アルティメット・メイクアップで富良野滅亡

「で、なんで私がこんな所に送り込まれなければならないんですか」

 月明かりの中、ギターケースを片手にため息をつくハンチング帽の青年が一人。辺りは幾万粒のダイヤモンドをちりばめたかのように白く透き通った明かりをちらちらと照り返す一面の????。
 雪原であった。
「私に凍死しろと言うんですか。冗談じゃない」
 今一度つくため息は、タバコの煙のように白く大気を染めて流れて行く。おそらく支給品だろう、ドレイクゼクターが心配そうに羽を震わせてその霞を追い払った。
「だいたい私はにぎやかしオプションなんですよ。繋ぎと絵の支援くらいしかできないんです。書き手ロワに送り込まれても役に立つわけないじゃないですか」
 愚痴を垂れながらも辺りを見回す美声のイケメン。ライダーロワNEXTが誇るカリスマ絵師にして珠玉の小品で読み手をうならせる繋ぎの達人・◆yFvLIBbl9Iは、風間大介の姿を借りて会場に出現していた。このキャラ選択、おそらくは筆の名手つながりである。よって、便宜上の呼び名も『花ざかりの筆師たちへ~カリスマ♂パラダイス』としておこう。
 なに?ほめすぎだ?歯が浮く?うるさい黙れ。いつもありがとうございます。
 もっとも当の本人は寒さのおかげで本当に歯が浮いているようだったが。
「どうせならもっと暖かい所に送り込んでくれれば良さそうなものでしょう。この薄着でどうしろっていうんです。それとも支給品に着替えでも入ってるって言うんですか?響鬼さんじゃあるまいし」
 愚痴をたれるのは本来の性分ではない。口くらい動かしていないと本当に凍り付きそうだからだ。が、自分の言葉にふと気がついてその場に腰を下ろし、ギターケースを開ける。
 中には基本支給品やドレイクグリップに混じって、原作通りメイクアップグッズが大量に詰め込まれていた。
「やはり、ですか……」
 彼はマニキュアの瓶を手に呟いた。
 ロワ内でメイクアップグッズなんて何に使えちゅーんじゃ。女装でもしろってか。むしろさせたるわこの際。だってライダーロワは伝統的に女の子が不足してるのよ。

 行き場のない怒りに任せて瓶を放り投げようとしたところが、うっかり手が滑って中身を腕にぶちまけてしまう。
 途端、冷気よりも鋭い痛みが赤く染まった手首を襲った。
 慌てて確かめると、ほんの少しの赤い塗料がかかっただけだった腕からだらだらと血が流れている。そりゃもうドラマの血糊みたいにでれでれ流れている。ちょ、おま、これ、しぬ、しぬしぬ!!
 花ざかりは慌てて手首を押さえ、服の肩のあたりで血を拭い取った。と、痛みはたちまち収まってしまう。
 あれ?あれれ????
 彼はゆっくりと手を離し、さっきまで痛みのあった場所を確かめた。
 残ったマニキュアがかさぶたのようになっているが、別段傷はない。試しにかさぶたらしきものを剥がしてみると、本当にかさぶたを剥がしたように痛かった。
 ちょっと待て。これ、なんかおかしくね?
 ふと思い立ち、彼はかじかむ指で雪を掬ってかき氷のように盛り上げると、そこに赤いマニキュアの残りと、別のパールのマニキュアをたらしてみた。
 指ですくって舐めてみると、練乳いちごの味がする。
 彼は改めて、最初の瓶を確かめた。
 ごく普通の、揮発性の臭いのするマニキュアだ。別に強酸が入っているとかそういうわけではないだろう。試しに瓶の端についた液体を舐めてみたが、もちろん苺シロップなどではない。むしろこんなもの食えるかって感じだ。
 ただのマニキュアが、腕に血糊のようにつけば傷を作り、雪にかき氷のように掛けられれば苺シロップを作る。何かを『それ』らしく彩ることで、実際に『それ』を造り出してしまっている、ということなのだろうか。つまり、『絵に描いた』みたいに。
 花ざかりはしばしこの意味を考えた。

 彼が持たされたのはメイク道具だが、化粧品を画材として使うことは絵描きにはけっこう良くあることである。どっちも顔料だしな。
 花ざかりは書き手であり、絵師である。つまり書き手として書き手ロワに参加させられてしまったが、絵師としての能力も否定されていない。それが画材としてのメイクセットであり、それを使って『描く』ことで現実を変える能力なのだろうか。
 もし、絵師としての能力が今の自分に残されているならば、早急にやらなくてはならないことがある。
 それはこの一面に広がる銀色のキャンバスを、より快適な空間として描き直すことだ。じゃないと確実に凍死する。てか大分感覚がなくなってきたぞ。もう鼻からつららとかさがってるし。
 一刻も早く、なにか、もっと暖かくて過ごしやすい場所を作らなくては。
 温泉……はだめだ、ライダーN的に言って。全裸のおっさんが無駄な肉体美を誇示する光景しか期待できない。
 もっと暖かくて、女の子が多くて、この私にふさわしい華やかな場所。
 そうだ。ハワイだ。ハワイがあるじゃないか。
 だいたいハワイは絵的にも描きやすい。椰子の木とハイビスカス描いときゃそこそこハワイっぽくね?ついでにKONISHIKIとかオバマ大統領隅っこに入れとけばグアムやサイパンと間違えられることもないだろ。
 花ざかりは心を決めると、寒さでかじかむ指に力を込めた。カメラ目線を決め、魂を込めて囁く。
「アルティメット・メイクアップミ☆」

(ここできらきらしたSEを挿入)

 カット変更後。
 辺りには常磐ハワイアンセンターのごとき光景が広がっていた。つーか本物のハワイが広がっていた。本物です。その証拠に椰子の木が立ち並んでハイビスカスが咲いて、辺りをKONISHIKIの群れが歌いながら闊歩している。
「♪小錦LOVE きっとLOVE~ 小錦LOVE すげぇ汗~」
 その歌声を聞きながら、花ざかりはほっとため息をついた。自分がロワ会場にいるということは、だいたい忘れさっていた。

【一日目・深夜 北海道・富良野あらためハワイ】
【花ざかりの筆師たちへ~カリスマ♂パラダイス@ライダーロワNEXT】
状態:半解凍 腕にちょっと怪我
装備:ドレイクグリップ&ドレイクゼクター
持物:ギターケース(基本支給品とメイクセット入り) 不明支給品0~1
思考:とりあえずあったまる
※カメラ目線で「アルティメット・メイクアップミ☆」と囁くと
 自慢の筆で現実を描き変えることができます。
※富良野はハワイになりました。
※歌うKONISHIKIの大群が発生中ですが無害です。

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花ざかりの筆師たちへ~カリスマ♂パラダイス みちのく二人旅

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最終更新:2009年05月24日 17:38
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