その日、私は一人で帰った。
こなちゃんとお姉ちゃんには悪いけど、何となく一人で帰りたかった。
帰って、自分の部屋で考え込んでみる。
ええと、初めてであったのは、入学式の日のホームルームだよね。今思い返せば、懐かしい。
それからは、あまり関わりがなかったんだよね。私は内気な性格なのに、高良君の周りにはいつも人がいたから・・・。
でも、今日、久しぶりに長く話すことが出来た。それから、私は胸に何かがつっかえたような気がしてならない。
「はぁ・・・」
自然と溜息が出ちゃった。・・・一体、私はどうなっちゃうの~?
こなちゃんとお姉ちゃんには悪いけど、何となく一人で帰りたかった。
帰って、自分の部屋で考え込んでみる。
ええと、初めてであったのは、入学式の日のホームルームだよね。今思い返せば、懐かしい。
それからは、あまり関わりがなかったんだよね。私は内気な性格なのに、高良君の周りにはいつも人がいたから・・・。
でも、今日、久しぶりに長く話すことが出来た。それから、私は胸に何かがつっかえたような気がしてならない。
「はぁ・・・」
自然と溜息が出ちゃった。・・・一体、私はどうなっちゃうの~?
―――
「いただきまーす」
家族4人の合唱で、私たち、柊家の夕食が始まった。
今日は、みんな大好きカレーライス。シンプルだけど、おいしいんだよね~。
ちなみに、いのりお姉ちゃんと、まつりお姉ちゃんはお友達と外食する、と言っていたから、今はいない。ちょっとだけ寂しい。
「そういえば、学園祭が近づいているみたいだけど、二人とも順調かな?」
ふと、お父さんが食事中にそう聞いた。
「ん、大丈夫。準備は予定通りに進んでいるから。
つかさたちのクラスはどうなの?」
「え? あ、うん、その・・・」
学園祭・・・と言われると、嫌でも彼のことを思い出しちゃう。
自然と、口から出る言葉は、歯切れが悪くなっていた。
「ま、まあ、その・・・順調、だよ?」
何とか笑顔を取り繕って、答えた。
「・・・つかさ。何かあったのかい」
でも、それはすぐにお父さんに看破されちゃった。
お父さんの顔は、いつもどおり穏やかに見えたけど、眼光が鋭いような気がした。これって気のせい・・・だよね?
「え!? い、いや、何でもないよ?」
「つかさ。何か、悩みがあるならいいなさい。私たちは家族だろう?」
お父さんの言葉が胸に刺さる。活字だけだったら、穏やかに見えるけど、お父さんの声には有無を言わさぬような力強さがこもっていた。
「つかさ・・・。やっぱり、何かあったの? 今日も、一人で帰ったみたいだし・・・」
お姉ちゃんも、追い討ちをかけるように(本人はそう思ってないだろうけど)、言った。
お母さんは、不安げな顔でこちらを見ている。
私は俯いて考え込んでしまう。でも、こんなことで悩んでいるなんて言うのも何だか馬鹿馬鹿しい。
「ううん、本当に何でもないの。
そ、それより、早く食べようよ! ・・・ね?」
だから、私はさっきと同じように笑顔を取り繕った。
すると、他のみんなは顔を見合わせたけど、
「・・・まあ、つかさがそういうのならいい」
お父さんがそう言って、会話は一旦終了した。
その後は、いつもと変わりない穏やかな会話が続いたから、ほっとした。
良かった。こんなことで、みんなを困らせたくないもん。
「ごちそうさま~。じゃあ、私は部屋に行ってるね」
「あ、つかさ・・・」
お姉ちゃんは、何か言いたげだったけど、私は食べ終わると、すぐに部屋に引っ込んだ。
今日は、何だか色々と疲れた。お風呂に入って、さっさと寝ちゃおう。
・・・うん、眠れば、嫌なことは全部忘れられるもん。
家族4人の合唱で、私たち、柊家の夕食が始まった。
今日は、みんな大好きカレーライス。シンプルだけど、おいしいんだよね~。
ちなみに、いのりお姉ちゃんと、まつりお姉ちゃんはお友達と外食する、と言っていたから、今はいない。ちょっとだけ寂しい。
「そういえば、学園祭が近づいているみたいだけど、二人とも順調かな?」
ふと、お父さんが食事中にそう聞いた。
「ん、大丈夫。準備は予定通りに進んでいるから。
つかさたちのクラスはどうなの?」
「え? あ、うん、その・・・」
学園祭・・・と言われると、嫌でも彼のことを思い出しちゃう。
自然と、口から出る言葉は、歯切れが悪くなっていた。
「ま、まあ、その・・・順調、だよ?」
何とか笑顔を取り繕って、答えた。
「・・・つかさ。何かあったのかい」
でも、それはすぐにお父さんに看破されちゃった。
お父さんの顔は、いつもどおり穏やかに見えたけど、眼光が鋭いような気がした。これって気のせい・・・だよね?
「え!? い、いや、何でもないよ?」
「つかさ。何か、悩みがあるならいいなさい。私たちは家族だろう?」
お父さんの言葉が胸に刺さる。活字だけだったら、穏やかに見えるけど、お父さんの声には有無を言わさぬような力強さがこもっていた。
「つかさ・・・。やっぱり、何かあったの? 今日も、一人で帰ったみたいだし・・・」
お姉ちゃんも、追い討ちをかけるように(本人はそう思ってないだろうけど)、言った。
お母さんは、不安げな顔でこちらを見ている。
私は俯いて考え込んでしまう。でも、こんなことで悩んでいるなんて言うのも何だか馬鹿馬鹿しい。
「ううん、本当に何でもないの。
そ、それより、早く食べようよ! ・・・ね?」
だから、私はさっきと同じように笑顔を取り繕った。
すると、他のみんなは顔を見合わせたけど、
「・・・まあ、つかさがそういうのならいい」
お父さんがそう言って、会話は一旦終了した。
その後は、いつもと変わりない穏やかな会話が続いたから、ほっとした。
良かった。こんなことで、みんなを困らせたくないもん。
「ごちそうさま~。じゃあ、私は部屋に行ってるね」
「あ、つかさ・・・」
お姉ちゃんは、何か言いたげだったけど、私は食べ終わると、すぐに部屋に引っ込んだ。
今日は、何だか色々と疲れた。お風呂に入って、さっさと寝ちゃおう。
・・・うん、眠れば、嫌なことは全部忘れられるもん。
―――
「・・・あなた。いいの?」
かがみとつかさが、部屋に戻るのを確認すると、みきが話を切り出した。
すると、ただおは、
「無理強いして聞いても仕方ないよ。悩み始めたのも、今日が初めてのようだしね。
自分の中でも、まだ整理がつかないんだろう。今は、落ち着いて様子を見ようと思ってね」
穏やかに、だが力強い声で言った。
「・・・そうね。あの子も、お年頃だもの」
「ふむ。まさか、色恋沙汰にでも・・・」
「そうだといいわね」
「・・・そうかね」
「あら、嬉しくないの?」
「娘の幸せは願いたいが・・・父親として、ちょっと複雑だな」
「まあ、別にそう決まったわけでもないもの」
「・・・そうだな。
それに、私は、つかさが幸せであればそれでいい」
「その通りね」
みきは、ふふふと言って微笑んだ。
かがみとつかさが、部屋に戻るのを確認すると、みきが話を切り出した。
すると、ただおは、
「無理強いして聞いても仕方ないよ。悩み始めたのも、今日が初めてのようだしね。
自分の中でも、まだ整理がつかないんだろう。今は、落ち着いて様子を見ようと思ってね」
穏やかに、だが力強い声で言った。
「・・・そうね。あの子も、お年頃だもの」
「ふむ。まさか、色恋沙汰にでも・・・」
「そうだといいわね」
「・・・そうかね」
「あら、嬉しくないの?」
「娘の幸せは願いたいが・・・父親として、ちょっと複雑だな」
「まあ、別にそう決まったわけでもないもの」
「・・・そうだな。
それに、私は、つかさが幸せであればそれでいい」
「その通りね」
みきは、ふふふと言って微笑んだ。
―――
「おはよう、こなちゃーん」
「おーす、つかさ他一名」
「略すな! つーか、むしろ、文字数多いし!」
「まあまあ、気にすることないじゃーん?」
翌日。いつもの賑やかな朝が始まった。
きらりと光る太陽と青空を見ていると、何か、全てがどうでも良く感じられた。そのせいか、私の心はとても穏やかだった。
「そういえば、昨日のつかさはおかしかったけど、大丈夫?」
「そういえば、昨日は、つかさも私たちと帰ってくれなかったよね。何かあったの?」
お姉ちゃんとこなちゃんが、私の顔を覗き込む。
でも、私の心はとても穏やかで、晴れやかだった。
「うん、でも、もう大丈夫。だから、心配しなくてもだいじょぶだよ」
と、本心の笑顔でそう言った。
「・・・そう。でも、何かあったら言いなさいよ?」
「そうそう。私たちは友達なんだから!」
二人の言葉がとても心強く感じた。ありがと、お姉ちゃん、こなちゃん・・・。
「おーす、つかさ他一名」
「略すな! つーか、むしろ、文字数多いし!」
「まあまあ、気にすることないじゃーん?」
翌日。いつもの賑やかな朝が始まった。
きらりと光る太陽と青空を見ていると、何か、全てがどうでも良く感じられた。そのせいか、私の心はとても穏やかだった。
「そういえば、昨日のつかさはおかしかったけど、大丈夫?」
「そういえば、昨日は、つかさも私たちと帰ってくれなかったよね。何かあったの?」
お姉ちゃんとこなちゃんが、私の顔を覗き込む。
でも、私の心はとても穏やかで、晴れやかだった。
「うん、でも、もう大丈夫。だから、心配しなくてもだいじょぶだよ」
と、本心の笑顔でそう言った。
「・・・そう。でも、何かあったら言いなさいよ?」
「そうそう。私たちは友達なんだから!」
二人の言葉がとても心強く感じた。ありがと、お姉ちゃん、こなちゃん・・・。
―――
「ほーい。いよいよ、文化祭は明日やけど、今日の準備時間もせっせと準備するようにー。
・・・それと、文化祭だからって浮かれて、授業に集中せん、なんちゅうのは許さへんからな。そこんとこ、頼むで!」
「はーい」
黒井先生の言葉に、私たちは元気良く返事をする。
いよいよ、文化祭は明日に迫った。・・・そう思うと、何だか緊張する。
準備はあらかた終わったから、もう大丈夫とは思うけど・・・
「ほんじゃ、今日も気合入れて頑張るように! 以上や」
黒井先生はそういって、ホームルームの時間を終わらせた。
休み時間になると、こなちゃんとお姉ちゃんが私の机に集まって、いつもの時間が始まった。
「はー。もう、明日が文化祭なんだねー。実感、湧かないや」
「あんたは、もう少し、緊張感を持ちなさいよ・・・。つかさはどう?」
「あ、もう、多分、大丈夫だと思うよー。今日、最終確認をして終わり、かな?
どうだったっけ、こなちゃん」
「んー。私もあまり覚えてないやー」
「あんたたちって言う人は・・・。はー、全く、この学校の生徒だって言う自覚はあるの?」
「いいじゃん、いいじゃん。楽しめられれば。
そういえば、当日って、やっぱり、この三人で周る?」
「んー。まあ、そうじゃないの」
お姉ちゃんにしては、珍しく歯切れが悪い。何かあったのかな?
「ふっふーん。クラスからハブられるかがみん萌え♪」
「違うわ! あんたと一緒にしないで頂戴よ!」
口ではそんな事を言っているけど、お姉ちゃんの顔は真っ赤だった。
あからさま過ぎて、私でも十分に分かる。お姉ちゃんももっと素直になれば良いのに・・・。
「やっぱり、かがみはツンデレだなー」
「ま、まあまあ、こなちゃんもお姉ちゃんも落ち着こうよ。・・・ね?」
「まあ、つかさがそういうなら仕方ないけど・・・」
「ツンデレ萌え~」
「うっさい、黙ってろ!」
二人のそんな会話を見ていると、何だか、ほほえましい。そして、何だかうらやましい。
元々、お姉ちゃんは私を通じて、こなちゃんとお友達になったけど、いつの間にか、私以上にこなちゃんと親密になっていた。
意味もなく窓を通して、空を仰ぎ見る。雲ひとつない、透き通るような青空は私に、勇気と元気を与えてくれた・・・気がする。
明日は、いよいよ文化祭。楽しくなればいいな・・・。
・・・それと、文化祭だからって浮かれて、授業に集中せん、なんちゅうのは許さへんからな。そこんとこ、頼むで!」
「はーい」
黒井先生の言葉に、私たちは元気良く返事をする。
いよいよ、文化祭は明日に迫った。・・・そう思うと、何だか緊張する。
準備はあらかた終わったから、もう大丈夫とは思うけど・・・
「ほんじゃ、今日も気合入れて頑張るように! 以上や」
黒井先生はそういって、ホームルームの時間を終わらせた。
休み時間になると、こなちゃんとお姉ちゃんが私の机に集まって、いつもの時間が始まった。
「はー。もう、明日が文化祭なんだねー。実感、湧かないや」
「あんたは、もう少し、緊張感を持ちなさいよ・・・。つかさはどう?」
「あ、もう、多分、大丈夫だと思うよー。今日、最終確認をして終わり、かな?
どうだったっけ、こなちゃん」
「んー。私もあまり覚えてないやー」
「あんたたちって言う人は・・・。はー、全く、この学校の生徒だって言う自覚はあるの?」
「いいじゃん、いいじゃん。楽しめられれば。
そういえば、当日って、やっぱり、この三人で周る?」
「んー。まあ、そうじゃないの」
お姉ちゃんにしては、珍しく歯切れが悪い。何かあったのかな?
「ふっふーん。クラスからハブられるかがみん萌え♪」
「違うわ! あんたと一緒にしないで頂戴よ!」
口ではそんな事を言っているけど、お姉ちゃんの顔は真っ赤だった。
あからさま過ぎて、私でも十分に分かる。お姉ちゃんももっと素直になれば良いのに・・・。
「やっぱり、かがみはツンデレだなー」
「ま、まあまあ、こなちゃんもお姉ちゃんも落ち着こうよ。・・・ね?」
「まあ、つかさがそういうなら仕方ないけど・・・」
「ツンデレ萌え~」
「うっさい、黙ってろ!」
二人のそんな会話を見ていると、何だか、ほほえましい。そして、何だかうらやましい。
元々、お姉ちゃんは私を通じて、こなちゃんとお友達になったけど、いつの間にか、私以上にこなちゃんと親密になっていた。
意味もなく窓を通して、空を仰ぎ見る。雲ひとつない、透き通るような青空は私に、勇気と元気を与えてくれた・・・気がする。
明日は、いよいよ文化祭。楽しくなればいいな・・・。
―――
「つかさー」
「ん、何? こなちゃん」
放課後、荷物をかばんに詰め込んでいると、こなちゃんに話しかけられた。一体、何だろう?
「悪いんだけどさ、今日、一緒に帰れなくなっちゃった」
「え? こなちゃん、何か用事あるの?」
「んー・・・。まあ、ね」
何だか、思わせぶりな返事。私は、ただ首を傾げるしかなかった。
「本当にごめん。埋め合わせは今度するから」
本当に申し訳なさそうな顔で、両手を合わせながら、こなちゃんは言った。
誰だって、人には言いたくないことがあるよね。仕方ないもん。
「ううん、いいよ。こんなこと、いくらでもあるもん。
だから、気にしなくて良いよ?」
「ありがとう、恩に着るよ、つかさ。んじゃ、また明日ねっ!」
よほどの急用があるのか、こなちゃんは手を振ると、鞄を持ってさっさと教室を出て行ってしまった。
「今日も一人かー。・・・まあ、たまにはこんなことがあってもいいよね。
きっと、明日は楽しくなるだろうし・・・」
自分に、そう言い聞かせると、私は教室を出て、帰ることにした。
校舎を出ると、私を迎えるように、木枯らしが吹いた。
「・・・今年は早いね。もう、木枯らしの季節かあ」
空を仰ぎ見る。透き通るような青空だったはずの空は、もう、夕陽に染まっていた。
「今日も一日終わったぁ・・・。明日も頑張ろうっと」
独り言ちると、私はスクールバスを待つ列に並んで、スクールバスを待つ。
何だか、自分に言い聞かせると、意味もなく楽しい気分になった。
「あれ? つかささんではありませんか」
夕焼けを眺めていた私を振り向かせたのは、高良君だった。
いつものように、穏やかな微笑をたたえて、私の後ろに立っている。
高良君を見た瞬間、私の心臓の鼓動が早くなるのが分かる。うう、これってやっぱり・・・。
「い、委員長? どうしたの?」
出来るだけ、冷静を装って聞いてみる。
すると、高良君はメガネを押し上げてから、
「いえ、たまたま、前につかささんがいましたから、話しかけてみようと思っただけですが。
お嫌でしたか?」
高良君は、私の動揺に気付いていないようだった。
「ううん、そんなことないよー。
でも、意外だね」
「何がですか?」
高良君はキョトンとした顔を見せる。
「いや、委員長っていつも、友達と一緒にいるから、帰りが一人だなんて意外だなーって思って」
「ああ、そうでしたか。残念ながら、僕の友人はみんな、部活動に所属していましてね。
ですから、帰りはいつも一人なんですよ」
「そうなんだ。はなはだしく意外だよ」
「ははは。そうかもしれませんね」
そう言って、高良君は笑顔を見せる。とっても爽やかな笑顔だった。
「そういえば、明日は、いよいよ桜藤祭だね」
「ええ・・・。そうですね。本当に、長いようで短いような・・・そんな準備期間でしたね」
「あ、それ分かるよー。光陰矢のごとし、だったっけ?」
「良くお分かりですね」
「あ、ううん。これ、お姉ちゃんの受け売りなだけだし・・・」
「いえ、そんなことありませんよ。きちんと知識を得て活用しているではありませんか」
少しうつむく私に、高良君は優しく褒めてくれた。
良かった、高良君がいい人で。
「あ、ありがとね」
「いえいえ、そんなことはないですよ。
あ、バスが到着いたしましたね」
高良君の言うとおり、いつの間にかスクールバスが、着いていた。
「つかささん、良ければ、隣に座りませんか?」
「えっ?」
突然のことに戸惑ってしまう。
高良君が? 私の隣に?
そ、それはうれしいけど、えっと、えっと・・・。い、いいのー?
「ああ、勿論お嫌ならいいのですが。
ただ、こうして下校時に、偶然に出くわせたのも何かの縁かと思いましてね」
「そ、そんな。嫌なわけないよ?
だ、だって、委員長を嫌う人なんているわけないもの」
そのとき、どんな顔をしていたか、私は分からない。でも、きっと、とても真っ赤だったと思う。
高良君は、くすりと笑って、
「そう言っていただければ、光栄です」
と、言った。
私も釣られて笑った。
その後、生徒手帳を運転手さんに見せて、スクールバスに乗り込む。
「でも、委員長。そっちこそ嫌じゃない?」
「何がですか?」
隣に座った高良君が、首をかしげながらこっちを見る。
「女の子と一緒に帰るなんて嫌じゃないかなー・・・なんて思ったんだけど」
「いえ、そんなことありませんよ。クラスを束ねる委員長として、男女分け隔てなく付き合うべきだと思いますしね」
このとき、私はどんな答えを期待していたんだろう? ただ、少しがっかりしたような心持がした。
でも、彼がとても寛大な人であることははっきりと分かる。本当に尊敬する。ああ、うらやましい。
「それにですね」
「そ、それに?」
「今度、私の父が誕生日を迎えるので、パーティをするのです。
そこで、僕も料理を振舞おうと思ったのですが・・・どんな料理を振舞えばいいのか、考えてもわかりません。
そこで、誰か女子の方にご相談しようと思っていたところなんです」
「あー。誕生日パーティかぁ。楽しそうだね~」
「ええ。親戚一同や、ご近所の方などが一堂に会して、本当に賑やかになりますよ」
「そだねー。誕生日といえば・・・」
誕生日といえば・・・何だろう?
やっぱり、ケーキかな? うーん、でもメインディッシュに何かおいしいものでも良いかなあ。
調理師を目指している私にとって、料理は得意分野。いろいろな料理が頭の中を駆け巡る。
「あ、あの、つかささん?」
「え? ひゃうっ・・・。ごめん、一人の世界に入ってた」
いけない、いけない。一人で考えても仕方ないのに・・・。
はあ、失敗ばっかり・・・。
それに、何だかいつも、高良君の前では失敗しているような気がする。
「いえいえ、そんなつかささんもかわ・・・」
高良君はそこまで言って、慌てて口を閉じる。
何だか、それを見ているとおかしくて少し笑ってしまった。でもどうしたんだろ?
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。
そ、それより、料理のことなのですが・・・」
「そだねー・・・。
お父さんは、和食と洋食、どっちが好きなの?」
「父は、和食派ですね」
「そっかー・・・。
あ、だったら、鯛めしなんてどう?」
「鯛めし、ですか?」
聞きなれないのか、高良君は目をぱちくりさせる。
そうだよね、私も最近知ったんだもん。
「うん。鯛をまるごと一尾、炊き込みご飯の上に載せて、土鍋で加熱するの」
「へぇ、おいしそうですね。
良かったです、つかささんに相談して」
「えへへ、そうかなあ・・・」
高良君に褒められて、素直にうれしい。
「あ、そうだ。委員長は、料理できるの?」
「うーん・・・。
人並みには出来ますが・・・得意というほどではありませんね」
それを聞いた瞬間、私には一つの考えが浮かんだ。
「あ、そうなんだ。
じゃ、じゃあ・・・」
と、ここまで私はここまで言いかけておいて、言うのを躊躇した。
どうしよう? ここは言うべきかな。
だ、だって・・・相談されたんだもん。乗りかけた船なんだから、最後まで乗るべきだよね? そうだよね?
「ん? 何でしょうか?」
高良君は、何も知らず、笑いながら、こちらを見る。
「あ、あのさ。そ、その・・・。
お、教えてあげる?」
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
「え?」
突然の言葉に、高良君は面食らったようだった。
うう、また失敗・・・。言う順序を間違えたかな。
「そ、その、鯛めしの作り方」
「え? よろしいんですか?」
その瞬間、高良君の顔がパーッと輝いた。
「う、うん。委員長がよければ、だけど・・・」
すると、高良君はまた爽やかな笑顔で、
「とんでもない。謹んでお頼みします。
僕としても不安だったんですよ、料理が出来るか。でも、誕生日だから、何としてでも成功させたいし・・・。
ああ、本当につかささんにご相談してよかった。胸のつっかえが取れましたよ」
「う、ううん。そんな。
ただの私のお節介だし・・・」
「そんなことありませんよ。
・・・あ、そろそろ駅ですよ」
高良君に言われて、条件反射で外を見る。
確かに、スクールバスは糟日部駅の近くまで来ていた。
そして、程なく、駅に着く。
「さあ、降りましょうか、つかささん」
「うん、そうだね」
高良君に促されて、バスを降りる。
バスから降りると、何だか、空気がおいしく感じられた。
いつもは、寒々しく感じられる風も涼しくて気持ちよく感じられる。
「お名残惜しいですが、今日は、ここでお別れですね」
「そだね。今日は楽しかったよ」
「いえいえ。こちらこそ」
「じゃあ・・・今日は、これでさよなら、かな?」
「そうですね。あ、そうだ」
高良君は、バッグの中をごそごそさせて、メモ帳を取り出す。
そして、バスの中ということもあって苦戦しながらも、何かを書いて、私に差し出す。
「これ、僕のメールアドレスです。
鯛めしについては、メールでまた話しましょう」
え? ええええええええ?
高良君が? 私に?
私は、急なことに戸惑い、頭がパンクするかと思った。
「・・・あの。大丈夫ですか?」
「え? う、うん。だいじょぶだよ」
そう言って、何となしにあたりを見回す。
でも、周りの人たちは自分のことで精一杯なのか、誰も私たちに注意を払わなかった。
「受け取ってくれますね?」
高良君がニッコリして言う。
うう、その顔は反則だよー。そんな顔で言われたら、誰だって受け取っちゃう。
というか、私に断る理由はない。
「う、うん。でも、本当にいいの?」
「先ほどから、妙に気を遣われているようですが、別によろしいのですよ?
僕は、普通に接してほしいのです。クラスメイトとして」
「・・・クラスメイト」
「ええ。僕は、完璧超人だとか言われますが、僕は、普通に皆さんと接したいのです。
一個人、高良みゆきとして」
そう言う高良君の眼には、毅然とした決意が感じられた。
そっかぁ・・・。確かに、持ち上げられているのも窮屈だよね・・・。
私なんかじゃよく分からない悩みだけど・・・でも、彼の力になってあげたい。
「・・・そっか。ごめん。
気持ちをわかってあげられなくて」
「いえいえ、いいのですよ。
それでは、今日はこれで。また、後でメールで話しましょう。
ああ、それと」
「それと?」
「僕のことは、委員長ではなく、名前で呼んでください。
それでは、また明日」
高良君は手を振って、駅へ向かう。
「あ、ちょっと待って!」
気がついたら、彼を呼んでいた。
ゆっくりと、高良君が止まって、こちらを振り向く。
ごめんね、急に呼び止めて迷惑だよね。でも、私にはどうしても言っておきたいことがあった。
「ま、また明日ね。た、高良君」
「・・・ええ。また明日」
高良君は優雅に微笑み、優雅に礼をして、優雅に駅構内へと姿を消した。
吹きしきる木枯らしが、妙に気持ちよかった。
「ん、何? こなちゃん」
放課後、荷物をかばんに詰め込んでいると、こなちゃんに話しかけられた。一体、何だろう?
「悪いんだけどさ、今日、一緒に帰れなくなっちゃった」
「え? こなちゃん、何か用事あるの?」
「んー・・・。まあ、ね」
何だか、思わせぶりな返事。私は、ただ首を傾げるしかなかった。
「本当にごめん。埋め合わせは今度するから」
本当に申し訳なさそうな顔で、両手を合わせながら、こなちゃんは言った。
誰だって、人には言いたくないことがあるよね。仕方ないもん。
「ううん、いいよ。こんなこと、いくらでもあるもん。
だから、気にしなくて良いよ?」
「ありがとう、恩に着るよ、つかさ。んじゃ、また明日ねっ!」
よほどの急用があるのか、こなちゃんは手を振ると、鞄を持ってさっさと教室を出て行ってしまった。
「今日も一人かー。・・・まあ、たまにはこんなことがあってもいいよね。
きっと、明日は楽しくなるだろうし・・・」
自分に、そう言い聞かせると、私は教室を出て、帰ることにした。
校舎を出ると、私を迎えるように、木枯らしが吹いた。
「・・・今年は早いね。もう、木枯らしの季節かあ」
空を仰ぎ見る。透き通るような青空だったはずの空は、もう、夕陽に染まっていた。
「今日も一日終わったぁ・・・。明日も頑張ろうっと」
独り言ちると、私はスクールバスを待つ列に並んで、スクールバスを待つ。
何だか、自分に言い聞かせると、意味もなく楽しい気分になった。
「あれ? つかささんではありませんか」
夕焼けを眺めていた私を振り向かせたのは、高良君だった。
いつものように、穏やかな微笑をたたえて、私の後ろに立っている。
高良君を見た瞬間、私の心臓の鼓動が早くなるのが分かる。うう、これってやっぱり・・・。
「い、委員長? どうしたの?」
出来るだけ、冷静を装って聞いてみる。
すると、高良君はメガネを押し上げてから、
「いえ、たまたま、前につかささんがいましたから、話しかけてみようと思っただけですが。
お嫌でしたか?」
高良君は、私の動揺に気付いていないようだった。
「ううん、そんなことないよー。
でも、意外だね」
「何がですか?」
高良君はキョトンとした顔を見せる。
「いや、委員長っていつも、友達と一緒にいるから、帰りが一人だなんて意外だなーって思って」
「ああ、そうでしたか。残念ながら、僕の友人はみんな、部活動に所属していましてね。
ですから、帰りはいつも一人なんですよ」
「そうなんだ。はなはだしく意外だよ」
「ははは。そうかもしれませんね」
そう言って、高良君は笑顔を見せる。とっても爽やかな笑顔だった。
「そういえば、明日は、いよいよ桜藤祭だね」
「ええ・・・。そうですね。本当に、長いようで短いような・・・そんな準備期間でしたね」
「あ、それ分かるよー。光陰矢のごとし、だったっけ?」
「良くお分かりですね」
「あ、ううん。これ、お姉ちゃんの受け売りなだけだし・・・」
「いえ、そんなことありませんよ。きちんと知識を得て活用しているではありませんか」
少しうつむく私に、高良君は優しく褒めてくれた。
良かった、高良君がいい人で。
「あ、ありがとね」
「いえいえ、そんなことはないですよ。
あ、バスが到着いたしましたね」
高良君の言うとおり、いつの間にかスクールバスが、着いていた。
「つかささん、良ければ、隣に座りませんか?」
「えっ?」
突然のことに戸惑ってしまう。
高良君が? 私の隣に?
そ、それはうれしいけど、えっと、えっと・・・。い、いいのー?
「ああ、勿論お嫌ならいいのですが。
ただ、こうして下校時に、偶然に出くわせたのも何かの縁かと思いましてね」
「そ、そんな。嫌なわけないよ?
だ、だって、委員長を嫌う人なんているわけないもの」
そのとき、どんな顔をしていたか、私は分からない。でも、きっと、とても真っ赤だったと思う。
高良君は、くすりと笑って、
「そう言っていただければ、光栄です」
と、言った。
私も釣られて笑った。
その後、生徒手帳を運転手さんに見せて、スクールバスに乗り込む。
「でも、委員長。そっちこそ嫌じゃない?」
「何がですか?」
隣に座った高良君が、首をかしげながらこっちを見る。
「女の子と一緒に帰るなんて嫌じゃないかなー・・・なんて思ったんだけど」
「いえ、そんなことありませんよ。クラスを束ねる委員長として、男女分け隔てなく付き合うべきだと思いますしね」
このとき、私はどんな答えを期待していたんだろう? ただ、少しがっかりしたような心持がした。
でも、彼がとても寛大な人であることははっきりと分かる。本当に尊敬する。ああ、うらやましい。
「それにですね」
「そ、それに?」
「今度、私の父が誕生日を迎えるので、パーティをするのです。
そこで、僕も料理を振舞おうと思ったのですが・・・どんな料理を振舞えばいいのか、考えてもわかりません。
そこで、誰か女子の方にご相談しようと思っていたところなんです」
「あー。誕生日パーティかぁ。楽しそうだね~」
「ええ。親戚一同や、ご近所の方などが一堂に会して、本当に賑やかになりますよ」
「そだねー。誕生日といえば・・・」
誕生日といえば・・・何だろう?
やっぱり、ケーキかな? うーん、でもメインディッシュに何かおいしいものでも良いかなあ。
調理師を目指している私にとって、料理は得意分野。いろいろな料理が頭の中を駆け巡る。
「あ、あの、つかささん?」
「え? ひゃうっ・・・。ごめん、一人の世界に入ってた」
いけない、いけない。一人で考えても仕方ないのに・・・。
はあ、失敗ばっかり・・・。
それに、何だかいつも、高良君の前では失敗しているような気がする。
「いえいえ、そんなつかささんもかわ・・・」
高良君はそこまで言って、慌てて口を閉じる。
何だか、それを見ているとおかしくて少し笑ってしまった。でもどうしたんだろ?
「どうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。
そ、それより、料理のことなのですが・・・」
「そだねー・・・。
お父さんは、和食と洋食、どっちが好きなの?」
「父は、和食派ですね」
「そっかー・・・。
あ、だったら、鯛めしなんてどう?」
「鯛めし、ですか?」
聞きなれないのか、高良君は目をぱちくりさせる。
そうだよね、私も最近知ったんだもん。
「うん。鯛をまるごと一尾、炊き込みご飯の上に載せて、土鍋で加熱するの」
「へぇ、おいしそうですね。
良かったです、つかささんに相談して」
「えへへ、そうかなあ・・・」
高良君に褒められて、素直にうれしい。
「あ、そうだ。委員長は、料理できるの?」
「うーん・・・。
人並みには出来ますが・・・得意というほどではありませんね」
それを聞いた瞬間、私には一つの考えが浮かんだ。
「あ、そうなんだ。
じゃ、じゃあ・・・」
と、ここまで私はここまで言いかけておいて、言うのを躊躇した。
どうしよう? ここは言うべきかな。
だ、だって・・・相談されたんだもん。乗りかけた船なんだから、最後まで乗るべきだよね? そうだよね?
「ん? 何でしょうか?」
高良君は、何も知らず、笑いながら、こちらを見る。
「あ、あのさ。そ、その・・・。
お、教えてあげる?」
顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
「え?」
突然の言葉に、高良君は面食らったようだった。
うう、また失敗・・・。言う順序を間違えたかな。
「そ、その、鯛めしの作り方」
「え? よろしいんですか?」
その瞬間、高良君の顔がパーッと輝いた。
「う、うん。委員長がよければ、だけど・・・」
すると、高良君はまた爽やかな笑顔で、
「とんでもない。謹んでお頼みします。
僕としても不安だったんですよ、料理が出来るか。でも、誕生日だから、何としてでも成功させたいし・・・。
ああ、本当につかささんにご相談してよかった。胸のつっかえが取れましたよ」
「う、ううん。そんな。
ただの私のお節介だし・・・」
「そんなことありませんよ。
・・・あ、そろそろ駅ですよ」
高良君に言われて、条件反射で外を見る。
確かに、スクールバスは糟日部駅の近くまで来ていた。
そして、程なく、駅に着く。
「さあ、降りましょうか、つかささん」
「うん、そうだね」
高良君に促されて、バスを降りる。
バスから降りると、何だか、空気がおいしく感じられた。
いつもは、寒々しく感じられる風も涼しくて気持ちよく感じられる。
「お名残惜しいですが、今日は、ここでお別れですね」
「そだね。今日は楽しかったよ」
「いえいえ。こちらこそ」
「じゃあ・・・今日は、これでさよなら、かな?」
「そうですね。あ、そうだ」
高良君は、バッグの中をごそごそさせて、メモ帳を取り出す。
そして、バスの中ということもあって苦戦しながらも、何かを書いて、私に差し出す。
「これ、僕のメールアドレスです。
鯛めしについては、メールでまた話しましょう」
え? ええええええええ?
高良君が? 私に?
私は、急なことに戸惑い、頭がパンクするかと思った。
「・・・あの。大丈夫ですか?」
「え? う、うん。だいじょぶだよ」
そう言って、何となしにあたりを見回す。
でも、周りの人たちは自分のことで精一杯なのか、誰も私たちに注意を払わなかった。
「受け取ってくれますね?」
高良君がニッコリして言う。
うう、その顔は反則だよー。そんな顔で言われたら、誰だって受け取っちゃう。
というか、私に断る理由はない。
「う、うん。でも、本当にいいの?」
「先ほどから、妙に気を遣われているようですが、別によろしいのですよ?
僕は、普通に接してほしいのです。クラスメイトとして」
「・・・クラスメイト」
「ええ。僕は、完璧超人だとか言われますが、僕は、普通に皆さんと接したいのです。
一個人、高良みゆきとして」
そう言う高良君の眼には、毅然とした決意が感じられた。
そっかぁ・・・。確かに、持ち上げられているのも窮屈だよね・・・。
私なんかじゃよく分からない悩みだけど・・・でも、彼の力になってあげたい。
「・・・そっか。ごめん。
気持ちをわかってあげられなくて」
「いえいえ、いいのですよ。
それでは、今日はこれで。また、後でメールで話しましょう。
ああ、それと」
「それと?」
「僕のことは、委員長ではなく、名前で呼んでください。
それでは、また明日」
高良君は手を振って、駅へ向かう。
「あ、ちょっと待って!」
気がついたら、彼を呼んでいた。
ゆっくりと、高良君が止まって、こちらを振り向く。
ごめんね、急に呼び止めて迷惑だよね。でも、私にはどうしても言っておきたいことがあった。
「ま、また明日ね。た、高良君」
「・・・ええ。また明日」
高良君は優雅に微笑み、優雅に礼をして、優雅に駅構内へと姿を消した。
吹きしきる木枯らしが、妙に気持ちよかった。
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- 面白いですね! -- チャムチロ (2012-09-24 20:25:32)
- このシリーズすごく好きです!続き待ってます。 -- 名無しさん (2008-03-05 22:36:36)