[あれは][コの恥晒し][我等を][掟を][穢した]
[あれの話は][二度とするな]
[忌々しい][忘れろ][その名を]
何でだ?
何でみんな彼の話を嫌がるんだ?ニルから聞くまで知らなかったコの一族を、何故皆そうやって忌み嫌ってんだ?
カミツ様だけが、教えてくれたがそれは良い内容では無かった。あのカミツ様が曇った様な言い方をしたからだ。
…あのコの一族は、いや…同胞は俺の親達にとってタブーの様な存在らしい。
元々姿形も全く違い、生涯孤独の存在だったが力量はコの一族では驚異的だったという。それが災いとなって益々迫害を受けたんだと。だが不思議な事に、それを彼は受け入れたのだという。
巫女の従者が親代わりとなっていたが、従者は彼を溺愛していた。どの様な関係だったのかは解らない、彼が忽然と消えてから従者は心を病んでしまった。だから彼の話を彼女から聞くことは出来なかった。
龍族の長達の意向に反した叛骨の腫物と称された彼を、俺は当時知らなかった。ああそうだ、あれはアークスとの関係修復が為された時だ。そこで初めてアークスを知った。
アークスは面白い奴らだった。彼等の話はいつも故郷では味わう事の無い新鮮な話ばっかで、そして強く想う志を確立させてくれた。
「龍族を、皆を守る力が手に入るなら…俺はアークスになりてぇ!」
勿論、長達は猛反対した。俺がアークスになる事を。何をされるか解らないのに、自らの命を棄てる様なものだと…。
違う、違う違う…違ぇんだ!俺が強くなれば、アークスになって懸け橋にでもなりゃあ…全てが上手くいく気がした!そうすれば、長達も…カミツ様も俺を認めてくださる…!
ロの名を持つ龍族として、誇りを持ちたかった。
カミツ様はいつも言う。
[貴方が、本当に欲しいものは全く違う筈です。]
理解したくても、出来なかった。
俺は踠いてたんだろう、認めて欲しかった。
親に、長に、カミツ様に…いや…違う?
誰かに?
「おいバク、飯の時間だってよ」
「遅いよー!先に食べちゃうぞー!」
「バク君、今日は貴方の好きなハンバーグだからね」
ああ、今行くって。
…。
同族でも無い、何も関係のないのに…この人達は教えてくれた。
家族ってのは、よく分かんねえけど…離したくねぇとか、心配かけたくねぇとか…そう思わせる変な奴だ。
俺の事を全て知ってる訳でもなく、家族として認めてくれたのがあの人達だった。
間違ってるかもしれねえけど、何故あの龍族がアークスとの交流を諦めず…例え同胞達から迫害されても続けて来たのか。何となく掴めた気がするんだ。今は分からなくても、直接聞いてみれば分かる筈だ。
ニルから聞いた時、名前にピンとこなかったのは一度も聞く事の無かったからだ。だけど知ってた。知ってた筈なんだ。
アークスとの関係修復を反対した長達の目は、あの龍族に向けた軽蔑に近い眼差しだったんだ。
長達は俺の目の内に、コ・ラウムを感じ取ったんだ。
なぁ、カミツ様。
俺は立派な龍族とは程遠いかもしれない。だけど俺は新しい時代の龍族として、故郷を守りたいんだ。
その為には、囚われたアイツを救いたい。アイツが異種族に向けた志が、凄く羨ましいって思うんだ。
アイツが成し得なかった悲願はもう既に叶ってる。だから故郷がアイツを受け入れてくれる事が、俺の今の望みかもしれねぇ。
もっと、アイツの事教えてくれないか?
最終更新:2018年04月25日 00:00