第一印象というものは大切だ。
特に文章によって誰かに語りかける時、一人称というものはその第一印象を左右する大きな要因である。
私はここまで読者諸侯に語りかけてきたが、そろそろこうしてインテリぷった良識人らしき文章で切ない自伝をあたかも文学的であるかのように語りかけるのに少々辟易してきた。有り体に言えば丁寧な言葉遣いをし続けるのが疲れた。
無理は身体に宜しくない。
よってここからは今まで使用してきた一人称である「私」をかなぐり捨て、本来のラフな一人称である「俺」を使用させていただくこととしたい。
異論はあるか。あったとしても悉く却下だ。
何故なら俺は疲れたのだから!
特に文章によって誰かに語りかける時、一人称というものはその第一印象を左右する大きな要因である。
私はここまで読者諸侯に語りかけてきたが、そろそろこうしてインテリぷった良識人らしき文章で切ない自伝をあたかも文学的であるかのように語りかけるのに少々辟易してきた。有り体に言えば丁寧な言葉遣いをし続けるのが疲れた。
無理は身体に宜しくない。
よってここからは今まで使用してきた一人称である「私」をかなぐり捨て、本来のラフな一人称である「俺」を使用させていただくこととしたい。
異論はあるか。あったとしても悉く却下だ。
何故なら俺は疲れたのだから!
○
師匠の部屋から廊下へ出ると、途端に蒸し暑い初夏の湿気と熱気が身体に纏わり付いた。
季節は既に七月も半ばである。師匠は自らの部屋に「顔料の具合を安定させるため云々」という理由で生意気にも冷暖房を完備させていたため、涼しく快適なそこから這い出たばかりの俺は、より一層その京都特有の蒸し暑さを実感することとなったのである。ここ稲荷総本山は山の中なのでまだ良い方なのだろうが、我々獣人にとってはそれでも厳しい。俺のような獣人や稲荷は毛の下にも人間の頭皮のように汗腺があるため、暑くても犬のように舌を出してアヘ顔で喘ぐような醜態を晒すことはないが、それでも暑いものは暑いのである。というか毛が汗でべたつくのは純粋に不快であった。
ぺたぺたと肉球を鳴らしながら鴬張りになっている長い廊下を歩くと、その下できゅうきゅうと高い音が鳴る。総本山でこの暑さなら街中は更に暑いのだろうなと想像し、足はあまり進まない。とはいえ自室に引き篭もって無益な惰眠を貪った所で今の状況が好転するとも思えず、こうなったら師匠が言うように御苑までウォーキングと洒落込み、そのまま熱中症で倒れ意識不明の重体に陥ってやろうかと、俺はどこか自暴自棄で意味不明なやる気を燃やそうとしていた。
季節は既に七月も半ばである。師匠は自らの部屋に「顔料の具合を安定させるため云々」という理由で生意気にも冷暖房を完備させていたため、涼しく快適なそこから這い出たばかりの俺は、より一層その京都特有の蒸し暑さを実感することとなったのである。ここ稲荷総本山は山の中なのでまだ良い方なのだろうが、我々獣人にとってはそれでも厳しい。俺のような獣人や稲荷は毛の下にも人間の頭皮のように汗腺があるため、暑くても犬のように舌を出してアヘ顔で喘ぐような醜態を晒すことはないが、それでも暑いものは暑いのである。というか毛が汗でべたつくのは純粋に不快であった。
ぺたぺたと肉球を鳴らしながら鴬張りになっている長い廊下を歩くと、その下できゅうきゅうと高い音が鳴る。総本山でこの暑さなら街中は更に暑いのだろうなと想像し、足はあまり進まない。とはいえ自室に引き篭もって無益な惰眠を貪った所で今の状況が好転するとも思えず、こうなったら師匠が言うように御苑までウォーキングと洒落込み、そのまま熱中症で倒れ意識不明の重体に陥ってやろうかと、俺はどこか自暴自棄で意味不明なやる気を燃やそうとしていた。
スケッチブックを抱えたままだらだらと歩いて縁側に出ると、やがて自室の直前にある曲がり角にさしかかる。
角を曲がったその時、不意に俺の腰に黒くてもふもふした何かが衝突した。
「おっと」
慌ててそれを支えると同時に、危うくその手から落ちそうになった湯飲みを空中で受け止めた。我ながら流れるような動きである。慣れとは恐ろしい。
そして俺にぶつかったそのもふもふはあわてて離れると、心の底から申し訳無さそうな表情を浮かべて頭を下げる。
「あっ、槐先生……! ごめんなさい、ごめんなさい!」
その黒いもふもふの正体は稲荷であった。しかし普通の稲荷が白や狐色の毛並みをしているのに対し、目の前のこの稲荷はまるで漆塗りのような黒色である。毛並みも黒、髪の毛も黒、そして着ている着物はつるばみ色と、驚きの黒さだ。俺も黒いのであまり人の事は言えないのであるがこの際それは棚の上に上げておく。あわよくばそのまま忘れる。
どうしたのかと聞くまでも無く、俺の部屋の使用済み湯飲みを片付けようとして俺にぶつかったのだろう。今のは互いに不意打ちだったので危ないところだった。俺でなければ即死だった事だろう、湯飲みが。
角を曲がったその時、不意に俺の腰に黒くてもふもふした何かが衝突した。
「おっと」
慌ててそれを支えると同時に、危うくその手から落ちそうになった湯飲みを空中で受け止めた。我ながら流れるような動きである。慣れとは恐ろしい。
そして俺にぶつかったそのもふもふはあわてて離れると、心の底から申し訳無さそうな表情を浮かべて頭を下げる。
「あっ、槐先生……! ごめんなさい、ごめんなさい!」
その黒いもふもふの正体は稲荷であった。しかし普通の稲荷が白や狐色の毛並みをしているのに対し、目の前のこの稲荷はまるで漆塗りのような黒色である。毛並みも黒、髪の毛も黒、そして着ている着物はつるばみ色と、驚きの黒さだ。俺も黒いのであまり人の事は言えないのであるがこの際それは棚の上に上げておく。あわよくばそのまま忘れる。
どうしたのかと聞くまでも無く、俺の部屋の使用済み湯飲みを片付けようとして俺にぶつかったのだろう。今のは互いに不意打ちだったので危ないところだった。俺でなければ即死だった事だろう、湯飲みが。
この稲荷は玄守 葛という名前であり、俺の小間使いであり、大抵の者から「クズ」と呼ばれている。俺も別に深い意味は無くそう呼んでいる。
二年ほど前、師匠が突然「坐蔵、お前に小間使いをつけるからな」と宣言し連れてきた。何でも師匠曰く、自分で俺の世話をするのが疲れたから小間使いを雇ったという事らしいのだが、しかしそもそも師匠にまともな世話をして貰った記憶が無い俺にとってはその言葉は余計混乱を招くだけで終わった。二年経つ今となっても全く真意は掴めていないのだが、師匠の事なので女が苦手な俺に対するショック療法のつもりだったのだろう。だがしかし、そもそも俺の女性恐怖気味な理由の大半は師匠である。或いは単なる嫌がらせという線も考えたが、我が師匠とはいえそれではあまりにも悲しいのでそちらは俺の中の心の安全装置によって封印された。
だが、師匠の真意はともかくとして、クズは悪く言えば消極的で自分の無い、よく言えば心優しく他人を優先する思いやりのある子であった。
平たく言えば、俺はクズを怖がるどころか、むしろすぐに謝り土下座するクズに対する申し訳なさが優先されてしまったのだった。元来、卑屈で自信薄な俺である。そんな俺に対してここまで謝りまくってくれたのはクズが初めてであり、というかむしろクズ以外には居そうになく、俺はその俺以上の卑屈さに当初のうちは引くほどだった。
しかもクズは、なかなかどうしてドジであった。
掃除、洗濯、炊事の全般をそつなくこなすのだが、ここぞという時にうっかりポシャる。例えばクズは珈琲を淹れるのがとても上手いが、その珈琲を俺の元へ運ぶ途中で転んで描いていた途中の絵にぶちまける等である。思い出すと泣きたくなるのであまりここでは言及しない。
だが俺はそれでもこのドジで卑屈な黒い稲荷を叱り飛ばして叩き出すような外道の行いをする事がどうしても出来ず、そうしながら二年間、互いに謝り謝られながら世話をしあうという奇妙な共同関係が続いていたのだった。
二年ほど前、師匠が突然「坐蔵、お前に小間使いをつけるからな」と宣言し連れてきた。何でも師匠曰く、自分で俺の世話をするのが疲れたから小間使いを雇ったという事らしいのだが、しかしそもそも師匠にまともな世話をして貰った記憶が無い俺にとってはその言葉は余計混乱を招くだけで終わった。二年経つ今となっても全く真意は掴めていないのだが、師匠の事なので女が苦手な俺に対するショック療法のつもりだったのだろう。だがしかし、そもそも俺の女性恐怖気味な理由の大半は師匠である。或いは単なる嫌がらせという線も考えたが、我が師匠とはいえそれではあまりにも悲しいのでそちらは俺の中の心の安全装置によって封印された。
だが、師匠の真意はともかくとして、クズは悪く言えば消極的で自分の無い、よく言えば心優しく他人を優先する思いやりのある子であった。
平たく言えば、俺はクズを怖がるどころか、むしろすぐに謝り土下座するクズに対する申し訳なさが優先されてしまったのだった。元来、卑屈で自信薄な俺である。そんな俺に対してここまで謝りまくってくれたのはクズが初めてであり、というかむしろクズ以外には居そうになく、俺はその俺以上の卑屈さに当初のうちは引くほどだった。
しかもクズは、なかなかどうしてドジであった。
掃除、洗濯、炊事の全般をそつなくこなすのだが、ここぞという時にうっかりポシャる。例えばクズは珈琲を淹れるのがとても上手いが、その珈琲を俺の元へ運ぶ途中で転んで描いていた途中の絵にぶちまける等である。思い出すと泣きたくなるのであまりここでは言及しない。
だが俺はそれでもこのドジで卑屈な黒い稲荷を叱り飛ばして叩き出すような外道の行いをする事がどうしても出来ず、そうしながら二年間、互いに謝り謝られながら世話をしあうという奇妙な共同関係が続いていたのだった。
「あの、先生、お部屋にお戻りですか? 珈琲、淹れ直しましょうか?」
クズが俺を見上げながら尋ねた。別に自慢するようなことではないが俺の身長は180センチ弱なので、小さいクズは俺の腰ほどしかない。恐らくは120かそこらだろうが、そもそも稲荷にはいくら歳をとっても見た目が子供のままな方はとても多いので、俺は別段気にしていなかった。
俺はクズにすぐ御苑あたりまで出かける旨を伝え、自由に休んでいてくれて良いと伝えながら、一緒に部屋に入った。
部屋の中に入って、気分転換とはいえ念のために外出用の小さいスケッチブックを引っ張り出した。この炎天下ではスケッチするような余裕は無いかもしれないが、もしも良い構図が浮かんだときにメモできないと困る。
スケッチブックを抱え、俺はガラス製のポットを片付けているクズを後に残して部屋を出た。
足の下で、鴬張りの廊下がきゅうきゅうと鳴った。
クズが俺を見上げながら尋ねた。別に自慢するようなことではないが俺の身長は180センチ弱なので、小さいクズは俺の腰ほどしかない。恐らくは120かそこらだろうが、そもそも稲荷にはいくら歳をとっても見た目が子供のままな方はとても多いので、俺は別段気にしていなかった。
俺はクズにすぐ御苑あたりまで出かける旨を伝え、自由に休んでいてくれて良いと伝えながら、一緒に部屋に入った。
部屋の中に入って、気分転換とはいえ念のために外出用の小さいスケッチブックを引っ張り出した。この炎天下ではスケッチするような余裕は無いかもしれないが、もしも良い構図が浮かんだときにメモできないと困る。
スケッチブックを抱え、俺はガラス製のポットを片付けているクズを後に残して部屋を出た。
足の下で、鴬張りの廊下がきゅうきゅうと鳴った。
○
私は硝子製の珈琲サーバーを御盆に載せながら、槐先生を見送りました。
朝のうちから先生は柘榴さまのお部屋に行っていたようなのですが、この時期は戻ってきて冷たい珈琲で一服する事もありましたので、今まで片付けずにおいたのです。しかし先生が出かけるのであれば、この隙に一度湯飲みと一緒にサーバーも洗ってしまおうと思ったのでした。
私が次は一体どの豆で淹れようかと苦く甘美な黒い液体に思いを馳せている時、不意に布団の横に何か落ちているのに気付きました。
それは先生がよく身に着けている、小物入れでした。かますのように角帯にべろを挟んで止める提げ物で、先生はこれにスケッチ用具を入れて筆箱として使っていました。外へスケッチをしに出かけるときなどは、必ずこれを持ち歩いていたはずです。中を覗いて見ると、やはり鉛筆や消しゴム、鉛筆削りのためのナイフなどがしっかり収まっています。
私は、はてなと首を傾げました。先ほど先生はスケッチブックを抱えて外出したので、てっきりスケッチをしに行くと思っていたのです。なのにここにそのための用具が一式置いてあるというのは、一体どういうことでしょう。
その結論はすぐに出ました。ずばり、先生はスケッチブックだけは持っていったのに、うっかりスケッチ用具一式を忘れていってしまったのです。
「ど、どうしよう……」
私は慌ててお部屋から外へ飛び出しましたが、歩幅の広い先生の姿はとっくに見えません。しばらく廊下を急ぐと、縁側から総本山を降りていく先生の姿が見えました。
先生待ってくださいと声を掛けようとしたその時、
「おっと」
「うひゃあ」
横を見ながら急いでいた私は、うっかり目の前のふすまから現れたその方に気付かず、先ほどの槐先生同様に腰に衝突してしまったのです。
桜色の浴衣をゆったり着崩しながら煙草を咥えたそのお方は、第壱番討伐隊、通称『花組』と呼ばれる部署に属す、桜花さんという稲荷でした。私は黒くて小さい変な子なのですが、桜花さんたち花組の皆さんはとても親切にしてくださる方ばかりで、私は桜花さんとも仲良くさせていただいていたのでした。
ぶつかった拍子に縁の下まで転がってしまった私が上に戻ってくると、桜花さんが起こしてくれました。
「何かと思ったらクズか。大丈夫かお前」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「気をつけろよ。お前とろいんだから」
とろい、というのは私にとってかなり正確な形容詞のように思え、私が内心しょぼくれている隙に、桜花さんは廊下を歩いて行ってしまいました。がま口を持っていたので、きっとお煙草を買いに行くのでしょう。
その時、私は握っていた提げ物に気付き、当初の目的を思い出しました。
「あっ」
私が再び登山口へ目をやると、当然ながら先生の姿はとっくに消えてしまっていました。先生のことですから、もしかしたら『障子』をくぐって行ってしまったのかもしれません。
しばらく、私は途方に暮れてしまいました。しかしすぐに気を取り直し、縁側を急ぎ足で通り抜けると、突っ掛けを足にかけて敷き詰められた砂利の上に飛び降りました。
先ほど、先生は御苑近くまで気分転換のために散歩してくる、と言っていました。行き先は解っているのです。先生が大切なスケッチ用具を忘れてしまったとあっては、これは小間使いである私の出番なのです。急いで追いかけ、そして先生に鉛筆消しゴムエトセトラを届ける、これは最早私に与えられた義務のように思われます。
私は提げ物を抱えると、気合を入れるためにむん、と胸を張り、先生を追いかけて無数の鳥居を潜りながら総本山を降りていきました。
朝のうちから先生は柘榴さまのお部屋に行っていたようなのですが、この時期は戻ってきて冷たい珈琲で一服する事もありましたので、今まで片付けずにおいたのです。しかし先生が出かけるのであれば、この隙に一度湯飲みと一緒にサーバーも洗ってしまおうと思ったのでした。
私が次は一体どの豆で淹れようかと苦く甘美な黒い液体に思いを馳せている時、不意に布団の横に何か落ちているのに気付きました。
それは先生がよく身に着けている、小物入れでした。かますのように角帯にべろを挟んで止める提げ物で、先生はこれにスケッチ用具を入れて筆箱として使っていました。外へスケッチをしに出かけるときなどは、必ずこれを持ち歩いていたはずです。中を覗いて見ると、やはり鉛筆や消しゴム、鉛筆削りのためのナイフなどがしっかり収まっています。
私は、はてなと首を傾げました。先ほど先生はスケッチブックを抱えて外出したので、てっきりスケッチをしに行くと思っていたのです。なのにここにそのための用具が一式置いてあるというのは、一体どういうことでしょう。
その結論はすぐに出ました。ずばり、先生はスケッチブックだけは持っていったのに、うっかりスケッチ用具一式を忘れていってしまったのです。
「ど、どうしよう……」
私は慌ててお部屋から外へ飛び出しましたが、歩幅の広い先生の姿はとっくに見えません。しばらく廊下を急ぐと、縁側から総本山を降りていく先生の姿が見えました。
先生待ってくださいと声を掛けようとしたその時、
「おっと」
「うひゃあ」
横を見ながら急いでいた私は、うっかり目の前のふすまから現れたその方に気付かず、先ほどの槐先生同様に腰に衝突してしまったのです。
桜色の浴衣をゆったり着崩しながら煙草を咥えたそのお方は、第壱番討伐隊、通称『花組』と呼ばれる部署に属す、桜花さんという稲荷でした。私は黒くて小さい変な子なのですが、桜花さんたち花組の皆さんはとても親切にしてくださる方ばかりで、私は桜花さんとも仲良くさせていただいていたのでした。
ぶつかった拍子に縁の下まで転がってしまった私が上に戻ってくると、桜花さんが起こしてくれました。
「何かと思ったらクズか。大丈夫かお前」
「あ、いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「気をつけろよ。お前とろいんだから」
とろい、というのは私にとってかなり正確な形容詞のように思え、私が内心しょぼくれている隙に、桜花さんは廊下を歩いて行ってしまいました。がま口を持っていたので、きっとお煙草を買いに行くのでしょう。
その時、私は握っていた提げ物に気付き、当初の目的を思い出しました。
「あっ」
私が再び登山口へ目をやると、当然ながら先生の姿はとっくに消えてしまっていました。先生のことですから、もしかしたら『障子』をくぐって行ってしまったのかもしれません。
しばらく、私は途方に暮れてしまいました。しかしすぐに気を取り直し、縁側を急ぎ足で通り抜けると、突っ掛けを足にかけて敷き詰められた砂利の上に飛び降りました。
先ほど、先生は御苑近くまで気分転換のために散歩してくる、と言っていました。行き先は解っているのです。先生が大切なスケッチ用具を忘れてしまったとあっては、これは小間使いである私の出番なのです。急いで追いかけ、そして先生に鉛筆消しゴムエトセトラを届ける、これは最早私に与えられた義務のように思われます。
私は提げ物を抱えると、気合を入れるためにむん、と胸を張り、先生を追いかけて無数の鳥居を潜りながら総本山を降りていきました。
このときの私には、先生が忘れた事に気付けば『障子』でここまで取りに戻って来れるという、その事にすら気付かないほど使命感に燃えていたのでした。
そんな私が、下山中うっかり足を踏み外して木の洞にお尻がはまり込んでしまったのも、致し方ないことなのでした。
そんな私が、下山中うっかり足を踏み外して木の洞にお尻がはまり込んでしまったのも、致し方ないことなのでした。
◆続