第043話 序曲 ◆SzP3LHozsw
「ねえ月君、僕は先輩を捜したいと思うんだけど、どうかな?」
「先輩とは確か両津さんでしたね」
灯台の最上階で、
夜神月と
本田速人の会話がなお続いている。
年長者であり、また警察官でもある本田が年下の月にお伺いを立てている図もおかしな光景ではあったが、
これはこれまでのやり取りで月が主導権を握ったという現れであった。
月はとりとめのない会話の中で巧みに本田が自分を信用するように仕向け、本田は本田でそんなことなど少しも知らず、
まんまと月の思惑に沿って月を信用するに至っていた。
月の凄まじいところは、こうして本田と会話を交わしながらも、一方では全く別のことを考えているというところにあった。
もちろんそれはLについてだ。
つまり『如何にして自分を表に出すことなく、確実に、且つ円滑にLを消し去るか』その一点である。
二人の会話はまだなお続く。
「本田さん、失礼ですが両津さんとはそれほど信頼できる人なのですか? 僕は本田さんの言葉でしか両津さんという人を知りません。
確かに本田さんはいい人のようだが、両津さんまでがそうだという保障は何処にもありませんよね
(まさかLが生きていたとはな……。一体どんな手を使ったのかは知らないが、さすがにこれには驚いたよ竜崎……。
…………だが幸か不幸か、僕らはおかしな事件に巻き込まれている。ここでは人と人を無理矢理殺し合わせるそうだ。
あの老人達の意図は不明だが、これは僕にとって大きなチャンスと言える。どういう意味だかわかるかい、竜崎?
つまり、僕はここでお前を堂々と殺すことができるということだよ。それもキラ事件とは一切関係のないところでね。
ククク……傑作じゃないか。今まで散々お前をどう殺すか考えてきたのに、こうもあっさり事が運ぼうとするなんて。
早くこんなところから逃げ出したいところが、流河……いやL、その前にお前との決着だけはきちんとつけてやるよ)
「それなら大丈夫だよ。そりゃ先輩はいい人だとは言えないけど、でも絶対に僕らに危険を加えるような人じゃないから。それは僕が保障する」
月の質問に対し、本田は言い聞かせるような口調で言った。
よほど両津という男を信頼しているのか、それとも単に知っている人間を悪く言われたような気がしたのか、もしくはその両方なのだろう。
これで月は本田にとって両津という人間がどういう存在なのかを知ったのだが、月はそんなことはおくびにも出さない。
本田の言葉に真摯に接するような態度を取り続け、その実Lへの対抗策を練っていく。
「すいません、気を悪くしないでください。こういう現状ですから、用心に越したことはないという意味で言ったんです。
でも本田さんがそこまで言うのならそうなのでしょう。わかりました、僕も両津さんを捜すことに賛成ですよ
(だがなL、僕は直接お前を殺すなんて真似はしないよ。僕が直接手を下すのは、あくまで最後の手段だ。
父さん達――捜査本部が、お前が僕をキラだと疑っていたことを知っている限り、どんな理由にしろ僕がお前を殺したと知ったら疑念を抱くかもしれない。
例え僅かながらでも僕が疑われるような可能性があるなら、それは絶対に避けるべきだろう)」
「先輩は強いし、頭はいいし、頼りになる。きっと助かる方法だって見つけてくれるよ」
「それは心強いですね(となると問題はどう殺すかだ。デスノートさえ手元にあれば話は早いんだが……)」
本田が相好を崩す。
「じゃあさ月君、さっそく先輩を捜しに行こうよ」
まるで両津さえいれば万事解決と言いたそうな顔だ。
月がそんな本田に釘を刺す。
「ちょっと待ってください、さすがにそれはどうでしょうか
(やはり僕以外の第三者による殺害が一番理想的だ。それもなるべくなら僕が介入することなくLが殺されてくれればなおいい。
それなら万が一外部にLの死の詳細が漏れたとしても、僕が疑われることはまずない。Lは不運な被害者の一人としか見られないはずだ。
いくら同じ事件に巻き込まれているとはいえ、その死に僕を結び付けるのは些か強引だろう)」
「どうしてだい? だってさっきは月君も……」
「ええ、賛成はしました。でもそれは今すぐ行動するという意味じゃない。もう少し、様子を見るべきです
(しかし誰かがやってくれるのを待つというのはあまりにも不確か過ぎる……。何の根拠もない希望のようなものだ……。
……確実性だ。重要視しなければならないのは確実性なんだ。このチャンスを活かして、確実にLをここで消し去らねばならない。
だとすると、やはり僕が間に入り、第三者の手によってLを殺させるしかないか……。多少危険ではあるが、それしかないかもしれないな)」
「様子を見る……?」
「はい(では誰にやらせる? 本田か? ――駄目だ。どう考えてもこいつが人を殺せるとは思えない……。ましてあのL相手じゃ尚更だ。
……両津……。本田の話ではかなり無茶な警官らしい。或いはそいつなら――)」
「どういうことなの? じっとしてたら先輩が死んじゃうかもしれないよ!」
捲くし立てようとする本田を制し、月はあくまで冷静に語る。
「本田さん、落ち着いてください。僕らはこの事件について何も知らないと言っていいほど無知です。いや、本当に何もわかっていない。
あの老人達が何者であるか、どんな理由によってこんなことをさせているのか、そしてあの老人の言うとおりに動く者はいるのか――。
その全てが謎のままです。もし仮にあの老人の言いなりになる者がいたとして、本当に殺し合いが行われているとするならば、
今、外は無法地帯と考えるべきでしょう。突然思いも寄らぬところから攻撃を受けるかもしれない。攻撃されて無事でいられるとは僕は到底思えない。
今はいたずらに動くより、状況を見極めることが先決ではないでしょうか?」
月自身は知らないが、これは奇しくもLの思考と通じるものがあった。
どちらも情報が不足している中で不用意に動くのは危険だと言っているのだ。
もっとも、月には状況を見極めることの他に、灯台に留まる別の理由もあったのだが――。
「そっか……そう言われるとそんな気もするなあ……。じゃあいつまで様子を見るべきかな?」
「あの連中は6時間毎に放送があると言っていましたね。それまでは待つべきかと思います。
放送では死んだ人の名前を挙げるとも言っていました。もしそこで誰も死んでいないことがわかれば、
それはあの連中の言いなりになった者は誰もいないという証拠ですし、そうなれば多少は僕らも動きやすくなるはずです。
本田さんの話では両津さんはだいぶ強い方だということですし、それから捜しに出ても遅くはないでしょう」
「……わかった、ならそうしよう。放送までに何かあっても、先輩ならたぶん乗り切れるし……」
本田は月の言ったことを受け入れはしたが、まだ心配そうな面持ちで、身体をそわそわと揺すっていた。
月はそれを見て苦笑する。
「大丈夫ですよ。冷静に考えれば、殺し合いに意味はないってことは皆わかるはずだ。心配しなくても、きっと両津さんは無事でいますよ
(――なんにしてもだ、今は本田をきちんと手なずけておく必要がある。こいつの警察官という肩書きと信用性は、きっとこれから役に立つだろう。
仮に両津とやらを使うにしても、こいつがいれば話は早くなる。こいつと少しでも長くいて、僕の意のままに動くように仕立て上げなきゃな)」
「うん、そうだね……ありがとう月君。月君はいい人だね」
「いえ、そんな。僕はただ、『必要だと思うこと』をしてるだけですよ」
【I-10/琴ヶ崎灯台/1日目・午前2時半ごろ】
【男子32番 本田速人@こち亀】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、ガソリン(2リットル)
思考:1.夜神月と行動を共にする
2.両津と合流する
【男子40番 夜神月@DEATH NOTE】
状態:健康
装備:短い鉄パイプ
道具:支給品一式、支給アイテム(未確認)
思考:1.Lの殺害方法を考える
3.本田を洗脳し、傀儡とする
3.ゲームの脱出方法を考える
※二人は朝になるまで灯台から動くつもりがありません。
最終更新:2008年02月13日 13:36