第034話 綺麗なお姉さんは好きですか? ◆z.M0DbQt/Q
一条誠(男子3番)は、自分の体に異常がないことを確認すると震える拳を握りしめた。
恐怖のために震えてるわけでない。
それは、純粋な怒りのためだった。
「……ふざけやがって……!」
中学生(チューボー)の頃はそれこそ神崎と組んで無茶苦茶やってきたし、楽園高校(ラクコー)にいっても色んな騒動に巻き込まれっぱなしだった。
自慢じゃないが結構な修羅場を潜ってきている自信はある。
だが……ここまで無茶苦茶な状況は初めてだ。
悪趣味。悪質。外道。どんな言葉も足りやしねぇくらい腐ってやがる。
誰が殺し合いなんかするかよ。
誰がテメェらの思い通りになんかなるかよ。
高校生(ガキ)だからってなめんじゃねぇぞ……!
必ず一泡吹かせてやる!
怒りを静かに燃え上がらせ、俺は支給されたデイバックを広げた。
水と食料。この島の地図。コンパス。時計。
それに。
「なんだこりゃ?」
木のバット……か?それにしても気味悪ぃな。
こんなびっしりとなんか怪しげな文字がかかれたバットなんて誰が使うんだよ。
あまり役には立たなさそうだな、と思いそのバットをバックの中に戻す。
次に手が掴んだモノは、名簿だった。
「日々野とイブ……春香先生……それに……」
知っている名が4つある。
あまりにも唯我独尊で無茶苦茶……だけど今では誰よりも信頼している仲間(ダチ)の日々野。
いつもいつも予測不可能なヤツだが、流石に殺しまではやらねぇだろう。
アイツがそう簡単に死ぬはずねぇんだから、誰が心配なんてしてやるか。
春香先生は……危ねぇんじゃねぇか。
正義感の固まりみたいな人だ。
ゲームに乗ったクソヤローにでも出会ったら、逃げるどころか立ち向かって行きかねない。
早いトコ探し出さねぇと……。
イブは、まぁ、大丈夫だろう。
そこら辺のチンピラじゃ、アイツには到底太刀打ちできっこねぇし。
「もう馬鹿な真似はしない」って約束したし、ゲームに乗るようなことはしないはずだ。
だが……最後の一人。
神崎狂。
自分とイカれた中学時代を共に過ごし――――決別したかつてのツレ。
日比野とイブは大丈夫だ。こんな腐ったゲームに自ら乗るようなバカじゃねぇ。春香先生は言うまでもねぇ。
だが神崎は……正直言って、乗る可能性の方が高い。
日比野との真っ向勝負に敗れ、自ら出頭した神崎が、今も日比野に勝つことを熱望していないとは思えない。
きっとアイツは日比野を捜すだろう。
「…………」
こんな所でジッとしていてもどうしようもない。
とりあえずは日々野とイブと春香先生を……そして神崎を捜すか。
日々野とイブは、一緒にあのジジイ共に一泡吹かせるために。
春香先生は守るために。
神崎は、……何かしでかしそうならそれを止めるために。
広げた荷物を再度デイバックに突っ込み、俺は人里があると思しき方へ歩き始めた。
目が覚めたら隣で物凄い寝相の女の子が寝ていた。
俺、何の夢見てんの?…………そういう夢?
てゆうかなんで俺、こんな所にいんの?
だってここ、どう見ても林の中じゃん。
俺ん家・菊丸家はいたって普通の家だからこんな生い茂る系の庭なんてないし。
どこだよ、ここ。
「そっか、俺…」
一気に色んな記憶が甦る。
初めて聞く、ブラウン管を通さない銃声。
焦げたような火薬の匂い。
そして、どす黒い、赤。
俺……誘拐されたんだ。いつのまにか。
そして「殺し合え」って言われた。
見たこともないじいさん達に。
「……マジ……?」
思わず出た言葉と一緒に冷や汗が頬を伝う。
どうすればいいんだよ。なんでだよ。なんでこんなことになってんの?!
…………あああ駄目だ!!
頭ん中グチャグチャしてて何も考えられないよ。
「うーん…」
唐突に上げられた声に、体が一気に硬直する。
おそるおそる振り向くと、ゴロン、て寝ている女の子が寝返りを打っていた。
……え、と……。
仰向けになられるとボタン全開になったブラウスが際どい感じになっちゃうんだけど。
てゆうかスカートやばいって!
その……、いちご柄のパ(以下略)がかなりの勢いで見えてるよ!
普段ならかなり嬉しい状況だけど今はそれどころじゃない。
目のやり場に困るので、俺はとりあえず着ていたジャージの上着を彼女にかけてあげた。
これでも太もものあたりは際どいけどパ(以下略)丸見え状態よりはまし!
見た感じ小学生……制服っぽいの着てるしおチビと同じくらいなのかな。中1ってとこ?
いくら年下の子とはいえ、やっぱこんな姿を見るのは気まずいよなぁ。
「起こしたほうがいいのかな…」
どうしよう。
ああ…この子のこともどうしようだけど俺もこれからどうしよう。
俺、よく考えたら全国大会の途中じゃん。
右手を痛めて自らレギュラーを降りた――――しかも相方の俺に一言の相談もなしに!俺まだ怒ってるんだかんな――――とまたやっと組めることになったのに。
二人でダブルスの無限の可能性を見つけるはずだったのに。
「そういえば…」
名簿、なんてのがあるんだっけ。
あぁ、あった。これだ。
順番に辿っていくと知ってる名前が3つあった。
手塚とおチビ。後、
竜崎桜乃ちゃん。
「とりあえず……手塚だよなぁ」
なんか、手塚ならこんな状況もなんとかしてくれる気がする。メガネだし。部長だし。
無表情で面白味がないから苦手なんだけど、そんなこと言ってる場合じゃないし。
おチビはかわいい後輩だけど、神経太いしそんな簡単に誰かに殺されることなんてない……と思う。
竜崎さんは今頃きっと怖がってるんだろうな。……泣いてるかも。
俺だってちょっと泣きたいくらいだし。
早く見つけてやんなきゃな。
てゆうかおチビ、同じ学年なんだから早く見つけてやれよな。
竜崎さんだって俺よりおチビが迎えに来たほうがうれしいだろうし。
よおーし!
手塚とおチビと竜崎さんをさっさと見つけて、さっさと帰ろう!
んでもって、全国制覇するんだ!
どうやって帰るのかは……とりあえず手塚に考えてもらおう。
怖くって震えそうになる体を無理矢理立ち上がらせ、気合いをいれるためにパン、と両頬を叩く。
その時。
――――――――――――ガサ
……なんか、音しない?草の音?……足音?
――――――――――――ガサ
また、だ。足音?それっぽくない?
誰か来るってこと?
どうしよう。逃げる?
でもこの子はどうすんの?
このまま放ってはおけないじゃん!
どうする?どうする俺?!
「……ここどこぉ?」
不意の声に振り向くと、いつのまにか下着だけになった女の子が起きあがって目を擦っていた。
歩き始めて数分。
山の中にいたらしい俺は、草を掻き分けながら歩き続けている。
つーか、山道ってのはマジで歩きづれぇな。
念のため静かに移動してえのに、どうしたって音が出ちまう。
ん?誰か……いる?
チラリと見えた山の色以外の色に、俺は足を止めた。
……どうする?
あまり考えたくねぇが、ゲームに乗ったヤツかもしれない。
そいつが素手ならなんとかなるが、飛び道具なんか持たれてたらヤベーな。
色々な憶測が頭をよぎるが……結局俺はそっちの方に足を向けた。
……足音なんざさっきからさせまくりだしな。今更様子見とかは無理だろう。
だったら正面きってぶつかるまでだ。
腹を決めて、草を掻き分ける。
そうして――――――――出くわした光景は、全くもって予想外なものだった。
下着姿の女――――見た目、小学生くらいか?――――と、中学生くらいの男が向かい合って口論していた。
「あ」
男が俺に気が付く。
女が盛大に悲鳴を上げる。
「……なんなんだ……」
全くもって状況が掴めない俺は、しばらくの間、口をあけて間抜け面を晒すことしかできなかった。
「最っ低――――!!」
「だから自分で勝手に脱いだんじゃん!」
さっきからコレの繰り返しだ。
まったく緊張感てもんがなさ過ぎるぜ。
騒ぎに騒ぎまくるガキ二人を宥め、場所を移動した俺は大きなため息をついた。
女の方は
南戸唯。
男の方は
菊丸英二。
二人ともごくフツーの……俺と比べてもマジでフツーの生活を送っていたらしい。
つまりはこんなことに巻き込まれる心当たりは全くないってことだ。
ちなみに二人の知り合いもごくフツーの学生らしい。
「わけわかんねぇな……」
あのジジイ共が何を考えてこんなことをしてんのかマジでわからねぇ。
「ちょっと!」
考え込む俺の目の前で、南戸が両手に腰を当てて仁王立ちしている。
もちろん、もう服はちゃんと着ている。
「キミもちゃんとさっきの忘れてよね!」
「は?」
「唯のセクシーショットのこと!」
「セクシー?何言ってんだ。俺ァガキには興味ねぇよ」
「唯はガキじゃないもん!高校2年生なんだからね!!
――――――――――――――――――――――――――――え
「年上?!」
俺と菊丸の声が見事にハモった。
【F-07/林/1日目・午前0時すぎ】
【男子03番 一条誠@BOY】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、蛇神のバット@Mr.FULLSWING
思考:1.日々野、イブ、春香を捜す(春香優先)
2.神崎を見つけたら止める
3.主催者達に一泡吹かせて脱出する
【男子10番 菊丸英二@テニスの王子様】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、
ランダムアイテムは不明(本人未確認)
思考:1.手塚、越前、竜崎を捜す
2.脱出して帰る
【女子13番 南戸唯@いちご100%】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式、ランダムアイテムは不明(本人未確認)
思考:1.現状維持
備考:唯と美鈴は原作上、面識がありません
最終更新:2008年02月11日 14:48