byらきすた厨(京都府)
「はぁ……」
近頃ため息ばかり付いているような気がする。思い返せば家族と離れて一人暮らしを始め、3年の月日が流れた。大学に入学した当初は友達なんてすぐ出来るだろうと気楽に構え、積極的に友達をつくろうとはしなかった。
しかし、私は元来の性格から少し近寄りがたく見られてしまうのか、あまり人から話しかけられることはない。こんな私が待っていても友達なんて出来ないのは当然だ。
それでも当時は、まだこなた達と電話やメールのやり取りは活発にしていたし、焦る必要は無いと楽観していた。今思うと、これが間違いだった。
皆、新生活で新しい人間関係を築いていった。そして、少しずつ疎遠になっていった。新生活を謳歌している彼女らが私には眩しかったのだろう。今では完全に一人ぼっちになってしまった。
勉強をしようにも身が入らず、ただ空虚に日々を過ごしている。
1年ほど前から夢を見るのだ。夢の中には、こなたやつかさ、みゆきが居る。日下部や峰岸も居る。
昨日の夢はただ皆とお喋りをしているだけの夢。それでも、現実より何倍も、何十倍も楽しかった。
「昨日も
ネトゲで徹夜して眠くってさー」
「お姉ちゃーん、ここの問題教えてー?」
「また虫歯ができてしまいました……」
「おーい、柊ぃ。宿題見せてくれよぉ~」
「柊ちゃん、クッキー焼いたよー」
他愛も無いお喋りがこんなに楽しいものだとは思わなかった。
「今日も良い夢が見られるといいな……」
まだ午後10時。大学生ならば当然皆起きているような時間だ。それでも私は布団に入る。
半年ほど前から、睡眠薬を使って無理にでも眠ろうとしている。布団に入ったまま眠れない時間が続くと、つい色々と嫌なことを考えてしまうからだ。
「おやすみ、こなた」
と、居もしない人物にあいさつをした。
そして私のまぶたが落ち、意識が遠のいていった。
「時代はチアだよ!おふたりさん」
「ゆーちゃんが皆で一つのことをやり遂げたいって凄く一生懸命でさー」
「あれだけ嫌がってたのになんかこう…… 一番熱心でいらっしゃいますね……?」
「こんな風に皆さんと何かを出来るチャンスに恵まれて、嬉しいデス!」
「お祭りを準備をしているときが一番楽しいと言いますしね」
ジリジリジリ、ジリジリジリ、ジリジリジリ・・・
いつものように目覚まし時計の音で目が覚める。
今日の夢は桜藤祭で踊ったチアダンスの準備をしていたときの夢だった。
みゆきがお祭りは準備が楽しいと言ったのは今でも鮮明に覚えている。高校生や大学生のモラトリアムの期間は、言わば人生の準備期間。今私が空虚に過ごしている期間が、本来ならば人生で一番楽しいのかもしれない。
「最近ネガティブなことばっかり考えてるわね。気を付けなくちゃ」
そう自分に言い聞かせる。昨日が夏休み最終日。今日からまた学校に行かなければならない。
「いってきます」
もちろん返事は返ってこない。憂鬱な気分で私は学校へ向かった。
夕方、どこかに遊びに行くことも無く、一人帰宅する。そのまま私はベッドへと倒れこんだ。
今までは切り替えが出来ていたはずなのに、今日はネガティブな思考がずっと頭の中をグルグルとまわっている。
「今まで何とか耐えてきたのに。どうして今になって。もう耐えられないわよ、こんなの……」
今まで抑えてきたものがここにきて決壊した。自然と涙が溢れる。1時間ほど泣き続け、泣き疲れた頃には眠ってしまった。
「おーい、かがみぃ~」
「お姉ちゃーん」
「かがみさーん」
「柊ぃ」
「柊ちゃーん」
はっと目が覚めた。時計の針は午後9時を指している。帰ってきた頃に部屋を照らしていた西日はもうとっくに姿を隠してしまった。
夢の内容は思い出せなかったが、とても暖かいものだった気がする。
ふと睡眠薬が目に留まった。まだ20錠以上残っている。
「これ、全部飲めばずっと皆と一緒に居られるのかな」
永遠の夢の世界で、皆と終わらない日々を過ごす。
ずっと同じ日々の繰り返し。
皆とずっと一緒。何て甘美な響きなんだろう。
一錠一錠、丁寧に取り出していく。
「あぁ、そうだ。水も必要よね」
コップに水を汲み、睡眠薬を手に取った。
不意に水面に自分の顔が映る。泣きつかれて目元が真っ赤になっている。
「ひどい顔ね」
と、私は自嘲気味に笑った。
「こなた、つかさ、みゆき。皆。ずっと一緒にいようね」
そう呟き、いざ飲もうとした瞬間、携帯の着信メロディーが流れた。
「誰?」
そこには「泉こなた」という文字が浮かんでいた。
「もっ、もしもし? こなた?」
「やぁー、かがみー。久しぶりー」
「そっそうね。 何か用でもあるの?」
内心の動揺を悟られまいと出来るだけ平静を装う。
「いやぁ、久しぶりに話したくなっちゃってさ。かがみはさびしんぼさんなんだから泣いてるんじゃないかと」
だめだ、限界だ。
「ちっ、違うわよぉ。こなたの馬鹿ぁ……」
涙が溢れる。もう、隠すことなんて出来ない。
「ちょ、どうしたの、かがみ? 本当に泣いちゃって」
今までのこと。友達が居ないこと。ずっと寂しかったこと。
そして、大量の睡眠薬を飲もうとしていたことを。
「馬鹿だなぁ、かがみは」
「ば、馬鹿って何よっ」
「だってそうじゃん。会えるっていったって夢の中だけなんだよ? それに、もしこれでかがみが死んじゃってたらどうすんの?」
「そ、それは……」
珍しく真剣なこなたの口調に気圧される。
「かがみ、夢というのは終わらなくちゃならないものなんだよ。終わらない夢っていうのはもう何も先にないんだよ」
「うん……」
涙が止まらない。
「それにね、かがみがもし死んじゃってたら、つかさやみゆきさん。それに私だって悲しいよ。だからさ、かがみ。ちょっとずつ現実を歩いていこうよ。辛いときはいつでも相談に乗るから」
「うん……。私が馬鹿だった。
ありがとう、こなた。ねぇ、こなたって今でも私のこと、友達って思ってる?」
「当たり前でしょ! かがみんはずっと私の大切な友達だよ!」
「ありがとう。ありがとう、こなた……」
嗚咽でまともに喋ることができない。
「じゃあね、かがみ。また電話するよ。今度一緒にカラオケでも行こうよ」
「うん。絶対!」
電話が切れる。でも、寂しくなんかない。
少し、ほんの少しだけ勇気が湧いた。この一歩踏み出す勇気が私には足りていなかった。
夢に停滞していた私とは今日でお別れにしよう。
例えどれだけ辛くても、現実世界を歩んでいこう。
そうだよね?こなた。
End
最終更新:2007年09月26日 15:31