奈良県に建てられた民家の一室にて、服を乾かしたハーグがソファに座り込んでいる。
彼の眼前には、同ロワ出身の男から奪い取ったデイパックから出てきた支給品が三種。
どれも、ワンキューが使いそうにないものばかりであった。
それを眺めるハーグの表情は、あまりにも緩みきっている。
まばたきを忘れかけているせいで瞳は水分を失い、口はだらしなく開いたまま。
自分のだらしなさに気付かぬまま、ハーグは支給品の一つを手にする。
彼の戦闘スタイルでは本来使わない西洋剣を数回振り回すと、ゆっくりと掴んでいる得物へと視線を流す。
ある一点でハーグの視点は固定する。
刃に刻み付けられた英単語に、血液で付け加えられた一文字のアルファベット。
それを何度も何度も胸中で読み上げ、やっとハーグは首を上げる。
ワンキューとの激闘でも流さなかったほどの汗を滝のように流して、唇を震わせながら呟く。
「本物……だ……」
彼が手にしている剣は、彼が愛する漫画のジョジョに登場する『LUCKの剣』。
幸運と勇気の意味をこめて、騎士から第一部主人公のジョナサン・ジョースターに託されたものだ。
剣を使用しない戦闘スタイルだとはいえ、夢にまで見た剣に触れているのだ。
ハーグの胸が高鳴るのは当然だろう。
「ってことは…………」
LUCKの剣を持っていない方の左手で、床に転がる拳大の赤い宝石を掴み取る。
顔を伝った汗が床に落ちたのを気にも留めずに、ハーグはその赤石に波紋を流し込む。
直後、赤石は激しい輝きを放つと――レーザーを吐き出した。
窓を突き破った光線を意に介さず、再びハーグは揺れるような声を漏らす。
「これも、これも……ぁぁっ、マジでかァァアアアーーーーッ!」
その宝石の名は、『スーパーエイジャ』。
『エイジャの赤石』の中でも最大のものであり、これまたジョジョの第二部に登場するキーアイテム。
漫画では味わえない確かな重量感、荒木飛呂彦のカラーイラストがそのまま飛び出てきたようなあまりの原色っぷり。
全身に鳥肌を立てながら、ハーグはLUCKの剣とスーパーエイジャをデイパックに仕舞い込む。
LUCKの剣はともかくとして、波紋増幅器であるスーパーエイジャは手元に持っているほうが便利だが、あえてハーグはそれをしなかった。
なぜかって? 簡単なことさ。汚れるから。
「ヌケサクを支給された女の子は心配だが……すまねェ、許せ」
支給品確認のために付けていたランタンを切り、ハーグは部屋のカーテンを全て閉める。
「このハーグには義務がある」
一切外に光が漏れないようにして、蛍光灯の電源を入れるハーグ。
部屋の中が明るく照らされ、二十七冊から成る三つ目の支給品を照らす。
「正しいと信じる義務がッ!!」
足早にソファまで戻ると、ハーグは『第一巻』を手に取る。
汚さないように洗い、濡らさないように何度も拭いた手で、傷付けないように慎重な手付きで。
…………ハーグがワンキューから奪った支給品の三つ目は、『ピンクダークの少年』という漫画の第三部までセット。
これまたジョジョの四部に登場するキャラクターが、作中で連載していた漫画である。
ジョジョオタにとって、こんなに読んでみたい漫画はないだろう。
金をどんなに積んでも、いかなるコネを使っても、絶対に手に入らないのだ。
それが目の前にあって、読まないなんてジョジョオタに出来るわけがないッ!
もはやハーグの中では、ピンクダークの少年読破>>>>越えられない壁>>>>ロワとかその辺、の構図が完成していた。
止まることなく五巻まで突き進み、第一部のラストにハーグが目頭を熱くした時だった。
ハーグが潜んでいた民家を、炎が覆った。
◇ ◇ ◇
奈良県にいるのは、ハーグ一人ではない。
というか、なんというか、奈良県に飛ばされてそのままずっと動いてなかった男がいた。
強い相手との戦いを求めていながら、まったく動かなかったのには理由がある。
彼は独特の嗅覚を持っていて、近くに誰かいれば分かるのだ。それも、ある程度の戦闘力まで。
だからこそ、わざわざ動かずに強者の出現を待った。
しかし開始から数時間経っても誰も訪れず、苛立ちがピークに達しそうなところで――彼は強者の臭いを感じ取った。
その正体はハーグ。
赤い髪を風になびかせながら、男はハーグの元へと巨大な犬を走らせる。
笑みを隠しきれていない男の名は、
宝貝:勇者王。トリップは◆hqLsjDR84w。
強者の臭いの根源の付近まで着くと、支給された哮天犬を停止させる勇者王。
潜んでいる証拠など外部に漏れていない民家の前に立ち、勇者王は静かに紡ぐ。
「――イークイップ」
瞬間、勇者王が戦闘形態となる。
腹と鼻から上を除く上半身を黒いボディスーツが覆い、両肩を巨大な双剣が貫く。
姿が変わったのを確認してから、勇者王は左腕を伸ばして人差し指をハーグのいる民家に向ける。
「金蛟剪」
勇者王を貫く二つの剣が動くと同時に、その刃からエネルギーが溢れ出す。
それらは白い龍を模り、勇者王の指差す民家へと突っ込む。
強大なエネルギーの塊である白龍の突撃を喰らい、一瞬の内に民家は炎上。
立ち上る巨大な火柱を見つめながら、焦ることなく勇者王は吐き捨てる
「この程度で死ぬ相手ならば、用はない」
◇ ◇ ◇
「ほう……」
炎の中から飛び出してきたハーグの姿に、勇者王は口角を吊り上げる。
弾く波紋の効力により火傷は皆無。服とデイパックも若干焦げたくらいである。
装着しているM.W.S.ごと、勇者王がハーグに右腕を向ける。
「貴様、強いな。俺と戦え」
オレンジ色をしたボックス形のM.W.S.の先端にある銃口。
そこにエネルギーが充填されているのに気付きながらも、ハーグは俯いたまま。
焦点の合っていない瞳で抱えている灰を見つめながら、ホワイトスネイクを発現させる。
「【勇気】、『クレイジー・ダイヤモンド』」
ハーグが淡々と呟くと、ホワイトスネイクが第四のジョジョのスタンドへと姿を変える。
クレイジー・ダイヤモンドが灰を殴りつけ、ハーグの手元に一切汚れのない二十七冊の漫画本が出現する。
復元した漫画をデイパックに押し込み、ハーグは今度は別のスタンドの名を紡ぐ。
「【勇気】、『ゴールド・エクスペリエンス』」
黄金色となったハーグのスタンドが、転がっている石ころに拳を打ち据える。
石ころが肉の塊となり、ハーグはそれをワンキューに貫かれた傷痕に押し込む。
走るはずの激痛は、波紋を集中させてカバー。
波紋による自然治癒に頼るつもりだったが、現在のハーグには全力を出す必要があった。
ゆえに、体力を削ってまでの回復。
「何をしている」
勇者王が言うと同時に、M.W.S.から三本のビームが射出される。
弾く波紋で跳躍して、ハーグはそれを回避。
対する勇者王の方も不意打ちで仕留めるのは本意ではなく、上空のハーグには手出ししない。
と言っても、ハーグが着地しても戦意を見せなければ、殺して次の相手を探すだろう。
(ヤローは、ピンクダークの少年を焼却しやがった……)
ゴールド・エクスペリエンスが、ホワイトスネイクへと姿を戻す。
宙を舞いながら、未だどこか遠くを見据えてハーグは思案する。
(すぐさま直したが、そういう問題じゃあない。直ったからどうこうで罪が消えるワケじゃねえッ!
だが『存在するはずのない漫画』を焼いたところで、それに対応する法律が存在しねェ。だから……)
地面に足を着けたハーグが、鋭く勇者王を睨む。
伸ばした右の人差し指を空気を斬るように凪いで、勇者王へと向ける。
そして、背後のホワイトスネイクも同様のポーズを取る。
(俺が裁くッ!!)
ハーグの気配から溢れる激しい闘志を感じ取り、勇者王がニィと笑みを浮かべる。
臓物が煮えくり返るような感覚を抑えきれないまま、ハーグは言い放つ。
あくまで口調は、冷静なまま。
「てめーは、この◆hqLsjDR84wがじきじきにぶちのめす」
三白眼気味だった勇者王が、その言葉に目を見開く。
「ム? ◆hqLsjDR84wだと……?」
状況を理解し切れていない勇者王に対し、ハーグは――――
「ッラァ! 呆けてんじゃねえェェェーーーーッ!!」
弾く波紋による跳躍で一気に距離を詰め、波紋を纏った全力の拳を鳩尾に叩き付けた。
【一日目・早朝/奈良県】
【
【勇気】ハーグ@
漫画ロワ】
【状態】腕に軽い打撲、波紋で随時回復、疲労中、『 軽 症 』
【装備】なし
【道具】支給品一式、LUCKの剣@
ロボロワ、スーパーエイジャ@漫画ロワ、『ピンクダークの少年』3部までセット@ジョジョ2nd
【思考】基本:あのスカタン(主催者)を一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ~~。
0:眼前の男をぶちのめす。
1:『ピンクダークの少年』第二部以降を読む。
2:
逃走王子に追いつき、説得して落ち着かせる。
3:仲間欲しー。
【備考】
※外見はプッチ神父の服を着たジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険です。
※ジョジョのことで知らないことはありません。
※波紋を使えて、スタンド『ホワイトスネイク』を操れます。
※【勇気】により、十秒間だけ『首元に星型の痣があるキャラのスタンド』にホワイトスネイクを変化可能。
※疲労は一度回復した後、スタンド変化で蓄積しました。
【宝貝:勇者王@ロボロワ】
【状態】健康、イークイップにより戦闘形態
【装備】M.W.S.@ロボロワ、哮天犬@ロボロワ、金蛟剪@ロボロワ(非支給品)
【道具】支給品一式、不明支給品0~1(確認済み)
【思考】基本:強いヤツと戦う。
1:目の前の男と戦う。
【備考】
※外見はナタク@封神演義です
※イークイップすることにより、戦闘形態(金蛟剪モード)になれます。
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最終更新:2009年06月13日 12:46