第013話 爪を隠して ◆jKyibSnggE


本田速人は警察官である。
しかし、(バイクに乗っている時以外は)きわめて優しい性格をしているため、
目の前で死体を見せつけられ、殺し合いを強要されるという異常事態に陥っても、
その犯人たちを逮捕しようとするよりも先に、恐怖心が表に出てきてしまっていた。
何もできないまま『主催者』たちの話に聞き入り、気づいた時には道端で倒れていた。

「…そうだ、とにかく先輩を探さなくちゃ。先輩ならきっと何とかしてくれる!」

本田が信頼している先輩…両津勘吉ならば、こんな馬鹿げたゲームに乗ることなく、持ち前のバイタリティで
どうにかしてくれるに違いない、本田はそんな気がしていた。
両津はお金に汚かったり不真面目な性格をしているが、人を不幸にしたりはしない…とは言えないけど、
とにかく人殺しに手を染めたりはしない人だったから。

「早く先輩に会えますように、それまで危ない人に出会ったりしませんように…」

道なりにしばらく歩いていくと、前方に灯台らしき建物が見えてきた。
灯りがついていないのではっきりとは判らないが、たぶん見間違いではないだろう。
地図を見てみると、灯台は島の外れにひとつだけある。
と言うことは、あの灯台のあるエリアはI-10で間違いないことになる。

「灯台か…今いる場所も判ったし、ちょっと休んでいこうかな。あ、でも先に誰かが来てるかも知れない…」

もし、相手が殺し合いに乗ってる人だったりしたら…
武器になるものを何も持っていない本田は、灯台に行くのをためらった。
しかし、逆に両津が灯台にいるとしたら…これほど心強いことはない。

「そ、そうだ。先輩がいるかもしれないんだ…静かに近づいてこっそり様子を探れば…」

頭をブンブンと振って迷いを振り切ると、本田はゆっくりと灯台に向かって歩き始めた。
両津が中にいることを、そして殺し合いに乗った人が中にいないことを願って。


本田は灯台に入ると、1階の各部屋の中を順番に調べていく。
今のところ、誰かがいる様子も、いた様子もない。
誰もいなかったのかと胸をなでおろす本田。
その時。

「…動くな」
「ひっ!」

何者かに背後から銃のようなものを突きつけられる。
本田は小さく悲鳴を上げると、ゆっくりと両手を上げた。
しばしの間を置いて、背後の何者かが戸惑ったような声を上げる。

「……その服装…警察の方ですか?」
「え……そ、そうです!交通課の白バイ隊所属、本田速人といいます!」
「……すみません、脅かしたりして。手を下ろしてください」

突きつけられていた銃のようなものが離され、本田は言われるままに手を下ろした。
そしてゆっくりと振り返ると、そこにいたのは育ちの良さそうな青年だった。
その手には、短い金属のパイプが握られている。
どうやらこれを銃に見せかけていたらしい。

「え、えっと……」
「あぁ、すみません。僕は夜神月と言います。月と書いてライトです。…その、脅したりしてすいませんでした。
 てっきり殺し合いに乗った人なのかと思ってしまって…」
「そんな、僕の方こそ警察なのに情けないとこを見せちゃって」

どうやらこの月と言う青年はいい人のようだ。
そう感じた本田は、ようやく警察としての自覚が働き始め、この青年を守らなければいけないと思い始めていた。



「(思ったとおり、この本田と言う人はお人よしで、殺し合いに乗ったりはしない人のようだな。
 いい人ぶって見せてちょっと言葉を交わしただけで、僕に気を許してしまっている…)」

灯台の最上階で、月と本田は互いのことを話していた。
互いの知り合いのことなどのとりとめのない話が中心だが、そのおかげで本田は月をすっかり信用していた。
やがて、本田は自分に支給されたアイテムについて話し始めた。

「僕の荷物に入ってたんだけど…これの使い道はあるのかなぁ?」

本田は自分に支給されたアイテム…ガソリンを取り出した。
小さなタンクに入った2リットルほどのそれは、このままではもちろん使うのは難しい。
だが月は、ニコリと笑って答えた。

「大丈夫ですよ。火をつける時とかに使えるじゃないですか」
「…あ、そうか。この灯台とか家の中ならともかく、夜は冷えるから火を燃した方がいいよね」
「えぇ、そうです」

月は笑顔のまま頷いた。
…どうやらこの本田という青年は心底ひとの良い性格らしい。
火炎瓶を作ったり、放火したりという方向には考えが向かないようだ。

「(警察だと言うから少しは頼りになりそうかと思ったが…あまり期待できそうもないな。
 まぁガソリンが手に入っただけでも、声をかけた価値はあるというものだ。だがそれよりも…)」


月は参加者のリストに目を落とす。
『L』……確かに死んだはずの男の名前だ。
このゲームで最も重要なのは生きのこること。
だが、月にとってそれと同じくらいに重要なのは、このLという男ヘの対処だった。
Lは月=キラであることに気づいている。
そんな男が生き返ってこのゲームに参加している…極めて危険だ。
デスノートさえあれば殺すのは容易だが、それが手に入らない場合はどうするか…
月は本田の雑談を受け流しながら、Lにどう対処するかということに頭をフル回転させていた。


【I-10/琴ヶ崎灯台/1日目・午前2時ごろ】

【男子32番 本田速人@こち亀】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、ガソリン(2リットル)
思考:1.夜神月と行動を共にする
    2.両津と合流する

【男子40番 夜神月@DEATH NOTE】
状態:健康
装備:短い鉄パイプ
道具:支給品一式、支給アイテム(未確認)
思考:1.Lへの対処を考える
    2.ゲームの脱出方法を考える
    3.とりあえず本田と行動を共にする




初登場 本田速人 序曲
初登場 夜神月 序曲

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最終更新:2008年02月13日 13:15