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フリマにて」(2021/06/10 (木) 04:11:55) の最新版変更点

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「ねえねえ。今度の日曜ってみんな暇?」  いつもの四人が揃ってのお昼休み。こなたが不意にそんなことを訊いた。 「私達は特に予定無いけど」 「私も予定はありませんね」 「じゃあさ、みんなでフリマに行かない?」 「フリマって、フリーマーケットのこと?」 「そだよー。ブルマじゃなくてフリマだよ」 「マしか合ってねーよ」 「蚤の市ですか。面白そうですね」 「お、みゆきさん乗り気だね」 「ええ。ですが、今まで参加した経験は無いので……」 「気楽に参加出来るから、そんなに堅く考えなくても大丈夫だよ」 「参加ってことは、何か売りに出すの?」 「もちろん。かがみ達も家にある古い服とか日用品とか、いらないけど捨てるにはもったいない物があったら持ってくるといいよ」 「あ、そりゃいいわね。古い物とか結構あるし」 「んじゃ、三人とも参加でOKね」  そんなわけで四人はフリマに参加することになりましたとさ。  日曜日。フリマ会場となっている公園は、朝から大勢の人で賑わっていた。開場時間はまだだが、 「へー、思ってたより大きいイベントなんだ」  リサイクルショップに毛の生えた程度かと思いきや、集まった人と物の多さはとてもそんな規模には収まらないものだ。 「たまに掘り出し物があったりするから、フリマってのもなかなか侮れないもんなんだよー」  いそいそと出店の準備をするこなた。といってもまずはシートを敷いて場所を確保するぐらいだ。 「売り物を把握しておかないとね。みんなはどんなの持ってきたの?」  四人はそれぞれ持ってきた物をその場に出していく。 「ふむふむ……基本的に服とか小物とかだね。みゆきさんのそれは?」 「あ、これはうちの母が、買った後ほとんど使わず埃を被っていた品々でして」  流行りの健康グッズや一風変わった台所用品など、如何にも通販で衝動買いしちゃいました観のある品物ばかりだ。 「何というか、用心しないとキャッチセールスとかにカモられそうだね、あのおばさんは……」 「反論出来ないのが辛い所です……」  兎にも角にも、持ち寄った商品を一旦集めて、こなたがそれぞれに片っ端から値札を付けていく。 「値段に不満があったら言ってね」  そうは言うが、玄人めいた手際のこなたを前にしては、三人とも口を挟めなかった。 「これってどういう基準で値段付けてるの?」  色つきのメモ用紙にサインペンで数字を書いてセロテープで貼られていく値札を見て、かがみが聞いてみる。 「物にもよるけど、基本的に新しい物・綺麗な物は高めだね。みゆきさんの持ってきたこのセーターなんかは、古いけどブランド品だから高値になるよ」 「へぇー」 (写真付きとかなら別方面にもっと高値で売れるんだけどなぁ……)  などと不謹慎なことは、心の中だけで呟いておくこなただった。 「よしっ! 準備万端!」  ほとんどこなた一人によって値札付けと陳列をスピーディに終え、折良く開場時間となった。とはいえ、コミケのようにドッと人が押し寄せるわけではもちろんない。  しばらくしてから、こなた達のスペースにもちらほらお客さんが現れ始めた。 「これいい?」 「はい、三百円になります」 「こっちのこれも一緒に買うから、少し安くしてよ」 「商売上手だねぇお客さん。そんじゃ合わせて五百円」 「じゃあそれで」  あっという間に古着二着が売れた。 「おー、こなちゃん凄いねー」 「でもあんな簡単に値切ってよかったの?」 「いやいや、あれは別に普通のお客さんだよ。本気で値切りにかかる人はあんなもんじゃないからね。いきなり値札の三割から交渉スタートしたり、数人で畳み掛けるように値切りコンボしてきたり。素人が下手に矢面に立つと命取りだよ」  別に冗談でもなんでもなく、真面目に語るこなた。その平淡な口調が、フリマ未経験者の三人にはかえって空恐ろしかった。  開場時間からしばらく経過し、こなた達の商品は見てくれの良い物から順調に売れていった。 「えーと……全部で四百七十円になります」 「千円でお釣りあるかな?」 「あ、はい。ちょっと待って下さい。お姉ちゃん、そっちの小銭の缶とってー」  未経験者の三人もフリマの空気が掴めてきたらしく、こなた一人に任せず会計や交渉を行っていた。 「そろそろ交替で他の店見て回ろうか」  こなたの提案で、まずはこなたとかがみが店番、つかさとみゆきが他を見て回ることになった。 「ふむふむ……なかなか悪くない売り上げだね。極端な値切り魔にぶつからなかったのも幸いだった」  今までの売り上げをざっと数えながらこなたが呟く。 「そういえば、四人が持ってきたのを全部一緒にして売っちゃってるけど、そのお金はどうやって分けるの?」 「ちゃんと誰の商品が幾らで売れたか分かるから大丈夫だよ。そのために値札を取ってあるんだし」  こなたは売れた商品の値札をしっかり回収し、値下げした商品には赤ペンでその値段を上書きして保管していた。どの値札が誰の商品だったかは、紙の色で分かるようにしてある。色付きのメモ用紙を使っていたのはそういう意味があったのだ。 「戦場における私に抜かりはないのだよかがみん」 「コミケの時も思ったけど、その情熱と計画性を何でもっと他のことに活かせないんだ」  数十分して、つかさとみゆきが帰ってきた。 「ただいまー」 「おかえり。何か良い物あった?」 「うん、ほらこれ」  つかさがホクホク笑顔で見せたのは、イルカを象った木彫りのペンダントだった。渋い光沢を放つ木目が良い感じだ。 「へー、可愛いわね。いくらだったの?」 「一つ二百円のを、ゆきちゃんと一緒に買って百五十円に負けて貰ったの」 「はい。私はクジラのを買いました」 「ほほう、ペアのアクセサリーですか。仲のよろしいことですなぁ」  こなたが顎に手を当てながらにやにや笑う。 「確かにクジラとイルカは共通点多いけど、別にペアってわけじゃないでしょ」 「いやいや。ここで重要なのは二人揃って同じ種類の品物を買ったということなのだよ」 「ふぅん……」  曖昧に頷きながら、改めてつかさとみゆきのペンダントを眺めるかがみだった。 「それじゃかがみ。交替して私達も見て回ろっか」 「うん」 「つかさ、みゆきさん。もし手強そうな客が来たら、すぐかがみの携帯に連絡入れるんだよ。初心者がそういうのとまともに組み合ったら、尻の毛までむしり取られるからね」 「たとえでもそういう下品な表現はやめろよ……」  そんなこんなで、こなたとかがみは二人でフリマ会場を散策する。 「凄いわねー……」  周りを見ながら、かがみは感嘆の息をつく。  こなた達のように服や小物中心に売っている人もいれば、装飾品を小綺麗に陳列している人、古本を大量に積んでいる人、明らかに偽物臭いブランド腕時計を並べている人など、雑多という言葉がまさに相応しい情景だ。 「こういうのを見て回るのって、一種の宝探し的な面白さがあるんだよねぇ」  そう言いながら、こなたはふと足を止める。目の前には古本と古雑誌を並べている店があった。こなたは古雑誌を一冊手に取る。 「おじさん、これいくら?」 「一冊百円だよ」 「えー、高いよこんなぼろっちいのに。一冊十円で! 何冊か買うからさ」 「ちょっ、おま……」  かがみが思わず声を上げそうになる。言い値の十分の一から交渉スタートって、お前こそが値切り魔じゃないのかと。  丁々発止の値切り合戦を繰り広げ、こなたは古雑誌を一冊二十五円で買うことに成功した。 「そんなの買ってどうするの? ほとんどゴミみたいなもんなんじゃ」  雑誌を買った店を離れながら、かがみが尋ねる。 「ほとんどはね。でも、ちゃんとゴミじゃないのもあるから」  こなたは買った雑誌をかがみに示す。 「例えばこれ。今も続いてるパソコン雑誌の創刊号だよ。古雑誌には違いないけど、状態は悪くないしネットオークションにでも出せばある程度の値は付く一品だね」 「そうなんだ。じゃあそれ、また売るの?」 「そんなことしないよ。転売屋じゃあるまいし」 「え……じゃあ、どうするの?」 「持っておくんだよ」 「持ってて意味あるの?」 「持ってるだけでも意味があるんだよ。私もPC関係は門外漢ってわけじゃないからね」 「ああ、そう……」  こんな調子で二人はお店を見て回っていく。 「あれ? 泉先輩にかがみ先輩じゃないスか」  不意にかけられた声に振り向くと、そこにはちょっと珍しいコンビがいた。 「おお、ひよりんにパティ」  一年生の後輩、田村ひよりとパトリシア=マーティンがそこにいた。青いシートを広げて古本や小物、アクセサリーなどを並べている。 「ハロー! コナタ、カガミ、こんなところであうなんてキグーですネ」 「そうだねぇ。ところで二人ともお店出してるの?」 「見ての通りっスよ。良かったら何か買ってって下さい」 「ふーむ……」  こなたはひより&パティが並べている品物をじっくり吟味する。古めのラノベや漫画本、文房具、それから衣類や小物等々……ふと、こなたはパティの左手首に目を留めた。 「ヘイ、パティ。その腕時計良さげだね。How much is it?」 「OH! It's mine. Priceless. お金で買えない価値があるでス」 「そりゃ残念」  パティは陽気に笑い、合わせてこなたも笑う。こういうフランクなノリはオタク同士のシンパシーというより、やはり性質なのだろう。 「かがみ先輩もどうぞ見ていって下さい」 「あ、うん……」  横からこなたの様子を眺めていたかがみは、とりあえず衣類など手に取ってみる。良いと思える物は無かった。  服はやめにして別のを見てみる。 「これは……」  ふと目に付いたそれを手に取った。 「おお。先輩お目が高いっスね」  かがみが手にしたのは、金色に輝く十字架のネックレスだった。安っぽい金ピカではなく、上品でシックな色合い。チェーンの部分には大小の珠を繋げてある。 「これって……何か……」  そうだ。あれに似ている。 「あっ、マリみてのロザリオじゃん!」  かがみが考えつつも口に出さなかったことを、こなたはズバリ言った。確かにこのネックレスは、小説『マリア様がみてる』にも登場するロザリオとそっくりだった。 「これいくら? まさか本物の金じゃないのよね」  こなたが買う気らしい。値段を尋ねると、パティが対応する。 「もちろんほんものではありませんかラ、おやすいですヨ。五百円にしておきまス」 「高い! 二百円で!」  知人が相手でも容赦はしない。既に値切り戦の体勢に入っているこなた。そして迎え撃つ気満々のパティ。  全日本オタク代表VS合衆国オタク代表、蚤の市値切り一本勝負が火蓋を切った。 「よくやるわ……」  火花散る値切り合戦を繰り広げるこなたとパティを、ため息まじりに見ているかがみだった。 (私が最初に見つけたのにな……)  ネックレスを眺めながら思う。買う気かどうか決めていなかったし、基本的にこういうのは早い者勝ちなのだから、文句を言う筋合いは無いが。少しだけ残念だった。  結局、三百二十円でそのネックレスをゲットしたこなただった。 「あんた、そんなことやってると友達無くすわよ」 「大丈夫だよ。向こうもああいうノリを承知してたし、後悔も後腐れも無し」 「そういうもんなの?」 「そういうもんなの。さて……」  大勢が行き交うフリマ会場を歩いて、そこだけ人が少なくエアポケットのようになっている噴水前にやってきた。 「休憩?」 「うん。あとこれ」  こなたは買ったばかりのネックレスを取り出した。 「これ、かがみが貰ってくれないかな」 「えっ……?」  かがみの目が点になる。 「いやごめん。言い回しが違うね」  こなたはしばし沈黙してから、おもむろに口を開いた。 「これ、かがみの首にかけてもいい?」  かがみにも、こなたが何をしようとしているのか分かった。 「いい年こいてマリみてごっこか! ていうかあんたがお姉さまかよ!」 「確かにごっこだけど、このネックレスはホントにあげるつもりだよ」 「え……な、何で?」 「んー、強いて理由聞かれたら困るけど……かがみの方が似合いそうだし、あげたいと思ったからかな」 「じゃあ……私のためにそれ買ったの?」 「うん。もちろん、儀式を受け入れてくれたらの話だけどね」  つまりはマリみてごっこでかがみと姉妹(スール)の儀式をする、その一発ネタのためだけにネックレスを購入したというわけか。 「あんたって人は……それだけのために値切りまでしてそれ買ったのか……」 「さっきパティが言ってたでしょ。プライスレス。お金で買えない価値がある」 「マリみてごっこがか」  ひたすら呆れるかがみだった。 「ごっこはともかく、こっちにはそれを貰う理由が無いんだけど」 「いいじゃん。理由の無いプレゼントだって、たまにはさ」 「……」 「理由が欲しいなら、日頃からお世話になってるからとか何とか、テキトーにでっちあげるけど、そんなの意味無いでしょ?」  話しながらこなたはネックレスを両手に構える。既にかがみを妹にする気満々だ。 「……つまりあんたはもう退く気無しなわけね」 「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 真のオタに逃走は無いのだー!」 「わけわからんから」  大きなため息をついてから、かがみは軽く襟元を正した。ごっこをするのを了承したのだ。  噴水の前で、真っ直ぐに向き合い、 「お受けします」 「ありがとう」  少し爪先を伸ばして、こなたがかがみの首に擬似のロザリオをかけた。小説の方ならここでタイミング良く花火が弾けていたが、もちろん昼間のフリマ会場でそんなことがあるはずもない。  しかし、日常的な騒音の中でこなたと二人、神聖な儀式(の真似)をしているというのは、かがみにとってかえって気恥ずかしかった。別に注目されているわけでもないのだが。 「かがみ、顔赤いよ?」 「ばっ……いちいちそういうこと言うな!」  慌ててそっぽを向くかがみ。 「あら、いけないわね。お姉さまに向かってそんな口のきき方をしては」 「のらないわよ。ごっこはロザリオを受けるまででしょ」 「ちぇ……」  残念そうに舌打ちするこなただが、満足な表情を浮かべていた。そしてかがみも、ふくれっ面をしながら内心はまんざらでないようで、受け取った十字架を大事そうに握っていた。    そんな微笑ましい二人の様子を、やや離れた位置からじっくり拝見しているのは、ひよりとパティであった。声は聞こえずとも、こなたとかがみがどういう行為をしているのかはよく分かる。 「う~ん……はげしくグッジョブ! これこそまさにジャパニーズ・百合! 生でスールの儀式をはじめてみましタ」  生も何も、こなた達がやってるのはただのごっこで、小説のあれはフィクションなのだが。かなり興奮した様子のパティだった。 「まあ、先輩二人ともガチってわけじゃないだろうけど、何というか……色々と掻き立てられるもののある情景だねぇ」  こちらも勝手なことを呟くひより。頭の中では既に複数のプロット(R-18含む)が同時進行していた。 「フリマにきて、おもわぬシューカクですネ。これがタナバタというやつですカ?」 「それを言うならタナボタね。パティ、そろそろお店に戻らないと」 「あン、もうちょっとだけ見てたいのでス」 「気持ちは分かるけどさぁ……」  そう言いながらひよりも、もう少しという気分で二人の様子に目をやる。  こなたとかがみは、そろそろお店の方に戻ろうかと話し、並んで歩いていく。その隙間が、さっきより心なしか狭い気がするのは、やはり気のせいだろうか。  かがみがこなたとフリマを歩いた日。    お天道様と、出歯亀だけが二人を見ていた。 おわり **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - うむ。百合は日本の誇る文化なのだよ、パティ。 &br()(あと同人と2次元エロも) -- 名無しさん (2011-04-13 08:07:46) - まったくだね♪ &br()いい感じだww -- 名無しさん (2008-03-29 04:59:39) - いいねぇ。やっぱりかがみんはこなたの嫁だな。 -- 名無しさん (2007-07-20 19:41:00)
「ねえねえ。今度の日曜ってみんな暇?」  いつもの四人が揃ってのお昼休み。こなたが不意にそんなことを訊いた。 「私達は特に予定無いけど」 「私も予定はありませんね」 「じゃあさ、みんなでフリマに行かない?」 「フリマって、フリーマーケットのこと?」 「そだよー。ブルマじゃなくてフリマだよ」 「マしか合ってねーよ」 「蚤の市ですか。面白そうですね」 「お、みゆきさん乗り気だね」 「ええ。ですが、今まで参加した経験は無いので……」 「気楽に参加出来るから、そんなに堅く考えなくても大丈夫だよ」 「参加ってことは、何か売りに出すの?」 「もちろん。かがみ達も家にある古い服とか日用品とか、いらないけど捨てるにはもったいない物があったら持ってくるといいよ」 「あ、そりゃいいわね。古い物とか結構あるし」 「んじゃ、三人とも参加でOKね」  そんなわけで四人はフリマに参加することになりましたとさ。  日曜日。フリマ会場となっている公園は、朝から大勢の人で賑わっていた。開場時間はまだだが、 「へー、思ってたより大きいイベントなんだ」  リサイクルショップに毛の生えた程度かと思いきや、集まった人と物の多さはとてもそんな規模には収まらないものだ。 「たまに掘り出し物があったりするから、フリマってのもなかなか侮れないもんなんだよー」  いそいそと出店の準備をするこなた。といってもまずはシートを敷いて場所を確保するぐらいだ。 「売り物を把握しておかないとね。みんなはどんなの持ってきたの?」  四人はそれぞれ持ってきた物をその場に出していく。 「ふむふむ……基本的に服とか小物とかだね。みゆきさんのそれは?」 「あ、これはうちの母が、買った後ほとんど使わず埃を被っていた品々でして」  流行りの健康グッズや一風変わった台所用品など、如何にも通販で衝動買いしちゃいました観のある品物ばかりだ。 「何というか、用心しないとキャッチセールスとかにカモられそうだね、あのおばさんは……」 「反論出来ないのが辛い所です……」  兎にも角にも、持ち寄った商品を一旦集めて、こなたがそれぞれに片っ端から値札を付けていく。 「値段に不満があったら言ってね」  そうは言うが、玄人めいた手際のこなたを前にしては、三人とも口を挟めなかった。 「これってどういう基準で値段付けてるの?」  色つきのメモ用紙にサインペンで数字を書いてセロテープで貼られていく値札を見て、かがみが聞いてみる。 「物にもよるけど、基本的に新しい物・綺麗な物は高めだね。みゆきさんの持ってきたこのセーターなんかは、古いけどブランド品だから高値になるよ」 「へぇー」 (写真付きとかなら別方面にもっと高値で売れるんだけどなぁ……)  などと不謹慎なことは、心の中だけで呟いておくこなただった。 「よしっ! 準備万端!」  ほとんどこなた一人によって値札付けと陳列をスピーディに終え、折良く開場時間となった。とはいえ、コミケのようにドッと人が押し寄せるわけではもちろんない。  しばらくしてから、こなた達のスペースにもちらほらお客さんが現れ始めた。 「これいい?」 「はい、三百円になります」 「こっちのこれも一緒に買うから、少し安くしてよ」 「商売上手だねぇお客さん。そんじゃ合わせて五百円」 「じゃあそれで」  あっという間に古着二着が売れた。 「おー、こなちゃん凄いねー」 「でもあんな簡単に値切ってよかったの?」 「いやいや、あれは別に普通のお客さんだよ。本気で値切りにかかる人はあんなもんじゃないからね。いきなり値札の三割から交渉スタートしたり、数人で畳み掛けるように値切りコンボしてきたり。素人が下手に矢面に立つと命取りだよ」  別に冗談でもなんでもなく、真面目に語るこなた。その平淡な口調が、フリマ未経験者の三人にはかえって空恐ろしかった。  開場時間からしばらく経過し、こなた達の商品は見てくれの良い物から順調に売れていった。 「えーと……全部で四百七十円になります」 「千円でお釣りあるかな?」 「あ、はい。ちょっと待って下さい。お姉ちゃん、そっちの小銭の缶とってー」  未経験者の三人もフリマの空気が掴めてきたらしく、こなた一人に任せず会計や交渉を行っていた。 「そろそろ交替で他の店見て回ろうか」  こなたの提案で、まずはこなたとかがみが店番、つかさとみゆきが他を見て回ることになった。 「ふむふむ……なかなか悪くない売り上げだね。極端な値切り魔にぶつからなかったのも幸いだった」  今までの売り上げをざっと数えながらこなたが呟く。 「そういえば、四人が持ってきたのを全部一緒にして売っちゃってるけど、そのお金はどうやって分けるの?」 「ちゃんと誰の商品が幾らで売れたか分かるから大丈夫だよ。そのために値札を取ってあるんだし」  こなたは売れた商品の値札をしっかり回収し、値下げした商品には赤ペンでその値段を上書きして保管していた。どの値札が誰の商品だったかは、紙の色で分かるようにしてある。色付きのメモ用紙を使っていたのはそういう意味があったのだ。 「戦場における私に抜かりはないのだよかがみん」 「コミケの時も思ったけど、その情熱と計画性を何でもっと他のことに活かせないんだ」  数十分して、つかさとみゆきが帰ってきた。 「ただいまー」 「おかえり。何か良い物あった?」 「うん、ほらこれ」  つかさがホクホク笑顔で見せたのは、イルカを象った木彫りのペンダントだった。渋い光沢を放つ木目が良い感じだ。 「へー、可愛いわね。いくらだったの?」 「一つ二百円のを、ゆきちゃんと一緒に買って百五十円に負けて貰ったの」 「はい。私はクジラのを買いました」 「ほほう、ペアのアクセサリーですか。仲のよろしいことですなぁ」  こなたが顎に手を当てながらにやにや笑う。 「確かにクジラとイルカは共通点多いけど、別にペアってわけじゃないでしょ」 「いやいや。ここで重要なのは二人揃って同じ種類の品物を買ったということなのだよ」 「ふぅん……」  曖昧に頷きながら、改めてつかさとみゆきのペンダントを眺めるかがみだった。 「それじゃかがみ。交替して私達も見て回ろっか」 「うん」 「つかさ、みゆきさん。もし手強そうな客が来たら、すぐかがみの携帯に連絡入れるんだよ。初心者がそういうのとまともに組み合ったら、尻の毛までむしり取られるからね」 「たとえでもそういう下品な表現はやめろよ……」  そんなこんなで、こなたとかがみは二人でフリマ会場を散策する。 「凄いわねー……」  周りを見ながら、かがみは感嘆の息をつく。  こなた達のように服や小物中心に売っている人もいれば、装飾品を小綺麗に陳列している人、古本を大量に積んでいる人、明らかに偽物臭いブランド腕時計を並べている人など、雑多という言葉がまさに相応しい情景だ。 「こういうのを見て回るのって、一種の宝探し的な面白さがあるんだよねぇ」  そう言いながら、こなたはふと足を止める。目の前には古本と古雑誌を並べている店があった。こなたは古雑誌を一冊手に取る。 「おじさん、これいくら?」 「一冊百円だよ」 「えー、高いよこんなぼろっちいのに。一冊十円で! 何冊か買うからさ」 「ちょっ、おま……」  かがみが思わず声を上げそうになる。言い値の十分の一から交渉スタートって、お前こそが値切り魔じゃないのかと。  丁々発止の値切り合戦を繰り広げ、こなたは古雑誌を一冊二十五円で買うことに成功した。 「そんなの買ってどうするの? ほとんどゴミみたいなもんなんじゃ」  雑誌を買った店を離れながら、かがみが尋ねる。 「ほとんどはね。でも、ちゃんとゴミじゃないのもあるから」  こなたは買った雑誌をかがみに示す。 「例えばこれ。今も続いてるパソコン雑誌の創刊号だよ。古雑誌には違いないけど、状態は悪くないしネットオークションにでも出せばある程度の値は付く一品だね」 「そうなんだ。じゃあそれ、また売るの?」 「そんなことしないよ。転売屋じゃあるまいし」 「え……じゃあ、どうするの?」 「持っておくんだよ」 「持ってて意味あるの?」 「持ってるだけでも意味があるんだよ。私もPC関係は門外漢ってわけじゃないからね」 「ああ、そう……」  こんな調子で二人はお店を見て回っていく。 「あれ? 泉先輩にかがみ先輩じゃないスか」  不意にかけられた声に振り向くと、そこにはちょっと珍しいコンビがいた。 「おお、ひよりんにパティ」  一年生の後輩、田村ひよりとパトリシア=マーティンがそこにいた。青いシートを広げて古本や小物、アクセサリーなどを並べている。 「ハロー! コナタ、カガミ、こんなところであうなんてキグーですネ」 「そうだねぇ。ところで二人ともお店出してるの?」 「見ての通りっスよ。良かったら何か買ってって下さい」 「ふーむ……」  こなたはひより&パティが並べている品物をじっくり吟味する。古めのラノベや漫画本、文房具、それから衣類や小物等々……ふと、こなたはパティの左手首に目を留めた。 「ヘイ、パティ。その腕時計良さげだね。How much is it?」 「OH! It's mine. Priceless. お金で買えない価値があるでス」 「そりゃ残念」  パティは陽気に笑い、合わせてこなたも笑う。こういうフランクなノリはオタク同士のシンパシーというより、やはり性質なのだろう。 「かがみ先輩もどうぞ見ていって下さい」 「あ、うん……」  横からこなたの様子を眺めていたかがみは、とりあえず衣類など手に取ってみる。良いと思える物は無かった。  服はやめにして別のを見てみる。 「これは……」  ふと目に付いたそれを手に取った。 「おお。先輩お目が高いっスね」  かがみが手にしたのは、金色に輝く十字架のネックレスだった。安っぽい金ピカではなく、上品でシックな色合い。チェーンの部分には大小の珠を繋げてある。 「これって……何か……」  そうだ。あれに似ている。 「あっ、マリみてのロザリオじゃん!」  かがみが考えつつも口に出さなかったことを、こなたはズバリ言った。確かにこのネックレスは、小説『マリア様がみてる』にも登場するロザリオとそっくりだった。 「これいくら? まさか本物の金じゃないのよね」  こなたが買う気らしい。値段を尋ねると、パティが対応する。 「もちろんほんものではありませんかラ、おやすいですヨ。五百円にしておきまス」 「高い! 二百円で!」  知人が相手でも容赦はしない。既に値切り戦の体勢に入っているこなた。そして迎え撃つ気満々のパティ。  全日本オタク代表VS合衆国オタク代表、蚤の市値切り一本勝負が火蓋を切った。 「よくやるわ……」  火花散る値切り合戦を繰り広げるこなたとパティを、ため息まじりに見ているかがみだった。 (私が最初に見つけたのにな……)  ネックレスを眺めながら思う。買う気かどうか決めていなかったし、基本的にこういうのは早い者勝ちなのだから、文句を言う筋合いは無いが。少しだけ残念だった。  結局、三百二十円でそのネックレスをゲットしたこなただった。 「あんた、そんなことやってると友達無くすわよ」 「大丈夫だよ。向こうもああいうノリを承知してたし、後悔も後腐れも無し」 「そういうもんなの?」 「そういうもんなの。さて……」  大勢が行き交うフリマ会場を歩いて、そこだけ人が少なくエアポケットのようになっている噴水前にやってきた。 「休憩?」 「うん。あとこれ」  こなたは買ったばかりのネックレスを取り出した。 「これ、かがみが貰ってくれないかな」 「えっ……?」  かがみの目が点になる。 「いやごめん。言い回しが違うね」  こなたはしばし沈黙してから、おもむろに口を開いた。 「これ、かがみの首にかけてもいい?」  かがみにも、こなたが何をしようとしているのか分かった。 「いい年こいてマリみてごっこか! ていうかあんたがお姉さまかよ!」 「確かにごっこだけど、このネックレスはホントにあげるつもりだよ」 「え……な、何で?」 「んー、強いて理由聞かれたら困るけど……かがみの方が似合いそうだし、あげたいと思ったからかな」 「じゃあ……私のためにそれ買ったの?」 「うん。もちろん、儀式を受け入れてくれたらの話だけどね」  つまりはマリみてごっこでかがみと姉妹(スール)の儀式をする、その一発ネタのためだけにネックレスを購入したというわけか。 「あんたって人は……それだけのために値切りまでしてそれ買ったのか……」 「さっきパティが言ってたでしょ。プライスレス。お金で買えない価値がある」 「マリみてごっこがか」  ひたすら呆れるかがみだった。 「ごっこはともかく、こっちにはそれを貰う理由が無いんだけど」 「いいじゃん。理由の無いプレゼントだって、たまにはさ」 「……」 「理由が欲しいなら、日頃からお世話になってるからとか何とか、テキトーにでっちあげるけど、そんなの意味無いでしょ?」  話しながらこなたはネックレスを両手に構える。既にかがみを妹にする気満々だ。 「……つまりあんたはもう退く気無しなわけね」 「退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ! 真のオタに逃走は無いのだー!」 「わけわからんから」  大きなため息をついてから、かがみは軽く襟元を正した。ごっこをするのを了承したのだ。  噴水の前で、真っ直ぐに向き合い、 「お受けします」 「ありがとう」  少し爪先を伸ばして、こなたがかがみの首に擬似のロザリオをかけた。小説の方ならここでタイミング良く花火が弾けていたが、もちろん昼間のフリマ会場でそんなことがあるはずもない。  しかし、日常的な騒音の中でこなたと二人、神聖な儀式(の真似)をしているというのは、かがみにとってかえって気恥ずかしかった。別に注目されているわけでもないのだが。 「かがみ、顔赤いよ?」 「ばっ……いちいちそういうこと言うな!」  慌ててそっぽを向くかがみ。 「あら、いけないわね。お姉さまに向かってそんな口のきき方をしては」 「のらないわよ。ごっこはロザリオを受けるまででしょ」 「ちぇ……」  残念そうに舌打ちするこなただが、満足な表情を浮かべていた。そしてかがみも、ふくれっ面をしながら内心はまんざらでないようで、受け取った十字架を大事そうに握っていた。    そんな微笑ましい二人の様子を、やや離れた位置からじっくり拝見しているのは、ひよりとパティであった。声は聞こえずとも、こなたとかがみがどういう行為をしているのかはよく分かる。 「う~ん……はげしくグッジョブ! これこそまさにジャパニーズ・百合! 生でスールの儀式をはじめてみましタ」  生も何も、こなた達がやってるのはただのごっこで、小説のあれはフィクションなのだが。かなり興奮した様子のパティだった。 「まあ、先輩二人ともガチってわけじゃないだろうけど、何というか……色々と掻き立てられるもののある情景だねぇ」  こちらも勝手なことを呟くひより。頭の中では既に複数のプロット(R-18含む)が同時進行していた。 「フリマにきて、おもわぬシューカクですネ。これがタナバタというやつですカ?」 「それを言うならタナボタね。パティ、そろそろお店に戻らないと」 「あン、もうちょっとだけ見てたいのでス」 「気持ちは分かるけどさぁ……」  そう言いながらひよりも、もう少しという気分で二人の様子に目をやる。  こなたとかがみは、そろそろお店の方に戻ろうかと話し、並んで歩いていく。その隙間が、さっきより心なしか狭い気がするのは、やはり気のせいだろうか。  かがみがこなたとフリマを歩いた日。    お天道様と、出歯亀だけが二人を見ていた。 おわり **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - いや、こなたがかがみの嫁 -- 名無しさん (2021-06-10 04:11:55) - うむ。百合は日本の誇る文化なのだよ、パティ。 &br()(あと同人と2次元エロも) -- 名無しさん (2011-04-13 08:07:46) - まったくだね♪ &br()いい感じだww -- 名無しさん (2008-03-29 04:59:39) - いいねぇ。やっぱりかがみんはこなたの嫁だな。 -- 名無しさん (2007-07-20 19:41:00)

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