンタジスタかもしれない。
つまるところ、この世界中の誰もがヒーローになりうるというわけだ。
ならば……だとするならば。
いったいどんな人物のことを“ヒーローと呼ぶ”のか。
皆にも考えてもらいたい――じゃあ、始めよう。
●●●
広瀬康一が目を覚ました時には、すべてが終わっていた。
彼自身の治療も。休息を兼ねた束の間の情報交換も。そして、決着も。
ことの顛末を耳で聞き、頭で理解することはなんとか出来た。
しかし……彼の心は『納得』することを許さなかった。
「僕は――また何もできないままだったのか」
彼の両頬を大粒の涙が伝う。
その涙は、友を失った悲しみか。守られたという悔しさか。自分自身の情けなさか。あるいはそれらのいずれもか。
誰も言葉を返さなかった。
うわべだけの慰めが意味をなさないことを理解していたし、何より自分たちも同じ境遇にあった――というより、現在進行形でその境遇にあるのだから。
重く静かな時間が周囲を包み込む。
周囲に敵がいるわけでもないのに、焼けつくような緊張感を全員が感じ取っていた。
やがて……そのチリチリとした感覚が――実際は音として静寂の中に流れていたのだが――ジャリっという足音にかき消される。
承太郎が煙草を踏み消し、デイパックを担ぎ上げたのだ。
「どこへ行くんですか?承太郎さん」
口を開いたのはアナスイだった。同時に
シーラE、エルメェスも顔を上げる。互いの視線が交差する。
康一は未だに泣きながらうつむいたままだ。
「……まさかあんた、『ここで足踏みしてる暇はねぇぜ、俺は先に一人で行くぜ』とか言うつもりじゃあないですか?」
言葉を返さない承太郎の意をくみ取るようにアナスイが続けた。承太郎は黙々と準備を続けている。
沈黙のさなか、やっと康一が重い顔を上げる。良いことか悪いことか、涙は止まっていた。
「ヘイッ承太郎サンよ!これから全員で車で移動するって決めたじゃあねーかッ!
もうちっと――待ってやったらどうなんだよ!?」
エルメェスがチラリと康一を振り返りながら声を上げる。
待ってやれ、つまり気を使ってやれと言っているのだ。
誰に――?自分にだ。そう感覚として理解できた康一はまたも俯く。
「――やれやれ。待ってほしかったら、待ってほしい奴がそう言うもんだ」
デイパックをどさりと落とし、康一の元まで歩み寄る承太郎。気配を感じて再び康一が顔を上げる。
お互いの視線がかち合う。一触即発とはいかないが、決して穏やかなものではないのを全員が感じ取った。
「今からDIOの野郎の死体を確認しに行く。さっき言った通りにな。
が――はっきり言おう。アナスイたちはともかく、康一君、君が足手まといだから……全員を置いて一人で行く」
威圧するような口調ではない。しかしその言葉の重みが康一の全身を駆け巡る。
「僕が……弱いからですか」
「弱いというのがスタンドの強さのことを言ってるのか、泣いてることを言ってるのか、それ以外の何を言ってるのかは置いといて――そうだな、確かに今の君を連れていっても仕方ない」
淡々と事実のみを述べる承太郎に対して康一は情けなさや悔しさよりも、怒りを覚え始めた。
「だって承太郎さん!さっきの話じゃあ、時を止められないんでしょう!?そんなあなたが一人で行って何になるっていうんですかッ!」
「今の君よりはマシだと思うんだがな……
そして――こういうのは皆まで言わせるもんじゃあないぜ、康一君」
言いながら、言われながら康一が立ち上がり、すっと距離をとる。およそ10メートル。エコーズの間合いだ。
「わかってますよ……そのセリフは僕のもんです。
『だったら!力づくで僕を止めてみせろ!承太郎さん』ッ!!」
●●●
「……ねぇ」
ぼんやりと口を開いたのはシーラEだ。
今、彼女はアタシとアナスイと一緒に車に寄りかかって見物――そう、見物だ。彼らのやり取りを眺めている。
「あぁ。コウイチがまだ寝てるときに聞いた話の通りっちゃあ通りだけどよ。
ズイブンな言い方だったよな。アタシもついブチキレそうになっちまった」
「承太郎さん的には、どっちに転がるのが正解だったんだろうな。自分自身だってヤバいってのに……」
アタシの返事にアナスイが付け加える。
「イタリアじゃあ聞かないけど、ニホンには『カワイガリ』って文化があるらしいわよ。アメリカはどうだか知らないけど。
ま、つまりは“そーゆーこと”でいいんじゃあなくて?ていうかさっきのあなたは確実にブチキレてたわよ」
シーラが余計な一言をつけつつ話をまとめた。
そう、アタシたちは予想していたのだ。この展開になりうることを。
『たまりたまった怒りやら何やらをぶつけることが今の彼には必要だろう』なんて。
承太郎サンの口からそう提案されたときは、この状況で何考えてるんだかと半信半疑だったけど。
「しっかし……」
「お、エルメェス、お前もそう思うか?」
「あら奇遇かしら?きっと私も同じことを考えてるわ」
三人の言葉がハモった。
「「「なァんか“それだけじゃない”気がするんだよなァ」」」
●●●
わかってるさ――
「康一君、君の思いはそんなもんか?俺を止めるんだろう?」
承太郎さんが明らかに“手を抜いてる”ことくらい。
「だったら!本気で僕のことオラオラすればいいじゃあないですか!もう一度だ!Act2ッ!」
飛ばした尻尾が文字の形を作る前に弾かれる。少し離れた位置で文字がバチッっと感電する感触を地面に伝えた。
「ちくしょうッ!」
本体である僕自身も承太郎さんに向かって拳を振りかざす。スタンド頼みで足踏みしてるだけじゃあ進まない。
「やれやれ――もう一度言うぞ康一君、君の想いはそんなちっぽけなモンなのか?」
僕のパンチを避けも受けもせず、腹に受けたままで承太郎さんが放ったカウンターの蹴りが綺麗にみぞおちに入った。
息が詰まる。だけど――だけどッ!
「わかってますよ!僕が弱いことくらい!そのせいで仗助君や――シュトロハイムさんたちを死なせてしまったことくらいッ!」
Act1が僕の怒りを言葉にしてそこら中にぶちまける。
危険な人物を呼び寄せてしまわないように小さな音で、なんて気分には正直なれなかった。
そんな余裕なかったというのもあるけど――僕のおもいはそうやって抑え込むものじゃあない。今ここで承太郎さんにぶつけなければならない。
「そうだ――しかし君が弱いというのは半分は間違いだ。
君は最初に、このAct1の大きな声で『ニゲロ』と叫んだはずだな?
その時は名簿がない上に距離があったようで正確な位置と正体の把握ができなかったから無視したが、スタープラチナの耳にはかすかに届いていた」
――は?何を言っているんだ?今?このタイミングで?
「だったらなんだっていうんだ!結局その時だって……ダイアーさんをッ!」
「それは結果論だ。君は確かにあの時自分を顧みず他人のために言葉を発した」
言いながらスタープラチナが殴りかかってくる……いや、手は平手だ。ビンタだ。
ビンタ――そうだ、承太郎さんは僕のことを『しつけている』今こんな状況で!
それがたまらなくムカついてくる。手を抜かれるとか、止める止めないとかじゃあなく、“そんな承太郎さんにムカっ腹がたってくる”!
そして何よりも、“承太郎さんの手を煩わせている自分自身にもムカっ腹がたってくる”!
「痛ッッッ――クソッ!Act2!」
しっぽ文字が効かないからタックルだ。しかしそれもスタープラチナの両手に受け止められる。
「康一君。俺はこう見えても、そういう君のひた向きなところは尊敬しているんだ」
その言葉は僕の耳には入ってこなかった――入ってきてもそれを素直に受け止めるほどの理性が残っちゃあいなかった。
「だったら――だったら!この僕のおもいを受け取ってくださいよッ
承太郎さんの――馬鹿野郎ォォォッッッ!」
おもい切り叫ぶ。じりじりとAct2がスタープラチナを押し始めた!あの無敵のスタープラチナをッ!
「やれやれ、馬鹿野郎とはずいぶんだな……
しかし、そうだ。誰かにおもいを伝えるということは素晴らしい。それをもっとぶつけてみろと――言っているんだ!オラァッ!」
スープレックスだかバックドロップだかで思い切りAct2が吹っ飛ばされる。
スタンドのフィードバックで僕自身も吹っ飛び、背中から地面にたたきつけられてたまらずせき込んだ。
だけど――負けるもんか!
「そうだ、負けるか……負けてたまるもんかッ!食らわせろッAct2!」
ごろん
「――え?」
「来たか」
●●●
「お。終わりましたかい?承太郎さん、康一?」
「えっ、あっハイ。終わりました、少しスッキリできましたし」
「やれやれ――これで準備完了ってとこか。」
照れ隠しなのか、帽子を目深にかぶった承太郎はアナスイの言葉に短く返してさっさと車に乗り込む。
そう。最初から承太郎は一人でここを出ていくつもりなどなかったのだ。
「しっかし――『オモイを伝える・カッコブツリ』ってやつかい?それとも『言葉のオモミ』ってか?イカしたジョークだな、コウイチ」
「まっ、この『ヘビーな状況』で成長したんなら当然な結果じゃあないかしらね?」
エルメェスとシーラEが茶化す。
康一本人も少し照れたように頬をポリポリと掻く。涙の跡は消えないが、それでも彼の顔は晴れやかだ。
「康一君。余計なお世話かもしれないが、同じ男として、一つだけアドバイスをしよう。『男なら、誰かのために強くなれ』。
――今の俺には説得力なんかないのは分かってる。それでも、俺もこれからもっと強くなって見せると約束しよう。君にも、そうなってほしい」
アナスイが康一の肩を強く握った。見つめる瞳の中には確かに燃えるものを感じられる。
「そうね――さっきまでのあなたみたいに『泣いてもいいのよ。また笑えればいい』」
横から覗き込まれてたまらず頬を赤らめるところは年相応のものを感じさせる。その姿にシーラEはほんの少し安堵した。
「今までアンタがどうやってきたかをアタシたちは知ってる。だから自信もって。
『これが正しい!って言える勇気があればいい――ただそれだけできれば英雄』なのよ。
……さ、これ以上ダベってると本当に承太郎サン一人で行っちまうかもよ。アタシらも行こうぜ!」
バンと康一の背を叩いて歩き出すエルメェスもシーラEと同じ気持ちであった。
復讐は彼女たちの人生にとっても、そして今の康一にとっても重要なことであるのは変えようのない事実である。
しかしその為だけに他を犠牲にするような戦いをしてはいけない。仲間であれ、自分自身であれ。
彼女を追い越して車に向かうアナスイにバレないように、シーラEとエルメェスは視線を合わせて少しだけ頷き合った。
「はっ――はいッ!ありがとうございます!」
一瞬ぽかんとし、慌てて駆け出す康一。
悲しみが言えたわけでもない。怒りが収まったわけでもない。不甲斐なさは未だに胸に残っている。
それでも今の彼の姿には“弱さ”は感じられなかった。
●●●
さて。ヒーローとは。
先にあげた改造人間だろうと、ロックスターだろうと。
『考えるより先に体が動く』『誰かのためにある』そんな人種――人種という表現が適切かどうかはさておき、そういう者のことをいうもんだ。
康一もそうだ……というより、彼の場合は最初からそうだったろう。
ディアボロと対峙したときに真っ先に周囲に警戒を発したことも。
吊られた男から由花子を守るために突き飛ばしたことも。
燃え盛る空条亭にいるかもしれない生存者に向けて叫んだことも。
これで康一君がヒーローじゃあないなんて言うやつがいたら、そりゃあ可笑しいぜ。
世が世なら、平和の象徴なんて呼ばれたかもしれないだろうな。
あ、まてよそうしたらヒーローネームを考えなきゃあならないか。
個性というか……スタンドがエコーズで、成長することをふまえると……うーん……
【E-2 /1日目 夜中(22時過ぎ)】
【チーム名:AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『エコーズ Act3』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断(止血完了)、疲労(極小)、憤怒(極小)
[装備]:エルメェスの舌
[道具]:
基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する
1.うわォッ!ひょっとして成長したんですかァ!?
2.ずいぶん解消はしたけど、やっぱり後悔や怒りは消えなさそう
【
エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:
スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:ジョルノがカエルに変えた盗難車
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?
3.にしても承太郎さん、演技にしちゃあキツすぎるぜ……
【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数70%)
[道具]:基本支給品一式×6(食料1、水ボトル少し消費)破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
2.ジョルノ様の仇を討つ、と思ってたら聞いた話じゃあ生きてるっての!?キャージョルノ様アァァ
3.成長おめでとう、コウイチくん
【
空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(DDによる治療済)、肉体はほぼ健康状態まで回復
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、
スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.車でどこかへ移動する。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
2.やれやれ、康一君が成長してメデタシメデタシってとこか
3.自分自身も時を止められるよう成長する必要があるってところか
【
ナルシソ・アナスイ plus
F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康、首輪の機能が『どうやら』停止しているらしいという『予測』
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
0.車でどこかへ移動する。
1.エルメェスたちと共に行動する。
2.男なら誰かのために強くなるんだ、康一君
【備考】
全員で情報を共有しました。以下、共有した内容など
●シーラの面識がある暗殺チーム、ミスタ、ムーロロについて。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はある・か・も。
またムーロロについても、参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度。
●承太郎が度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなった現状。
※回復するかどうかは不明(以降の書き手さんにお任せいたします)
●アナスイと『フー・ファイターズ』が融合し、『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』となったこと。
※能力は『ダイバー・ダウン』に『フー・ファイターズ』のパワーが上乗せされたこと。
基本的な能力や姿は『ダイバー・ダウン』と同様だが、パワーやスピードが格段に成長している。
(普通に『ダイバー・ダウン』と表記してもかまいません)
※アナスイ本体自身も、スタンド『フー・ファイターズ』の同等のパワーやスピードを持ち、
F・F弾や肉体再生など、原作でF・Fがエートロの身体を借りてできていたことは大概可能となったこと。
(その他、アナスイとF・Fがどのようなコンボが可能かは後の作者様にお任せします)
●アナスイの首輪が停止している可能性について
※首輪は装着されたままですが、活動を示す電灯が消えています。承太郎の『予測』では『どうやら』首輪は活動を停止しているらしい。
(詳細は以降の書き手さんにお任せいたします)
●
カーズという危険人物の存在。
※『
大乱闘』にて承太郎がカーズのことを語ったときと同様の内容。もっと詳しく説明を受けているかもしれません。
●車内に放置されていたティム、噴上、シュトロハイムの基本支給品とトンプソン機関銃と破れたハートの4を全員のアイテムとして共有。
※便宜上シーラEの装備品という扱いです。
●禁止エリアについて、
この話の時間は前作からさほど経っていない(22時すぎです)ので、彼らのやり取りの間にエリア作動、ということはなかったようです。
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最終更新:2017年06月01日 21:24