◇ ◇ ◇
「……ちっくしょうが」
枯れ果てた大地に、ハーグは拳を思い切り叩き付ける。
拳が傷付いて血が溢れても、意に介することなく。
自身が飛ばされたのがミニチュア日本であるなどと、ハーグには知る由もない。
それでも砕けた建築物や枯れ果てた樹木を見てしまえば、戻ることなど不可能に近いと察してしまう。
ハーグが地面を何度殴った時だろう。
勇者王より受け渡されたデイパックから、一枚のDISCが転がった。
この状況を打破できるスタンドかもしれないとDISCを手に取って、ハーグはすぐにその可能性を否定した。
そんなスタンドなど存在しない。
諦めきった表情でDISCに視線を投げ、ハーグは目を見開いた。
DISCの表面に写っていたのは、白と青の人型。
絶影という名のそれは、アルターであってスタンドではない。
だというのに、DISCとなって存在している。
理解できない様子のハーグに、ふとかつてあったとあるロワのことが蘇る。
完結した
書き手ロワ2ndにて、ハーグの分身は絶影をスタンドとして使用していた。
「なるほどな……」
一人ごちてから、ハーグはDISCを額に挿し込む。
「『絶影』」
一瞬の異物感を味わってから立ち上がり、絶影を発現させるハーグ。
アルターと違い、何かを原子レベルに分解することなく呼び出すことができた。
その事実に驚きつつ、意識を集中させる。
「『ACT2』」
力を閉じ込める拘束具が弾け飛び、絶影が真の力を露にする。
小さめの人型から、巨大な半人半竜の合成体となった。
慣れないスタンドの使用に呼吸が荒くなるものの、ハーグは無理矢理に抑え込む。
絶影を使いこなせれば、現状を打破できるだろう。
だが、まだ足りないのだ。
絶影の全力が必要となるのだから、この程度で疲れてなどいられない。
ハーグは絶影の最終進化形態を発動させるべく、ゆっくりと呼気を整える。
「『ACT3』!」
ハーグの叫びに反して、真なる絶影は全く変化しない。
――――アイツ(俺)のスタンドを、俺が使いこなせないはずがない。
ロボロワの自分のような考えで絶影を発現させたまま、ハーグは自身の技を発動させる。
発動しないというのなら、目醒めればいい。スタンドは成長するのだから。
アルターの最終進化に必要なのが進化の言葉ならば、スタンドの成長には目醒めの言葉だ。
だったら、ハーグは相応しい作品を投下している。
「『AWAKEN-目醒め』ッ!!」
瞬間、絶影ACT2が青白く光った。
真なる絶影が細分化されて、その欠片一つ一つがハーグに纏わり付く。
塵と変わらぬサイズとなった欠片が、ハーグの身体を覆う強化服を構築していく。
若干の時を経て、絶影は完全に第三形態へと変化する。
ハーグの全身を覆う紺色の鎧、顔の正面以外全方向を守るヘッドギア、両腕に装着された巨大な刃。
そう、絶影のACT3は着込むタイプのスタンド。
その名を、絶影正義武装。
全身をまじまじと眺めて正義武装発動に成功したのを確認し、ハーグは思いっきり右腕を振りかざした。
「おおおおおあああああああッ!!」
凪ぎ下ろすように一閃すると、空間に大きな裂け目が入った。
絶影の刃は空間をも斬り裂くのだ。
狙い通りに開いた空間の穴へと、ハーグは勢いよく飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
「あァッ!?」
新たなフィールドへと繋がる空間で、ワンキューが怪訝な声をあげた。
どこからともなく斬撃が飛来して、『紅四国』の表面に傷を付けたのだ。
反射的に振り返ったワンキューは、視界に捉えた。
空間に刻まれた一筋の亀裂と、そこから現れた紺色の鎧を纏うハーグの姿を。
スタンドとは精神のヴィジョン。
DISCよりもたらされた絶影だが、それを構成するのはハーグの精神力。
ゆえに、その意志が篭められている。
つまり絶影正義武装とは魂の宿った生ける鎧、さながら強化外骨格。
「はッ! 強化外骨格同士ってか! 面白ェ!」
強化外骨格『紅四国』を纏うワンキューは、その事実に表情をほころばせる。
いや、彼が上機嫌そうな理由はそれだけではない。
人間ワープで前回のステージに吹き飛ばしたハーグが、こうして姿を見せたという事実。
北斗神拳伝承者であるケンシロウでさえなす術がなかった戦法を受けてなお、己の前に立つという事実。
それが、何よりも面白い。
「いいぜいいぜ、お前最高だ! 予想を裏切り、期待を裏切らねえ! それでこそ
漫画ロワだ!」
当時忌み嫌われていたゼロの使い魔が、あそこまで活躍するなんて。
鷲巣とカズマが相打ち、その結果あのアミバがああなるなんて。
拳王が腹を下すなんて。
最弱キャラと称された少女が、超人バトルを繰り広げるなんて。
拡声器でとんでもない宣言をぶちかます鬼なんて。
呆気なく死したケンシロウが、大業を成し遂げていたなんて。
全員で解除しなければまずいというのに、勝手に首輪を解除するなんて。
全員の支給品から繰り広げられる考察なんて。
ハリセンで怪人をフルボッコだなんて。
そして何より――――企画開始当初は交流所でネガキャンされまくりだった漫画ロワが、あそこまで盛り上がるなんて!
誰が予想したというのだろう。
ワンキューの行動を除外しても、この通りだ。
予想を裏切ってきたのは、ワンキューだけではない。
漫画ロワ書き手は、漫画ロワ住人は、その存在自体がかつての予想の裏切りなのだ。
みんながみんな、好き勝手やる。
いらないフラグなんて叩き折る。
議論に集まる人がいない。
主催側に関するチャットなんて、開始二分で会議終了する始末。
施設が被ったって、知ったこっちゃない。
予約を譲るという、その発想そのものが存在しない。
だいたい、どうしておいしい所を譲らねばならんのか。
でも、楽しい。
なぜならやりたい放題なアイツらは、予想を裏切るそいつらは、こちらの期待を決して裏切りはしないのだから。
ちょうど、舞い戻ってきた眼前の男のように。
嗚呼――と、ワンキューは実感する。
「やっぱ、いいよなァァ! 漫画ロワは!!」
「んなこたァ、言われなくても分かってんだよ!!」
既に、両者の距離は縮まりきっている。
相手の顔面目掛け、ハーグが巨大な刃で覆われた右手を振り下ろす。
影をも絶やす速度による一撃だが、それに反応するのがワンキュー。
鋭い呼気とともに脳から身体へと指令を下し、左腕でハーグの刃を受け止める。
接触と同時に、ワンキューの左肘から先が赤く染まった。
着込んでいる紅の鎧によるものではない。
その鎧すらいとも容易く裁断して、ワンキューの前腕がサイコロステーキのようにカットされたのである。
絶影の斬撃は鋭く、そして無形。
刃自体を受け止めようとも、刃から放たれる斬撃は止まらない。
とはいえ、漫画ロワ書き手のワンキューがそれを知らないワケがない。
その気になれば『紅四国』の背面や足裏にあるバーニアを起動することで、無形の斬撃を回避することもできた。
だというのに行わなかったのは、絶影正義武装相手に距離を取るのが自殺行為であるから。
『紅四国』にだって遠距離攻撃用武装はあるし、ワンキュー自身に闘気を射出する技もある。
だが、それでもだ。
昇華弾とて、非致死性麻酔液とて、北斗剛掌波とて、絶影の断罪断は両断するだろう。
また、ハーグには仙人界二位の破壊力を持つ宝貝だってあるのだ。
対抗できるであろう乖離剣は、発動に若干の時間がかかってしまう。
だからこそワンキューは左腕を犠牲にしてまで、己の得意とする接近戦を選択する。
腕はともかくとして、『紅四国』と内蔵兵器は分割されてもいずれ再生するのだから。
「因果ああああ!」
左腕の痛みなどないかのように、ワンキューは右拳をハーグの顔面に叩き付ける。
零式因果とは、相手の力を返すカウンター。
影をも絶やす速度を手にした現在のハーグは、その勢いを自分で受けることになる。
正義武装のヘッドギアは砕け散り、防ぎ切れなかった衝撃でハーグは己の首から鈍い音を聞いた。
「をいをいをいをい、終わりじゃねえよな!」
吹き飛んでいくハーグへと、ワンキューが『紅四国』背面のバーニアを全開にして駆ける。
すぐさま追い付きを叩き込もうとして、ワンキューはハーグの首筋が輝いていることに勘付いた。
そして――――世界が静止した。
ただただ奇妙な色が広がるだけの異空間。
その中で、唯一藍色の鎧を纏う男が姿勢を立て直す。
その背後には、黄金の人型。
すなわち、帝王のスタンド『世界(ザ・ワールド)』。
ハーグは本来スタープラチナの方を好むのだが、そうも言っていられない。
折れた頚骨を治すだけの波紋エネルギーを練るには、スタープラチナの五秒では足りなすぎる。
少なくともその二倍ほど――ザ・ワールドで止められる九秒が必要。
「やれやれ、一応くっついたか。完全じゃねえが贅沢も言っていられねえ」
首の間接を鳴らして感触を確かめ、ハーグはザ・ワールドを眼前へと移動させる。
波紋エネルギーを練るのに消費した時間は、八秒七九。
静止した世界にいられるのは、残り僅か。
群青の刃で覆われた右腕を凪ぐ暇はない。
となれば選ぶのは、慣れ親しんだ攻撃方法。
「無駄無駄無駄無駄――!」
ハーグの叫びに応えるように、ザ・ワールドが腕を前後させる。
拳を叩きつけるのは、ワンキューの顔面から脚部までの全範囲だ。
「グあッ!?」
時が動き出したのだろう。
ワンキューの口から、意図せず声が零れた。
絶影により両断された傷が広がり、『紅四国』の香川の辺りに亀裂が入った。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァーーーーッ!」
姿を変えられる一秒間たっぷりと拳のラッシュを浴びせ、ザ・ワールドが『ホワイトスネイク』に姿を戻す。
一方的に攻撃を受けていたワンキューは、襲い来る衝撃に吹き飛ば――ない。
背面と両足のバーニアを噴射させて、仰け反る程度で済ませたのだ。
バーニアのエネルギーを調整して姿勢を正すワンキューを見据え、ハーグは再び自身の称号を唱える。
強化外骨格の上からでもDISCを抜き取るのは可能だろうが、若干の隙が必要となる。
並の超人ならともかく、ワンキューならばDISCに手をかけてからの数瞬に五回は殺されるだろう。
そう考え、ホワイトスネイクを最強のスタンドへと変化させる。
二つのスタンドを発現させているのに加えて、切札の連発。
もう一人の自分と融合したため体力はさして減っていないが、精神疲労は大きくハーグの顔に玉のような汗が浮かぶ。
「時を止める隙はやらねえ!」
「…………くッ、オラオラオラァ!」
ハーグが時を止めようとするのを察知して、ワンキューがスタープラチナへと殴りかかる。
ワンキューとスタープラチナの戦法は、まったく同じ。
単なる乱打(ラッシュ)だ。
しかし拮抗はしていない。
スピードとパワーの両方でトップクラスのスタンドであるスタープラチナを、ワンキューはじょじょに押していく。
拳に少しずつ織り交ぜる蹴りで、ワンキューは左腕喪失の穴を埋めているのだ。
零式防衛術と北斗神拳――牙を持たぬ人の剣と暗殺拳という、相反する二つの流派を極めたからこその超技。
「ガああ……ぅ」
一瞬に満たない接触で、ワンキューはスタープラチナの秘孔を付いたのであろう。
唐突に正義武装ごとハーグの横っ腹が弾け、赤黒い液体とピンク色の物体が飛散する。
臓液と血の混合物が目に入ったことで、微かにスタープラチナの動きが鈍った。
すぐさま拭ったが、その隙を逃すワンキューではない。
スタープラチナへと払うような下段蹴り。これは零式でも北斗でもない、南斗の仁星の流派。
ハーグの視界が明瞭になった時には、スタープラチナの左太腿半ばより先が宙を舞っていた。
同時に、熱した油を浴びせられたかのような感覚がハーグに走る。
痛みの源である左脚がどうなったのかなど、見るまでもない。
顎に力を篭めて、拳のラッシュを再開させる。
さすがに波紋エネルギーでも落ちた足をくっ付けることなどできず、痛みを和らげることしかできない。
ぎりりと歯を軋ませて、ハーグは深く息を吐く。
目を見開いて意識を集中させる。先ほどか分泌されていた汗が、ついにハーグの頬を伝った。
「うっらあ! もうすぐ十秒経っちまうぜ! まさかこのまま終わりじゃね――なあッ!?」
言葉の途中で、ワンキューは前のめりにぐらついた。
理由は単純。拳のラッシュを放っていたスタープラチナが、急に消失したのだ。
何を考えているのか、と考えて体勢を立て直したワンキューの瞳に黄金の龍が映った。
「ヤッベ――――!?」
『紅四国』の足裏に設置されたバーニアを全力噴射させようとするが、それよりも早く黄金龍がワンキューに喰らい付いた。
ハーグはスタープラチナを目隠しとして、その背後で体内の金蛟剪を行使していたのだ。
ただでさえ精神疲労が大きい現状、早々にスーパー宝貝を使用すれば持久戦となれば持たない。
そのように判断していたのだが、片脚を落とされたことで使用を決断した。
どちらにせよ持久戦が厳しいのならば全力で畳み掛ける、と。
「ぐがあああああああァァャャーーーーーッ!?」
ワンキューに噛み付いたまま、黄金龍が縦横無尽に空間を奔走する。
加速するごとに黄金龍を構成するエネルギーが、ワンキューの纏う『紅四国』にひびが入っていく。
腕を振るおうにも、ワンキューは腕もろとも噛み付かれており自由が利かない。
『紅四国』を分解して爆散させる瞬脱装甲弾なら使用可能だろうが、それを使ってしまえば黄金龍のエネルギーから身を守る物がなくなってしまう。
闘気を射出したところで、金蛟剪で呼び出された龍はエネルギーを喰らい尽くす。
ならば、ワンキューはこのまま高エネルギーに手も足も出ずに消し炭となるのだろうか。
「ナメ……てん、じゃ……ねええええ!!」
――――その予想を否定する叫び。
「天将……奔烈!!!」
黄金龍の輝きをも上回る光が、ワンキューの全身から溢れ出す。
言い放った名は、拳王の秘奥義。
言ってしまえば、単に身体から闘気を放出するというだけの技だ。
それを秘奥義とまで昇華させるのは、闘気の絶対量。
闘気とは非情の血によって生まれる。
となればこれまで非情の血を浴びてきたワンキューの闘気は――
「…………やっぱアンタ、デタラメすぎるぜ」
「はッ」
黄金龍ですら喰い尽くせなくとも、しようがない。
「相性的に闘気じゃ適わない……とでも思ったか?」
ハーグに嘲るような言葉を吐き捨て、ワンキューは『紅四国』のマスクの下で頬を緩めた。
が、不意にふらついてしまう。
状況が理解できないワンキューは、自分の身体をまじまじと見詰めて理解した。
着込んでいた『紅四国』が、大幅に千切れているのだ。
亀裂の走っていた香川部分(左肩から先)は消滅。
徳島(左下半身)と高知(右下半身)も三分の二が剥がれており、愛媛(左腕を除く上半身)くらいしか完全な部位がない。
再生してるが、この戦闘中に復元するのは不可能だろう。
露となった素肌も焼け爛れており、香川付近に至っては炭化している。
「くッ、は! ははっ、はーっはっはっは!!」
ワンキューは腹を抱えて笑い声をあげる。
その衝撃で炭化した身体が僅かに崩れるが、意に介さない。
予想外の損傷に、期待を裏切らないハーグの攻撃。
これが笑わずにいられるものか。
後のことなど、後で考えればいいのだ。
マーダーが全滅しようと、勝手に首輪解除するやつが現れようと、いつだってそうしてきたではないか。
「マジでシャレにならねーよ、アイツ。
こういう大規模バトルは、漫画じゃあんまり書いてねえってのによ。フォティさんとかの出番だろ、フツーよォ」
彼方で高笑いするワンキューにハーグは静かに毒付き、そしてふと笑みを浮かべた。
「でもロボじゃよく書いてたらしいしなァ、俺。漫画であんまできなかったバトルをよ」
だったら成長を見せ付けてやるぜと、自分にしか聞こえない程度の声で続ける。
黄金龍を発現させるほどの体力は、もう残っていない。
スタープラチナのラッシュで押される以上、パワーでは適わない。
となれば、使うのは絶影一択。
が、それだけでは足りない。
ただ接近したのでは、先ほどのようにカウンターが来るだろう。
時を止めるにしても九秒では、接近で時間が尽きる。
必要なのは、カウンターを喰らわないほどのスピードとパワー。
そこまで考え、最適のスタンドを選出した。
「【勇気】、『メイド・イン・ヘブン』」
発現させたホワイトスネイクが、半人半馬の姿となる。
その能力は加速――――天国への到達。
「なるほどな! いいぜいいぜ、ぞくぞくするあああああああああ!」
ワンキューが、零式防衛術が一つ破邪の構えを取る。
狙うは、やはり零式因果。
その性質上、因果は相手が速く強いほどに威力が増す。
ハーグが絶影に加えメイド・イン・ヘブンを使うのなら、決まれば必滅の威力となるのは必然。
とはいえ、ワンキューの姿勢はこれまで因果を放たんとしていた時とは大きく異なる。
左足を上げ、体重を右足だけで支える。重心は僅かに背面寄りとして、『紅四国』のボディが軋むほどに右腕を振り被る。
スピードに特化した絶影に加速能力をプラスするハーグに対し、極限の溜めをもって立ち向かう。
ホームラン王の一本足打法を思わせるその構えは、すなわち零式防衛術・水鳥の構え。
さらに右拳を覆う『紅四国』を赤熱化。これまでの血肉を思わせる黒みがかった赤色から、焼けるように鮮やかな赤色となる。
胸部装甲に埋め込まれている少女のことは、あえて言いはない。全力を出させてこその【破転】。
「カウンターを叩き込むっつー……」
「俺の反応速度をテメーが上回るとかいう……」
攻撃を開始するまでもなく相手の戦法を見抜き、二人は口元を緩ませる。
「「その予想を裏切るッ!!」」
ゆっくりと浮遊するハーグ。
正義武装の飛行能力に、左脚の喪失がもたらす影響はない。
ハーグは隣にメイド・イン・ヘブンを向かわせ、群青色の刃に覆われた右腕をワンキューに向ける。
短い間だが、そのままで世界が静止した。
ハーグは呼吸を整えつつ機を見計らい、ワンキューはいつでも因果を放てるよう警戒を続けている。
血が零れる音が周期的に続き、かつて鍛え抜かれた筋肉であった煤が宙を舞う。
方や精神疲労極大臓物爆破左脚喪失、方や左腕喪失全身火傷左上半身炭化。
通常なら死に至るほどの怪我をしているというのに、倒れはしない。
所詮、軽症に過ぎないのだから。
いや、そもそも軽症と言うのはおかしい。
一応そう呼んではいるものの、実際のところ違うのだ。
漫画ロワにおいて、怪我という物があってないようなものなのだから。
手首から先がなくても構わず殴るし、胸に穴が空いても構わず殴るし、一度ボコられてもすぐにもっかい会いに行って構わず殴る。
どんなことがあっても、無傷な時と同じように同じように戦うのだから。
死か、戦闘可能か。
漫画ロワにはそれしかないし、それ以外は必要ない。
状態表に状態欄があるから書いているだけで、別にあってもなくても関係ないのだ。
だから状態表で『全身フルボッコ』なんて適当な記述をされていたら、どんなに戦ってもそのままでいい。
片腕喪失してるキャラでうっかり両腕あるかのように書いてしまっても、その部分だけ直せば別の描写なんてそのままでいい。
それゆえに、ワンキューとハーグも戦える。
生きている以上は戦えるし、戦えないのならば死んでいるのと同じだ。
――――ついにハーグの姿が掻き消えた。
ワンキューの目をもってしても、影しか捉えきれない。
でもそれだけ見えれば十分だ、とワンキューは胸中で笑みを浮かべる。
転龍呼吸法により潜在能力の全てを引き出すことのできるのだから、影を見た後に放った因果でも命中することだろう。そういう確信がある。
「絶影刀龍断ッ!!!」
「喰らえよ、俺の『拳』をおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
極光が、周囲を包み込んだ。
「どう、いうこと、だ……?」
光が収束して視界が晴れた中で、ワンキューが誰にともなく尋ねる。
彼の身体は両断されていない。しかし、拳に手応えもない。
半ば混乱しているワンキューの下へ、いきなりに声が降り注いできた。
『
【勇気】ハーグは、朝の六時を過ぎてからミニチュア日本よりバトルロワイアルに復帰しようとした』
「ッ、てめえ!」
その声は、ワンキューの聞き覚えのある物であった。
殺し合いの始まりを告げた、主催者の声だ。
『旅の扉システムを使う以上、それは困るのさ。だから【勇気】ハーグはお呼び出しだ』
「なっ!?」
目を見張るワンキューのことなど知らぬとばかりに、声は続く。
『戻ってきた【勇気】ハーグによりもたらされた事態も、なかったことにせねばならない』
言い終えるより前に、ワンキューを薄い桃色の灯りに照らされる。
目に見えるほどの速度で肉体の修復が始まり、それが完了すると『紅四国』までもが元の形状に戻っていく。
『万全まで回復させたのは、イレギュラーに巻き込まれた侘びってことで。じゃあね』
かくして、声は二度と聞こえることはなくなった。
何もなくなってしまった空間で呆然としていたワンキューは、出し抜けに喉を鳴らす。
くっくっくという音をしばらく響かせた後、ワンキューは拳を握り締めた。
「ざッけんじゃねえぞ! テッメエエエェェェェェェ!!」
喉から血が出るのではないかというほどに声を張り上げ、行き場のない拳を宙に打ち据えた。
ワンキューは予想を裏切るのが大好きだし、裏切られるのも好きだ。
だが、期待を裏切られるのは大嫌いだ。当たり前だ、好きな人間なんているもんか。
そして、ワンキューはいま裏切られた。
予想と期待を。
「くっだらねえこと気にかけやがって腹立つ……腹立つぜ、合同トリップさんどもよォ。
迅速に片っ端からブッ殺して、テメーんとこに文字通り殴り込みに行ってやるから期待してろよ」
【現在位置・新フィールドへ】
【
【破転】ワンキュー@漫画ロワ】
【状態】ボルテージ吹っ切れてるけどテンションガッタ落ち、万全
【装備】拳、強化外骨格「紅死国」
【道具】支給品一式、ミカン三十個以上 、基本支給品、宇宙刑事ギャバンの装備一式@特撮ロワ、サイバリアン、不明支給品1~3
【思考】
基本:『覚悟は熱血対主催』という予定調和を裏切る為に皆殺し。主催も殺す。
1:皆殺しだッ!!! 最終的には、開催地も主催もブッ壊すッ!!!
2:人質の『真紅の悪魔』でおもしろいことをする。
【備考】
※外見は、学生服の上着を引き千切って半裸になっている葉隠覚悟@
覚悟のススメ。
※【破転】漫画ロワ書き手に与えられた称号にして、彼らの『切り札』。
追い詰められなきゃ使用できないと思ってたか!? その予想を裏切るッ!!!
※強化外骨格「紅死国」:自己再生・自己進化する真っ赤な強化外骨格零。
頭部の星マークに変わり簡略された四国が。七生ではなく破天と書かれている。
また、内蔵兵器にエアとレミリアのスペカが追加されている様子。
冥王が成仏したため英霊不在? 真紅の悪魔でDGモードで起動中?
エアは左肘部に収納されています。『霞』の『袈裟』のように。
◇ ◇ ◇
気付けばハーグの眼前にワンキューはおらず、巨大な漆黒の人型があった。
状況変化による思考停止は一瞬。
◆ANI2to4ndEだと即座に理解したハーグは、鋭く息を吐いて刃で覆われた右腕を向ける。
先刻使用した称号の残り時間は数秒もないが、一閃することは可能。
「はああああッ!」
――――直後、ハーグの視界が変化した。
目の前に広がるのは、彼がもともといた世界。
勢いよく首を振るハーグの瞳には何も映らず、上空から声が落ちてくる。
『お前はもはや参加者ではない』
「……意味が分からねェな」
『参加者は、規定の時間以外で旧ステージから新ステージに移動してはならない。
つまり、君はあの瞬間に参加者からただの書き手になったってワケ。このヴィジョンは賞品さ』
ハーグは、僅かに言葉を詰まらせてから問いかける。
「で、どういうことだ」
『君が脱出を目指していたことは知っている。
優勝者じゃないからそれを叶えることはできないけれど、そう思わせることはできる』
ぴんと来たかのように、ハーグが呟く。
「幻覚……ってことか」
『正解。ホワイトスネイクを持つ君なら、理解できると思っていたよ。
ああ、大丈夫。この能力には自信がある。本当に君が帰還した場合のifを完璧に見せてあげられるよ、永遠にね』
返答は無言。
訝るような動作のあと、◆ANI2to4ndEは軽く手を叩く。
『なるほど、君の身体か。
それも任せていいよ、もう回復させた後だから。腐ったりしないように収納しとくつもりだしね』
「…………マジに、俺の世界そのものなのか?」
『いま回り見れば分かると思うけど、心配なのも無理ないね。でも気にしなくていい』
長い沈黙の末に、時間をかけてハーグは口を開いた。
「これだけの再現、脱出したのと何も変わらない……か」
【【勇気】ハーグ@漫画ロワ HAPPY EN――――】
「だが断る」
言い切って、ハーグはホワイトスネイクを転送させる。
そして自身の額へと手を突っ込ませ、五つの小さなDISCを抜き取らせた。
それは、感覚のDISC。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、以上の五感。
その全てを自分自身から取り出した。
対象に幻覚をかける際に必要な五つを抜き取ることで、ハーグは無理矢理に現実へと帰還したのだ。
永遠に続く幻覚に身を委ねるのも、実際に自分で行動するのと殆ど何も変わらないだろう。
だがそれは、所詮相手の掌の上で踊らされただけの偽りの勝利に過ぎない。
そんなものを手にしたところで、漫画ロワ書き手ならばいったいどうするのか。
――――決まっている。
手に入れた偽りの勝利、偽りの幸福、偽りの人生、その全てを賭ける。
そうして真なる勝利を掴み取るために――――倍プッシュだ。
回復した体力全てを使う。
そう決め込み、ハーグは絶影を発現。最初っからACT3の状態で。
続いて称号を唱える。
ハーグの首筋が激しく輝き、発現させていたホワイトスネイクがメイド・イン・ヘブンへと姿を変えた。
まだ終わらない。意識を集中させて、黄金龍を展開させる。
最後に呼気。波紋の呼吸は、ハーグに生命のエネルギーを授けてくれる。
「――――――――――――――――――――――――」
◆ANI2to4ndEがハーグに何らかを告げたが、聴覚のDISCも抜き取っているのだ。聞こえるはずがない。
◆ANI2to4ndEの居場所は、
宝貝:勇者王の能力で見極められる。
ハーグが◆ANI2to4ndEの方に向き直り指差すと、黄金龍が呼応するように◆ANI2to4ndEに飛び掛っていく。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
声を張り上げながら、正義武装に身を包んだハーグは黄金龍を追いかけるかのように身体を加速させた……――――
◇ ◇ ◇
「でろでろでろでろ~ん♪ でろでろでろでろ~ん♪」
◆ANI2to4ndEのいる空間に、茶色いボディスーツに青色の貫頭衣を着込んだ少女が現れる。
ちなみに口ずさんでいるのは、ドラクエの冒険の書が消えた時のアレである。
彼女は、FFDQロワ3rdのフルートへと姿を変えたエドだ。
青色をした大きな帽子を小脇に抱えているのは、腰まで伸びた水色の髪を洗ったばかりだからだろう。
「たっだいまー……って、あれれ?」
周囲を見渡してから、エドは頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
どうにもこうにも彼女(ひとまず今は)が入浴する前に比べて、風景がおかしいのだ。
足場は大きく抉れ、辺りに無数の傷痕が刻み込まれている。
「なんかあったのー?」
脱衣場に設置されていた冷蔵庫から頂いてきたフルーツ牛乳片手に、エドは問いかける。
と言っても視線は、フルーツ牛乳のビンへと向いている。
「はわっ」
不意に、エドが悲鳴じみた声を上げる。
フルーツ牛乳の蓋を開けようとして、ビンの中に勢いよく指を突っ込んでしまったのだ。
飛び散った黄色い液体が顔にかかって、エドが「あーうー」などと言いながらタオルで顔を拭く。
ちなみにDVD版だと、フルーツ牛乳が普通の牛乳になってるんだって!
ややっ、別に深い意味はないんだよ! ただ放送版とちょっとだけ違うから、間違い探し的な楽しみができるっていうだけ! マジマジ!
えーと、ネット通販の場合のURLは……ttp://www.amazo(省略されました……続きを見たい人は ここ をクリックする暇あったら、各々の自ロワを完結させてください)
「参加者がさきほどまでいたからね」
「…………え?」
首を傾げるエドを無視して、◆ANI2to4ndEは続ける。
「既に殺害したが」
目を見開いたまま、エドは口をぽかんと開いて硬直。
次第に、小刻みにわななき――
「そこは混ぜろや、コラァァァ! 間に合わない間に合わないって班長か! って、やかましいわ!」
◆ANI2to4ndEへとまだ殆ど残ったフルーツ牛乳をビンごと投げつけた。
【【勇気】ハーグ@漫画ロワ 死亡】
【???】
【エド◆O0LqTosP8U @
FFDQ3rd】
【状態】普通、フルート(裏)モード、プッツン
【装備】???
【道具】???
【思考】
基本:◆ANI2to4ndEの協力者ライフ満喫。しばらく留守番兼仕事待ち。
0:混ぜろやァァァァ! (現在、下の思考は消えきってます)
1:残念だけどしばらくは出番は無いかな?
2:六代目さんが現場で頑張ってるんだから、こっちも頑張らなきゃ。
【備考】
※「FFDQ3rdに出演する無名キャラの姿」になれるようです。各作品の主人公やDQ5の双子、マティウス皇帝も含みます。
※主催側の人間です。
◇ ◇ ◇
自分を呼び出したバトルロワイアルの主催者に、ハーグは絶影の刃を振るった。
しかし絶影による斬撃でも◆ANI2to4ndEを打ち砕くことはできておらず、何でもなかったかのようにエドと談笑している。
が、ハーグの放った斬撃はあるものを両断した。
◆ANI2to4ndEがその能力で作り出した、とある空間を。
疑問に思ったことはないだろうか。
六代目とエドは、◆ANI2to4ndEにより使命を与えられている。
R-0109は息絶えているものの、それは協力を拒んだからだ。もしも首を縦に振れば、彼もこの場にいたことだろう。
ならば、だ。
あの男は、どうしていないのだろう。
一二三がいて四がいないのなら、二三四が一がいないのなら、まだ理解できるというのに。
なんでまた、一三四がいて二がいないんだ。
答えは簡単。
彼もR-0109と同じように、差し伸べられた手を払いのけたから。
ということは、あの男もまた現世にもういないのか。
――――答えはノゥ。
最初期よりパロロワ企画に参加しているその知識を必要とされ、未だ生存している。
そうは言っても、◆ANI2to4ndEの作った空間の中に封印されているのだが。
その空間に、ハーグが◆ANI2to4ndEに放った攻撃の流れ弾が命中した。
けれど、まだ彼は動けない。
◆ANI2to4ndEの結界は、
アニロワ2ndの会場に張り巡らされていたそれのように三重構造。
まだその外殻が切り刻まれたに過ぎない。
光の浸入さえも許さない結界に覆われた闇の中で、バトルロワイアルに巻き込まれた参加者を助けに行けない歯痒さを噛み締めていた。
その男の名は――
三大ロワの時代より、数多のロワが継続している現在まで。
パロロワという概念がない頃も、混沌とした乱立期にも。
あらゆる板、あらゆる時代にて。
SS投下、まとめサイト管理、パロロワwiki編集、ネットラジオ、そして別のMCとの合同ラジオ。
もはや存在すること自体が企画の支援となる者。
パロロワが存在する限り、永遠に消えることのない功績を残した『書き手』なのだ。
その書き手の名を、『ゲサロワまとめの人』。
あるいは――――二代目MC『SRS』という!!
彼こそが、ハーグが本人すら知らずに残した未来への遺産。
【???】
【SRS◆SRS//Njsn6@ゲサロワ】
【状態】◆ANI2to4ndEの結界による封印(残り二層)
【装備】???
【道具】???
【思考】
基本:◆ANI2to4ndEを止める。
0:
,・ ̄ ̄ ̄\ 助
`,/ ヽ, け
|:} __ 、._ `}f'〉___ に
,ヘ}´`'`` `´` |ノ ヽ 行
. ,ゝ|、 、, l| } け
/ {/ :ヽ -=- ./ | な
.. / ...ヽ、 \二/ / い
ヽ、._、 _,/ /| !
.. ヽ |
... |ヽ Y / __ト、
ヽ、 | ヽ・__ / ヽ__・/Y-'゙, .\
【備考】
※バトルフィールドエリアに旅の扉があります。
※この話の時間帯は昼です。
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最終更新:2010年03月01日 21:35