少年は――――傷ついていた。
全身には所々生々しい傷が付いており、そのどれもが赤く濁っている。
息は荒く、視界は霞み、立っているのがやっとという状況。
それでも、少年は前に進む。
ズタボロの体をギクシャクと動かしながら、前に進む。
「うがっ」
邪気のような何か、黒くて禍々しいものが体をつきあげる。
ふわり、と浮遊感を覚えた後、胃液を吐き出す。
そして重力に導かれるように、地面へと落ちていく。
やっとの思いで立ち上がったというのに、少年はまた地面に伏してしまう。
それでも、前に進むことをやめない。
地に伏しても、血を吐いても、骨が軋んでも。
立ち上がり、前へ進む。
そんな彼をあざ笑うかのように、力は飛んでくる。
「おう゛ぇ」
ほぼ無抵抗のまま、少年は後ろに吹き飛ぶ。
それでも、少年は進むことをやめない。
ふわりとした金髪、銅の鎧と羽を持つ男。
それが、少年の向かう先。
彼を今もなお傷つけ続けている男。
そこが、目的地。
少年の姿を見ても、男は攻撃の手を緩めない。
目はすっかり冷めきっていて、頬は笑いの一つも浮かべる様子はない。
ただ、そこにあるのは憎悪。混じり気のない負の感情。
男は――――誰よりも彼を書くのが上手かった。
バトルロワイアルパロディの始まり、
オープニング。
その作品において、圧倒的な迫力を生み出し、本編が始まってなおも彼の魅力を引き出していく。
だからだろうか、彼の気持ちが分かりすぎると行っても良いほど、男は彼だったから。
その憎悪まで、その身に受けようとしているのか。
分からない、が、男は今その憎悪を体に宿している。
憎い、全てが憎い。
だから、全てを壊す。
そんな男に、少年はただただ立ち向かう。
力を振るうわけでもない、声を上げるわけでもない。
ただ、前へ進んでいく。
どれだけ苦痛が襲い掛かり、体がボロボロになり、後ろへ跳ね除けられようとも。
一ミリでも良い、前へ前へ進んでいくだけ。
前へ進む、後ろに吹き飛ばされる。
前へ進む、後ろに吹き飛ばされる。
前へ進む、後ろに吹き飛ばされる。
何度となく繰返される攻撃に、身体はボロ雑巾以下に成り果てていた。
それでも、少年は辿り着いた。
「やっ……とだ」
醒めた表情で自分に攻撃を加え続けていた男の目の前に。
一ミリでも前に、繰り返し繰り返し進み続けて。
ようやく辿り着いた。
男は、冷めた表情を崩さない。
目の前に立っている少年に対し、とどめの一撃を打ち込もうと力を溜める。
「これ……で……」
ぎゅっ
「だきし、めら、れる」
腹部の辺りに、やわらかい何かが当たってくる。
視線を下に向けると、少年が自分の腹部に抱きついていた。
◆w3jhWtfiTIこと反旗編「野望」は、恐れていた。
ここは殺し合いの場、誰も彼もが人を殺してしまう可能性がある。
そして、それを恐れていた。
自分が殺されること――――ではなく。
誰かが、誰かを殺してしまうことを。
人が冷たくなるのを、誰かが知ってしまうことを。
「野望」は知っている、人の持つあたたかさを。
だから、そのあたたかさを忘れてしまいそうな人を。
抱きしめてあげようと、思っていた。
そんな矢先に、男――――リクス・エレニアックに出会った。
躊躇いもなく襲ってきたリクスに、「野望」は確信した。
彼は、知らないと。
この身体なら、生き残れるかどうかは怪しい。
ならば、成し遂げよう。
ひとのあたたかさを、つたえるということを。
そして、少年は。
あたたかさを抱いたまま、男の前で眠るように息を引き取っていった。
溜めていた力を戻す。
少年が息を引き取ったのを感じ取ったからだ。
すぐさま、次なる場所へと向かおうとする。
その時、顔から何か液体が零れているのに気づく。
グローブに包まれた手で、それを拭っていく。
無色、透き通った液体を目にし。
「……つまらん」
男は、少年を振り払って前へ進んだ。
――――願わくば、男の心に一片のあたたかさが宿りますように。
【反旗編「野望」(◆w3jhWtfiTI)@俺ODIOロワ 死亡】
【一日目・黎明/G-7/巨大方位磁針の真ん中くらい】
【リクス・エレニアック(◆6XQgLQ9rNg)@RPGロワ】
【状態】憎悪
【外見】オルステッド@LIVE A LIVE
【装備】不明
【持物】基本支給品、不明支給品(1~6)
【思考】
基本:憎む
最終更新:2013年05月09日 20:19