それは、六代目が放送を開始するほんの少し前のこと。
このバトルロワイアルへのささやかな介入を終えた“あの子”は、元の世界に戻ろうとしていた。
ところが、その前に一人の青年が立ちはだかる。
「よう」
ごく普通の髪型。ごく普通の目。ごく普通の鼻。ごく普通の口。ごく普通の耳。ごく普通の体格。
特徴というものが見あたらない文章媒体泣かせの外見ながら、声だけは妙に印象的。
その青年は、キョンの姿をしていた。
だが親しげに話しかけられても、少女には彼が何者かわからなかった。
このロワでキョンの姿をしているのは、たしか必殺の土下座通信士だけだったはずだ。
だが、彼と彼女にはなんのつながりもない。それに、通信士はロワが始まってから一度も殖装を解除していないはずだ。
「あなた、誰です?」
「おいおい、わからないか? しっかりしてくれよ、軍曹Jr.」
その言葉を聞き、少女の脳裏に電流が走る。名もなき彼女の呼称は、今では“あの子”が定着している。
だが確かに、「軍曹Jr.」と呼ばれていたこともあった。そして、その話を書いた書き手は……。
「
杉田空気王……?」
「YES I am! チッチッチッ」
“あの子”の言葉を、青年は指を振りながら肯定する。
「隙あらばジョジョパロを使ってくる……。確かに空気王さんみたいだね。
だけど、この世界でのあなたの姿はかがみもしくはみゆきだったはず……」
「万物に表と裏があるというのならば、その狭間に中庸が存在するのもまた道理。
書き手ロワ2nd・139話『 罪と罰~全てはフラグ・ビルドのために~ 』からの引用だ。
これがマーダーでも対主催でもない、『中立』の俺の姿。
デビュー作が意外な影丸?の話だった俺がキョンの姿になっても、何ら不自然じゃない。
そもそも、俺は『杉田』空気王だからな」
「なるほど、姿に関してはわかったよ。それで、なんであなたが私の前に現れたわけ?」
「決まってるだろう」
空気王は人差し指を立てた右手を伸ばし、少女を指さす。
「お前のこれ以上の介入を、防ぎに来たんだ」
「これ以上の介入、ねえ……? 杞憂だと思うよ? 私はもうこっちのロワに介入するつもりはないから」
「それはあくまで、今の時点でだろう? 先のことはわからない。お前にも俺にもな。
この物語の終点は、まだ作られてないんだから」
「それを言い出したらきりがないでしょう。これから起こるかもしれないこと全てを気にしていたらなにもできなくなる」
少女は、その整った顔立ちに苦笑いを浮かべる。
「だが、ほとんど全能に近いお前がいつでも介入できるって状況は、ロワにとって好ましいとは言えない。
切り札ってのはそう何度も使えないから切り札なんだぜ? だから、ここで潰させてもらう」
「具体的にどうするつもり? 私をフルボッコにでもするの?」
「そんな無謀な選択肢は選ばねえよ。前提として、俺は子供に優しいしな。
まあ安心しろ、痛みは与えない。ただ、ちょっとくすぐったいぞ?」
そう告げると、空気王は右手を天に向ける。するとその手の中に、一枚のカードが出現した。
「終劇『ココヨリトワニ』」
空気王が、カードに込められた言霊を解放する。その瞬間、彼の体がほのかな赤い光に包まれた。
「◆KuKioJYHKMの名において決定する。『ココヨリトワニ』、“あの子”は書き手バトルロワイアル3rdに干渉できない。
代償として、俺はこの姿と特殊能力を今後一切使わないことを誓う」
淀むことなく、空気王はすらすらと言葉を紡ぐ。そして言葉が止まると同時に、彼を包んでいた光が少女に移り始めた。
「なるほど、最終回のタイトルを『特定の事象を永遠に固定する』能力に解釈したのか。面白い」
微笑を浮かべながら、少女は呟く。その肉体はこの場所への存在を許されず、徐々に薄くなっていく。
「ちょっと心残りはあるけど、まあいいや。それじゃあさようなら、空気王さん」
「おう、親孝行しろよ」
「それはどうかなあ」
他愛のない会話を最後に、彼女の体は完全にこちらの世界から消え去った。
それと同時に、空気王の体も彼が支払った代償により崩壊していく。
「よかったの? そんなに大きな代償支払っちゃって」
ふいに、その空間に“あの子”とは違う幼女の声が響く。一瞬は驚きの表情を見せる空気王だが、その顔はすぐに納得のそれに変わった。
「あんたか、軍曹さん。子供のいたずらの責任でも取りに来たか?」
「あの子に用があって来たのは確かだけど……。その言い方は正確じゃないなあ。
私はエド。あくまでFFDQロワのラジオDJとしての存在。あの子の親とは根元が一緒でも、まったく別の存在。
あなたも自分の作品で書いてたでしょう? 同じ存在から生み出されても、それぞれ違うものを受け継いだ以上それはもう同一の存在たり得ない」
「ああ、そういやそんなことも書いたっけ……」
空気王が、消えかけた指で頬を掻く。
「それはそれとして、最初の質問に答えてもらってないよ。能力を手放しちゃって本当によかったの?」
「別にかまわないさ。そりゃあ俺だって書き手ロワ2ndの後半はチートバトルも書いたけど、実際には一般人のバトルの方が好きなんだよ。
戦闘力の低いキャラが、手持ちの支給品を駆使して立ち回る、みたいな感じのがな。
だから、俺にチート能力なんて必要ない。一般人だって頭の使いようでいくらでも戦えるってことを、この身で証明してやるよ」
「そっか。そういうこだわりがあるって言うなら、私が口出しすることじゃないね。じゃあ、私はそろそろ失礼するよ。
目的はいちおう達成したから、報告に戻らないと」
「O.K。んじゃな、エドさん。縁があったらまた会おうぜ」
軽い口調で告げると、空気王は……正確に言えば、空気王の中のキョンの姿は消滅する。
代わりに現れたみゆきの姿の空気王は、意識を失いその場に崩れ落ちた。
「さて、参加者への余計な干渉は無用ってね……。まあ、すでに十分に干渉しちゃった気もするけど」
セージの姿になり、エドは呟く。そして倒れた空気王に手を触れることなく、ルーラでその場から去っていった。
◇ ◇ ◇
そして空気王は、新たなフィールドに放り込まれたところで目を覚ます。
「あ、あれ? ここ、次のフィールドですか? でも、さっきまで一緒にいた皆さんはどこに?」
自らが置かれた状況に、混乱する空気王。その耳に、放送の声が届く。
『はい。どうもロワ開始から六時間が経過したワケでして――』
【一日目 朝/ガーデンエリア】
【杉田空気王@書き手ロワ2nd】
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、対主催モード
【装備】クレイジーダイヤモンドのDISC@書き手ロワ2nd
【道具】支給品一式、透明マント@アニロワ1st、ココ・ジャンボ@ジョジョロワ1st
【思考】基本:対主催
1:皆さんはどこに……。
※女性の姿の時は対主催寄りの思考、男性の姿の時はマーダー寄りの思考になります。
切り替わる条件はぶっちゃけ適当です。
※第三人格時の記憶は残っていません。
【???】
【エド◆O0LqTosP8U @
FFDQ3rd】
【状態】普通、セージモード
【装備】???
【道具】???
【思考】
基本:◆ANI2to4ndEの協力者ライフ満喫。
1:◆ANI2to4ndEの空間に帰還し、ことの顛末を報告。
2:六代目さんが現場で頑張ってるんだから、こっちも頑張らなきゃ。
※外見は現在までセージ(DQ3)、マティウス(FF2)、タバサ(DQ5)までの変化は確認。どこまでやれるか不明。
※主催側の人間です。
※“あの子”は今後、こちらのロワに干渉できません。
※杉田空気王は第三の人格への変身と、特殊能力の行使ができなくなりました。
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最終更新:2009年06月21日 10:39