幕間譚:バティスト【死んだ寝たきりの  】

寝たきりの  に安息は無い。

少年は夢を見た。
下水道を通り、ただ這いつくばって地上へと向かう。
足がへし折られ、肉も骨も露出した部位に群がる溝鼠と雑食の蟲達。
どれだけ叫んでも、泣いても下水道の中に響き渡ろうとも餌が自らの位置を教えているだけだった。
少しずつ喰われる感覚を、少年は脳裏に植え付けられていった。

                                    獏はそれを美味しそうに平らげる。

少年は夢を見た。
自分を世話している筈の家族が、自分の身体を金槌で破壊していく。
少年は何度も止める様に悲願した。家族は嘲笑って更に破壊していった。
少年は天井を眺めた。飛び跳ねた血潮も、嗤っている様に見えた。


                                    獏はそれを美味しそうに平らげる。

少年は夢を見た。
大きな壷の中に閉じ込められ、毒蟲達の餌になった。
必死に蟲達を潰し、潰し、潰し続けた。
毒が回った頃には、既に少年は三分の一程喰われていた。
最後の一匹になった蟲は、少年の骨を齧り続けていた。

                                     獏はそれを美味しそうに平らげる。

少年は夢を見た。
地平線までに広がる、美しい花畑を眺める夢、
身体は自由だった。現実でも見た事の無い美しさに幸福を覚えた。
その花は毒だったのだろう、彼の身体が悲鳴を上げた。
少年は思った。死ぬんだったらこのくらい綺麗な方が良い……と。

                                     獏はそれを美味しそうに平らげる。


少年は夢を見る。

                                     獏はそれを美味しそうに平らげる。

少年は夢を見る。

                                     獏はそれを美味しそうに平らげる。

少年の心は現実にも夢にも存在しなくなった。

                                     獏は食べ飽きたのか、どこかに行ってしまった。

少年はもう息をしていない。

                                     獏はもういない。

少年の寝顔は酷いくらいに穏やかだった。

                                     獏はもう二度と、彼の夢を食べなかった。

少年の見た夢は分からなかった。
でも、壊れた彼はそれを理解する事は無かった。
最終更新:2018年08月03日 00:15