青年は夢を食べた。
どんな夢かは覚えていない。薄らと見えるビジョン・・・でもそんなもの気にする事も無かった。
美味かった。ただそれだけはハッキリと覚えている。
対象は好きに決めている。好みの女性なら尚更だ。
夢も、悪夢も、青年にとっては只のご馳走だった。
一度、たった一度だけ不可解な悪夢に囚われた事がある。
何もかもが狂って、人も獣も神も全てが狂った世界を。
青年は戸惑った。夢の中の住人も夢を見たが・・・しかしその夢は嫌悪するくらいに不味く、空虚そのものだった。
壊れた街、業火に焼かれた滅びの村、誇りを失った虚ろの城、掃溜めの巣窟となった瓦礫の要塞。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
そこに、角の生えた一際大きい獣が横たわっていた。
酷く肥えた、血生臭い瀕死の獣は独り言の様に呟いた。
ああ、飢える…飢える…食っても食っても満たされない。
死ねない、死ねない。
青年は、無我夢中に獣を殺した。
まず目を抉り、角を引き千切り、頭部をナイフで斬り刻んだ。
青年は分からなかった、何故この獣を殺そうとしているのかを。
始めて獣を見て察した事は一つだけあった。
コイツを殺せば、この夢は終わる。
コイツは自ら食った夢に食われた愚かな獣だ。
「どうだ、美味いか?痛みってのは、悪くねえだろ?なあ。」
ルクス・アマルガムを撃退し、一同は本部にて治療を受けていた。
ミッケは胡坐をしたままボヤいていた。
「あーあ、あんなデカブツが今後出てくると考えたら楽しめそうだけどよ、流石に骨が折れそうだっての。」
「現にアンニュイの足一本やられたがな。」
「そこネタにするとこかよ。」
エクトが悪態着くのは相変わらずだった。
バティストはふと思う事があった。
何百年と生きている島の者達は、どれ程の悪夢を見ているのだろうか?
その夢は現実と変わらず、安息を与えてはくれないのだろうか、と。
「・・・どんくらいの悪夢だろうな。」
エクトはバティストの呟きをハッキリとは聞いてなかった。
「ん?何か言ったか?」
「いーや、お前チャック空いてるよ。」
「え!?まじ!?」
「うわマジで開いてるじゃん、クソかよ。」
バティストは楽しみで仕方なかった。
あの世界が悪夢のようなものである彼らにとって、眠りについた先の光景はどんなに歪で、脆く、儚げなのだろうか。
気になって仕方なかった。
自分はあのような惨めにはならない、決して。
夢に喰われる獏など、この世に要らないのだ。
最終更新:2018年08月16日 00:27