妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU


旅籠に集まった六人の剣士達は、互いの言っている事の食い違いはひとまず棚上げし、行動を開始する事にした。
色々と気になる事はあるが、それより今も何処かで殺されようとしているかもしれない者を救うのが先決だと結論したのだ。
無謀とも言える結論ではあるが、彼等の中に人の悪意より善意を信じようとするお人好しが多く、
また、そのせいで窮地に陥ったとしても、自力で切り抜けられる腕の持ち主ばかりだったからこそ出た答えである。
そうしてまずはトウカとさな子の知り合いを探そうと旅籠を出た彼等だが、大して動かない内に、異様な音を聞いた。
まるで焼け石に水をかけた時のような、水が蒸発する音。その音の正体を確かめに、一行は北へと進路を変える。
しばらく進んで川に行き当たると、そこには音から想像されるよりも更に異様な光景が広がっていた。
周囲は蒸気に覆われ、川の水は沸騰し、沸き立っている。そして、その中から出て来たのは……
「よう。こんな所で会うとは奇遇だな、先輩」
「志々雄……真実」
水中から現れた包帯の怪人を見た剣心は……そして彼が呟く名を聞いた薫も驚愕する。
志々雄は京都での戦いで燃え尽き、確かに死んだ筈。しかし、目の前にいるこの男は、姿も闘気も間違いなく志々雄本人だ。
「何故、お主がこんな所に……」
「ああ、こっちに来て早々に面白い奴に会ってな。興奮して体温が上がっちまったんで冷ましてたのさ。
 どうもあの戦い以来、前にも増して体温の調節が効かなくなっちまったみたいでな」
剣心が聞きたいのはそういう事ではないのだが、志々雄はそれ以上問答を続けようとはせず、脇差を抜いて身構える。
不敵に笑う志々雄だが、六対一……腕が落ちる上にまともな武器を持っていない薫を員数外としても、五対一だ。
もし全員に一斉に掛かられれば如何に志々雄でも勝ち目はない筈なのだが……

「この者の相手は拙者がする。皆、すまぬが下がっていてくれ」
ここで剣心が折角の数の優位を打ち消すような事を言い出し、他の者もそれに従って数歩下がる。
志々雄の不敵な笑みは、剣心の性格からして一騎打ちを挑んでくるであろう事を読んでいたからだったのか。
もっとも、戦うのが剣心だけだからと言って、剣心側の数の利が完全に消え去ったとまでは言えない。
助太刀はなくとも、仲間に見守られているというだけで、剣心のような剣士にとっては十分に心強いものだ。
一方、志々雄から見れば、剣心以外の者達が本当に手を出さない確証はないのだから、剣心一人には意識を集中できない。
その為、戦いは剣心が攻勢に出て志々雄がそれを凌ぐ形で進んでいく。
「土龍閃!」
剣心が斬鉄剣を地面に叩きつけると、砕かれた土石が礫となって志々雄に襲い掛かる。
飛天御剣流土龍閃。斬鉄剣でも存分に使うことが出来、且つ未だ志々雄に見られていない希少な技の一つだ。
「くっ!?」
志々雄は身をかわすが、川から出たばかりで衣服も包帯も水を含んだ状態ではどうしても動きが制限される。
「龍巣閃!」
体勢を崩した志々雄に対し、剣心は一気に痛手を与えて勝負を付けようと、乱撃を叩き込む……が、
「いい刀じゃねえか。これだけの物を引き当てながら、まだ不殺にこだわってるのか、あんたは」
不死身に近い耐久力を持つ志々雄といえども、斬鉄剣の刃で切り裂けばた易く殺してしまうだろう。
それ故に剣心は斬鉄剣の刃を返して峰で叩き付けたのだが、そんな使い方をすればどうしても重心に僅かな狂いが生じる。
そして、達人同士の戦いではその僅かな乱れが命取り。斬鉄剣は志々雄の手に掴まれ、止められていた。
「何と言われようと、拙者は人斬りには戻らぬ」
「そうか。だったらもういいぜ、死にな。ここじゃ俺を楽しませてくれる強者には事欠かねえんだ。
 いつまでも現実を見ようとしない甘ちゃんにこだわる必要はないからな!」
そう言うと、志々雄は剣心に対して必殺の一撃を叩き込む。

剣心に対して必殺の一撃を叩き込む志々雄。しかし、その一撃は横合いから伸びてきた剣にあっさりと受けられ、いなされる。
そして、体勢を崩した志々雄に木刀の一撃が叩き込まれ、志々雄はたまらず斬鉄剣を離して後ろに跳ぶ。
「緋村殿、無事か?」
「悪いな。手出ししないつもりだったんだが、仲間が殺られるのを黙って見てるのはやっぱ俺には無理だ。」
そう、剣心の苦戦を見兼ねた座波と千石が割って入ったのだ。
「お仲間の登場か。いいぜ、何人でも束になって掛かって来な」
無謀な挑発をする志々雄だが、剣心がそれに素直に乗る筈もない。
「すまぬ、二人とも離れていてくれ」
そう言いつつ斬鉄剣を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。
「ほう、漸く俺を殺す気になったか?」
「いや。だが、腕の一本は落とさせてもらう」
まあ、不殺の信念を貫いたまま無力化するとすれば、特にこの場ではその辺りが限度であろう。
両腕を落としでもしてしまうと、他の参加者を殺す心配はなくなる代わり、逆に殺される公算が高くなる。
この島にいるのが一流の剣士ばかりならば、如何に志々雄でも片腕の上に脇差ではまず誰も殺せぬ筈。
そう考えての発言だったが、座波や千石から見ればそれは甘すぎる考えとしか映らない。
「おいおい、こいつはそんな覚悟で戦って勝てる相手じゃねえぞ。お前だってわかってるだろ?」
「左様。あの類いの剣客はたとえ腕を失おうが、それを糧に更に恐るべき剣技を編み出す公算が高い。
 後顧の憂いをなくす為にも、ここでケリをつけておくべきでござろう」
敵の前で言い争いを始める三人。これでは数の優位を活かすどころか、数の多さが逆に枷になりかねない。
見兼ねたトウカとさな子も前に出ようとするが、ここで志々雄が動いた。
「シャアア!」
一歩退いて間合いを取ると、脇差を投げる。狙いは、他の五人が前掛かりになった為に一人後ろで孤立する形になっていた薫。
「しまった!」
五人に迫られた状況で、戦力にならない薫を倒す為に唯一の武器を投げるという奇手に、皆の動きが一瞬遅れる。
「飛龍閃!」
だが、それでも、剣心だけはどこかで志々雄がこんな手に出る事を予感していたのか、ギリギリで刀を飛ばして脇差に当てる。
飛龍閃は本来、腰のひねりと共に鍔を指で弾いて飛ばす技。鍔のない斬鉄剣では大した速度は出せない。
それでも剣心が、辛うじて飛龍閃で脇差を止められたのは、志々雄が脇差を投げる際に少し手控えたからこそ。
なぜなら、志々雄の真の狙いは……

「何!?」
投げられた脇差を追って白い蛇が走り、それは横合いから飛んで来て脇差を弾いた斬鉄剣に噛み付く。
いや、蛇と見えたのは包帯。志々雄が自らに巻かれた包帯を投げ縄代わりに使ったのだ。
未だ川の水が乾ききっていない包帯は斬鉄剣の柄に巻き付き、そのまま志々雄の手元に引き戻される。
そう、志々雄の狙いははじめから斬鉄剣のみ。全てはそれを手に入れる為の策だったのだ。
斬鉄剣に狙いを定めたのは、志々雄の姿を見た剣心が剣に手をかける、その動きに躊躇があるのを見抜いた瞬間。
それだけで志々雄は剣心の刀を相当な名刀と踏み、その推測は剣心との戦いでそれを間近で見る事で確信に変わった。
剣心が五人も仲間を連れている事に危惧を感じなかった訳ではないが、その中で剣心の前からの知り合いは神谷薫一人。
他の四人は名簿にあった剣心の関係者や、幕末を生き剣心と面識があった可能性のある志士達のどれとも一致しない。
無論、剣心の交友関係を完全に把握している訳ではないが、一流の達人を四人も見逃していた可能性は極小だろう。
つまり、彼らはこの島で初めて出会い、手を組んだ者達と考えてほぼ間違いない。
となれば完璧な連携など望むべくもなく、戦う内に必ず隙が出来、薫を狙う機会が訪れる筈。
その場合、剣心は新井赤空の孫を刀狩りの張から守った時のように、剣を捨ててでも薫を守ろうとする。
全ては志々雄の思惑通りに進み、かくして無双の剣はこの恐るべき人斬りの手に渡った。

「貴様!!」
薫を危険に曝された事で激怒した座波が志々雄の脳天に必殺の一撃を打ち込む。今川流ではなく、天道流の必殺剣だ。
斬鉄剣を取る事に意識を集中していた志々雄はかわせずにまともに喰らい、吹き飛ぶが……
「鉢金か……」
頭に仕込んでいた鉢金に守られて志々雄は無傷。しかし、鉢金自体は真っ二つに割られて地に落ちる。
この鉢金は、負傷して不完全だったとはいえ、斉藤一の牙突すら防ぎきった逸品。これを一撃で割るとは尋常でない。
名刀と達人の技、そして薫を傷付けられかけた事による怒りの力が組み合わさって初めて可能となる芸当だ。
「ふん、やるな。あんたは抜刀斎よりも俺を楽しませてくれそうだ。簡単に死なないでくれよ」
「その男、逃げようとしています!」
志々雄の威勢のいい言葉に応じて防戦の構えを取る座波等に対し、さな子が前に出ながら叫ぶ。
微妙な位置取りや足の向きの変化から、志々雄が攻勢に出ると見せかけて後方に脱する機を窺っているのを見抜いたのだ。
志々雄にしてみれば、当面の目的であったまともな武器の入手を果たしたのだから、これ以上戦い続ける必要はない。
如何に名刀を手に入れたとはいえ五対一では厳しいし、戦うにしてもまずは斬鉄剣を手に馴染ませてからにしたい所だ。
逆に、剣心達からしてみれば、このまま斬鉄剣だけ持ち逃げされたらよそでどれだけの被害が出るか知れたものではない。
志々雄を逃がさぬ為、今までは傍観の姿勢を完全には崩していなかったトウカやさな子も一気に前に出る。
彼らのその判断が間違っていたとは言えない。
五人で囲めば志々雄も逃げようがないし、仮に志々雄が再び薫を攻撃しようとしてもそれを防ぐ心構えは十分あった。
まさかここで伏兵が現れて薫を襲うとは、薫本人や剣心達はもちろん、志々雄ですら予想していない事だったのだから。

川の中から人影が飛び出し、中間性の笑い声を響かせながら薫に襲い掛かる。
その顔は造作としては整っているのだが、傷と、何よりその凄まじい形相のせいで妖怪としか見えぬものになっていた。
その妖怪……三合目陶器師は、驚きに身をすくめる薫を一瞬で当て落とすと、その身体を担いで走り去る。
「待て!」
その突然の出来事に真っ先に反応したのは剣心。想い人の危機に、宿敵の事すら忘れて全速で追いかける。
「緋村殿、これを!」
自分が丸腰なのも忘れて走り出した剣心に、トウカが自らの刀を投げ渡す。
剣心は振り向きもせずにそれを受け取ると、礼も言わずに更に加速する。どうやら完全に頭に血が上っているようだ。
剣心から少し遅れて座波も走り出し、さな子も走りかけるがそれではここが手薄になりすぎると思ったのか踏み止まる。
だが……
「行け!ここは俺達だけで大丈夫だ!」
千石がそう叫ぶ。彼の見立てによれば座波は腹に一物抱えた危険人物の可能性が高い。
そして、剣心は本来なら勘の鋭い人物のようだが、今はとても冷静な判断が出来る状態ではあるまい。
その二人だけにあの妖怪を追わせれば、最悪の事態になりかねない。
千石の切実な思いが伝わったのか、さな子は頷くと剣心と座波の後を追って行った。

「残ったのは二人か。試し斬りには丁度良い数だな」
志々雄の言葉が今度は虚勢でも何でもないと千石にはわかっていた。
数においては二対一で千石達が有利だが、得物の質では志々雄の側が圧倒的に優位。そして何より、志々雄の凄まじい剣気。
(狼……)
志々雄と対峙する内に千石は己が遂に勝ち得なかった一人の剣士を思い出す。
生みの親に捨てられて狼に育てられ、育ての親を殺した法師に剣を仕込まれた恐るべき剣士を。
その剣士……五条小一郎と志々雄は表面的には似ているとは言えない。
剣の筋も違うし、何より獣の如き剣士だった小一郎と違い、志々雄の狡猾さは明らかに人間特有の物。
しかし、より本質的な部分で志々雄と小一郎には共通点があるように、千石には思えた。
殿様の推測によれば、小一郎の人間離れした強さは彼が人らしい情を持たなかったことから来ていたという。
そして、この志々雄という男からも、人間らしい感情の動きは全く感じられない。
但し、小一郎が単純に人の愛に触れる事なく育った為に情を知らなかったのに対し、
志々雄は自らの意志でそういったものを切り捨てる生き方を選んだように思える。
小一郎は母の愛を知る事で人間らしい感情を持つに至り、結局はその為に命を落とした。
それに対し、今目の前にいるこの男が人間らしい心に目覚めるなど金輪際ありそうにない。
つまり、この男は千石が今まで対峙して来た剣士の中でも最悪の敵、と言っても大袈裟ではないという事になる。
そんな敵に脇差一本で果たして対抗できるのか……

「センゴク殿、カオル殿が心配です。早くここを片付けて手助けに行きませんと」
志々雄が投げた脇差を拾ったトウカが言って来る。
(簡単に言ってくれるな、おい)
トウカには志々雄の恐ろしさがわからないのかとも思ったが、振り向いてトウカの目を見、そうではないと悟った。
確かにトウカは非現実的な程のうっかり癖の持ち主だが、その実は無数の修羅場をくぐりぬけた歴戦の戦士。
志々雄の強さは彼女にもよくわかっているようだ。
そんな相手と脇差で、しかも鞘がないせいで居合いも使えない状態で戦う不利はトウカとて百も承知の筈。
それでも彼女は怯まないのは、仲間への想いや正義の心といった志々雄が捨てた人の心を支えにしているからだろう。
(くそ、何をやってるんだ、俺は)
千石にはトウカ程に強い正義への確信もなければ、会ったばかりの者を仲間として完全に信用しきる事も出来ない。
それでも千石には侍の意地があり、卑怯な手を使う志々雄に対する怒りもある。
「やるぞ、トウカ!」
「はい」
戦う前に勝ち目があるかを気にしても仕方がない。今はただこの外道を叩き斬る事だけを考えよう。
そう決意を固め、千石は渾身の一撃を志々雄に叩き込んだ。

【はノ伍 河原/一日目/黎明】

久慈慎之介@三匹が斬る!】
【状態】:健康
【装備】:木刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:試合には積極的に乗らない
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する
三:座波間左衛門を警戒
四:柳生宗矩を見つけたらぶっ殺す
【備考】
※トウカを蝦夷と勘違いしています
※人別帖の内容をまるで信用していません

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:健康、決意
【装備】:脇差(鞘なし)
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する

【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】健康
【装備】斬鉄剣(鞘なし)、脇差の鞘
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:久慈慎之介とトウカを斬る。
2:土方と再会できたら、改めて戦う。
3:無限刃を見付けたら手に入れる。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖を確認しました。

※座波間左衛門、千葉さな子緋村剣心、神谷薫の行李がはノ伍の河原に放置されています。

座波間左衛門と千葉さな子は剣心と共に薫をさらった怪人を追っていたがいつしか引き離されてしまう。
「くっ、速い」
さな子は必死に速度を上げてもう芥子粒ほどの大きさにしか見えなくなった剣心に追い付こうとするが、
その横を併走する座波の心中では別の考えが頭をもたげ始めていた。即ち……
(今ならこの娘と存分に斬り合える)
そう、六人いた仲間が分散し、期せずしてさな子と二人きりになれた現状は、座波にとって千載一遇の好機なのだ。
今ならさな子に存分に斬られ、斬ろうとしても邪魔に入る者はおるまい。思う存分に欲望を満たせる。
(だがいかん、今は……)
確かにさな子は魅力的だが、座波にとって第一の得物はやはり神谷薫だ。
その薫が危機にある今は、どうにか欲望を抑えて彼女の救出を優先させなければ……
そういう訳でどうにか自分の中の欲望を押さえつけながら走る座波だが、ここで急にさな子が立ち止まり、飛び退く。
「どうなされた、さな子殿?」
「座波さん、あなた……」
座波を睨み付け、抜刀するさな子。
(殺気が漏れ出ていたか。存外に鋭い)
さな子には今まで座波を疑う素振りが見えなかった為に、少し油断し過ぎていたかもしれない。
若く人生経験の浅いさな子には、善人を装いながら腹に一物抱えた人間を見抜くような芸当は不可能だが、
北辰一刀流の剣士として、相手の微妙な表情や仕草から殺気を読み取る術は叩き込まれている。
特に、彼女のように体格や筋力に恵まれない剣士にとって、敵の行動を読んで先手を取る技術は正に生命線。
欲望に負けそうになった座波が一瞬、さな子の隙を窺った目配りを敏感に察知して戦闘態勢を取ったのだ。
「……やむを得ぬか」
座波も敢えて言い繕おうとはせずに剣を抜き、受太刀の構えを取る。
口では不本意そうなことを言っているが、内心では欲望を解放できる事を喜んでいるのだ。
と言っても、薫達の事も諦めた訳ではない。
さな子相手には斬られる快楽は諦めて手早く斬り倒し、急いで剣心の後を追うつもりでいる。
(簡単に斬ってしまうには惜しい逸材ではあるが……)
薫に通じるものがある美貌や凛とした眼差し、そして薙刀を応用した長刀の構えはきぬを思い出させた。
出来ればじっくりとその剣を味わいたいところだが、今の状況ではそうも言っていられない。
せめて斬る快感だけは存分に楽しもうと、座波は受太刀の構えのまま殺気を放ってさな子の攻撃を誘い込む。
「たあ!」「ぬっ」
互いの剣が一閃し、剣を握る腕から一筋の血が流れる。負傷したのは座波の方だ。
座波が欲望に負けてさな子の剣の下に身を投げ出した……という訳ではない。
単純に、互いに全力で剣を交わした結果、さな子の北辰一刀流が座波の今川流受太刀を一枚上回っていたというだけの事。
(これは……)
傷を受けたにもかかわらず、座波の心身をいつもの愉悦が満たす事はなかった。
代わりに湧き上がって来たのは、強い闘志と充実感……強敵と出会った剣士の感情だ。
思えば、座波は今まで幾人もの美少年や美女と立ち会ってきたが、それらはどれも本気になれば一撃で倒せる弱者ばかり。
初めて己以上の剣技を持つ美剣士と出会った事で、剣士の本能が悦楽を求める男の性を圧倒したのである。
そう、さな子のような剣士は座波にとって、如何なる神仏にも治せなかった性向の特効薬とも言うべき存在なのだ。
或いは、座波が技量と美貌を併せ持つ剣士が多数存在するこの御前試合の場に招かれた事そのものが、
熱心な祈りを受けながら彼の生きている内に救ってやれなかった神仏のせめてもの計らいなのかもしれない。
座波は今まで感じた事のない不思議な気分で剣を構え、さな子の怒涛の攻めに立ち向かった。

戦いが長引くにつれ、さな子の心で焦りが生まれ育っていく。
幼少より北辰一刀流の奥義を叩き込まれて来た彼女は、技では兄や従兄は無論、父や伯父以上と言っても過言ではない。
しかし、膂力や体力という面では、一流の剣客達の基準からすればはっきりと劣っている。
だからこそ、早めに座波を無力化すべく仕掛けて行ったのだが、巧みな受けによって軽傷を与えるに留まっている。
このまま戦いが長引けば先に疲れるのは自分の方。
そして、疲れた所に先程の包帯男の鉢金を割った剛剣が来れば防ぐ術はあるまい。
(殺したくはないんだけど……)
かと言って座波を殺さない事を優先して戦い続ければこちらが死ぬ事になる危険がある。
さな子は覚悟を決めて剣を構え直した。

【にノ伍 草原/一日目/黎明】

【座波間左衛門@駿河御前試合】
【状態】健康、腕に軽傷
【装備】童子切安綱
【道具】なし
【思考】基本:殺し合いの場で快楽を味わい尽くす。優勝してきぬと再戦するも一興。
一:千葉さな子を全力で倒す
二:緋村剣心の後を追い、三合目陶器師から神谷薫を救出する。
三:剣心と活人剣についての興味と、薫を斬る事への僅かな躊躇と不安。
※原作死亡後からの参戦です。
※過去の剣豪は自分と同じく本物だと確信しています。
犬坂毛野、川添珠姫、沖田総司の姿を白州の場で目にしています。

【千葉さな子@史実】
【状態】健康
【装備】物干し竿@Fate/stay night
【所持品】なし
【思考】
基本:殺し合いはしないけど、腕試しはしたいかも。
一:座波間左衛門を無力化する。
二:緋村剣心と共に神谷薫を救出する。
三:久慈慎之介やトウカと合流して志々雄真実を倒す。
四:龍馬さんや敬助さんや甲子太郎さんを見つける。
【備考】
二十歳手前頃からの参加です。

薫の身体を抱えて三合目陶器師は走る。座波やさな子を遠く引き離し、神速を誇る剣心すらついていくのがやっとの速度で。
顔を傷付けられ絶望した直後に己の仮面に相応しい顔を手に入れられた興奮が、陶器師の身体能力を上げているのだ。
それでもさすがに疲れたのか、漸く立ち止まって薫を下ろす。
後はその顔を剥ぎ取ってしまえば、嵩張る身体まで運ばなくて良くなるのだが、それをする暇は与えられなかった。
「薫殿を返せ!」
追いついて来た剣心に殺気に近いような剣気を浴びせられながらも陶器師は意に介さない。
「何だ?お前のような顔におぞましい傷のある男に用はないぞ?」
「薫殿を……その女人を返せと言っている!」
「この娘に用か。顔を剥ぎ取ったら俺の用はなくなる故、返しても良いが」
剣心の剣気が極限まで高まるが、それでも陶器師は反応しない。今は傷付いた顔を隠す仮面の事で頭が一杯なのだ。
だが、陶器師には無視されても、剣心の高まった剣気は気絶していた薫の意識を呼び覚ますには十分だった。
「ん……剣心」「薫殿!」
愛し合い、求め合う美男と美女。
この図が陶器師の忌まわしい記憶を掘り起こし、それまで無関心だった剣心に対する強い憎悪を引き出す。
「姦夫!」
いきなり興奮して襲い掛かる陶器師を、既に闘志が十分に高まっていた剣心は万全の状態で迎え撃つ。

【へノ伍 水田/一日目/黎明】

【三合目陶器師(北条内記)@神州纐纈城】
【状態】右目損壊、顔に軽傷、疲労
【装備】打刀@史実
【所持品】なし
【思考】:人を斬る
一:緋村剣心と神谷薫を殺す
二:神谷薫の顔を剥いで自分の物にする
三:柳生十兵衛を殺す
四:新免無二斎はいずれ斃す
【備考】※柳生十兵衛の名前を知りません
※人別帖を見ていません

【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】健康 全身に軽度の打撲、極度の興奮状態
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】
基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:三合目陶器師を倒して神谷薫を救出する
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※京都編での傷は全て完治されています。
※座波の異常性に少し感づいているようです

【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】健康、朦朧
【装備】「正義」の扇子@暴れん坊将軍
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
一:現状を把握する。
二:人は殺さない。
三:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
※人別帖は確認しました。

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月下の鬼神 志々雄真実 修羅の道行き
船頭多くして、船山昇る 久慈慎之介 修羅の道行き
船頭多くして、船山昇る トウカ 修羅の道行き
船頭多くして、船山昇る 座波間左衛門 暁に激情を
船頭多くして、船山昇る 千葉さな子 暁に激情を
船頭多くして、船山昇る 緋村剣心 真宵
船頭多くして、船山昇る 神谷薫 真宵
魔境転生 三合目陶器師 真宵

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最終更新:2010年04月18日 14:40