第033話 決別、そして目覚め ◆SzP3LHozsw
急に、昨日までの自分がひどいぬるま湯に浸かっていたんだと気付いた。
――兄貴の仇を討つ
そんな大層な題目を掲げておきながら、今までしてきたことは一体何だったか……。
王様を気取り、たかがちっぽけな高校の支配者になることで満足していた。それだけでしかない。
あの日から――兄貴が殺されたあの日から仇を取ることだけを考えてきたはずなのに、自分のしてきたことといえばそれだけだ。
それで復讐に近づけたのかと自問してみる。
……否。
これっぽっちも近づけてやしない。
もちろん、復讐に向けての青写真はあった。
卒業したら極東の奴らを組織して『組』を作り、その組織力を以ってして仇である堀江組をぶっ潰す。
およそ愚にもつかない夢のような話ではあったが、本気で描いてきた構図だった。
しかし……。
今になってこう顧みれば、自分が本気だったのかどうか怪しいものだ。
そもそも組を作るなんて幻想に捉われていたこと自体、本気じゃなかった証拠なんじゃないだろうかとも思える。
本気でやろうとしていたのなら、組など作らず、自分一人でやればいいことなのだ。
素人のガキ一人では難しいだろうが、やってやれなくもないだろう。
ところがそれがどうだ――。
なんだかんだと理由をつけては組を作ろうと考えた。そこにこだわった。
それは明らかな逃げである。
要するにビビッたのだ。だから徒党を組もうなどと考えたのかもしれない。
そんなことじゃ例え組を作ったとしても、一生掛かったって仇なんぞ取れやしないだろうと。なにせ『覚悟』が足りないのだから。
あのジジイが言っていた言葉を思い出す。
『何が起きても揺らぐことのない断固たる決意が必要だ』
それはその通りだった。
どうやら昨日までの自分には、その『断固たる決意』とやらが欠けていたようである。
それじゃ駄目だった。やると決めたからには腹を据えねばならない。
ぬるま湯に満足するのではなく、ときには熱湯へ飛び込む勇気を見せねばならないのだ。
ならばしなければならないことは一つである。
「上等やんけ……やったるわ。俺はもう逃げも隠れもせえへんぞ」
川島清志郎は、支給された『モスバーグM590』にショットシェルを詰めながら一人ごちた。
その眼は炯々と光り、そしてどこまでも醒めていた。
まるでそれは昨日までの自分と決別するかのように、毅然とした態度であった。
【D-04 高原池湖畔/1日目・午前2時半ごろ】
【男子08番 川島清志郎@ろくでなしBLUES】
状態:健康
装備:モスバーグM590(弾数9+1/予備弾20)
道具:支給品一式
思考:1.ゲームに乗る
最終更新:2008年02月11日 22:08