「ン~~~、どこ行ったのかねェ。まだ見つからねえとは、なかなかてこずらせてくれるじゃねえの」
一人ごちる精悍な顔つきの青年は、
【勇気】ハーグ。
逃走王子を見逃してしまったことなど知らず、彼はひたすら走っていた。
特に疲れが見えないのは、独特の呼吸法よりもたらされる波紋エネルギーのおかげだろう。
そんな彼のいる場所、それは……
「地図を見る限り、このやたらめったらでかいミカン畑は和歌山か愛媛か。まあ、海越えた記憶はねーし、和歌山だろ」
そう、和歌山県。近畿地方の下んとこ。
京都から出発しーの、大阪を越えてーの、和歌山県。
ヌケサクにびびるような女の子が、そんな場所まで逃げてくワケがない。
普通ならそう思うかもしれないが、ハーグは
漫画ロワ出身の書き手なのである。
『マジで半端ねえバイクで、地図の端から端まで二時間足らずで駆け巡る』だとか、
『オーガと拳王との戦いの為に、各地に散らばっていた対主催が一話で結集』だとか、
そんなロワ出身なのだから、感覚がズレてても仕方あるまい。
走り通しだったハーグは、周囲のミカン畑から適当に一つをもぎ取って皮を剥く。
数房一気に口に放り込んで一言。
「へえ、なかなかうめえじゃねえか! 幾つかもらってくけどいいよな、主催さんよ。答えは聞いてねーけど」
幾つかと言いながら、五十個ほどデイパックに押し込んでるのはご愛嬌であろう。
デイパックを閉め、一つだけ手に持ったミカンに豪快に齧り付くと、ハーグは顔を緩ませる。
一齧りした残りのミカンを上空に放り投げると、ゆっくりと落下してハーグが大きく開けた口の中に綺麗に収まる。
二度三度と歯を上下させることで、ハーグは純度百パーセントのミカンジュースを口内に満たす。
「ンぐ……ンぐ……ッ、ふィ~~~~~。ああクソッタレ主催の癖にいいもん用意してんじゃねえか、マジで!」
喉を大きく鳴らしてミカン果汁を飲み干すと、顔面を笑みでいっぱいにして主催に叫ぶ。
どうせ盗聴器くらい仕込んでんだろ? くらいのノリで。
暫しの夜食を終え、逃走王子の追跡を再開するか、というその時。
「――ッ!?」
何らかの気配を感じ取り、ハーグは目を見開いた。
「『ホワイトスネイク』」
ハーグの口から言葉が漏れると同時に彼の傍らに出現したのは、二メートルほどの身長を持つ異形。
白黒二色から成るストライプのボディに、全身に刻まれた四つのアルファベット。
ハーグが最も書いた漫画ロワのキャラクターであり、『非参加者』である神父の精神のヴィジョン――スタンドである。
ホワイトスネイクを待機させ、呼吸を整えて全身に波紋エネルギーを満たすハーグ。
ゆっくりとだが全身から存在感を溢れさせ、少しずつハーグに近付いてきたのは――――
「ほう、その姿は◆hq氏か?」
「……漫画以外に覚悟出てるロワはねーし、◆40氏、◆19氏、◆WX氏、辺りってことかねェ? まァ、よろしく頼むぜ」
漫画ロワにおいて、オープニングから最終話まで活躍した男。
零式防衛術正統継承者、葉隠覚悟であった。
■
「ワンキューさんか。ゴッドみんパンチには度肝抜かれたぜ。以後よろしくな」
「こちらこそだ、ハーグ。共に、牙なき人の剣となろう」
「はは……ッ、まあ無茶はあんまりしたくはないがねぇ」
「そうも言ってはいられまい。俺達漫画ロワ書き手は力を持っているが、一般人ロワの書き手はおそらく一般人だろう。
ロワに反逆するというのに、牙なき人を見捨てては意味がない。
それは真なる勝利ではない、偽りの勝利だ。勝利エンドを書いた俺としては、偽りの勝利で満足するわけにはいかない」
「だからって、無茶はしちゃ駄目でしょうよ。
俺達の勝利は、『俺達が主催ボコって帰る』『罪のないヤツ等の犠牲を出さずに、そいつらを帰らせる』、その両方だ。
後者だけのために無茶して死んじまったんじゃあ、何の意味もねーよ」
「男児の命には、賭け時がある」
「まァ、そうだけどねえ」
自己紹介、というか何というか。
互いにトリップを言っただけで、すぐさま同行することになった。
片や勇気の賛歌を愛する書き手、方や勝利エンドを書ききった書き手。
加えていきなり襲い掛かってこなかったことから、どちらも『相手は殺し合いに乗っていない』と判断したのだ。
ステルスマーダーの可能性? それこそありえない。
漫画ロワにおいて、ステルスはいたにはいたが…………ねえ? という具合だったのだから。
「んじゃ、行くか。さっき話した、女の子を捜すぜ」
「ああ、亀仙流の胴着を着た金髪の女性だったな。……待て、ハーグ」
「ンァ? どうした?」
急に声のトーンを落としたワンキューに、既に進み出していたハーグが振り返る。
彼の瞳に映ったのは、明らかに自分へと憎悪の視線を向けるワンキューの姿だった。
覚悟の姿と相まった凄まじい威圧感。
いきなりの豹変に、尻の穴にツララを突っ込まれたような冷たさを覚えたハーグ。
デイパックを放り投げると、一気に振り返ってホワイトスネイクを展開。
臨戦態勢をとったハーグに対し、ワンキューはゆっくりと口を開く。
「蜜柑をごちそうしてくれたのは感謝するが、皮を捨てていくのは許せん。農地が汚れるであろう」
予想外の答えに思わず転びそうになるのを、ハーグは足の裏から流したくっつく波紋で何とか堪える。
どこまで覚悟なんだよ、などと呟きつつも、ミカンの皮を拾おうとダラダラ歩くハーグ。
「汚したのはお前だというのに、その怠惰な様子はどうなんだ。漫画ロワ書き手だろう」
「はいはい、スイマセンでしたーっと。…………『零』や覚悟に説教され続けた村雨は、こんな気分だったのかねえ?」
「何か言ったか?」
「いえいえ、何でもないですよーっと」
悪態をつきながらも、ミカンの皮を拾うために屈んだハーグ。
その眼前に迫ったのは、足であった。
風を斬る音と共に凄まじい勢いで迫るのは、校則で定められているだろう革靴。
咄嗟に波紋エネルギーを纏わせた両の腕で、ハーグは顔面を守る。
「がァ!」
しかしハーグは勢いを制御できずに吹っ飛び、巨大なミカンの樹に背を叩きつけられてしまう。
勿論、蹴りを放ったのは……
「避けるのを諦めて守るとは冷静な判断だなァ、ハーグ!」
「テメェ……裏切りやがったのか!?」
「く……HAHAHAHAHA! その言葉が聞きたかった!!」
「何、言ってやがる!」
完全にプッツン来ているハーグなど意に介さず、ワンキューはただただ笑う。
「何って称号さ。俺の称号は、【破転】だぜ? 予想を裏切るのが楽しくて仕方がない男さ!
この姿になった時点で、俺の道は決まってたんだよ。『葉隠覚悟は対主催』とか考えるヤツを裏切るためにな!」
口から牙を覗かせて、ワンキューは演説のように宣言する。
彼の予想したものを嘲るような作品の数々を、ハーグは思い出し――
「やれやれ、本当にやれやれだぜ」
ゆっくりと立ち上がりながら吐き捨てる。
手首と首を廻して関節をコキコキと鳴らし、ゆっくりと彼の精神を表す称号を呟く。
「【勇気】……『星の白金(スタープラチナ)』」
同時に彼の首元にある星型の痣が輝き、ホワイトスネイクの姿が変わる。
モノクロの体は、碧繋った紫色に。
触らずとも硬質なのをアピールしていた頭部の角は、漆黒の毛髪に。
衣服など着こなしていなかったはずが、古代ローマの戦士を思わせる鎧を纏っている。
ハーグの傍らに立ち尽くすヴィジョンは、既にホワイトスネイクではない。
彼の称号が、黄金に輝く勇気が、姿を変化させたのだ。
そのヴィジョンの正体は、歴代最も多くの部に跨って登場したジョジョ、空条承太郎のスタンド――『星の白金(スタープラチナ)』。
「HAHAHAHAHAHAHA、エフッエフッエフッ! 最強のスタンドか、面白えッッ!!」
「――最初に言っておく。
俺の【勇気】は、ホワイトスネイクをジョースターの一族の持つスタンドへと変化させる能力さ」
ハーグの【勇気】を見届けたワンキューは笑う。
吸血鬼の笑いに、鬼(オーガ)の笑いを加えながら。
「パワーAスピードA精密動作Aで、時を止められるスタンドなら負けるわけないと思ってるだろうが……」
話しながら、ワンキューは駆ける。
カウンターを得意とする覚悟に限って、スタープラチナ相手に自ら責めるなんてことしない。
そう思い込んでるであろうハーグの『予想の外側』を突く為に。
「その予想を裏切るッッッ!!!」
絶叫と共に、ワンキューの拳がスタープラチナの腹に入った。
スタンド使いを相手にする際の定石通りに、本体を狙ってくると身構えたハーグの『予想の外側』を突いて。
仰け反るスタープラチナ、そして血反吐を吐く本体であるハーグ。
ハーグが体勢を整えるよりも早く、拳の連打、連打、連打、連打、連打…………
■
「フゥ~~~、おっとなしい寝顔してんなァ。おとなしいのは寝顔だけ、だけどな」
一人で喋りながら、眠りに落ちたワンキューの元に歩みを進めるのはハーグ。
その半歩前を行くのは、『ホワイトスネイク』。
「この能力が制限されてなくてよかったぜェ~~」
そう、ワンキューを眠らせたのはホワイトスネイクの能力である。
正体は、幻覚。
『やれやれだぜ』という台詞も、関節を鳴らしながら思わせぶりに立ち上がったのも、幻覚が付け入る隙を生み出すためのブラフであった。
称号――漫画ロワ書き手の切り札を、ハーグは使ってすらいない。
【勇気】の言葉と共に、変化したホワイトスネイク。
それすらも、幻覚だった。
思わせぶりに立ち上がって発動させたのは称号ではなく、幻覚能力であったのだ。
「んじゃ、恨むなよ? そっちから襲い掛かる気だったんだから、やられるのまで『予想外』とかねーだろ?」
言いながらハーグが取り出したのは、三本のダーツ。
漫画ロワでDIOがやったようにホワイトスネイクにダーツを持たせ、一気に投擲する。
学生服を突き破って左胸に三本とも、突き刺さったのを確認。
ワンキューのデイパックを拾い上げ、ハーグが逃走王子の捜索を再開しようと歩き出した。
七回ハーグが足を動かした時である。
ハーグは腹部に奇妙な感覚を覚えた。
腹部に視線を向けたハーグは見た。
己の腹から生える血に塗れた学生服を、自分を貫いた手刀を。
「か……ッ、は…………?」
ゆっくりと視線を背後に向けたハーグの瞳に映ったのは、殺したはずの短髪の男――ワンキューであった。
信じられないという表情のハーグに、ワンキューは手刀を作っていないほうの左手で学生服の上着を引き千切る。
ダーツが刺さったはずの左胸は、銀色をした鉛の鉄球に覆われていた。
「零、式……鉄球。しかし何故幻覚から………………そう、か。幻覚の制限、は、漫画、ロワ通り…………」
ダーツが零式鉄球に阻まれただけでは、ワンキューが起きるはずはない。
『外部からの衝撃』、『幻覚内で矛盾を見つける』、その両方をやらねば幻覚は解除できない。
しかし漫画ロワのエンリコ・プッチは首輪の制限により、どちらか片方で首輪が解除されるようになっていたのだ。
そして現在ワンキューが立っているということは、ハーグにも同じような制限がかけられていたということ。
「予想外だっただろう? 振り向いたお前の驚愕した顔、たまらなかったぜ?」
白い歯を見せながら、ワンキューが右手に力を篭める。
ハーグの腹を貫いたまま右手を一閃して、ハーグの命を奪おうという考え。
それを察したハーグは絶望――――しない。
煌々と首元の痣を輝かせて、称号の名を紡ぐ。
「……【勇気】、『星の白金(スタープラチナ)』」
発現していたホワイトスネイクが、最強のスタンドへと姿を変える。
見せられていた幻覚と似た展開に、ワンキューは困惑する。
まさかまたしても幻覚を見せられているのか? そんな考えが、ワンキューの脳内を埋め尽くす。
「違う! これは現実だァァァーーーーッ!!」
原作ジョジョにおけるホワイトスネイクの使い手、エンリコ・プッチもかつて幻覚の中に真実を混ぜたことがある。
最強のスタンド使い、空条承太郎の隙を作るために。
漫画ロワ書き手であるワンキューはそれに気付いた。
一気に右腕ごとハーグを薙ぎ払おうとするが、時既に遅し。
ワンキューの方に向けた口角を吊り上げながら、ハーグは口を動かした。
「『スタープラチナ・ザ・ワールド』(時は止まる)」
瞬間――ワンキューが腕を振り抜くよりも早く、時が静止した。
その静止した世界の中では、誰一人として動くことはない。
――ただ、時が止まった世界に入門している者を除いて。
傷口を波紋エネルギーで覆って止血しながら、ゆっくりと突き刺さったワンキューの腕から逃れていくハーグ。
たっぷり二秒かけて、ワンキューの腕を抜き取る。
「予想外だったか? 今のお前の呆けた顔、傑作だぜ? ま、聞こえてねーか。
『相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している』、予想外はアンタの専売特許じゃあないってワケよ」
焦った表情のままで硬直するワンキューへと、聞こえるはずのない言葉を浴びせてハーグはスタープラチナを移動させる。
ワンキューの前で両拳を握り締め、ファイティングポーズを取るスタープラチナ。
――時の静止から、三秒経過。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアアア!!」
ワンキューにスタープラチナが浴びせるのは、単なる拳。
上方から振り下ろすように、真っ直ぐと貫くように、横側から抉りこむように、下方から吹き飛ばすように、エトセトラ、エトセトラ…………
あらゆる方向から拳の連打(ラッシュ)、乱打(ラッシュ)、応酬(ラッシュ)。
――時の静止から、四.五秒経過。
「オラァァ!」
拳のラッシュを中断し、スタープラチナに地面を蹴らせる。
DIOとの戦闘において承太郎がしたように、ハーグもスタープラチナに引っ張られるように上昇する。
くっつく波紋を掌に流して、適当にミカンの枝を掴むハーグ。
逆上がりの要領で回転して、ワンキューから距離を取る。
――時の静止から、五秒経過。時は動き出す。
「ぐァァァァああああああアアーーーーッ!」
時が止まっている間に受けた衝撃が、束になってワンキューを襲う。
いかに葉隠覚悟の身体能力を持つとはいえ、さすがに踏み止まれずに吹っ飛んでしまう。
ミカンの樹を二桁ほど薙ぎ倒して、やっとのことでワンキューが止まる。
しかしそれだけの衝撃を受けても、ワンキューは倒れない。
「零式防衛術ナメんじゃねえええええええええええええええ!」
叫びながらワンキューが放つのは、しかし零式防衛術の奥義ではなく。
「天将奔烈!!」
北斗真拳の技の一種にして、拳王の秘奥義。
ワンキューの全身から後光が差すように、闘気が溢れ出す。
北斗剛掌波と同等、あるいはそれ以上の闘気がワンキューから放射状に放たれる。
「……メチャクチャだわ、アンタ」
「ははッ! 何、見渡しやすくしてやっただけだ!」
ワンキューの周囲数百メートルが、焦土と化していた。
生い茂っていたミカンの樹は一瞬で燃焼されてしまい、炭を通り越して灰となって風に紛れ込んでしまった。
ワンキューの二十メートルほど先で、ハーグはその姿を露にしている。
ミカンの樹に身を潜めていたハーグは、スタープラチナに身を守らせて無傷ではあるが、隠れ蓑が消えたのは手痛い。
スタープラチナが闘気を防いだおかげで、ハーグの背後にはミカンの樹が残ってはいるが、今更隠れたところで意味はあるまい。
また【勇気】によりスタープラチナに変化したホワイトスネイクは、【勇気】使用からちょうど十秒が経過した時に元の姿に戻ってしまっていた。
「……チッ」
一度の【勇気】使用で、スタンドを変化させていられるのは十秒間。
制限が明らかになったのは喜ぶべきことだろうが、今のハーグに喜んでいる余裕などなかった。
「さてさて、『決戦』だぜ!? テメェら漫画ロワ書き手にこそ、使うべき【破転】ってのがあんだッ! 見て逝けよッッ!!」
そう叫びながら、ワンキューは奇妙な構えを取る。
左足だけを地面につけ、体勢を保ちながら右足は上空へと高く伸ばす。
手刀を作った左手は地面に向けられ、右手は邪魔にならぬよう軽く曲げておく。
全身を背後へと思いっきり反らし、全身に極限までの貯めを創造している。
マウンド上の剛速球投手を思わせるその構えの名は――――『渦螺旋の構え』。
その構えから放たれる零式防衛術が奥義『螺旋』は、通常の構えから放たれる螺旋の三倍の威力。
「驚くよなァ、予想外だろォォ! 何せ漫画ロワ書き手だもんなァァァ!! よりにもよって『覚悟が』、『この技』なんてありえないよなァァァァァ!!!」
そう、有り得ないのである。
この技は葉隠散の技であり、葉隠覚悟の技ではない。
葉隠散だからこそ出来るフォームであり、技なのだ。
歴代の零式防衛術継承者ですら、この構えから螺旋を放つなど不可能である。
――――しかし、それを可能とするのが【破転】。
大地のエネルギーをあえて片足だけから得て、通常以上の捻りを加えて体内を伝達させる。
身体を弓なりに反らすことでエネルギーが、さらに螺旋を描いて増幅。
左掌に到達する頃には、暴発寸前の臨界点に到達している。
その状態で驚くハーグの表情を満喫し、ワンキューは遂に踏み込んだ。
「トルネードォッォォッ!! 螺ァァ旋ェェェエエン――――――!!!!」
「……ッ、【勇気】――――『■■■・■■・■■■』ッ!!!」
僅か数歩で二十メートルの距離を詰め、ハーグの眼前へ。
ハーグの星型の痣が輝いているが、どのスタンドになろうと無意味とワンキューは一気に掌を押し付ける。
確かな密着間を感じたワンキューは、勢いに身を任せて走り抜けながらも掌を決して離さない。
威力を余すところなく目標に浸透させるため、隙間なく掌を密着させて捻りを開放する。
ぐにゃり、と大地が――――否、『和歌山県』が捻じ曲がった。
ワンキューの掌から放たれた捻りのエネルギーは、対象から地面へと流れ込んだのである。
全身を渦の発生装置としたワンキューから放たれた捻りのエネルギーは、一つの県をもひしゃげてみせる。
まず、和歌山県が収縮。影響で、他の県から離れてしまう。
次に、肥大化。和歌山県内部にて、幾つもの地割れが観測される。
そして、回転。轟音と共に、和歌山県がたわんでいき――――遂にその形をとどめきれずに崩壊。
最終的に、沈没。崩れ去り砕破された和歌山県は、哀れ海の藻屑となってしまった。
「ふん……」
崩れた和歌山県だったもの――海に浮かぶ岩の上で、ワンキューは目の前の惨状を眺める。
彼は破壊した。
ミニチュアとはいえ、一つの県を。
しかし、彼は満足しない。何故なら……
「制限か、憎らしい。制限がないと思わせておいて、肝心の美技に限って。
制限をすれば立ち向かえないとか、考えてるのか主催は! いいぜ、テメェらも皆殺しだ!」
制限されていたのである。
本来ならば、本州を海の藻屑にできるだけの技。
ワンキューは、そう自負していたのだから仕方ない。
主催への打倒宣言の直後、残った瓦礫を伝って陸に戻ろうとしたワンキュー。
そんな彼が、ブッ飛んだ。いや、ブッ飛ばされた。
「ッラァッ!!」
遅れて響く声。
平べったい石を湖に投げた時のように、水の上を跳ねながらワンキューは体勢を立て直そうとする。
しかし叶わない。全身が痺れるのだ。
水を切って飛んでいくワンキューが見たのは、男だった。
よく知る男である。
この地に来る前から、何度も共にリレーしあった仲間。
「ハーグ……!?」
確かに殺したはずだが、相手がハーグならば全身が痺れていくのも理解できる。
一人納得するワンキューに、ハーグは嘲るように言葉を浴びせる。
「俺の後ろの樹殴ったのに気付かねえとは、零式防衛術も大したことねえのね」
「――ッ、バカな! 外すワケがない!」
「ああ、確かに俺がいた場所をアンタじゃ通ってったぜ。『いた』場所な」
「避けたってのか……バカな! ありえない!」
「クック、おいおい、アンタが『予想外』って顔してどうすんだァ~~~?」
「貴様ァァァァァア!!」
絶叫と同時に和歌山県だった瓦礫にぶつかり、ワンキューが静止する。
が、流し込まれた波紋エネルギーは消えない。
首すらも動かせないワンキューを見下ろして、ハーグは笑いかける。
「まっ、いいぜ。教えてやるよ」
そう言ったハーグの前に現れたのは、半身が馬で半身が人間のスタンド。
漫画ロワで発現寸前というところまで行ったものの、何とかジョセフ・ジョースターが食い止めたスタンド。
「『メイド・イン・ヘブン』だとォ!?」
驚愕を隠し切れず、声を裏返らせるワンキュー。
ハーグはメイド・イン・ヘブンに視線を向け、告げる。
「何を驚いている? スタープラチナにしか変われないとは、一度も言ってないだろう?」
「……ッ」
「ああ、まさか幻覚の中で『ジョースター一族のスタンドにしか変化できない』って言ったのを信じてたのか?」
目を見開いたワンキューに、ハーグは続ける。
「幻覚の中身が全部本当だと思ってたのォ~~~? いやはや、言っちゃ悪いけど……」
トントンと、ハーグは人差し指で自分の頭を小突く。
「ここ、おかしいんじゃないかァァァ~~~~?」
「――――――――ッ!!」
ワンキューが殺気を放つが、未だ動けはしない。
それを知っているハーグは、ワンキューに背を向ける。
「スタープラチナのラッシュや、全力の波紋でも倒れないヤツを一人で相手する気はねーよ。んじゃ、俺のいねーとこで別のマーダーとぶつかってくれよ」
ハーグが言い終える寸前に、ワンキューの身体に流れていた波紋が消える。
拳を握ってワンキューに叩きつけようとするが――
「時は『加速』する」
――ハーグの姿は掻き消え、ワンキューの視界から消えた。
「……あの野郎」
苦々しく吐き捨てるワンキュー。
相手がメイド・イン・ヘブンでは追いかけるのも無理と判断し、ハーグと出会う前と同じく適当にぶらつくことにした。
そもそもどこに逃げたか悟らせるような男ではない。
「しかし、デイパックは二つとも持っていくべきだったな。本物のジョセフなら、そうしてた」
ワンキューは海の上の瓦礫を飛び跳ねて、一つ残されたデイパックを拾い上げる。
ハーグは一度ワンキューのデイパックを回収したが、背後から手刀で貫かれた際に一つ落としてしまっていた。
再回収していく余裕はなかったのだろうな。予想しながら、デイパックに手を突っ込み――ワンキューは喉を鳴らした
「…………ハッ、やられた」
中に入っていたのは、地図にランタンに食料にーな支給品一式。
そしてミカンが沢山。そりゃあ、もうアホほど。
ただ、それだけ。
ランダムアイテムなど、入っていない。
「アイツの支給品はダーツだけで、それも使っちまった。逃げるのにデイパック一つは邪魔だから、あえて捨てたってか。
いや、邪魔だからだけでなく、確実に俺をこけにする意味合いもあっただろう……なめやがって」
ワンキューはカチンときて拳を握り締めるが、すぐに平静を取り戻す。
わざと相手を怒らせる、というのも二代目ジョジョの得意戦法だからである。
知っているからこそ落ち着いて、冷静に倒す方法を考える。
「スタンド変化か……厄介だが、血が騒ぐ」
ジョジョ本編に登場したスタンドの数は、おそらく三桁を越えているだろう。
それを全てハーグが【勇気】により使用できるなら、強敵である。
だが、ワンキューは心を躍らせる。
どうしようもないと誰もが思う大首領を、女子高生巫女のパンチで倒させたおとこなのだ。
ハードルは高い方が、乗り越える楽しさがある。
「それにしても……」
ワンキューは、己がハーグに与えた傷を思い出す。
蹴りに加えて、腹をブチ抜いてやった。
それを思い出し、ワンキューは月を見上げた。
■
「ああああああ! マジに何なんだよ、アイツバケモンだろ!」
何とか奈良まで泳ぎきったハーグが、悪態をつく。
ワンキューの元からハーグが離れて僅か二秒で、メイド・イン・ヘブンはホワイトスネイクへと戻ったのである。
さっきまで和歌山県があった海の上で。
直後、いきなり加速が消えたことにより、ハーグは瓦礫から足を踏み外して海へと落下した。
波紋で水を弾きながら走る手もあったが、どうせ濡れたのだから一緒だと泳いだ。
結果辿り着いたのが、本来海に面していないはずの奈良県なのだからおかしな話だ。
「加速の勢いつけた拳が効かないとなると、仲間が必要だぜ。頼りになる仲間が」
言いながら、水びだしの体を振るわせるハーグ。
「さて……アイツは、俺が『全てのスタンドを使える』とでも思ってくれたかね?」
ある程度水を飛ばしたところで、ハーグは誰にともなく微笑みかける。
またまた引っ掛けてやりましたァん! とでも言いたげな表情である。
――そう、ハーグの【勇気】は、ホワイトスネイクを全てのスタンドに変化させられるワケではない。
首元に星型の痣があるキャラのスタンドだけに、変化させられるのだ。
だから、メイド・イン・ヘブンも使用出来たというわけだ。
「にしてもよォ……」
ハーグは、己がワンキューに与えたダメージを思い出す。
スタープラチナのラッシュに、顔面に『加速』を上乗せした波紋を纏わせた拳。
それを思い出し、ハーグは月を見上げた。
■
ハーグとワンキュー、互いに違う場所で同じ月を見上げる。
出てきた言葉は、奇しくも同じもの。
「「あンなもん、全然軽症じゃねーーーかッ!!」」
あくまで漫画ロワ感覚で、の話である。
「「てか、 スタンドを変化させられる時間/トルネード螺旋の威力 への制限キツすぎだろ! 殺し合いやる気あんのかよ、あの主催ッ!!」」
これも、あくまで漫画ロワ感覚で、の(ry。
「「やっぱ合同最終回とか、面倒なことやる人らの考えは分かんねェェェーーーーッ!!!」」
これまた、あくまで漫画ロワ感(ry。
【一日目・黎明/奈良県】
【【勇気】ハーグ@漫画ロワ】
【状態】腹に穴、腕に軽い打撲、波紋で随時回復、疲労中、『 軽 症 』
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】基本:あのスカタン(主催者)を一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ~~。
1:逃走王子に追いつき、説得して落ち着かせる。
2:仲間欲しー。
【備考】
※外見はプッチ神父の服を着たジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険です。
※ジョジョのことで知らないことはありません。
※波紋を使えて、スタンド『ホワイトスネイク』を操れます。
※【勇気】により、十秒間だけ『首元に星型の痣があるキャラのスタンド』にホワイトスネイクを変化可能。
【一日目・黎明/和歌山県があった場所】
【
【破転】ワンキュー ◆1qmjaShGfE@漫画ロワ】
【状態】テンションだけじゃなくボルテージも上がってきた!!、全身打撲、ちょっと体に痺れ、疲労微、『 軽 症 』
【装備】なし
【道具】支給品一式、ミカン五十個以上
【思考】基本:『覚悟は熱血対主催』という予定調和を裏切る為に皆殺し。主催も殺す。
1:どっか行って、皆殺しだッ!!!
2:ハーグは、かーなーりー驚かして殺すッ!!!
【備考】
※外見は葉隠覚悟@
覚悟のススメです。
※【破転】漫画ロワ書き手に与えられた称号にして、彼らの『切り札』。
追い詰められなきゃ使用できないと思ってたか!? その予想を裏切るッ!!!
※学生服の上着は、引き千切りました。つまり半裸。
※ハーグの支給品の【ダーツの矢@漫画ロワ】は、消滅しました。
【和歌山県:崩壊】
※和歌山県があった場所には、海の上に岩的な物や瓦礫が幾つか浮いてるので、飛び跳ねての移動は可能。
時系列順で読む
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最終更新:2009年05月19日 18:23