by学級委員(東京都)
かがみ「あ、もしもし?お母さん?」
実家の母が急に電話をかけてきた。何があったんだろうか?
みき「あ?かがみ?体調は崩してない?実はね・・・」
かがみ「え・・・?ギョピちゃんが・・・?・・・・あ、うん・・・」
ギョピちゃん、私が高校時代に夏祭りの夜店で買った金魚だ。
少々可愛がり過ぎたのか金魚らしからぬ大きさに育ってしまったが、私が実家を
離れた後も元気に実家の池で泳ぎまわっていた。
そのギョピちゃんがどうやら死んでしまったらしい。ここは最近は異常な猛暑が続いていたからだろう。
実家のある埼玉の北のほうでは40度にもなったらしい。
可愛がっていたペットの死に一抹の寂しさを感じながら私は会話を続けた。
みき「あとね、こなたちゃんから結婚式の案内状が着てるわよ。ほら、高校時代の友達の」
かがみ「あ、こなたから?あの娘、結局、式を挙げるのね」
みき「つかさは行くみたいだけど、かがみも行くんでしょう?案内はそっちの方に転送しておいたから」
かがみ「うん、分かった。ありがとうね。こっちで返事出しておくから」
みき「・・・お母さんもあんまりこんな事言いたくはないんだけどね、あなた最近どうなの?
そりゃ、女の子だから結婚が第一なんて古臭いこと言うつもりはないけど、いのりもまつりもつかさも
みんな結婚したし・・・。お父さんもお母さんもちょっとあなたのことが・・・」
かがみ「はいはい、分かったから。私のほうは大丈夫だから心配しないで!じゃあねっ!」
みき「ちょ、ちょっと!?かがみ!?」
私は乱暴に電話を切った。そうかこなたの結婚式かぁ・・・。
こなたの結婚式はそれほど盛大なものではなかった。
それでも、きっと小父さんの意向だろうか?質素とは言い難い程度のお金が掛かっていそうだったけれども。
参加した人は友人や親族がメインだ。新郎も新婦も大学時代のサークルが一緒だったらしいから、
双方の大学時代の友人というのはだいぶかぶっている。
つかさ「あー、結婚式かー。あたしの時は結局挙げなかったからなぁ」
かがみ「あんたの場合、すぐ子供が生まれちゃってドタバタしてたからね。まつり姉さんもいのり姉さんの時も
ちゃんと式挙げたのに、あんたのときは駄目だったからお父さんもお母さんも残念がってたよ」
つかさ「そういえば、そうだったね・・・あはは」
みゆき「お二人とも泉さんの登場ですよ」
純白のウェディングドレス。高校時代の彼女とは違ってどこか大人びて見えた。
結婚式自体は何の支障もなく終わった。おじさんはずっと泣いていたけれど。
でもこの複雑な気持ちはなんだろうか?親友の結婚式は素直に嬉しいはずなのに。
結婚式が終わるとすぐさま場所を某所のレストランに移して披露宴だ。
参加している人たちは、こなたの大学時代の友人と親戚、そしてあたしたちに新郎の親しい友人でそれほど
多くはないはずなのに、飲めや歌えのドンちゃん騒ぎとなった。
こなたの大学時代の友人「えー、新郎新婦が出会ったのは我が○○大学漫画研究会でありまして・・・
当会は設立以来数十年の長きに渡って各界へ筋物入りのヲタクどもを・・・・」
かがみ「ちょっと、つかさってば!あんた飲み過ぎよ」
つかさ「えへへ・・・だいじょうぶらってば・・・。ゆきちゃーんもう一杯とってきてー」
みゆき「こちらで宜しいでしょうか?」
つかさ「ありあとー!」
かがみ「・・・それにしても、みゆきってばお酒強いのね」
みゆき「ええ、医学部だと周りが年上ばかりだったので自然とお酒を飲む機会が多くなりまして・・・」
大学時代の飲み会か・・・。
こなたの大学時代の友人「・・・新郎新婦の両名とも、これはもう筋金入りのヲタクでして、僕は最初こいつらに生身の人間の恋人
なんかできるのかと思っていましたが、案外近いところでくっついちゃったというわけですね・・・」
ちょっとタバコを吸いにいこう。そう思って私は会場から出た
ジッポライターでタバコに火を付けてから、煙を肺に入れた。心が落ち着いた。
ぼんやりと火のついたタバコを見ていると向こうから人がやってきた。
こなた「あ、かがみんここにいたんだ」
かがみ「どうしたの?」
こなた「いや、久しぶりにかがみんと話がしたいと思ってね」
かがみ「久しぶりってちょっと前にみんなで集まったじゃない・・・。ってあれは年末だったからもう半年前か」
こなた「半年前の出来事が“ちょっと前”になっちゃうなんてかがみんも年をとったねぇ」
かがみ「う、うるさいなっ!別にいいでしょっ!」
こなた「かがみん、何時からタバコ吸ってるんだっけ?」
かがみ「この前会った時も吸ってたでしょ」
こなた「この前はかがみん、なんか黙ってたからあまり話せなかったじゃん。ちょっと一本頂戴」
私は彼女が銜えたタバコに火を付けてあげた。こなたは目を細めて、何かハードボイルドな感じでも意識してるのだろうか、
妙なポーズをとっていたけれども、すぐに煙にむせていた。
こなた「ゲホゲホ・・・。いやぁ、タバコって何かダンディって感じじゃん?
最近読んだ漫画に触発されてちょっと吸ってみたはいいけど、私にはやっぱ無理だったわ」
かがみ「人妻になってもお子ちゃまってことかしらね」
こなた「む~、失敬だなかがみんは!」
かがみ「あはははははw」
なんだか久しぶりに笑った気がする。
かがみ「それにしても、あんたの大学時代の友達って凄いわね。あそこまで騒げるなんて」
こなた「ん~、いわゆるヲタサーって奴だったんだけど、みんな凄くアクティブな人たちだったからね
飲み会とかもすごかったよ。宴会やるたびにあのテンションだったし」
かがみ「いっつもアレってのは凄いわね・・・」
こなた「今でも時々集まって飲み会開いてるんだけど、みんな次の日のこととか考えずに騒ぐから後悔したりねw」
大学時代の友達と今も時々会ってるか。私の大学時代はいったいなんだったんだろうか。
いつも一人で勉強してた。周りはみんなバカだと思ってた。自分はあんな奴らと違うんだとも。
でも現実はどうだろうか?大人になりきれなかった私。今でも子供のままだ。
みゆき、つかさ、こなた・・・。みんな
それぞれの道を歩いてる。私はずっと足踏みしてた。
心のうちにあるこの気持ち、自分への嫌悪感はそのツケなのだ。
こなた「ねえ、かがみん・・・」
ネガティブに落ち込む思考から、こなたの声で現実に引き戻される。彼女は私の方をじっと見つめてこういった。
こなた「私さ、かがみんのことずっと友達だと思ってるから・・・、私たちずっと友達でいようね」
かがみ「へ、い、いきなり何言い出すのよ、は、恥ずかしいわねっ!」
こなたの不意打ちの攻撃に思わず赤面してしまう。不覚だ。
こなた「あはははw かがみん真っ赤だよー。かわいいなぁ」
かがみ「う、うるさい・・・」
こなた「いやでもさ、私がかがみんの事、本当に親友だって思ってるのは本当だから」
親友。友達の幸せな姿を見ても素直に喜べないこんなちっちゃな私を彼女は親友といってくれるのだろうか。
こなた「あ、そろそろ戻らなきゃ。かがみんも行こうよ」
かがみ「うん・・・」
披露宴ももう終わり。締めはこなたの挨拶だ。
こなた「えー、お集まりの皆さん。本日は私の結婚式に集まってくれて本当にありがとうございます。
『お前に三次元の旦那は無理だよ』と散々言われてまいりましたが・・・結婚したぞ!ざまあ見やがれwwww」
突然叫びだしたこなたを回りにいた彼女の友人たちが取り押さえた。
こなた「えー、ごほん・・・。少々取り乱してしまいました。まあ、何が言いたいかといいますと、
今まで私の傍にいてくれたみんなにありがとう、って言いたいんです。いやー、本当にみんなありがとうね!
高校時代、大学時代、社会人になってからといろんな人と友達になれましたが、みんないつまでも大事な
友達だって思ってます」
万雷の拍手。珍しく言いこといったな!という野次があちらこちらから飛んでいたけれども。
拍手の後には自然と笑い声が起こった。しんみりとしたムードは終わって今度は二次会の始まりだ。
きっとここの会場にいる人たちは、みんなこなたの事が好きなんだろうな。みんなの笑顔の輪の中に
いる彼女を見てそう思った。
こなた「ねー、みんなー。4人で写真撮ろうよ!」
みゆき「いいですね。」
つかさ「あはははwさんせー・・・」
かがみ「ほら、つかさってば。しっかりしなさいよ!いい加減酒の飲み方ってのを覚えなさいって」
ふらつくつかさに肩を貸しながら、会場の外の廊下に出るとこなたの旦那がカメラを構えていた。
こなた「○○君(自分の名前でも入れておけ)、シャッターお願いね」
帰りの電車の中で思った。さっき4人でとった写真、今の私にはあそこにいる価値はないんだろう。
ずっと歩き出せなかった駄目な私。でもこなたは私のことを友達だって言ってくれた。
もう少しだけ頑張ってみようかな。
お酒が入ってぼんやりした頭で考えた。
ずっとずっと足踏みばかりしてたけど、彼女たちの友達でいられるように、もう少しだけがんばってみようか。
でも頑張る前にちゃんとしておかないことがあった。ちゃんと謝っておかなければいけない人。
3日後、私は日下部と会った。あの夜以来だから2ヶ月ぶりだ。
約束の時間ぴったりに日下部は来た。仕事が終わってすぐ来たのだろうか?
よくよく考えれば、彼女は職持ちだから平日に誘うなんてちょっと思慮が足りなかったかもしれない。
あの夜以来ずっと連絡を取ってなかったから何となく気まずい。
みさお「おーっす、柊久しぶりだなぁ」
かがみ「おっす、とりあえず店予約しておいたから」
彼女も私も努めて明るく振舞おうとしているけれど、どこかぎこちなくなってしまう。
予約しておいた居酒屋に向かう道中は私と日下部の間に会話はなかった。話したいことあるのだけれども。
彼女も同じだろうか?
居酒屋の個室に入って飲み物を注文した後、日下部から話を振ってきた。
みさお「で、今日はどうしたんだよ柊」
かがみ「ん・・・、正直に言うとね、あんたに一回会って謝っておきたかって言うか・・・その・・・」
みさお「なーんだそんなことかよ!」
かがみ「な、何だとは何よ!」
みさお「いやね、あんまり深刻そうな感じで電話をかけてくるもんだから、『結婚してくれー』とか
言い出すのかと思ってさ!」
かがみ「そ、そんなわけないじゃない。ただあんたに謝りたかったのよ。この前は・・・その・・・
ごめんね・・・」
みさお「まぁ、あたしも犬に噛まれたと思って諦めますゼ!それにしても柊は生真面目だなぁ。
いやさ、またあたしの部屋に乗り込まれて押し倒されるかと思ってたから」
かがみ「い、いや、あれは酔ってのことだって!」
みさお「どうかなー?あたし、もうお嫁に行けないカラダにされちゃったしぃ・・・」
かがみ「あー、もういいわよ!せっかくココの勘定、私が持とうと思ってたけど」
みさお「許して!柊様!このとおりだってヴぁ!」
重かった雰囲気は既に無くなっていた。日下部が気を使ってくれていたのが何となく分かったけれど、
今日は素直にその好意に甘えることにした。ただの自己満足だって分かっているけど、
それに気のせいかもしれないのだけれども、彼女に謝れたことでひとつ前に進めた気がした。
その後は二人で飲みながら下らないことを話した。楽しかった高校時代に戻れたような気が
少しだけした。
みさお「うー、飲みすぎた~」
かがみ「あんたもいい年なんだから、いい加減・・・といいたいところだけど私もけっこうきてるわ・・・」
みさお「今日はとめてやんないからなー!この前みたいな辱めはもうコリゴリだゼ」
かがみ「分かってるわよ日下部、ちゃんと帰れるから大丈夫だって」
かがみ「ねえ、みさお・・・」
初めて彼女のことをファーストネームで呼んでみた。
みさお「へ?」
かがみ「これからも私と友達でいてね」
その次の年、私は司法試験に合格した。その後司法修習も終えて無事にある事務所
(それほど大きくはないところだけれども)に就職できた。
弁護士として仕事を始めて2年、何とか仕事にもなれた。今日はクライアントとの打ち合わせだ。
かがみ「始めまして、○○法律事務所の柊です」
クライアント先の人「あ、はじめまして・・・。●●商事法務部の泉と申します」
泉・・・?聞き覚えのある名前だ。それに顔にも何処となく見覚えがあるような気がするのだけれども。
どうやら向こうも何か引っかかるところがあるみたいだ。怪訝そうな顔をしている。
かがみ「もしかして・・・」
案の定こなたの旦那だった。世の中意外と狭いものだ。
泉「いやぁ、お噂はかねがね・・・。なんでもツンデレの弁護士だとか。よくこなたが話してくれますよ」
あいつめ。まだそんな事言ってるのか。
かがみ「そう言えば、こなたは元気にしてますか?最近子供が生まれたって聞きましたけど」
泉「いやぁ、大きくなったらどのゲームをさせようとか、漫画を子守唄代わりに朗読して聞かせたりとか・・・」
かがみ「あはは。あいつらしいですね」
泉「『大きくなったらこの娘には絶対ツンデレになってもらうんだ』とも言ってましたよ」
しばらくこなたの話で盛り上がった。彼女は相変わらずそうだ。
しばらくして気がついて時計を見たら、時間が押し迫っていた。
パパっと終わらせたかったのに不覚だ。
かがみ「ゴホン・・・、それでは仕事のお話に移りましょうか?」
泉「え、ああそうですね。すいませんつい雑談をしてしまいまして」
かがみ「いえ、こちらも乗っちゃいましたしね。それではこの案件についてですが・・・」
何とか話をまとめて事務所に戻った時には予定の時間を1時間もオーバーしていた。
事務所の子「あー、柊先生!遅いですよ!所長が怒ってます!」
かがみ「ごめんごめん、クライアント先の人がね・・・」
事務所の子「へー、世の中って案外狭いんですねぇ。泉さんって柊先生の机の写真の人ですよね?」
かがみ「そうそう、なんか全然変わってないらしいわ」
事務所の私の机には二枚の写真が飾ってある。一枚は高校時代の修学旅行で撮ったもの。もう一枚は
こなたの結婚式で撮ったもの。
高校時代、あの日々からもう10年以上経ってしまった。
つかさは4人目の子供を生んで、みゆきもこの間同僚のお医者さんと結婚したそうだ。
私も私でなんとか弁護士という憧れていた職業に就くことができた。
時が経つのはなんて早いのだろう。みんなそれぞれの道をちゃんと歩いているのだ。
ねえ、こなた。今なら私も、あなたの友達だって胸を張って言えるかな?
おしまい
最終更新:2007年09月21日 17:41