活かす剣、愉悦の剣◆L0v/w0wWP.



人という生き物はそれが『善』と呼ばれるものであれ、『悪』と呼ばれるものであれ
どちらと線引きする事が難しいものであれ、須く欲望に突き動かされて生きている。
それを以下に制するかが人の道といえども、それに流されるままという者の多い事、多い事。

百八の煩悩という言葉に喩えられるように、その形は人によって千変万化。
人倫に悖ると言われるものも、他者からは到底理解できないものも多々ある。

ここにいる一人の男も、自らの欲望に振り回されて生き、そして死んだ筈の人間である。
彼の抱く欲望は、天下無双の称号を手に入れようなどという事に比べれば些細なものなのかもしれない。
だが、その欲望が人倫からも、常識からも大きく外れたものだったとすれば――――


水面に写る月影を万華鏡のように千変万化させ、滔々と流れる川の水面にかかる一本の橋。
架けられてから幾久しいのか、橋面の板が所々腐食し、欄干に塗られていたと思しき、丹も
殆ど剥げ落ちて、僅かに痕跡を残すのみ。この夜の闇ではまったく確認する事はできない。
宇治の橋姫、一条戻り橋などの故事に代表されるように、橋というものは古来から
向こう岸だけではなく、『あの世』と『この世』の接点としても畏れられてきた霊域である。
闇の中、川のせせらぎのみが辺りに響き、この場が酷く不気味に感じられるのは、ここが
凄惨な殺し合いの舞台となっているためというだけではあるまい。

そんな、異界との渡し場に佇む人一人。まだ、年のころはまだ16、7。長く、たおやかな
黒髪を後ろで結い、一見、この暗く寂しい川辺にも、凄惨な殺し合いの場にも似つかわしくない
可憐な少女である。しかし、その佇まいはあくまで『凛』。本来艶やかな着物に包まれている
肢体に、今は道着を纏っている。彼女こそ、明治の東京で『剣術小町』の異名をとる、
神谷活心流師範代、姓は神谷、名は薫という。


「まったく…この文明開化の御時勢に御前試合だなんてなに考えてるのよ、あのおっさん!
 しかも剣術を殺し合いの道具に使えだなんて…。許せない!」
いきなりこのような場に連れてこられ、混乱してはいたものの、薫の感情をまず支配したのは怒り。
彼女の父が創始し、彼女が受け継いだ流派・神谷活心流は『人を活かす剣』即ち、活人剣である。
相手を殺すのではなく、制する事が最大の極意。その精神も受け継いだ彼女がこの殺し合いを
受け入れる筈もなかった。それに、あの白州の場で殺害された少年、雰囲気こそまったく異なっては
いたが、彼と自分の門弟であり、家族である少年が重なった。おそらく彼も剣の道を志し、これから
羽ばたこうとする、若き剣士の一人だったのだろう。この事も、さらにあの二階笠の男に対する怒りを強くしていた。


それにしても、江戸幕府が武士とともに滅び、明治の世になって、はや十年。この御前試合とやらも、
あの二階笠の男の身なり、話し方も時代錯誤もはなはだしい代物。しかも、辺りを見渡した際、目に
入った他の参加者も殆どが和装で、髷まで結っている者が多かった。さらに殺し合いの舞台となっている
広大な土地…、石動雷十太のような復古主義者や、志々雄真実のような危険思想の持ち主がお膳立てした
ものだとしても、政府の目を盗んでこれだけの大事を成し得るものなのか。さらに、これまで自分が
出会ってきた剣士たちや、白州の場にいた顔ぶれの気迫…。二階笠の男は古今無双の武芸者をここに
集めたと言うが、その中にあって明らかに自分は力不足、そんな自分がこの場に放り込まれた訳は…。

「とにかく…今はうだうだいっててもしょうがないわ。もしかしたら…いや、きっと剣心や斎藤なんかもここに呼ばれている筈。」

自分などが参加させられているのだ。恐らく、自分など及びも着かないの実力をの持ち主である
居候であり、仲間であり、想い人・緋村剣心や元新撰組三番組長・斎藤一がいないはずがない。
誰よりも密接な間柄であり、『不殺』の志を掲げる剣心がこの殺し合いに乗るなど、天地がひっくりかえってもありえない。
斎藤一も少々、いやかなりいけ好かない人間ではあるが、性格上、この殺し合いに乗るとは思えない。
一匹狼かつひねくれた彼のな性分ゆえ、協力を得るのは難しいかもしれないが、接触を図って損は無い。
あの二階笠の男たちの下へ殴りこみ、この悪趣味な催しを台無しにする事も可能なはず。

「まずは…うん、剣心を探さないと!確か、行李に人別帖が入ってるって…」

あの男の言う事が真実ならば参加者の名を記した人別帳と、おのおのの武器が行李の中に入っていると聞く。
まず、この二つを確認しなければ。最低限、身を守るための武器ぐらい持たねば、移動もままならない。

「え~と、…あった!これが地図と、人別帖ね…あと武器は…あれ…?」
「そこな娘御…。」

と、しゃがんで行李を覗き込んでいると、ふいに背後に気配と男の声。
思わず、びくりと肩を震わせ、おそるおそる振り返ると――

「…っ!?」

その場に屹立する男の姿を見て薫は言葉を失った。
年のころは三十にさしかかったあたりと言ったところであろうか、やはり月代を剃って髷を結い、
痩身の体には、百石取り辺りの下級武士の平服を纏い、襷がけ、腰に挿すのはやや厳しい作りの
太刀であろうか。だが、最も目を引くのはその顔。月明かりによく映える色白の肌にまるで
子供が筆でめちゃくちゃに落書きでもしたかのように、大小様々の刀傷が縦横に走ってた。
以前目にした、四乃森蒼紫配下の隠密・式尉のそれよりも更に痛ましい。そして、その男の
自分を見下ろす目――――その瞳にはまるで野生動物が得物を狙うような鋭い光と、
それと相反するどす黒い闇を湛えている。

(殺される!)
体勢が体勢ゆえ、反抗する事も、逃げ出す事も難しい。薫の顔が恐怖で引き攣る。

(…剣心!)

が、男は自分に切りかかろうとはせず、ゆっくりと口を開いた。

「そのようなところでしゃがみ込んでいては、危ないのではないのかな?」
「へ…、え、あ…ありがとう…ございます。」

毒気の無い言葉に思わず拍子抜ける。双眸の危険な色も、先程とは違い見られない。
自分の思い過ごしだったのか?

「申し遅れた。某は、駿河大納言家中、座波間左衛門と申す者。よろしければ名をお聞かせ願いたいのだが…。」
「あ、わ、私は神谷活心流神谷薫と…申します…。」

語り口も温和で紳士的。自分を油断させるつもりなのでは?という懸念もあるが、ここで名を明かすのも渋っても
逆に自分が怪しまれると思い素直に名乗る。それにしても、駿河大納言…とは?旧士族だとしても、たしか
駿府は幕府の天領であり、代々守護代が置かれているだけ、城中に在勤しているのも直参の旗本だ。それに
武家で大納言などという高位に就けるのは、武家でも御三家級の高貴な身分に限られていた筈。果たして、
そんな人物が駿府城代を努めたことがあったか…。

「かみや…かっしん流…?はて、聞かぬ流派だが。」

思案している最中に間左衛門から次の句が飛び出す。貧乏道場の零細流派とは自覚しているが、
こうあからさまに無名あつかいされると流石に気分のいいものではなく、思わず薫の頬がムッと膨れる。

「あ、ああ?これは失敬、失敬…薫殿と申されたか、御無礼の段、お詫び申し上げる」

慌てて間左衛門が、頭を下げた。やはり、そこまでの悪党や戦闘狂の類には思えなかった。

「あ、い、いんです!そんなに気を使わなくても…。実際、門弟二人の貧乏道場ですし…。」
「いやいや、そのような。規模は小さくとも志さえ高ければ剣法に貴賤はござらん。」

間左衛門の気遣いに薫は思う。やはり、この人物は信用していい。
彼の語る素性についてはどうも腑に落ちないところがあるが、身形を見るに
恐らく旧幕臣で、いまだ政府に追われており素性を隠す必要があるのか…
顔の無数の傷も、戦傷によるものというよりは…一度捕縛されて酷い拷問でも受けたのだろうか?
気にはなるが、剣心の十字傷の由来すら知らないのだ。見ず知らずの相手にこのような事を
尋ねるのも失礼と言うもの。今は触れないでおこう。

「ところで薫殿はこの試合に乗るおつもりですかな?」
「!?…とんでもない!私は絶対、こんな狂った事、止めて見せます!活人剣・神谷活心流の名にかけて。」

間左衛門からの質問に、薫は強く答える。それを聞きふむ…と、間左衛門はあごをなでた。

「いや、それを聞いて安心し申した。某もこのような事態、寝耳に水。乗るつもりは毛頭ござらん。」

よかったぁ…―― 一瞬だが、いぶかしむような表情を浮かべた間左衛門に戸惑ったが、やはり彼は乗るつもりは無いらしい。
そうと決まれば話は早い。薫は身を乗り出すようにして間左衛門に尋ねた。

「あの、私、人を探しているんです!」


「緋村…?いや、某がここに来てよりお会いしたのは、薫殿がはじめてだが…。」
「…そうですか…。」

がっくりと頭を垂れる少女の顔を間左衛門はまじまじと見つめていた。
やはり美しい。積年の想い人・叔母なお女や従妹きぬのような洗練された艶麗さはないが、
それとは別の、春一斉に萌えいずる若草のようなみずみずしさ、まだ幼さの残る
天真爛漫な表情、その中に垣間見える凛とした雰囲気。そして、想い人が行方が
何一つわからなかった事に対する落胆の表情――――全てが可憐で美しい。
それに伴い間左衛門の心に沸々と湧き上がる感情とともに、再びその瞳が
獣のような鋭さを宿した。

(斬られたい、この娘に…全身、血まみれになるまで…。沈めたい、そしてこの娘を血の海に…。)


座波間左衛門は薫が生きる明治の世から遡る事、二百八十年ほど昔、慶長年間の駿府の武家に生を受けた。
故あって故郷を出奔し、天道流の免許皆伝と言う、その剣を腕を持って伊賀藤堂家に仕官したが、
そこも逐電、しばらく流れ流れて生国に戻り、この「死合」の主催者・駿河大納言忠長に仕官した。

彼がこのように波乱万丈の半生を辿る羽目になったのには大きな原因がある。
即ち、彼が齢九つの時、憧れの叔母なお女に折檻されてから目覚めた、男女問わず
美しい者に傷つけられたいと言う欲望。そして、大坂の陣において、紅顔の美少年と
刃を交えた事に端を発する、さらにそれを切り伏せたいという欲望。
本人も何度と無く矯正しようと試みたがついに敵わなかず、あまつさえ、
この欲望を満たすための手段として、今川流受太刀なる奇剣まで学び取った。

その邪悪な欲望はすべての発端となった叔母の生き写しに成長した、幼馴染で従妹のきぬへと向けられる。
彼の夫、久之進を奸計にかけて斬殺し、その仇討ち試合を挑ませ、彼女に斬られ、そして斬ろうとしたのだ。
だが、至上の快楽の中、恍惚状態に陥った間左衛門は、衆目の中、きぬの薙刀一閃、己の血と脳漿に塗れ
地に臥し、二度と起き上がる事はなくなった―――――――――はずであった。


恍惚の極、甘美な陶酔とともに確かに自分は斃れたはずであった。
ここは、六道の巷であろうか?あの二階笠の男の言から察するに修羅道へと堕ちたか。
否、あの二階笠の男は自分もよくその名を知る人物。

(柳生但馬―――か。)

一度だけ、大坂の戦場で、先の征夷大将軍・徳川秀忠とともに、藤堂家の陣屋に巡検に来たのを、
遠目ながら間左衛門は目にしていた。あれから十年以上が経ち、だいぶ老け込んではいたが、
顔立ちと紋所、そして未だ衰えぬ剣気、まぎれもなくあれこそ柳生但馬守宗矩。やはり、ここは
まぎれもなく現世なのであろう。だとすると、俺は一体どこでどう罷り間違って、ここへ舞い戻り
こんな死合に参加しているのか。とりあえず行李を開け、かなりの名品と思しき太刀と人別帖を
取り出し、これを月明かりに照らし出して驚いた。塚原卜伝に上泉伊勢守―とうの昔に泉下の住人と
なった剣聖、剣豪の名。師筋に当たる、斎藤伝鬼坊の名まである。
普通ならば、騙り者と一笑に臥すだろうが、自分がこうして生きている
以上、おそらく彼らも本物。どういうわけで、自分たちが蘇ったのかは皆目見当がつかない。
ただ、そんな事よりも彼の思考を占める事は一つ。

(今わの際に、あれだけの快楽を味わったのだが―――やはり、煩悩というものは無尽蔵。)

あの白州の場で何人か、際立った容姿の者たちを彼は見つけていた。
変わった髪の色をした、少女のように瀟洒な少年。
女だてらに道場着に身を包んだ、まだ年端のいかない少女。
まだ少年の面影が残る、変わった月代の青年。
但馬の言によれば、彼らは皆、無双の達人だと言う。
きっと、今までとはまた違った興奮を自分に与えてくれるに違いない。
間左衛門の身体が熱を帯び、思わず生唾を飲みこむ。
元より、この試合に勝ち残る事など端から考えていなかった。
彼の思考を支配するのは渦巻くどす黒い欲望。

(彼らに切られ、斬りたい。)

一度死んでまで、歪んだ欲望に忠実な自分に対し、間左衛門はどこか寂しげな自嘲の笑みを浮かべた。

「ああ、そうか――俺はきぬ殿に斬られはしたが、斬ってはいなかったのだな。」

勝者への褒美として、きぬとの再戦を申し入れるのも悪くない。
一人、納得したかのように手を叩くと、目の前の道を西へと歩み始めた。


そうして、彼はこの可憐な少女・神谷薫と出会ったわけである。
武器も持たない、彼女にいきなり切り捨てるのは自分の本意ではない。
まずは適当に声をかけ、彼女に自分と立ち合うようしむけねば。

「ところで、そなた、得物はどうなされたのかな?見たところ、何も持たぬようだが。
「え?そ…それが、その…今、行李を覗いたんですけど…これは得物なのかなぁ…と思って。」

そういいながら、彼女が取り出した者を見て、間左衛門は唖然とする。
なんと、行李に入っていたのはなんの変哲も無い扇子が一本だけであった。
護身武器として広くしられる鉄扇ですらない。薫がおもむろに広げてみれば、
白い紙に「正義」の二文字が大書してあった。

「なんと…無体な事をなさるものだ…。」

間左衛門が嘆息する。これでは…これでは、彼女に斬られ、斬るという彼の欲求を満たす事は到底
不可能だ。かといって、このまま放置すればすぐにこの島に蠢いているであろう剣鬼の餌食になる事は明白。
ならば――――

「わかり申した。この、座波間左衛門、武士として女人を丸腰でこのような場所に一人にする訳には参らぬ。
 その緋村殿とやらと、薫殿の得物になるようなものが見つかるまで、この剣に誓ってお守り申そう。」

これだけの美少女、さらに剣技にも長けていると言う「逸材」を失うのは惜しい。
是非とも、自分の手で斬りたい。こう考えた間左衛門は、薫に同道を申し出た。

「本当!?あ、ありがとうございます!!」

ころころと表情変わる御仁だ―。
薫は喜色満面に包まれ、何度も間左衛門にお辞儀をする。自分がいずれ殺されるとも知らずに。
薫は完全に自分を信用しきっている様子。不憫だが、これも巡り合わせ。許せよと心の中で間左衛門は呟く。
おそらく彼女の想い人である、緋村剣心という男――この者を見つけ出し、頃合を計って薫の眼前で斬る。
薫がいかな、他者の死合いを望まぬとはいえ、眼前で好いた男を斃されれば、
彼女はきぬと同じように夜叉となって自分に斬りかかって来るだろう。
可愛さあまって憎さ百倍、信頼していた者に裏切られた事とも相まってその時の
憤怒と悲しみは凄まじいものとなるに違いない。そんな悪鬼と化した美少女の
凄絶な剣技を身に受け、そしてそれを破る。考えただけで、間左衛門の身体は歓喜に打ち震えた。
それまではなんとしても、遭遇するであろう剣鬼たちから彼女を守らねば。
それら剣鬼が白州の場で見た『うつくしきもの』たちであればさらに好都合。
薫が活人剣を標榜するからには、自分の凄惨な剣法は絶対認めないかもしれないが、
それで自分を見限り、打ち掛かってくるのであればそれもまた一興。
どうあっても、自分の欲求を満たしてくれる。

「それにしてもよかったぁ…、最初に会ったのが間左衛門さんみたいな優しい方で。」
「はは…それは、買い被りすぎというもの。某、欲と業に塗れた、この面貌と同じ醜い人間にて…。」

疑いを知らぬ薫の言葉に、思わず心情を吐露する。先程の剣に貴賎無しという言葉と同様、
自分はおそらくこの世で最も俗悪な剣を振るう男。自分で言っていて白々しいと、いささか苦笑しつつ。

「…。やっぱり人を斬った事が…?」
「ああ。これまで星の数ほど、自らの下衆な欲望のために。」

下手に言いつくろっても意味は無かろうと、ありのままを吐露する。
自分が相当の修羅場を潜ってきた事は、この顔を見れば容易に想像できるであろうし。
その欲望がいかなるものであるかは伏せてだが。まあ、これで自分から離れるのならば
これも巡り合わせかと考えていたが、薫がこちらにむけてきたのは以外にも優しげな笑みであった。

「大丈夫ですよ!剣心だって…かつては人斬りだったけど、今はその罪と、自分が斬ってきた自分を向き合おうとしている。
 間左衛門さんだってきっと変われます!現にこうして見ず知らずの私を守ろうとしてくれてるじゃないですか。」
「………かたじけない……。」

薫の邪心無い言葉に、間左衛門は一瞬たじろいだ。
変わる事ができるか…。彼女が全幅の信頼を置く、緋村という男もかつては修羅の道を歩んだ男だったとは。
だが、自分が背負う業は恐らく、彼のものよりも根深く、黒く穢れている。今日この日まで自分を変える事は終ぞ叶わず、
今また、薫を切りたいという欲求収まらない間左衛門には薫の言葉は綺麗ごとにしか聞こえなかった。
だが、ここのまま薫を斬ってしまえば、自分は本当に、この奇癖を捨て去る機会を無くしてしまうのではいか?
同時にそのような不安も彼の心に芽生えていた。ともかく、今はその緋村という男がいるかどうかを確かめねば。

「まぁ…まずは人別帖に緋村殿の名があるか見定めねば。それにこの死合いを命じた男と
 某が目にした、ここにいる幾人かの者の名、多少ひっかかる事がある。」
「!?あの二階笠の男について、何か知っているの?」
「…ああ、一度戦場で目にしたことがな。とりあえずは緋村殿の名を見つける事が先だ。」
「あ、ええ。」

柳生但馬と蘇った剣客たち(もちろん、自分もそのうちの一人である事は伏せて)、この事も彼女に教えておくべきだろう。
いずれ、彼女は殺すつもりであるから別段意味は無いかもしれないが、それまでその身を守る助けにはなる情報だ。
それに彼女自身や流派、緋村剣心という男についても気にかかるところは多い。この情報と引き換えに聞きだせると良いが。
いそいそと薫が人別帖を行李から取り出し、めくり始めた。暗がりのせいか、それを読み進める速度は遅い。
そのあくせくとした姿にも微笑ましいものを感じた間左衛門は、薫にまた声をかける。

「それにしても、はじめ女人が橋の端下で座り込んでいるのを目にしたときは、てっきり狸か狢の類と思ったが――――。」

今は地獄に降り立った地蔵菩薩か、観世音のように思える。これは、本性を知らないにせよ
自分のような邪道の剣客でも変われると声をかけてくれた薫に対する間左衛門の本心であった。
もっとも、その救いの手に彼がすがる可能性は限りなく低いが。
だが、その言葉は間左衛門の口から発せられる事はなかった。

薫の手で丸められた、人別帖がしたたか間左衛門の額を打擲し、闇に心地よい音を響かせていた。


【はノ伍/橋の端下/一日目/深夜】

【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】健康
【装備】「正義」の扇子@暴れん坊将軍
【道具】支給品一式
【思考】基本:剣心と合流し、死合を止める。主催者に対する怒り。
1:誰が……狸ですって…!
2:人別帖を確認した後、間左衛門とともに剣心と得物(できれば木刀かそれに類するもの)を探す。
3:協力を仰げる可能性は低いが、斎藤もここにいるのなら探す。
4:人は殺さない。
5:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
※人別帖はまだ見ていませんが、剣心、斎藤がこの場にいるのではと考えています。
※間左衛門を信用していますが、彼の語る素性は偽りで、旧幕臣ではと考えています。
※間左衛門や柳生宗矩を同時代の人間と勘違いしています。

【座波間左衛門@駿河御前試合】
【状態】健康 、額に痛み。
【装備】童子切安綱
【道具】支給品一式
【思考】基本:殺し合いの場で快楽を味わい尽くす。優勝してきぬと再戦するも一興。
1:やはりこの娘…強い。
2:薫に切られ斬るため、彼女とともに、彼女の得物と剣心を探す。
  剣心は、薫の眼前で斬殺し、自分と死合うよう仕向ける。
3:それ以外でも薫と死合う局面になれば喜んで受ける。
4:薫の目が気になるが、試合に乗り、かつ美しい容貌のものがいればこれにも切られ、斬る。
5:薫に柳生但馬と蘇った死者について伝える。
6:剣心と活人剣についての興味と、薫を斬る事への多少の躊躇と不安。
7:美しく無い相手には興味が無いが、薫を害するつもりなら斬る。
8:もしかしたらこの性癖を捨てられるかも?
※原作死亡後からの参戦です。
※過去の剣豪は自分と同じく本物だと確信しています。
犬坂毛野、川添珠姫、沖田総司の姿を白州の場で目にしています。
※薫を同時代の人間と勘違いしています。

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試合開始 神谷薫 船頭多くして、船山昇る
試合開始 座波間左衛門 船頭多くして、船山昇る

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最終更新:2009年03月28日 01:36