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オタク少女は恋する乙女の夢を見るか 3話

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匿名ユーザー

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帰りのHRが終わり、放課後。
七限目の授業の途中から高くなり始めた鼓動は、今や高橋名人の連射も超えるレベルとなっている。
「田村さーん。一緒に帰ろ?」
小早川さんは朝から積極的に私に話し掛けてきている。
昨日相談しちゃって、余計な心配かけちゃったかな……
岩崎さんも私のことを心配そうに見ている。
ダメ、岩崎さんが見ているのは小早川さんじゃないと。
「ゴメン、今日はアニ研の方で用事があって、一緒に帰れないの」
「え、少し遅くなるくらいなら待ってても……」
「いやー、部誌の原稿落としそうでさ。あ、もう時間が。ゴメン、もう行くね」
何かを言いかけた小早川さんを置いて、私は足早に教室を出る。
もちろん、書きかけの原稿なんてない。
部誌の締め切りはこう先輩に無理を言って延ばしてもらったし、
今日の集まりも欠席する連絡を入れてある。
昨日の別れ際に約束した時間、告白の返事を返す刻限が迫っている。


あてもなく校舎を歩く私。
約束の時間まであと30分。おかしくなってしまいそうな鼓動の高鳴りに、じっとしていることのできない。
ぐるぐる回る思考、高まる鼓動。少しでも押さえ込むために私は校舎の中をぐるぐる回る。
私は、彼のことが好き?
分からない。恋愛なんて自分で考えたこともなかった。
恋なんて漫画の構成要素。
時にはそれが男の人同士、女の人同士だったりするけれど、
そういった場面で恋に落ちるのは、私なんかとは違うかわいい女の子やかっこいい男の人。
私の周りでいったら小早川さんと岩崎さんのような……あ゛ーっ、だからみな×ゆたは自重しろ自分。
ともかく、あんなかわいい女の子とかっこいい人が結ばれるもの、私になんて手に届かないものだと思っていた。
でも……うっ、昨日のことを思い出すな、思い出すな自分!!
廊下を歩く速度がさらに速くなる。
学食、購買、体育館。部活へ急ぐ人たちが黙々と歩く私をどんな目で見ているかすら気が回らない。
何も考えず、とにかく手近にあった階段を登る。
そんなことよりも、どうしたらいいかが分からなくて。
今までこんなシチュなんて何度も漫画やゲームで見てきたし、自分の本でも書いてきた。
でも、私みたいなかわいくない女の子の場合なんて、どこにも載ってない。
なんで小早川さんみたいなかわいい女の子に告白しないんだろう。
どうして岩崎さんのようなきれいな人に告白しないんだろう。
どうして、私みたいな……
「あ、田村さん。来てくれたんだね」
「ひゃぅっ!!」
突然の声にびくっと私は立ち止まる。
壁にもたれかかって笑っている彼。
周囲を見渡す。ここは特別教室棟の端っこ
って……待ち合わせの場所に着いちゃったじゃないっすか!!
あ゛ーっ、わたしのバカバカバカっ!! まだ決心がついていないのに……


「それで返事、聞かせてもらえるかな」
夕日に照らされる彼の顔。
見つめていると、またも心臓がバクバクと音を立てて鳴りはじめる。
言葉が出ない。言おうと考えていた候補はいくつもあったのに、
ま、まずなんて言ったらいいんだろ。あ、こんなんじゃ変に思われちゃう。
焦れば焦るほど言葉が出てこない。
「あの……あの、私、今まで誰かと付き合うなんて考えたこともなくて、
 だから、好きってのもよく分からなくて、だから昨日からずっと考えていたんです」
もう、何を言うか考えている余裕なんてない。
思いついている言葉を、心に浮かんだ言葉をそのまま吐き出す。
「昨日からずっと好きってことを考えていて、でもよく分からなくて、
 で、でもっ、なんだかよく分からないんだけれども、あなたと一緒に居たいんです。
 あなたと一緒にいるドキドキが気持ちいいんです。だから、そばに居させてください!!」
あぅぅっ、なんだ、この馬鹿っぽいセリフ。
思いつくままに言ってみたら、こんな感じになっちゃった。
真っ赤になった顔をあげることもできず、ぎゅっと俯く。
自分の同人誌だったら、こんなセリフを絶対に登場人物に言わせたりしないのに、
何で自分の考える言葉はうまく言えないんだろう。
絶対、彼、変な娘だと思っちゃったよなぁ……
彼が一歩近づく感覚。
後ろに腕を回して、軽く抱きしめられる。
「僕も君と一緒にいたい。君は好きって感覚が分からないといっていたけれど、
 それでも、一緒にいたいと思ってくれるなら僕には充分だ。
 これから君に、もっともっと好きって感覚を教えてあげるから」
彼の顔がすっと近づく。
唇に包まれる、暖かな抱擁感。
粘膜を通して伝わってくる、相手のぬくもり、心地よさ。
それがキスだと分かったのは、彼が顔を離した後だった。
きゅっと、顔が紅潮する。唇を両手で抑えた。
「あれ……もしかしてキス、嫌だった?」
彼の言葉にふるふると首を振る。
恥ずかしくて、彼の顔を見ることもできず、俯いたままでしか喋れない。
「キス、初めてだったから」
彼はどんな顔をしているのだろう。恥ずかしくて顔をあげられない。
いまどきキスしたぐらいでこんなに真っ赤になっちゃうなんて、絶対変だよね……
彼の手がすっと伸びて、私の眼鏡の弦を掴む。
彼の指先が私の下がった前髪をかきわける。
ぼやける視界には、彼の顔しか映らない。


「田村……いや、ひよりさん。やっぱり君は眼鏡を取ったほうがかわいいと思うよ」
顔が近づき、今度は軽くついばむようなキス。
目を閉じて、何度も繰り替えす甘い彼の感触に浸る。
「ひよりさん……」
彼の手が、肩からすっと体のラインを伝って降りてゆく。
それが更なる行為を促すものだと分かり、私は彼の名を呼ぼうとする。
緊張して、震えてうまく声が出せないけれど……
「あ、あの……」
バツッ、といきなりの無機質な音が聞こえて、びくっと私は縮み上がった。
しばらくして屋上に取り付けられたスピーカーから音楽が流れ始める。
スピーカーのノイズに彼も驚いたのか、体が離れている。
へなへなと体の力が抜けてゆく。
下校を促すこの時間のチャイム。
私が乗らなきゃいけないバスの最終便の時間が近づいている。
「あの、もう時間が。ごめんなさ……」
謝りかけた私の唇を、彼の指がそっと抑える。
「大丈夫、僕たちにはこれからずっと時間があるから。続きは明日、ね」
同人誌でしか知らないこの続きが頭の中を一瞬で埋め尽くし、私の顔が沸騰しそうになる。
そんな私の背中をそっと押して、彼は送り出してくれる。
「校門まで送っていくよ。少しでもずっと居たいからね」
彼の差し出した手。
ぎゅっと握って、二人で階段を降りていく。
相変わらず心臓の鼓動はおさまらない。
でも、階段を上るときにはなかった幸せを抱えて、私は階段を下りてゆく。


















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  • ひよりかわいいじゃないか… -- 名無しさん (2008-01-12 08:59:06)

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