すゑ(末)

辞書 品詞 解説 例文 漢字
日本国語大辞典 名詞 ① 草木の上方の末端。また、こずえや枝先など。 日本書紀(720)神代下(兼方本訓)「奇(めつら)しき鳥(とり)来て杜(かつら)の杪(スヱ)に居り」
源氏物語(1001‐14頃)若菜上「うぐひすの、若やかに、ちかき紅梅のすゑにうち鳴きたるを」
② 物の先端。末端。 古事記(712)下・歌謡「御峰(みを)の竹を 掻き刈り 末(すゑ)押し縻(な)ぶる如(な)す」
竹取物語(9C末‐10C初)「毛のすゑには金の光し、ささやきたり」
③ 山のいただき。山頂。また、山の奥。 日本書紀(720)斉明二年(北野本訓)「宮の材(き)爛(たた)れ、山の椒(スヱ)埋(うつも)れたり」
④ 道や野のはて。はずれ 新古今和歌集(1205)秋上・三七八「むさしのやゆけども秋のはてぞなきいかなる風か末に吹くらん〈源通光〉」
⑤ 子孫。あなすえ 源氏物語(1001‐14頃)若菜上「もののたがひ目ありて、そのむくいにかくすゑは無きなり」
二十五絃(1905)〈薄田泣菫〉矢馳使の歌・あまくだり「伊弉諾(いざなぎ)の裔(スヱ)、人の子ら、ながき嘆(なげき)のなからめや」
⑥ 将来。未来。ゆくすえ。のち 日本書紀(720)武烈即位前・歌謡「大太刀を たれはき立ちて 抜かずとも 須衛(スヱ)はたしても 会はむとぞ思ふ」
⑦ ある期間の終わり。おわり。末期。 日本霊異記(810‐824)下「七日の頭(スヱ)に到りて、肉団(ししむら)開敷(ひら)きて百の童子有り〈真福寺本訓釈 頭 数恵爾〉」
⑧ 生涯の終わりの時期。晩年。 源氏物語(1001‐14頃)若菜下「残りとまれる齢(よはひ)のすゑにもあかず悲しと思ふこと多く」
⑨ 道義や政治、風俗、財産などの衰えた世。末の世。 光悦本謡曲・当麻(1435頃)「彌陀の教へをたのまずは、末の法、よろづ年々ふるまでに余経の法はよもあらじ」
⑩ 月末。下旬。 幸若・夜討曾我(室町末‐近世初)「時に建久四年、五月のすゑのいつの夜の、天はくらしと申せども」
⑪ 時間がかなりたったあと。 源氏物語(1001‐14頃)若菜上「むげのすゑに参り給へりし入道の宮に」
⑫ 物事の行なわれたあと。結果。また、なごり。 源氏物語(1001‐14頃)若菜上「さらばかうにこそはと打ち解け行くすゑにありありて」
⑬ 人の行ったその方向。これから行く方向。 今昔物語集(1120頃か)二三「飛ぶが如くに迯(にげ)けるを、人末に多く走合て捕(とらへて)打伏せて縛て」
⑭ 複数の子のうち、いちばん年少の子。末子。 源氏物語(1001‐14頃)柏木「かく心ことなる御腹にて、すゑに出ておはしたる」
⑮ 幼少。 源氏物語(1001‐14頃)絵合「すゑの君だち思ふさまにかしづき出だして見むとおぼしめすにぞ」
⑯ 末座。末席。下座。 源氏物語(1001‐14頃)桐壺「みこたちの御座のすゑに源氏つき給へり」
⑰ 短歌の下の句。 伊勢物語(10C前)六九「かち人の渡れど濡れぬえにしあれば、と書きて、すゑはなし」
⑱ 文や単語の終わり。文末や語尾。 源氏物語(1001‐14頃)椎本「『色変はる袖をば露の宿りにてわが身ぞさらにおき所なき、はつるる糸は』とすゑは言ひ消ちて」
⑲ 後編。 明衡往来(11C中か)「巻上 末」
⑳ もと。起点。 玉葉和歌集‐寿永元年(1182)一一月一五日「明暁寅刻虧初、辰刻復末」
㉑ 宮中、将軍、大名などにつかえた女中。おすえ。 看聞御記‐永享七年(1435)一二月二六日「得選女官六人夜参。召末給酒」
㉒ 下等。下級。また、そのもの。 浮世草子・好色一代男(1682)八「末(スヘ)の傾城四人まいりて」
㉓ 主要でないこと。
㉔ 下流。川下。しも 梁塵秘抄(1179頃)二「石清水流れのすゑぞたのまるる心もゆかぬ水屑とおもへば」
㉕ 神楽歌を奏するのに神座に向かって右方の座席。また、そこにすわる奏者。末方。末方の主唱者である末拍子(すえびょうし)にもいう。また、その受持ちの歌の部分。 神楽歌(9C後)採物「〈本〉榊葉の 香をかぐはしみ〈略〉〈末〉神籬の 御室の山の 榊葉は 神の御前に 茂りあひにけり」
㉖ 七、または八をいう、呉服屋仲間の符丁。
広辞苑 名詞 (「もと(本)」の対)
①物の先端。はし。末端。
万葉集14「 梓弓 (あずさゆみ)―に玉()き」
②草木の先端。こずえ・枝先・葉ずえなど。うら 万葉集20「秋風の―吹き靡く脛の花」
③山のいただき。 祝詞、大祓詞「高山、 短山 (ひきやま)の―より」
しも。下方。 源氏物語若菜上「かならず、さりとて、―の人おろかなるやうもなし」
⑤ある期間の終り(に近い方)。 「年の―」「大正の―」
⑥物事の結末。結果。 増鏡「そのうらみの―などより事起るなりけり」。
「長い議論の―」
のち。未来。ゆくすえ 源氏物語梅枝「かの須磨の日記は、―にもつたへ、知らせんとおぼせど」。
「―たのもしい」
⑧子孫。 後裔 (こうえい) 源氏物語若菜上「その報いに、かく―無きなり」。
「源氏の―」
⑨生れ順が一番あとであること。 源氏物語柏木「かく心ことなる御腹にて、―に出でおはしたる御おぼえ、いみじかりなん」。
「―の妹」
⑩政治道徳などがすたれた時代。すたれ衰えた時代。末世。 澆季 (ぎょうき)の世。 源氏物語梅枝「よろづの事、昔には劣りざまに、遠くなりゆく世の―なれど」。
「世も―だ」
⑪主要でない部分。取るに足りないもの。 「そんな問題は―の―だ」
⑫短歌の下の句。
⑬神楽歌を奏するのに神座に向かって右方の座席。また、そこにすわる奏者。末方。また、その受持ちの歌の部分。
大言海 名詞 (一)(モト)(ウラ)ノチヲハリシモハシ 華嚴經私記音義「末、須惠」
源、二、帚木 廿九 「皇子タチノ御座ノすゑニ、源氏着キ」
同、五、若紫 三十八 「髮、云云、すゑノ、房ヤカニ」
月詣集、二「雨降レバ、柳ノ絲ノ、筋每ニ、すゑモ結バヌ、玉ゾ貫ク」
(二)上ノ方ノ枝。 (コズヱ)ウレ 字類抄「末、スヱ、杪」
顯宗卽位前紀「石上振之神椙、伐本截末」注「伐本截末、此云謨登岐利、須衞於玆婆羅比
源、三十四、上、若菜、上 四十六 「鶯ノ、若ヤカニ、近キ紅梅ノすゑニ、打鳴キタルヲ」
遍昭集「すゑノ露、本ノ雫ヤ、世ノ中ノ、後レ先ダツ、(タメシ)ナルラム」
夫木抄、廿八「深山木ノ、末マデ這ヘル、玉葛、取リツク方モ、今ハ無キ身カ」
(三)終ラムトスル時。シマヒ。 倭名抄、五國郡部、上總國「周淮、季」
名義抄「季、スヱ、ヲハリ」
字類抄「季、スヱ」
靈異記、下、第十九緣「妻懷任、生一肉團、到七日頭、肉團開敷」訓釋「頭、數惠爾」
後撰集、十九、離別「君ガ手ヲ、()レ行ク秋ノ、末ニシモ、野飼ニ放ツ、馬ゾ悲シキ」
「年ノすゑ」月ノすゑ」
(四)兄弟ノ中ノ、最モ幼キモノ。スヱコ 末子 (バツシ)。末弟。季子 源、二、帚木 三十七 「故衞 門督 ()ノ末ノ子ニテ、イト(カナ)シクシ侍リケルヲ」
同、六、末摘花「故常陸ノ皇子ノ、末ニマウケテ、イミジウ(カシヅ)キ給ヒシ御娘」
(五)子孫。後胤。ウミノコ。ハツコアナスヱ。末孫。 古事記、下(淸寧) 四十一 「押齒王之 奴末 (ミスヱ)爾」
源、三十四、上、若菜、上 九十一 「先祖ノ大臣ハ、云云、ソノ報ニテ、カク、末ハ無キナリ」
「平家ノすゑ」
(六)(ノチ)ノ時。未來。以後。ユクサキ後來 萬葉集、廿 六十一 「高圓ノ、野邊這フ葛ノ、須惠ツヒニ、千代ニ忘レム、吾ガ大王カモ」
拾遺集、十八、雜賀「住ミソムル、末ノ心ノ、見ユルカナ、汀ノ松ノ、蔭ヲ映セバ」
「すゑヲ考フ」行クすゑ」
(七)政事、風俗ノ、漸クニ、𮕩ヘ亂ルルコト。末世。澆季 季世 源、廿八、野分 十八 「イト賢キ人ノ、末ノ世ニ餘ルマデ、才比ヒナク」
「世ハすゑトナル」
(八)大刀ノ手下ノ方。 武烈紀、十一年八月「(オホ) 太刀 (ダチ)ヲ、垂レ佩キ立チテ、拔カズトモ、須衞果シテモ、會ハムトゾ思フ」
古事記、中(應神) 七十三 長歌「佩カセル太刀、本ツルギ、須惠フユ」
(九)和歌ノ下ノ句。
(十)山ノ上。麓(蹈本ノ義)ヲ、山本ト云フニ對ス。 大祓詞「國津神ハ、高山ノ末、 短山 (オトノヤマ)ノ末ニ上リマシテ」
萬葉集、十三長歌「三諸ハ、人ノ守ル山、本邊ハ、 馬醉木 (アシビ)花咲キ、末邊ハ、椿花咲ク」
濱松中納言物語、三「何ノ賴ミ所ニテカハ、イト、カウ、タヅキナウ、ワビシキ山ノ末ニハ、(スグ)スベカラム」

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最終更新:2024年11月24日 17:22