この島の真相を知るべく、彼女を造った人物について情報が欲しい。それと彼女の生い立ち、どの様な人生を送ってきたのか、研究者達の事何でもいい。
あの言葉が頭の中でグルグルと回る感覚が消えなくて、あたしはなるべく他の事を考えようとした。周りの人はヤトノさんの事を怖い人とか、冷酷な人だって言う人は何人かいた。でも、それは誰かを助けようとして色々考えてあんな振る舞いになってしまうんだってヘリックさんから聞いた。
でも、あたしは少し悲しい気持ちになった。自分でも分かってたけど、ハナは被害者なんだ。
あたしは元々猫又の魂を入れられたからくり人形だ。勝手にあたしを作ったアイツは・・・9回まで死ねるあたしを利用して、知らない奴らに殺させようとした。あたしは死ぬのが怖くて必死に逃げ出した。生きたくて生きたくて、今の幸せを絶対に手放したくないって。でもあたしは逃げる事が出来たんだ。
あたしの様に勝手に生み出されて、勝手に改造されて、勝手に道具みたいに扱われて・・・実際どんな事をされてきたのか知らないけど、ハナを見ていれば感じ取る事なんて簡単だった。
怖くて怖くて、そこから逃げ出したくてもそれが出来ないから・・・半分諦めている様な。でもラウムと居る時のハナは幸せそうな顔をしてて、すっごく安心する。あんな顔をもっともっといろんな場所でしてほしい。これはあたしの我儘なんだろう。
ハナやラウムも助けたい、あたしを助けてくれたからって訳じゃなく・・・友達だから助けたい。それだけの理由なんだ。
多分あたしは、ハナとの関係を壊したくないとか・・・嫌われたくないとかそんな不安を感じてるのかな。色んな事が頭の中でグルグルする。さっきよりもっと。
「あー、ニルちゃん。大丈夫?」
座り込んでたあたしに声をかけたのは・・・ほむほむだった。
「あの会議の事、気にしてた?ごめんね、ヤトノさんってさオブラートに包むとか合理的というか・・・結果を求めるタイプだからさ。」
「ううん。あたしも少し熱くなっちゃったなーって。」
ほむほむの事は聞いた事ある。なんとゆーか、あたしが昔いた暗殺部隊に似た所にいたらしい。詳しくは知らない。
ヤトノさんの養子みたいで、でもほむほむは「ヤトノさん」ていつも呼んでる。
変なの。
「・・・ヤトノさんは気難しいけど、僕が暗躍部で生きていたのを無理矢理引き抜いてくれた人なんだ。あの人には言ってないけど、僕にとっては命の恩人っていうのかな。あの人なりにハナちゃんの事は助けたいと考えてると思うよ。ただ、情報収集の為に頑張り過ぎちゃうだけだと思う。」
知ってる。実はあたしはその事をしーーーーっかり知ってる。本当はすごい優しくて、ノリが良くて、家族想いのパパだって。
「・・・ヤトノさんって、ショコラケーキ作るの得意よね
???」
「・・・えっ!?何で知ってんの!」
やったぜ、クール装ったほむほむのビックリ顔見れたぜ。
「へへーーーん!教えなーーーい♪」
「全く、ヤトノさん子供相手に甘すぎるんだよなあ・・・。言葉と行動が全然かみ合わないし。」
そうだ、これはあたしが知ってるヤトノさんの違う一面。
あんな不器用なおじさん、滅多に見ないよ。
そうだ、これはいつ頃だったんだろ?あたしがししょーの家に住み着いて、修行しながらアークスも頑張ってて少し慣れてきた頃だったかな。
「君がニル君かね?私はヤトノ。情報部外部組織対策班所属、君は以前暗殺部隊に所属していたようだね?」
第一印象はアイツとはまた違った恐怖があった。鋭い目つきに顔色一つも変えずメチャクチャ冷徹な雰囲気・・・正直トイレ行きたかった。
「あーーーーーあああああたし!!!!なななななななにも殺してません!!!虫だって殺し・・・アッ!!!ブリアーダ殺しちゃった!あと釣った魚も焼いて殺しちゃった~~~~~~~っ・・・・!どどどどどどうしよおお~~~~・・・・。」
テンパってた。あの時超メチャクチャテンパってた。だって怖かったもん。
「・・・ニル君、私は君を保護対象と指定したうえで訪問させて貰ってるんだ。一応、君の保護者にも伝えていた筈だがね。」
「え?そうなの?」
ししょーは「やべっ忘れてた。」みたいな顔してた。ローキックしといた。
「それで、その暗殺部隊の者が脱退した君を追っているとの情報が入ったので。一時的に安全区域への隔離を行おうと思うのだが。」
なんだか難しい言葉が並んでたけど、つまりどっかに避難するって事かな?でもいなりのご飯食べれないのはなぁ・・・って思ったあたしは渋る事にした。
「ああ、と言っても私の家は安全区域として特定されない遮断領域に登録されている。娘もその友達もいるのだが、良かったら二人の遊び相手を兼ねて一泊して貰えないだろうか?その間に残党を捕獲する事を約束しよう。」
「ほんと!行く!」
ヤトノさんはなんか「え?」って顔してた。即決がだめだった?
「面白い子だな。相手の身元を自ら確認する前に即決してしまうとは。一応私の身元情報だ。これで疑う事も無いだろう。」
わざわざ自分の事が書いてある書類を出してくる辺り凄い真面目な人なんだろな~って思った。あたしこんなの持ってたっけ?
そんなこんなで、あたしは一日だけヤトノさんの家に泊まる事になった。
後から聞いたら元々自分の娘さんと友達の遊び相手に丁度良いと考えてたらしい。何か変わってるなぁこの人。何というか仕事を利用してるって感じ。
あと驚いた事があった。ヤトノさんの娘ちゃんはカガチって名前なんだけど、カガチの友達がいさねだなんて。
そうなると龍じーちゃんの事を知ってるらしく、変な繋がりだな~って思った。
「ニルちゃんはヤトノさんと知り合いだったんだね!ヤトノさんはね、料理も美味しいけどショコラケーキがスッゴイ美味しいんだ~。」
「何それ美味しそう!」
「お父さん友達が居る時はもっと張り切って作ってくれるの。楽しみだね。」
ちょっとしたお泊り会は凄く楽しかった。ヤトノさんはエプロン姿で違和感あったけど。一緒にゲームして遊んで、一緒にお風呂入って、ベッドの中で将来の夢なんて話したりして、いつの間にか寝ちゃってたみたい。
あたしを避難させるつもりだったけど、あたしにとっては本当に楽しいお泊り会だった。
翌日、寝ぼけながら歯磨きをしているあたしにコーヒーを飲んでいたヤトノさんが話しかけてきた。
「ニル君、上司から連絡があった。君を追っていた男を確保したよ。この男に見覚えは無いかい?」
ヤトノさんが見せてくれた画像の男は、暗殺部隊にいたおっさんだった。でもぶっちゃけ印象に無くて思い出すのに一分くらいかかっちゃった。
ちょっと呆れた感じの顔したヤトノさんが少し面白かった。
「どうやら、印象に残ってない様だね。彼は君に不祥事行為を見られた事を危惧して証拠隠滅を図ろうとしたらしい。しかし君は覚えていないという事はとんだ災難という訳だ。」
んーと・・・なんか、そのおっさんが色々ハッキングして犯罪してたらしいんだけど、あたしその現場見たらしい。え?いつの話?多分通り過ぎただけと思うけどな~・・・ってメチャクチャ困った。
「兎に角、君は無事で良かった。それと私の娘といさね君と遊んでくれてありがとう。感謝しているよ。」
「感謝される事じゃないよ!あたしも楽しかったしさ!」
ヤトノさんは少しだけ頬を上げてた。多分笑ったんだろう。あたしはその時初めて笑顔を見たかもしれない。
寧ろあたしの方が感謝してる、友達が出来たんだもん。
あんな人でも、立派なお父さんなんだな~って。ししょーもしっかりしてほしいなっ!
「ねえねえニルちゃん」
「ん?どーしたのいさね?」
「ヤトノさんね、元々ニルちゃんが悪い人に狙われてるの前々から知ってたらしいの。それで色々調べて頑張って捕まえたみたいなの。捕まえたのは部下の人なんだけどね。」
「ふぇ?いつからなの?」
「・・・ここだけの話だよ、ニルちゃんがその組織から抜けた頃からって。お仕事で色んなアークスを監視してるから・・・。」
驚いた。あたしが暗殺部隊にいた事を知ってた事もだけど、それで確信した。
最近何でか暗殺部隊の噂が途絶えた気がするなって。あたしが気にしてなかったのもあるけど・・・割と有名だったのになーう~んって感じだった。
「ねえねえニルちゃん、教えてあげる。お父さんは照れ隠しとかで誤魔化す時はね、右の眉をさするの。」
「へ~悪戯する時に活用しちゃおっ」
「ヤトノさん怒らないと良いね・・・。」
ぶっちゃけヤトノさん嘘下手そう。
そんなこんながあって、あたしにとってヤトノさんの印象は何か優しいおじさんだった。あの人にも、大切なものがあるんだなって。何だか嬉しい気持ちになった。
エクトから聞いた、元々ヤトノさんはこの任務に参加する気は無かったと。
理由は分からないけど、ヤトノさんの表情はとても固かったのはあの島が出てからだと思う。
まるで、何かを恨んでる様な雰囲気だ。
もし、もしも出来るなら・・・みんな笑顔で終わってほしい。
ハナもラウムも、調査チームのみんなも・・・みんなみんな笑顔で終わるんだ。
そしてウォパルのリゾート地で沢山泳いだり魚釣ったり!いっぱいご馳走を食べるんだ!
不安な事は沢山あるけど、楽しみだ。
とても、とっても。
本当に、楽しみなんだ。
(何も、何も失いたくないよ。)
最終更新:2018年05月22日 23:58