kairakunoza @ ウィキ

契りは、別れへの約束(前)

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こなたから、告白された。
一年生の頃から、ずっと好きだった人からの告白。嬉しくないはずが無かった。だけど……
私には、その想いに応える事は、出来なかった。
本当を言うと……かなり揺らいだ。一瞬、大学なんてどうでもいいじゃないか。こなたと
一緒にいられさえすればそれだけで、という考えがよぎった。また、私たちなら遠距離だって
やっていけるんじゃないだろうかとも思った。
だけど……やっぱり私には、悲しいほどに現実的な結論しか出せないみたいだ。
「愛さえあれば」。その甘い言葉に、どれだけの人生が狂わされた事だろう。
私は、そんな形の無いものを盲信できない。もちろん私のこなたへの想いは間違いなく本物だし、
こなただってそうだと確信できる。それでも……それだけじゃ、駄目なんだ。
泣きたくなるくらい残酷な現実。愛は、いずれ冷める。
どれだけ熱く煮えたぎった湯もいつかは常温に戻り、いくら高い山でも上り詰めてしまえば
後は下るしかないのだ。それが、現実。
もちろん、愛に生きる人を否定なんてしないし、馬鹿にもしない。どころか、心から尊敬さえ出来る。
そんな人が本当にいるなら。漫画やドラマの中じゃなく、現実に存在するとしたら、
本当に……羨ましい。私にはとても――出来ないから。


私は、主人公とヒロインが無事にくっついて幸せに過ごす、ベタベタなストーリーが好きだ。
いくらありえなくってもいい。登場人物が幸せならば。
現実は、こんな風に悲しい事がたくさんある。想い合っている二人が幸せになれない事など、
それこそ掃いて捨てるほどあるだろう。
そんなの――現実だけで充分だ。哀しみは、全て現実が引き受ければいい。
なら、物語の中くらいは。それくらいは、幸せで満ちていてもいいじゃないか。
これがもし物語だというなら、私は作者を恨むだろう。
どうして、私たちは幸せになれないのだ?
どうして、恋人と幸せになるハッピーエンドが用意できない?
どうして……どうしてもっと、物語に優しくしてやれないっ!?


私は泣いた。一日中我慢してきた色々な涙を、自分の部屋で流し尽くした。
こなたは言った。私に、「抱いて欲しい」と。
これから先愛し合う事が出来ないのなら、せめて一度でも想いが通じ合った証が欲しいと。
それは、どんなに切ない願い事だろうか。こなたは確かに18禁のゲームを嗜んだりもするが、
決して貞操観念が欠けている訳ではない。生半可な気持ちでの願いではなかったはずだ。
あの時、私は答えを保留した。少しだけ、考えさせて欲しいと。
泣きながら考え、考えに考え、私は答えを出した。


こなたを、抱こう。
私も、こなたと愛し合った証が欲しい。もしかしたらこれはとんでもない過ちなのかも
しれないけれど、そんなもの構うものか。私たちは、一緒になる事は出来ない。だったら……
少しくらい、幸せを味見したっていいじゃないか。

ごしごしと乱暴に腕で目を擦り、涙を拭う。携帯電話を手に取る。
発信履歴の、一番初めの番号。即ち、泉家の固定電話に私は電話をかけた。


コール音がやけに長く感じられる。
早く出て欲しいのか、永遠に出て欲しくないのか、私にも分からない。
ただ、ガチガチに緊張したまま、電話が通じるのを待っていた。
数度目のコール音がガチャっという音と共に途切れ、声が聞こえてきた。
世界で一番愛おしい声が。

「もしもし、泉ですけど……」
「……あ、こなた?私よ私。かがみ。」
「え、あ……か、かがみ?いやっはは……お久しぶりだねぇ~。」
「何が久しぶりよ。今日会ったばっかだっつーの。」

何とかいつも通り振舞おうとするが、どうしても微妙にぎこちなくなってしまう。
こなたもそれは同じようで、声が何となく震えている気がした。

「はは……そりゃそうだね。で……どうしたの?」
「……ん。今日のあんたのお願いの……返事。」
「……だろうネ。多分そうだと思ってたよ。で……どう、かな?」

緊張しきったこなたの声。拒絶されるのが、怖いのだろうか。
今ならまだ間に合う。頭の中でそんな声がするが、この怯えたこなたの声を聴いてしまって……
こなたを拒絶する事など、出来るはずもなかった。

「……いいわよ。抱いてあげる。私も、こなたを抱きたい。」
「ほ、ホントに……?ホントに、私を抱きたいって……思ってくれるの?」
「当たり前じゃない。好きな人を抱きたいのは、当然でしょ?」

……ちょっと、クサいかな。
自分のセリフに微妙に恥ずかしくなっていると、受話器から嗚咽が漏れてきた。

「……あの、ちょっと、こなた?もしかして、泣いてる……?」

心配になって、聞いてみる。何か変な事を言ってしまっただろうか。

「……ちっ、違っ……。ひぐっ、泣いて、なんか、ない……!」

……嘘だ。明らかに泣いている。
こなたは、こんなに涙もろい奴だっただろうか。いつものこなたなら……。
そこまで考えて、思い直す。


――そっか。そうよね。いつもの通りなワケ、ないわよね……――


きっと、ずっと不安だったのだろう。
私がどう答えるか。私に嫌われたりしてないか。
あそこで私が即答していれば、そんな不安に苛まれる事も無かっただろう。
だが、私は答えを保留した。だから、こなたはこんなにも怯え、私の答えを聞いた途端に
安心と喜びで泣き出してしまったのだ。
ごめん、こなた。私は、心の中で謝る。
あんたを不安にさせてごめん。それに、一緒にいてあげられなくてごめん。
代わりに、思いっきり愛してあげるから。最初で最後の、この機会に。
私は……一生分、あんたを愛してみせる。

「……こなた。大好きだよ。」
「……っ!!かがみぃ、ここでデレは……反則だよぉ……っ。」

こなたは、泣きながらも笑って、そう言った。
やっぱり、こなたには笑っていて欲しい。こなたが喜ぶのなら、ツンデレどころか
デレデレにだってなってみせる。もっとも、こなたに言わせれば
「かがみは分かってないヨ!ツンがあるからこそデレが映える!ツンとデレは切っても切れないコインの裏と表のようなもんなんだよっ!」
とか何とか力説しそうだけど。
しばらく経ってこなたも落ち着いたようで、改めて声を返してきた。

「……ありがと、かがみ。じゃあ、明日ウチに来てくれる?」
「え?明日?……いいけど。けど、家の人とかいるんじゃ……。」
「いやいや、明日はおとーさんは仕事の関係で出掛けててね。それに、ゆーちゃんは
みなみちゃんの家に行って泊まって来るらしいから、家には誰もいないんだよ。」
「……へぇ、そうなんだ……。」
「だからかがみ。かがみがどれだけ声をあげたって平気だよ♪」
「なっ……!誰がそんな声なんかあげるかぁっ!!」
「まぁまぁ。私特製の手料理、振舞ってあげるからさ!それとも、
かがみが私の為に料理作ってくれる~?」
「くっ……。私が料理ヘタなのを知っててその発言かっ……!」

電話の向こうでニヤニヤしているだろう事は確実な口調で、こなたは言う。
……変わり身の早い奴だ。もういつもの調子に戻っている。それ自体はいい事なんだけど、
これならしおらしいままの方が可愛げがあって良かったかも知れない。
もっとも、そう思うのは、普段のこなたが大好きだからなんだけど。

「じゃあ、明日こなたの家でいいのね?お邪魔するわよ?」
「もちろんうぇるかむだよ~。布団敷いて待ってるからね♪」
「それはいらん!」
「え~?かがみは私を床に押し倒す気~?」
「っていうか、あんたの家は布団じゃなくてベッドでしょうが!」
「む、ベッドじゃなく布団っていう所に風情があるんだけどね。」
「どっちでもいいわよそんなもん!」
「どっちでも良くないよ!愛するかがみと初めて結ばれるんだヨ!?全てに
こだわらなくてどうしますかっ!?」
「うわっ、そんな所でキレるか普通!?……あ~、分かった分かった。好きにしたら
いいわよ。……それじゃあ、また明日。お昼頃でいいのよね?」
「ん、了解。待ってるよ!」

そうして電話は切れた。
明日の事を考えると、私の頬は緩むのを止めてくれなかった。
例えそれが――別れへの約束になるのだとしても。


















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コメント:
  • GJ! -- 名無しさん (2022-12-29 17:10:36)
  • ハッピーエンドになって欲しいです。 -- 名無しさん (2010-07-19 13:21:30)
  • これは・・・かがこななのか
    いやーでもいいものだ -- 名無しさん (2008-03-25 20:42:14)
  • 「少しくらい、幸せを味見したっていいじゃないか。 」
    その言葉が切なくて、胸にグサっと刺さります。
    このかがみの独白は何度読んでも心が震えます。 -- 名無しさん (2007-11-05 01:44:15)
  • やべ、もう泣きそう
    -- GENIUS INDIAN (2007-09-05 00:16:08)
  •            -- 名無しさん (2007-08-23 22:03:08)

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