第002話 臆病な傭兵 ◆jKyibSnggE
体育館で目覚めた時、
ボルボ西郷は他の参加者ほどは動揺しなかった。
歴戦の傭兵である以上、物事を慎重に見極めて行動する必要がある。
そのためには、動揺することはデメリットにしかならないからだ。
『殺し合い』をしろと言われた時も、経験豊富であったが故に、取り乱すことは無かった。
むしろ、多くの参加者がただの学生にしか見えないことに憤りを感じたほどだ。
『殺し合い』とは、それを承知している者同士で行うことであって、強要するものではない。
彼はそう思った。
そして、なんとか殺し合いをやめさせようと、武器を取ろうとして…
そこで初めて、彼は激しく動揺した。
肌身離さず持ち歩いているはずの銃器がひとつも無かったのだ。
そのことに気づくとほぼ同時に、体育館にガスが散布されて彼は眠りに落ちた。
目が覚めた時、彼は真っ先に確認したのは、やはり武器の有無であった。
「…ない!やはり武器がない!」
ボルボ西郷は生まれて此の方武器から離れたことがない。
「銃どころかナイフまでない!手榴弾もない!」
故に、武器が無くなると不安でたまらないのだ。
「なんてこった!パンツの中の銃まで取り上げるなんて!」
前に一度、両津のせいで武器無しの全裸にされた時は、混乱のあまり裸で外へ飛び出してしまったほどだ。
名前は似ているが、決して某ゴ○ゴ13のような完璧人間ではないのである。
「はっ、そうだ!支給品だ!何か役に立つ武器が入っているに違いない!」
ガサゴソとデイパックを探ると、中から出てきたのは…
「……しゅ、手榴弾か!?…いや、これは…」
『stun grenade』と書かれている。それが4個。
いわゆる音響手榴弾…爆音で相手を殺傷することなく行動を封じる手榴弾だ。
「スタングレネードか…ないよりはマシだが…」
そう、無いよりははるかにマシなのだが、殺気を感じるなり手榴弾を放り投げるようなボルボにとっては、
たった4個のスタングレネードではかなり心細い。
「うぅ…何とかしてもっと武器を手に入れなくては…」
スタングレネードを両手に握り締めながら、ボルボはビクビクと歩き始めるのであった。
少し歩くと、神社の鳥居が見えてきた。
確認してみると、菅原神社と書かれているようだ。
「と、いうことは…E-02か。南に村があるな…何でもいいから武器になるものが手に入ればいいが…」
落ち着かない様子でキョロキョロしながら、進路を南に取るボルボ。
その様はまるで迷子になって怯える子供のようで、とても歴戦の傭兵とは思えない。
そんな彼に背後から声をかけた一人の少年の姿が…
「あ、あの……」
ビクン!
「――敵だ!」
投げられるスタングレネード。
傭兵の本能で、自分だけは瞬時に耳をふさいでその場に伏せる。
しかし、グレネードを投げつけられた少年の方は、何のことやら判らず立ち尽くしていて…
爆音が響いた。
「はぁ、はぁ…や、やってしまった」
ボルボが身体を起こすと、神社の鳥居の下に少年が口から泡を吹いて倒れている。
「うーむ、どう見てもただの学生だ。早まったな…」
ボルボは背後に近づかれると、本能で攻撃してしまうという厄介なクセがあった。
それが本当に敵ならば良いのだが、今回のように無害な一般人を巻き込んでしまうことがあるので困る。
しかもこの状況でさらに問題なのは、盛大に爆音を響かせてしまったので人が来るかもしれないということだ。
このままここにいるのは、自分だけでなくこの少年も危険だった。
とりあえずその場を離れるしかないと判断したボルボは、気絶した少年を担いで南へと歩き始めた。
しばらく歩いて。
ボルボは一軒の家を発見すると、中の様子を覗って誰もいないのを確認してから、その中へと入った。
気絶したままの少年を居間のソファーに横たえると、武器になるものはないかと家の中を物色し始める。
「…武器だ…武器になるようなものはないか……!」
台所にも包丁やナイフは無く、ようやく見つけたのは錆びたフォークのみであった。
それでもボルボは、そのフォークをポケットへと滑り込ませる。
素人では扱えなくとも、熟練の戦闘技術を持つボルボにとってはフォークでも武器になりえるからだ。
しばらく家の中を物色したが、他には武器になりそうなものは見つからない。
「あぁ、なんてことだ…武器が、武器が…」
ポケットの中のフォークを握り締め、不安げに周囲を見回すボルボ。
「…そ、そうだ!あの少年は何か武器を持っているかもしれん!」
急いで居間に戻ると、気絶している少年のものであるデイパックをあさり始めた。
「む…なにやら重い物が……これはまさか!?」
中から取り出したのは…リボルバー式の拳銃と弾丸の入った箱
「コ、コルトパイソン357…!やった!ついに銃を見つけたぞ!…いや待て、これはこの少年の物であって…」
その時…
「う、うぅん……」
少年がむくりと起き上がった。
そして、ボルボの方を見て、動きが止まる。
「あ、あれ?俺は一体……」
「や、やぁ。大丈夫か?」
ボルボはとっさに拳銃を背後に隠しながら、少年に声をかけた。
「えっと、あなたは……確か神社のところで…」
「う、うむ。君に声をかけられたのだが、君が地面に足を滑らせて転んでしまったので、
他の人に見つからないようにこの村まで担いできてあげたんだ」
「そうだったんですか。ありがとうございます」
「なに、私も警官だからな。当然のことをしたまでだ」
上手くごまかせたことに安堵するボルボ。
「ところで名前はなんというのかね。私はボルボ西郷だ」
後ろ手に持っている拳銃を自分の荷物の中に隠してしまいたい。
そんな欲求に耐えながら、ボルボはそう尋ねた。
「
真中淳平といいます。あの、警察の方なんですか?」
「うむ、そうだ……」
ボルボの喉まで出かかった「この銃を譲ってくれ」という言葉を抑えながら頷く。
「俺…どうしても助けたい娘がいるんです!力を貸してください!」
そう叫びながら頭を下げる真中。
しかしボルボの頭の中は、後ろ手に持った銃のことで一杯だった。
【F-02/平瀬村の民家/1日目・午前1時半ごろ】
【男子31番 ボルボ西郷@こち亀】
状態:健康
装備:スタングレネード×3、錆びたフォーク、
コルトパイソン357(弾数6/予備弾24)@CITY HUNTER
道具:支給品一式
思考:1.コルトパイソン357が欲しい。とにかく欲しい
2.その後のことは武器が手に入ってからでないと考えられない
3.真中と話す
【男子34番 真中淳平@いちご100%】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式。
思考:1.知り合いの女の子を助けるため、ボルボに協力を頼む
備考:真中は自分の支給品をまだ確認していません
よって、ボルボが隠しているコルトパイソンが、元々自分の支給武器だということを知りません
最終更新:2008年02月11日 20:39