月下の鬼神◆NIKUcB1AGw
ろノ漆。分かれ道に置かれた道祖神の前で、全身に包帯を巻いた異様な風貌の男が月を見上げていた。
「いい月だ……。こんな月の綺麗な夜に酒も煙草も用意してくれねえとは、あの親父も気が効かねえ」
おのれに支給された脇差をもてあそびながら、包帯男は呟く。
「なあ、あんたもそう思わないか?」
ふいに、包帯男は視線を背後に向けた。そこには、一人の男が立っていた。
この場にいる人間の中では珍しいことに、和服ではなく洋装に身を包んでいる。
「確かにそうかもな」
微笑を浮かべながら、洋装の男は相槌を打つ。
「ところで包帯の兄さん、一つ訊きたいんだが……。ここは地獄か?」
「おいおい、藪から棒に何を言い出すんだ?」
「なに、俺はたしか、腹を撃ち抜かれて死んだはずだったんでな。
おまけに人別帖を見てみれば、沖田に芹沢、伊東、新見と俺より先に地獄に行ったはずの連中が名前を連ねてやがる。
それどころか、
宮本武蔵だの
佐々木小次郎だの大昔の剣豪まで載ってるときた。
ここまできたら、死人の世界としか思えねえだろう」
「なるほど、人別帖とやらはまだ見てねえが、そんな面白いことになってるのか……。
確かに、それならここは地獄かも知れねえな。となると、これは閻魔の御前試合か?」
「だとしたら、閻魔大王も酔狂なこった」
二人の男は、目を合わせて共に笑う。
「さてと、それじゃあ……」
「やるか」
共に、最初から殺し合う気は十分。ゆえに、意思確認も必要ない。
包帯男は脇差を、洋装の男は木刀を構え、名乗りを挙げる。
しばしの静寂。それを破り、先手を取ったのは土方。
「やっ!」
気合いの雄叫びと共に、土方は突きを繰り出す。鍛え抜かれたその力と技は、木刀であっても十分な殺傷力を持つ。
だが志々雄は、それを紙一重で回避。同時に、自らが手にした脇差を横になぐ。
土方の顔に、刃が迫る。しかし土方もまた、志々雄の一撃を見事にかわして見せた。
一撃目は、共に空振り。すぐさま次の攻撃に移ろうとする土方だが、その眼前で突如志々雄は構えを解く。
「やめだ」
「やめだと? どういうつもりだ!」
眉間にしわを寄せ、土方は荒々しい口調で志々雄を問いつめる。
「今のだけでも、あんたが本気で戦うに値する腕前だってのはわかった。
だからこそ、お互いこんなちゃちな得物でやり合うのは惜しい。
もっと良い刀を手に入れて、また出くわしたら……。その時に改めてやり合おうぜ」
土方の意思を確認することもなく、一方的に告げて志々雄は刃を収める。そして、そのままその場を立ち去った。
土方はそれを追うことなく、黙って見送った。
「面白い……! ここには、あんな奴がごろごろしているのか……!」
やがて志々雄の姿が見えなくなると、土方は狂気じみた笑みを浮かべて呟いた。
刀では近代兵器に勝てぬ。刀の時代は終わってしまったのだ。そう諦めていた。
だがここは、古今東西の剣豪たちが集う場所らしい。すなわち刀こそが力。剣術こそが力。
これこそまさに、土方が憧れた「侍」の世界ではないか。
死人への冥土の土産としては、身に余る光栄と思えるぐらいだ。
「閻魔大王だかあやかしだかわからないが……。俺をここに呼んでくれた奴には感謝させてもらおう。
ここなら俺も……侍として死ねる……!」
かつて鬼の副長と呼ばれた男は、まさに鬼神のごとき表情を浮かべていた。
【ろノ漆/道祖神の前/一日目/深夜】
【土方歳三@史実】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:全力で戦い続ける。
1:強者を捜す。
2:刀を手に入れる。
3:志々雄と再会できたら、改めて戦う。
※死亡後からの参戦です。
※この世界を、死者の世界かも知れないと思っています。
一方、土方の元から去った志々雄も、顔に狂気の笑みを浮かべていた。
「新撰組副長、土方か……。噂以上の手練れだな。抜刀斎以外にも、俺が本気を出したくなる剣客がいるとは思わなかったぜ。
おまけに、宮本武蔵や佐々木小次郎だと? そいつらが本当に伝承通りの強さかどうか、この目で確かめられるってわけか。
クククク……。死んだ後は閻魔相手に地獄の国盗りだと思っていたが、これはこれで楽しいじゃねえか!
ハーハッハッハッハッハッハ!!」
誰かに聞かれるかも知れないなどと考えることもなく、志々雄は力一杯笑い続けた。
【ろノ陸/街道/一日目/深夜】
【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】健康
【装備】脇差
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:刀を手に入れる(出来れば無限刃がほしい)。
2:強者と戦う。
3:土方と再会できたら、改めて戦う。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖はまだ見ていません。
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最終更新:2009年08月19日 06:55