OP
「ねぇ・・銀さん・・・起きてくださいよ・・・・銀さん・・・・起きて・・・」
「むにゃーっ・・・・・ふざけんじゃねぇぞ・・・新八・・・・今日は日曜・・・」
「日曜じゃなくてもいっつも寝てるじゃないですか?それより早く起きてさいよ」
「なんだよ・・・うるせぇなぁ・・・・って・・うぉっ、まぶしっ!
つうかめっちゃまぶしい、何だ、どっきりか!?て言うかここ何処だ!?」
「落ち着けよ天然パーマっ!やっと起きたと思えばうるせぇんだよっ!」
江戸歌舞伎町の住人、「万屋銀ちゃん」こと
坂田銀時は、突然自分の網膜に入り込んできた
凄まじい日の光に思わずびっくらこいていた。
隣には同居人の一人
志村新八がいる。
しかし果たしてこれはどういう訳か。
自分は確か万屋の二階でごろごろ雑魚寝していたのではなかったか。
彼らが今いるのは、一面に白い砂利を敷いたいわゆる「お白州」だ。
広さは、かなりの物だ。七十平米はあるだろう。
周囲は白い土塀で覆われ、門が一つと、垂れ幕で覆われたお座敷が一つある。
今、この「お白州」にいるのは彼らだけでは無かった。
白い砂利の地面を、埋め尽くすように沢山の男が座ったり、寝たり、立っていたりしている。
ほとんどが男であり、僅かに女の姿も見える。
ほとんどが和服を着ていること以外、年齢も体格もバラバラな顔ぶれであったが、
銀時には彼らにはある共通点があることに気が付いた。
おそらくいずれも武芸者。
それもそうとうな腕前の。
「なんだぁ・・・・このおっさんども・・・コ○ケか?コミ○なのかぁ?」
「いや、この顔ぶれで○ミケは無いでしょう。何かみんな強そうですよ」
そう、銀時と新八がひそひそ話をしている時であった。
「控えい」
一つの野太い声が、お白州の中を通り抜けた。
銀時を含めたその場にいた人間全員の視線が声の方へと向けられる。
座敷の垂れ幕が左右に開き、一人の男が出て来るのが彼らには見えた。
初老の裃姿の武士らしき男である。肩衣には「二階笠」の家紋が
染め抜かれている。
年のころは初老といった所か、体格は大きい方ではないが
不思議と独特の威厳がある。
また、目には強い意志の様な物が感じられた。
「これより、御前試合を執り行う」
武士の口からそんな言葉が飛び出した。
「御前試合」
貴人や、それに類する人々の前で行われる武芸者の上覧試合の事である。
それが天皇になると、「天覧試合」となる。
「新八・・・・試合って何だ?俺そんなの聞いてねぇぞ」
「僕も知りませんよ・・・ひょっとすると何処ぞの武芸好きの
金持ちに拉致られたんじゃ・・・」
銀時と新八の間のみならず、所々でざわめきが起きる。
どうやら、誰ひとりとして、試合に出るなど聞いてないらしい。
「ここに集められし、類い稀なる兵法者、八十名」
武士がよく通る声で言う。
「その武芸の妙技の悉くを尽くし」
「互いに相戦いて」
「一人になるまで殺し合うべし」
最後の言葉に、ざわめきが止んだ。
殺し合いの御前試合。
狂気の沙汰と言う他ない。
「親父殿」
静まり返った武芸者の中から、一人の男が進み出る。
狩衣姿の、武士と思しき男だ。
総髪を後ろで纏め、顎には不精髭がある。
また、男は右目を瞑っていた。
どうやら隻眼らしい。
装束はお世辞にも綺麗ではないが、何処となく
野生染みた風格のある男だった。
「これは何の冗談ですかな」
男は気軽な調子でそう武士に問いかける。
口調は軽いが、眼には虚偽を許さぬ真剣極まりない
強烈な眼光が宿っている。
「十兵衛か」
しかし武士はその視線を受け流して、
ジロリと狩衣の男に眼を向けた。
「生憎、冗談ではない」
「親父殿は『殺しあえ』と言いましたな」
「言うたな」
「それでも飽くまで本気と言いますかな」
「くどいぞ十兵衛」
「気が違われた親父殿」
武士―父宗矩―の余りにもの物言いに、
狩衣の男、
柳生十兵衛は思わずそう漏らした。
「気など違うておらん。
わしは正気そのもの。
その上でそう言うておる」
そう言うと宗矩は武芸者達の方を睨み、
「わしが本気である事を見せてやろう・・・村山斬!村山斬、おるな!?」
「え・・・・は、はい・・・・」
武芸者達の中から現れたその少年は、
風貌、体格、剣気、とどれをとっても
御世辞にも周りの武芸者達と釣り合うとは思えない
青瓢箪であった。
「お主気づかぬか?」
「え、ええと・・・な、何がですか」
「この場に呼び出された武芸者の中で、貴様が一段と劣っているという事、
そして、そんな貴様がここに呼び出されたという意味を」
「え・・・・・ええっ!?」
「こういう意味だ」
宗矩が、戸惑う斬を余所に手をふっと上下に振った。
その時、座敷の奥からパチンと指を鳴らす音が鳴った。
その音が鳴るや否や、
ボンッ
爆音が響き、斬の首が地面に落ちる。
忘れたように立ちっぱなしになっていた胴体が倒れ、
赤い血が池のように地面に広がった。
「オオッ!?」「ムゥッ!?」
武芸者達の間で呻きが広がる。
しかし、人一人死んでこの程度の反応で済むあたり、
ここに集められた人々がやはりただ者でない事を窺わせる。
「見たか十兵衛。わしは本気じゃ。
逆らえばお主と言えどその首をかくの如く吹き飛ばすぞ」
「・・・・・無明に落ち果てしか親父殿」
「左様、わしは無明に落ちた」
十兵衛と宗矩は暫く睨み合っていたが、
宗矩が先に視線を外し、
他の武芸者達へと目を向けた。
「今見たように、お主らに逆らう事は出来ぬ。
これよりお主たちは試合の為に用意された
戦場に行って貰う。
そこで最後の一人になるまで己の剣技をふるい、
殺し合うのだ」
「お主らには、
数日分の食物、水、地図、
そして人別帖が入った行李と、
木太刀が一振り与えられる。
得物は自分で探し出すのだ」
「勝ち上がった者には、
古今東西天下無双の称号を
与え、また如何なる願いとて
聞き届けよう・・・・」
そこまで言い終わって、
宗矩は最後にこう結んだ。
「それでは、始めいっ!」
その言葉と同時に、白い煙が何処からともなく
「お白州」に流れ込み、瞬く間に武芸者達を覆い隠した。
「親父殿!何故このような・・・!?」
「うぉーっ!?なんじゃこりゃ!?」
「銀さん、銀さんどこですか!?」
驚く武芸者達の驚愕や怒号が煙の中で響いたかと思うと、
不意にその声が聞こえなくなった。
暫くして、煙が晴れると、いかなる妖術か、
あれほど沢山いた武芸者達は一人残らず跡形もなく消えてしまっていた。
ただ残っているのは、宗矩と、首の無い村山斬の躯だけである。
「大した役者でしたな、この天海感服いたした」
座敷の中から手を叩く音と、しゃがれた人を嘲笑うような声が聞こえる。
はたして、宗矩がしかめつらで座敷の方へ振り返ると、一人の老人が顔を出した所であった。
年齢は・・・・解らない。ただ、途方もなく高齢であることだけは察しが付いた。
その体を豪奢な法衣で包んだ容貌魁偉の老僧であった。
彼こそ、知らぬ人となし、天下の怪僧、南光坊天海その人に他ならなぬ。
「いやはや・・・・大納言殿も甚だ感心されたようで」
天海のその言葉と共に、もう一人の人物が座敷の闇から顔を出した。
ひょろりと背の高い、青白い顔をした殿様風の男である。
その背後に、何やら不気味な唐人服の男を従えている。
その視線は、宗矩ではなく、村山斬の死体に注がれていた。
双眸には、驚くべき熱気と、計り知れない残虐な凶気が宿っている。
ああ、大納言。そう彼こそ、かの残酷無残で知られる「駿河城御前試合」の主催者
として知られる、将軍家光が弟、駿河大納言徳川忠長である。
忠長は見つめていた。不気味な微笑みを顔に浮かべながら見つめていた。
白い砂利にしみ込んだ赤い血の池を、頭を失った哀れな斬の死体を、
その首の切断面を、いつまでもいつまでも見つめていた。
【村山斬@斬 死亡】
【主催者】
駿河大納言徳川忠長
柳生但馬守宗矩
南光坊天海
【剣客バトルロワイアル 試合開幕】
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最終更新:2010年06月05日 19:41