残念なことに、遂に覚醒してしまったようだ。
頭から腿にかけての大部分が、痺れて感覚を失っている。
仕方無しに、身体を起こしてみる。
血が我先にと言うように流れ出し、かがみは耐えきれずに背中を掻いた。
ふと、自分と目が合う。
髪はボサボサ、頬はこけ、目は妙に落ちくぼみ、その下は上手いこと黒く縁取られている。
恐ろしくなって、また横になる。
すると、枕に自分の髪の毛が大量に付着していることに気付いた。
再び、恐ろしくなって身体を起こす。
とにかく、ベッドから出ようと足を動かそうとするも、思うように動かない。
文字通り、ベッドから転げ落ちてしまった。
痛みをそれほど感じなかったが、それはそれで彼女を傷つけた。
そのまま床に座り込んで、どうしようか、と思案した。
シアンブルーのカーテンが、淡く揺らぐのを見て、そのままの体勢でそれを開けた。
空は快晴であった。
それを見るだけで苛立っていた自分が最早懐かしく感じられる。
彼女は開口一番、「あーあ」とか何とか言ってみて、不機嫌そうな顔をしてタバコを一本取り出して、火をつけ煙を吐き出すのである。
それすら、最早若気の至りというか、黒歴史とでもいうか、そんな風になってしまっていた。
時計を確認する。七月六日、午前八時。まる三日経っていた。
眼前に影。
見上げれば、そこに立たるるはフェードアウトしていったアイツ。
まだキマっているのだろうか、と朦朧した頭でも思えた。
「酷いね。」そう言われた。
「そうでしょう?」あたしはそんな風に答えた。
「でもさぁ、こういう風になるのも、ちょっとは、根性ってもんが必要なわけよ。」
自分でそう言って、何か揺らいだ。
アイツは返事もせずに、雑多な部屋を歩き回って、手に取れるゴミを拾ってはゴミ箱に捨てていた。
そのうち、何かを手にとって、あたしの後ろに座り込んだ。
「え? なになぁに?」呂律の回らない振りをして、逃げる。でも、期待感に溢れる。
アイツは櫛であたしの髪を梳かしてくれた。
「えっへへ、これ、良いねぇ~。」
「そう、それなら良かった。」
返事が返ってきて、いけると思った。
「抱きしめてくれたりしたらぁ、も~っと嬉しいのになぁ~。」
アイツの手が一瞬止まった。
「それ、本当?」
アイツが言った。
お、これはもしや。好奇心が勃興してくる。
「本当だよぉ。何だったらぁ―」
そうあたしが言うや否や、アイツはあたしの身体を自分の方へ向けて押し倒し、そして強く、キスをした。
「むっ!」
一瞬躊躇われたが、何とか、身体をアイツに委ねようとした。
が、遅かった。
アイツは唇を離して、酷く下卑たものを見るような、冷たい視線をあたしに突き刺した。
「何? それ。」
頑張って、トロンとした目でアイツを見つめるようにする。
「下らない。」
バレた。いや、とっくにバレていたのだろう。
アイツはいよいよ怒ったような顔をして、部屋を出ていこうとする。
「ま、待って!」あたしは立ち上がって、アイツの手を掴んだ。
あたしの目が、アイツの目をしっかりと捕えた。
アイツの目は口ほどに、悲しげに物語った。
そしてあたしの腕を振りほどき、「プラトニック?―」と呟いて、部屋を出た。
再び目が覚めると、辺りはすっかり暗くなっていた。
否が応でも腹は減る。
身体を起こして、鞄から財布をまさぐろうとすると、近くに落ちていた携帯電話がチカチカと点滅している。
メールが来ているようだ。
暗証番号を入れて、フォルダを開くと、珍しいことに大量のメールが届いていた。
From 柊 ただお
誕生日おめでとう。
元気にしているかい? 大学は楽しいかい? きちんと食べているかい?
今月は、仕送りを一万円増やしておいたから、友達と何か美味しいものでも食べなさい。
くれぐれも、身体に気をつけてね。夏休みに会えるのを楽しみにしています。
From 柊 つかさ
お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!
って、私もそうなんだけど(笑った絵文字) 大学は楽しい?
お姉ちゃんがいなくなってちょっと寂しくなっちゃったけど、家族皆は元気だよ。
夏休みは帰ってくるよね? 早く会いたいです。こなちゃん達と一緒にまた遊べると良いね―
―他にも二件、みゆきとみさおからメールが届いていたが、どうしようもなく胸が苦しくなって、携帯電話を放り投げ、もう一度ベッドに倒れこんだ。
昔聴いたある曲の一節が、頭に流れ込んできた。
悲しみが嫌いだったら 気のぐれた振りをすれば良いし 別に悪いことじゃないさ
ねぇ アンタ 少し変だよ
終
最終更新:2008年07月01日 00:58