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春眠不覚寂

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だれでも歓迎! 編集
ふわふわとした暖かい空気。
さやさやと静かに流れる暖かい風。
そしてぽかぽかとやさしく照らす暖かい太陽の光。
そんな春真っ盛りの4月上旬のある日、私、泉こなたは堤防の斜面の草むらに寝転がっていた。
大学の入学式や授業の登録とかの準備も終わって、ちょっと一息つける時間ができた休日。そ
れまで時間があったらネットかゲームをしていたから、久しぶりに外に出てみようかなと思っ
て家の近くの堤防まで散歩してみた。この堤防は桜の名所として有名で、すぐそばだから
家からでも十分見ることができるんだけど、今日はなんとなく近くまでいってみたくなっちゃ
ってね。毎年のように見てるけど、いつ見てもすごいというか、とてもきれいだなって思うん
だよね。……まあでもずっと見上げながら歩くから首が疲れるんだけど。
まあそんなわけで今は疲れたから堤防で一休みって感じ。仰向けになりながらソメイヨシノの
花を見上げるっていうのもやっぱオツだねー。
「……ふわぁ~……」
とはいえ今朝までのネット三昧と、今日のとってもぽかぽかの春の陽気にあてられたせいか、
かなりの眠気が襲ってきてるんだよね。夢うつつというか、軽く意識が消えかかってるという
か……


「……まるでこの暖かな空気に、わたしたちが溶け込んでってるみたいだよね~」


「そこ、恥ずかしい……ってうおっ!?」
まどろみの中、ふと耳に入ってきた声に思わずツッコミを入れてしまうところだったけど、寸
前に驚きがかろうじて上回ったことで、思わず仰け反ってしまった。
「つ、つかさ!? いつの間に隣に? ていうかなんでここにいるの? さらに言うけど勝手にこっ
ちの心の中読まないでくれる?」
隣で寝そべるその声の主――高校時代のクラスメイト、柊つかさは、自身も目を見開いてこち
らを見ていた。どうやら私の声にびっくりしちゃったみたいだけど、そんなつかさの様子とこ
の不思議なシュチエーションに、思わず3つもツッコんでしまった。口調も少し早口気味だっ
たし、ちょっと混乱してる。眠気もどっかに行っちゃったよ。

「え、えーっと……そんなにいっぱい聞かれても、どの質問から答えればいいのかわからない
よぅ」
「……うん、ごめん。悪かった、私が悪かったよ……」
頭の上に?マークを飛ばしてるのはつかさも同じだけど、私とは理由が違ってるみたい。そん
なつかさの様子に毒気が抜けてしまったのか、とりあえず体を起こした私は気持ちちょっと落
ち着いて、ゆっくりとひとつずつ質問してみることにした。
「えーっと……いつから私の隣にいた?」
「ついさっきだよ」
「そもそもなんでここにいるの?」
「えっとね……なんとなく?」
「いや私が聞いてるんだけど?」
最初からひとつずつ丁寧に質問をする私に、私と同じように座っているつかさも律儀に答えて
くれた。答えになってないものもあるけど。
「あと、勝手に人の心を読まないでほしいなぁ。ていうか、なんでわかったの?」
「……それもなんとなく、かな? こなちゃんとても眠そうだったから。わたしもこなちゃんに
倣って寝転がってみたけど、そしたら眠たくなってきちゃって、思わず……」
「だからって、何でそんな恥ずかしいセリフが出てくるかなぁ……」
まぁつかさらしいっちゃらしいけど。

そんなこんなで一通り質問が終わり、私はもう一度仰向けに寝そべった。見上げればもちろん
きれいな桜が視界いっぱいに広がってくる。休日なのに人通りはあまりないから桜はほぼ私の
独り占め状態。あ、つかさもいるから独り占めってわけにはいかないか。
そう思って一度つかさのほうに顔を向けてみると、つかさはなぜか座ったまま私のほうを見て
いた。その表情はポカンとしているというか、まだ頭に?マークが浮かんでいるような感じだ
った。
「……どったの、つかさ?」
「……もう聞きたいことってないの?」
「……ふえっ?」
予想もしない答えに、私は思わず間抜けな言葉を発してしまった。
「いやいやもう全部質問は終わったけど……もしかしてずっと質問待ちしてた?」
「え? うん、そうだけど……」
小首を傾げるつかさを見て、私は思わず「やれやれ」とキョンの真似をしたくなる心境になっ
た。つかさ、春とはいえいくらなんでもボケボケ過ぎない?
「……まぁいいや、とりあえず桜見よっ?」
私は呆れながらも再度寝転がり、左手でポンポンと地面を叩いてつかさに私の隣に寝転がるよ
う促した。つかさは一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに「うん!」と嬉しそうに私の隣に
来て寝転がった。


「……本当に綺麗だね、ここの桜」
「でしょ? 私なんか毎年見てるけど、いつも綺麗だなって思うよ」
「うんうん……それに天気もいいし、また眠くなってきちゃいそうだよ」
「まさに春って感じだよねー」
……なんというか、今こっちを見ている人の目にサーモグラフィーとか付いてたら、絶対私達
の周りだけ真っ赤になってると確信できるぐらいまったりした空気が流れてるなぁ。けど、な
んか久しぶりだな、こんな感じ。卒業してからそんなに時間は経ってないはずなのに、それが
どこか懐かしく感じるよ。
「……ふふっ」
つかさもこの空気を感じ取ったのか、嬉しそうに笑みをこぼした。
「……懐かしいね、こんな感じ。卒業してからそんなに経ってないのにね」
どうやらつかさも私と同じことを考えてたらしい。表情は穏やかだけど、声のトーンはどこか
寂しそうだった。
「……うん、そうだね」
「……でも、こなちゃんがあまり変わってなくてよかったよ~」
「……うん?」
私も少しトーンを下げて返すと、つかさがちょっと不思議なことを口にした。私があまり変わ
ってない? どういうことだろう……
「……あーはいはい、どーせ私は全然身長も胸も大きくなってないですよー」
「わわっ、わたしそんなつもりで言ったんじゃ……」
「ふーん、どうだか……」
「は、はうぅ……」
……もちろんそんなことは本気で思ってませんよ? ただつかさの反応が面白くなりそうだか
ら、ちょっと悪乗りしてみただけですよ?
「さて冗談はおいといて……えっと、「私が変わってない」って、どゆこと?」
私が物を左から右に置きなおすジェスチャーをしながら質問すると、つかさは「そっか~」と
ホッとしたように胸をなでおろし、次にはちょっと困ったように人差し指を口元に持ってきて、

「……こなちゃん、寂しくなってないかなって」

「えっ……?」
「えっとね、卒業してしばらく受験勉強で忙しかったから、わたし達とこなちゃんが会う機会
もめっきり減ってたでしょ? 4月に入ってからも大学の説明会とかで時間が合うことも少な
かったし。だからこなちゃん、一人ぼっちで寂しくないのかな? と思ったんだけど……」
「…………」
なるほど、そういうことか。つまりつかさは、つかさ達と離れた私が心細くなってないか心配
だったということですか。……ん?
「ということは、つかさが今日ここに来たのも……」
「うん、お休みができたらこなちゃんの家に行こうって思ってたの」
ちょっと心配だったから、と言って頬を掻くつかさ。ちょっと恥ずかしそうなその仕草に私は
ピーンときた。なるほど最初に聞いたときに「なんとなく」と答えたのはちょっと恥ずかしか
った、というか言いにくかったのかな、久しぶりだったから。
私はそう考えてつかさのほうに目を向けた。するとつかさは恥ずかしそうにしていた顔をゆっ
くり、そして大きく綻ばせて、
「……でもそんな心配しなくても、こなちゃんはこなちゃんだったね。ぜんぜん変わってなく
て、ホントに嬉しい!」
そういって、私に満面の笑みを向けるつかさ。それは思わず「うおっ、まぶし!」と言ってし
まいそうなくらい眩しかった。

「…………」
「……こなちゃん? どうしたの?」
「……ふえっ?」
おっといかんいかん、知らぬ間につかさの笑顔に見とれて軽く意識が飛んでた!
「あ、えーっと……ハハハッ、ち、ちょっと今日の暖かさにあてられてねー、ボーっとしちゃ
ったみたい」
私は心の中で焦りながら、それを気づかれないように、あくまで冗談風につかさに返事をした。
そして思いついたことを適当に言って、話を逸らすことにした。
「そ、そういえば最近朝も暖かいから起きるのが億劫だよねー」
うわっ、適当にもほどがあるでしょ! とセルフ突っ込み。脈絡なし、しかも早口、それに実際
は徹夜ネトゲで寝不足なだけで事実でもないし! それでもつかさは「うんうん」と何の疑問も
なく同意してくれた。
「わたしも朝起きるのがつらくてね。あの、春眠暁がどうのってやつで……」
「それって、いつものことじゃない?」
「そ、そんなことないよー! さ、最近はちゃんと早く起きようって努力してるもんっ!」
「ほほぅ。……で、実際は?」
「ううっ……だ、だってお布団のなかが気持ちいいんだもん……」
「……こりゃその努力もやめちゃいそうだね」

こんなつかさとのやり取りの間、わたしはさっきつかさに心配されたことを思い出していた。
確かに少しも寂しくなかったといえば嘘になる。今まで当たり前だと思っていたことが当たり
前でなくなるんだし、多少なりとも寂寥感、喪失感はある。

でもね?




「……春眠寂しさも覚えず、ってね」
「えっ? こなちゃんなんか言った?」
「んにゃ、なんにもー」
私はそう言って不思議そうに首をかしげるつかさを放置して再び堤防に寝転がり、きれいに咲
く桜を見上げてみた。




つかさとこうやってしょーもないことを話して、しょーもないことで笑いあって。

そしてそんなつかさの、何の屈託のない笑顔を見るだけで。

そんな寂しさなんか、どっかに行っちゃうんだから。










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  • 貴方の作品のつかさは、マザーテレサ?
    聖人君子に思えます! -- チャムチロ (2012-10-29 12:29:45)

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