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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/10章-2」(2010/05/16 (日) 15:06:07) の最新版変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 美琴「はいもしもし」 初春『もしもし御坂さんですか? 夜分遅くに恐れ入ります。今大丈夫でしょうか?』  電話の相手。初春飾利の声は心底申し訳なさそうだった。 美琴「うん、大丈夫だけど、どうしたの? ひょっとして黒子にいじめられたとか?」  美琴は和室の隣、物置と化している洋室へと入ると、一応やや声を潜めて応じる。 初春『いえそういうわけでは、ないんですけど…………』 美琴「ん?」  初春は軽い冗談にも乗らずに言葉を濁す。  何か言いにくい事だろうか。 初春『あ、そういえば忘れてました。……コホン。し、新春を寿ぎ謹んで、初春のご挨拶を申し上げます。    ……えっと、……旧年中は格別の御厚情を賜り、厚く感謝致します。本年もよろしくご指導ご鞭撻の    ほどお願い申し上げます……』  その言いにくい事の代わりに、何やら会社の上司に宛てた年賀状に書いていそうな文句が聞こえてくる。 まあいずれにせよ言いにくそうで、やや棒読みになっているが。  美琴は若干迷ってから、普通に返事をしてやることにする。 美琴「う、うん。あけおめー。こちらこそよろしくね。………………………………ぷッ、はは」 初春『ああぁぁ!! やっぱり駄目でした!! いくらお嬢様かぶれの私だってさすがにコレは無いと思っ    たんですよ!? でももし万が一失礼なヤツだと思われたらって、お嬢様同士の新年の挨拶って全然    分からなくて……。はあぁぁ、新年早々とんだ大失敗です……』 美琴「ごめんごめん落ち着いて。笑ったのは謝るから。ちょっと丁寧だったから面食らっただけよ」 初春『すみません。でもやっぱりその、変でしたよね。いくらお嬢様でも口頭でこれは無いですよね?』 美琴「……んー、まあ常盤台でも少ない方かな」 初春『う、ううっ!! すみません。新年早々御坂さんに気まで遣わせてしまいました』  再び携帯電話から謝罪とため息が聞こえる。『滅多にいない』を少し柔らかく言ってみたが、却って気負 わせてしまったようだ。  美琴は何とか慰めようとしてみる。 美琴「そう落ち込む必要無いわよ。一応貴方なりの精一杯の挨拶だったんでしょ? ならそこは胸を張って    良いんじゃない? まあ私としてはもうちょっとフランクでも歓迎するけどね」 初春『御坂さん……』 美琴「あ、そうそう。年賀状って届いた?」 初春『……、あ、はい!」  初春は一瞬ポーッとお姉様ワールドに浸かり掛けていたが、何とか意識を戻す。 初春『素敵な年賀状ありがとうございます。感激しちゃいました。私のも寮の方に出しましたので、帰ったら    是非見てくださいね』 美琴「へえホント? 楽しみにしとくわ」 初春『あ、でもハードルはあんまり上げないでくださいね。私のは極めて一般的な年賀状ですので。それと、    文面にもできれば触れないで下さい」 美琴「あっはは。……、というか私のも一応普通なつもりだったんだけど……」  ちなみに片やキャラクター年賀状(上条に渡したバリバリ緑色をしたものではなく、ワンポイント的な落ち 着いたモノ)、片や花柄年賀状と、どちらも干支や縁起物といった柄を全力で無視した個性的年賀状であ った。 初春『でもあれですね。最近じゃデジタルで済ませる人の方がメジャーですけど、やっぱりこういうアナログ    も大切にしたいですよね』 美琴「お、良いこと言うわね。分かるなー。デジタルに精通してるからこそ良さに気づくのよねー」  超電磁砲と守護神は何かを共有したようにウンウンと頷きあう。その筋の人が見たら異様に思うかもしれ ないが、大抵の人から見れば若いくせに何かを悟った気で居る中学生そのものだろう。 初春「ところで御坂さん、ひょっとして風邪ですか? 若干鼻声な気が」 美琴「え、あー。うん、ちょっとね。くしゃみ何回かした程度だけど」  『只今絶賛鼻血垂れ流し中です。テヘ☆』などと戯ける事は出来ない。  理由を聞かれたら慌てそうだ。 初春『今日も一段と冷えますからね。雨も降りましたし。あ、休み中に何かあったら、気軽に相談して下さい    ね。風邪で寝込んで、白井さんの強襲を回避できそうにないとか。執拗に座薬を勧めてくるとかがあれ    ば。私すぐに駆けつけますので』 美琴「確かにそれは怖いわね。じゃあその時はお願いしようかしら」 初春「はい。任せて下さい! えへへ」 美琴「……、」  ふと、話題が途切れる。  携帯電話の向こう側からは、何か雑談のネタは無いかと考え込んでいる雰囲気が伝わってきていた。  美琴は試しにそれを切ってみる。そろそろ落ち着いた頃だろう。 美琴「それでだけど、本題は? 何か話しにくそうな事?」 初春『いえ………………、えっと、はい。ちょっと私の口からは話しにくいんですが』 美琴「うん、ゆっくりでいいわよ」 初春『はい。……、実はその、上条当麻さんについてご報告とご相談したい事がありまして』 美琴「……へ?」  友人の口から恋人の名前が出てきて美琴は内心動揺する。  『ふふふ。先日はお楽しみでしたね。ついに映像、見つけちゃいました!!』なんて言われるのではない かとハラハラしていると、 初春『妙な噂が流れていまして』 美琴「噂?」 初春『はい、ネット上に』 美琴「……」  美琴は瞬時に幾つかの事件を思い浮かべる。  二人の噂となればそっち方面だろう。どれが流れても面倒くさいことになりそうだが。 初春『……内容もその、言いにくいんですが、お二人がお付き合いをされている。と』 美琴「は……、はいぃ?? そ、え? 何で……」  美琴はその予想もしていなかった内容に混乱する。そんな人気芸能人の熱愛報道みたいな事が自分たち に起きるとは、あまり想定していなかった。大体にして、付き合いだしてからそんなに日数も経っていない。 初春『あ、お二人が実際にどういったご関係か、私自身は伺いません。その、この前の事は本当に申し訳    ありませんでした』  この前、というのは恐らく美琴と上条が映った写真を間接的にとはいえ消失させてしまった事だろう。 美琴「ああ、あれはホント、痛くも痒くもないんだって。良いわよ別に気にしなくて」 初春『いいえ、気にします!! お二人の大切な思い出の品を……って、別にお二人の関係をこちらが    決めつけているという訳ではありませんよ? 何と言いますか……、そう! つまり道義的責任とい    うか……えーっと、ジャッジメントとしてこう言うところはきっちりですねぇ』 美琴「初春さん。分かったから。それで? ただの噂……って訳じゃないんでしょ?」  インターネットというのはある意味噂の吹きだまりみたいな所である。一件二件見つけた程度で、インタ ーネットの初心者とは決して言えない初春飾利がわざわざ連絡してくるとは考えにくい。 初春『すみません……。はい、その通りです。御坂さんは有名人ですので、これまでも掲示板やなんかで    眉唾情報は散見されていたんですけれど、今回のはちょっと様子がおかしいんです。噂の広まるス    ピードが不自然な程早いのに、有力なソースが見つからない。ちょっとした都市伝説状態になってる    って感じでしょうか』 美琴「……、つまり誰かが何かの目的で流してるって事?」 初春『だと思います』  噂が広まると結果どうなるだろうか。そもそもアイドルでもタレントでもない美琴にとって風評被害という のは精神的影響しか出ない。 美琴(でも、最終的にほとんど全員に知られるって事よね? ママにもパパにも、黒子や佐天さんや寮監、    学校の皆やら、妹達含めアイツの知り合いや両親にも、全部? ……、あ、ああ、ああああ。ヤバイ    わよそれ絶対ヤバイって!!)  一瞬、『公認のカップルになったら、外で思う存分べたべた出来るかも?』――――なんて幻想が頭に 浮かんだが、すぐに不都合な予想の方に追い出された。  周囲にばれるのは死ぬほど恥ずかしい。と言うのもあるが、それよりも一気に面倒事に発展するような 予感がビシビシ感じる。ひょっとしたらそのせいで周囲の環境が変化し、二人の関係にも悪影響が出かね ない。例えば、誰か他の女に間を引き裂かれるとか。 美琴(ったく、一体どこの馬鹿がやってんのよ。レベル5を茶化すとか自殺行為ってくらい分かりなさいよ!)  とは言っても、初春が連絡してきたという事は、犯人にそれなりのスキルがある可能性が高い。恐らく、 よっぽどでない限り怨恨や悪戯が目的ではないだろう。でなければインターネット上で超電磁砲に喧嘩を 売るわけがない。 美琴(となると、目的次第では別のトラブルが出現してきそうね)  美琴は眉をしかめる。彼女はインターネットの怖さ、というか面倒くささをよく理解していた。噂を流す側と 防ぐ側、どちらが手間取るかなんて、使っている人なら考えるまでもないだろう。 美琴「いつ頃からってのは分かる?」  美琴は努めて冷静に聞く。  ここで狼狽えたらとりあえず初春には二人の関係がバレる。 初春『うーん。多分ですけど、今日の夕方頃からだと思います』 美琴「夕……方?」 初春『御坂さん?』  その時間帯は、ある出来事を想起させた。美琴の脳裏に物凄く嫌な予感が思い浮かぶ。 美琴「ねえ初春さん」 初春『はい。何でしょう?』 美琴「もしかしてそれって、画像や動画も流れてたり……する?」 初春『…………』 美琴「お願い何か言って」 初春『…………大丈夫です安心して下さい。とりあえず8割、いえ9割方は消しました』 美琴「……」 初春『そ、それに、アレは女の子的に一種の憧れみたいなものだと思いますし。全然恥ずかしくなんか無い    ですよ。むしろ、私としては羨ましいくらいです!!』  美琴は膝からガックリ崩れ落ちそうになった。  それは噂というより確定情報に近いのではないだろうか。 美琴「ど、どこまで? どこまで流れてたの? 正直に教えて」 初春『え……っと。どちらにせよ御坂さんなら調べられてしまうと思うので話しますと、「俺の美琴に気安く    触ってんじゃねー」と、「感激してふにゃふにゃになった超電磁砲」と、「お姫様抱っこで愛の逃走」が    大人気……じゃなくて、甚大な被害です』 美琴「うわぁぁ……」  美琴の顔がかああッ! と赤くなり、若干涙まで出てくる。  あの瞬間だけでも恥ずかしかったのに、ネット上で一体何百人、何千人に見られてしまったのだろうか。 初春『でも先ほど言ったとおり私が消しましたし、アレは能力者が作った偽造動画だったって情報も自然な    感じで流しましたし、再アップも防ぎました。これから学園都市中の噂を誘導するつもりですし。……、    だから安心して、落ち込んだりしないで下さい』 美琴「うん。ごめんありがと。……って学園都市中!? それってつまりウイルスでも流すって事? いや、    学園都市なら検閲システムを最大利用すれば上手く出来るか……。ううん、どちらにせよ危ない事よ。    そこまでは頼めない」  一つ一つのサーバーに侵入して手作業で、なんてことはエレクトロマスターでもない初春が一人で出来 るわけが無い。ということは特殊な手法を用いるつもりだろう。しかし学園都市内でそれは違法行為にあ たる。そればかりか、もし噂を流しているのが暗部だったりしたら初春にも危険が及ぶかもしれない。 初春『いいえ!! 何と言おうと私がやります。この前の罪滅ぼしもありますし、それに学園都市の強力    な端末や回線が手元にない御坂さんには無理だと思います。検閲システムならジャッジメント権限    で途中までは潜れますのでそれほど難しい作業ではありません。それに事は一刻を争う状況です』 美琴「……」  悔しいが正論であった。  学園都市外から学園都市内のネットワークにアクセスするだけですら一手間。そこから検閲システムに 潜るのはさらに手間が掛かる。そればかりか、こちらから学園都市内のインターネットへ潜るとなると、回 線速度などの物理的な問題が生じる。他の端末を遠隔で動かす手も考えられるが、外と内の技術レベル の乖離を考えると、逆に手間が増えるだけだろう。 初春『あ、噂が流れていた方が好ましいというのであれば』 美琴「それは無い」 初春『……、ですよね』 美琴「ホントごめん。私が帰るまでだけお願いするわ。無茶はしちゃだめよ?」 初春『はい。分かりました。……ただえっと、それに関連してもう二つほど残念なお知らせとお願いがあり    まして』 美琴「……何?」  少し自棄気味に応じる。 初春『一つはその、噂を加速させている人は、今日あった出来事に多分乗っかったんだと思うんですけ    れど、その適用範囲が学園都市の外にも及んでいてですね。そちらの対応を御坂さんにお願いし    たくて、お電話差し上げたんです』 美琴「そう。まあこっちならそこまで面倒じゃないわね」  全て削除とかそういうのは難しいが、あくまで噂レベルに抑えるのは超電磁砲たる美琴にとって難しく ないだろう。ある意味適材適所である。 美琴「悪いわね、面倒な方を受け持たせて」 初春『任せてください。これも勉強です』 美琴「そう……、今は自宅?」 初春『いえ、支部です』 美琴「確か貴方達、正月は休むはずだったわよね」 初春『はい……、そうなんですけど。二つ目のお知らせに関係していまして、その……』 美琴「白井黒子《あのこ》にばれた、のね」  美琴はついに頭を抱える。  一番面倒な、最後の関門にしておきたかった白井に、こうも早くバレるとは思わなかった。 初春『すみません。察しが良くて本当に助かります。私がもっと早くに気づいていれば良かったんですけれ    ど。白井さん、定期的に御坂さんの名前で検索してるらしくて……』 美琴「はぁぁー。ったく、あの子は」 初春『あ、でも不幸中の幸いな事もありまして』 美琴「ん?」 初春『白井さんはまだ悪質な噂だと思っています。動画や画像はなんとか見られずに済みました。さすがに    白井さんの端末にハッキングするのは肝が冷えましたが』 美琴「なるほど、ってことはギリギリセーフって事ね。初春さんありがとう!! グッジョブ!!」 初春『あはは……』 美琴「んで、黒子は今どうしてるの?」 初春『白井さんは今出払ってもらっています。実はこの電話自体内緒でしていてですね。そのために』 美琴「そっか。まあ努力次第で誤魔化せるって事ね。うん、分かった」 初春『それともう一つ』 美琴「……ま、まだあるの?」  怯えた調子で聞いてみる。 初春『あ、いえ、これは本当にただの眉唾情報だと思うんですが、気になる書き込みがありまして』 美琴「気になる書き込み?」 初春『はい。「御坂さんと上条さんがくっついた事で統括理事会が不穏な動きを見せている」とか何とか。    情報が錯綜しすぎているせいでソース元に辿り着けないんですが。それに色々ツッコミ所が多いです    し、多分誰かの悪戯だと思うんですけれど、一応報告をと思いまして』 美琴「……。そうね、多分悪戯だと思うから無視してちょうだい」 初春『はい。そうですよね、すみません』  電話口から少しほっとした声が聞こえる。 初春『えと、私から報告することは以上です』 美琴「何から何までありがとね初春さん。いつかお返ししなくちゃ」 初春『ホントですか!? あ、でもこれは以前の罪滅ぼしって事ですので……』 美琴「遠慮しなくていいわよ。って、まあ何にせよ事を片付けてからね」 初春『そうですね。それじゃあまた何かあったら、今度は多分メール送ります。白井さんが帰ってくるので』 美琴「オッケー。お願いするわね。それじゃ」 初春『あ、御坂さん!』 美琴「うん?」 初春『あの……、私は、応援してますから!! その、お二人の事。とてもお似合いだと思いますし……、    なので頑張ってください!!』 美琴「えっと、あははは……」 初春『そ、それだけです失礼します』  そう言うと、初春は慌てた様子で電話を切った。  ◆ 初春「ふう。どうにかこれで作業の半分が終了って所でしょうか」  初春飾利は端末の前で椅子に背を預け、思いっきり伸びをする。  柵川中学の校内にある風紀委員第一七七支部。完全下校時間どころか、そもそも正月休みであるため 人気はほとんど無い。がらんとした部屋はその一角のみに明かりが灯されている。  初春は一息付くと、体に掛けている毛布を手繰り寄せ、紅茶を飲む。結構前に淹れたはずだが、冷えた 体にはまだそれは熱く感じられた。  最先端都市の中学校、とは言ってもさすがにこの時期のこの時間帯は暖房が入らない。夕方までの余 熱はそろそろ貯金を使い果たし、徐々に外気温へと近づいていく。足下には電気ストーブがあるが、出力 が弱く、全身を温めるまでには至らない。  それでも辛いとは思わなかった。むしろ心はホクホクと温かい。  初春はもう一度端末に向き直ると、一つの動画ファイルにカーソルを合わせる。目の前に置いてある携 帯電話を申し訳なさそうに見つめた後、辺りに誰も『出現してこないか』を確認しながらイヤホンを耳に付 け、静かにそのファイルを開く。すると作業中のウィンドウの画面に、新たなウィンドウが開いた。学園都市 製ではない携帯電話かデジカメで撮ったような、少し荒いビデオ映像である。  再生された動画には一組の男女による珍事というか痴態というか、微笑ましくも小っ恥ずかしい青春の 一ページが記録されていた。  初春はそれを凝視する。 初春(ふふ。うふふふ。むふふふふふふふふふ)  自分の頬が徐々に持ち上がっていくのを感じる。 初春(ダメですよダメですってこれ。顔が、ニヤニヤが止まりません!! さ、最高です。御坂さんには申し    訳ないですが、この貴重な品はわたくし、初春飾利が永久保存させていただきますッ!!)  初春は美琴に『ネット上のファイルは削除した』と言ったが、『保存していない』とは一言も言っていない。  後ろめたさもあった。しかし、こんな映画やドラマみたいなリアルお嬢様の恋愛動画、初春には捨てるこ となんてできない。墓場まで持って行く覚悟で厳重に保管しようと決意する。 初春(……ふう。もう10回は見てしまいましたが全然飽きません。大体なんですか、この御坂さんのおめ    かしっぷりは!? 上条さんに褒めてもらう気満々じゃないですか。それにどれだけ気持ちをアピール    しまくってるんですか!? こっちが恥ずかしくなってきます!! ふふ、ふふふ。か、可愛い………    可愛すぎます!!)  ちなみに初春はもちろん美琴の振り袖が意味するところを理解していた。  赤いコスモスの花言葉は『乙女の愛情』 、紫のライラックの花言葉は『初恋、初恋の感激、愛の芽生え』 花水木の花言葉は『私の想いを受け取ってください』である。  まとめると『私はあなたにメロメロです』という感じだろうか。 初春(きっと、上条さんには理解できなくて、御坂さんはドキドキしているんでしょうね。それで、上条さんが    無意識に振り袖を褒めて……御坂さんが真っ赤になって……きゃー!!)  初春の頭の中では二人が少女漫画級にキラキラした恋愛を繰り広げていた。  妄想で顔がさらに緩む。 初春(ふふ。ココとか、お二人の照れた表情だけでご飯三杯はいけますよ。一体誰ですか撮影した人は!?    まったくけしからん、けしからん事ですよ!! こんなの見せられません!! きちんと削除して差し上    げます!!)  やがて動画が一周してリピートされる。 初春(それにしても、さすが御坂さんです。こんな恋、ホントに憧れちゃいますよー。しかも相手の方だって、    一見普通の方と思いきや、実は何と) 白井「初春。何見てますの?」 初春「ッッきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」  ズバァ!! と、ファイルを閉じるでもなくディスプレイを隠すでもなく、端末の電源を抜いてしまう。  抜いた瞬間に保存していないファイルがあったことに気づいて泣き出したくなるが、白井に見つかるわけ にはいかない。 初春「何でもないです何でもないです何でもないですー!! というかテレポートでいきなり背後から現れ    ないでください!! 心臓止まるかと思いましたよ!!」 白井「んん? まあどうせサボってたんでしょうけれど。任せてくださいって言ったのはあなたでしょうに。    はい差し入れ」 初春「あ、ありがとうございます」 白井「ったく、私に使いっ走りさせるとは中々良い度胸ですのね」 初春「そりゃまあ、今の段階では白井さん役立たずですし」 白井「だーったーらー、さっさときりきり働く!! 大体何ですのその蓑虫みたいな格好は?」 初春「寒いんです。仕方ないじゃないですか」  初春は制服の上からカーディンを着て、その上から毛布を被っていた。だらしがないのは確かだが、1月 の寒さに対抗するにはまだ足りないくらいだ。 初春「ていうか、白井さんの格好の方が理解できないんですけど」  白井はブレザーの制服だけで、コートすら着ていなかった。スカートも短く、サイハイソックスを履いている 以外に防寒対策している様子が見受けられない。見ているだけで余計寒くなってくる。 白井「不必要に着込むのは淑女たり得ませんの。それにいざというとき動きにくいでしょう。初春……はまあ、    動きやすくてもどうにもならないでしょうけど。って、ぶーたれていないで、進行状況はどうなってますの?    削除とか、あと犯人の目星も」 初春「……、削除は今夜中に終わると思います。犯人が諦めたのか、ついさっき拡散スピードが落ち着き    ましたから」  それを聞いて白井は少しほっとする。 白井「そうですの。ならこの調子で何とかなりますわね。何としてでも水際で食い止めますわよ! お姉様    に要らぬご心配をお掛けしないためにも!」 初春「……は、はい」 白井「ああ、お姉様がこんな事知ったらきっと胸をお痛めになりますわ。よりによってあの忌々しいクソ類人    猿と、だなんて!!」 初春「あはは。白井さんと付き合ってる、なんて噂よりはずっとマシだと思いますけど……って痛い痛いです」  白井は無言で近づくと、初春のこめかみに両の拳を当ててぐりぐりと捻り出した。  初春は止めるために無理矢理話を続ける。 初春「それで、犯人の目星なんですが」 白井「……、聞きましょう」 初春「えー、怪しいってだけなので外れてるかもしれませんが、数人挙がりました。これからもう少し詰めて    いこうと思います」 白井「一番可能性が高いのは?」 初春「……それを知ってどうするんですか?」 白井「決まっていますの」 初春「もう一度言いますけど、怪しいだけで犯人と決まったわけではありませんよ? それに、白井さんが    そこへ向かうという事は、私がこれまでの作業とバックアップを同時にやらなきゃならないって事で、    正直面倒くさ……痛、いたた痛いですって!」 白井「お姉様に迷惑を掛ける輩ですのよ? さっさと捕まえて八つ裂き……もとい、教育的指導して差し    上げるべきだと思いませんの?」 初春「わか、分かりました、だから止めてください!」 白井「……で?」 初春「一応ですけど、私は止めますよ?」 白井「やけに勿体ぶりますわね。何か他に問題でもありますの?」 初春「まあ、白井さんなら大丈夫だと思いますけど」  そう言うと初春は机の引き出しから書類を出して渡した。  犯人の候補者一覧と個人情報、能力や怪しい理由などをまとめたものである。  余裕たっぷりの表情であった白井の表情も、それを見て固まる。が、それも一瞬で、すぐにニヤリと不敵 な笑みを浮かべた。 白井「……ふん。相手にとって不足無し、って事ですのね」  書類の最上部には次のような事が書かれていた。  氏名:文津幸美  学校:長点上機学園  学年:高校1年  能力レベル:大能力者、レベル4  能力種類:情報観測(ウォッチャー)  能力特徴:エレクトロマスター。情報に特化していて、端末を介さずに様々な情報媒体へアクセスする。  注意点:攻撃力は高くないが、擬似的に精神感応や透視能力に近い事が可能。遠隔攻撃が有効か。 &sizex(1){&color(white,white){&counter(yesterday)}} ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第10章 帰省1日目 噂 美琴「はいもしもし」 初春『もしもし御坂さんですか? 夜分遅くに恐れ入ります。今大丈夫でしょうか?』  電話の相手。初春飾利の声は心底申し訳なさそうだった。 美琴「うん、大丈夫だけど、どうしたの? ひょっとして黒子にいじめられたとか?」  美琴は和室の隣、物置と化している洋室へと入ると、一応やや声を潜めて応じる。 初春『いえそういうわけでは、ないんですけど…………』 美琴「ん?」  初春は軽い冗談にも乗らずに言葉を濁す。  何か言いにくい事だろうか。 初春『あ、そういえば忘れてました。……コホン。し、新春を寿ぎ謹んで、初春のご挨拶を申し上げます。    ……えっと、……旧年中は格別の御厚情を賜り、厚く感謝致します。本年もよろしくご指導ご鞭撻の    ほどお願い申し上げます……』  その言いにくい事の代わりに、何やら会社の上司に宛てた年賀状に書いていそうな文句が聞こえてくる。 まあいずれにせよ言いにくそうで、やや棒読みになっているが。  美琴は若干迷ってから、普通に返事をしてやることにする。 美琴「う、うん。あけおめー。こちらこそよろしくね。………………………………ぷッ、はは」 初春『ああぁぁ!! やっぱり駄目でした!! いくらお嬢様かぶれの私だってさすがにコレは無いと思っ    たんですよ!? でももし万が一失礼なヤツだと思われたらって、お嬢様同士の新年の挨拶って全然    分からなくて……。はあぁぁ、新年早々とんだ大失敗です……』 美琴「ごめんごめん落ち着いて。笑ったのは謝るから。ちょっと丁寧だったから面食らっただけよ」 初春『すみません。でもやっぱりその、変でしたよね。いくらお嬢様でも口頭でこれは無いですよね?』 美琴「……んー、まあ常盤台でも少ない方かな」 初春『う、ううっ!! すみません。新年早々御坂さんに気まで遣わせてしまいました』  再び携帯電話から謝罪とため息が聞こえる。『滅多にいない』を少し柔らかく言ってみたが、却って気負 わせてしまったようだ。  美琴は何とか慰めようとしてみる。 美琴「そう落ち込む必要無いわよ。一応貴方なりの精一杯の挨拶だったんでしょ? ならそこは胸を張って    良いんじゃない? まあ私としてはもうちょっとフランクでも歓迎するけどね」 初春『御坂さん……』 美琴「あ、そうそう。年賀状って届いた?」 初春『……、あ、はい!」  初春は一瞬ポーッとお姉様ワールドに浸かり掛けていたが、何とか意識を戻す。 初春『素敵な年賀状ありがとうございます。感激しちゃいました。私のも寮の方に出しましたので、帰ったら    是非見てくださいね』 美琴「へえホント? 楽しみにしとくわ」 初春『あ、でもハードルはあんまり上げないでくださいね。私のは極めて一般的な年賀状ですので。それと、    文面にもできれば触れないで下さい」 美琴「あっはは。……、というか私のも一応普通なつもりだったんだけど……」  ちなみに片やキャラクター年賀状(上条に渡したバリバリ緑色をしたものではなく、ワンポイント的な落ち 着いたモノ)、片や花柄年賀状と、どちらも干支や縁起物といった柄を全力で無視した個性的年賀状であ った。 初春『でもあれですね。最近じゃデジタルで済ませる人の方がメジャーですけど、やっぱりこういうアナログ    も大切にしたいですよね』 美琴「お、良いこと言うわね。分かるなー。デジタルに精通してるからこそ良さに気づくのよねー」  超電磁砲と守護神は何かを共有したようにウンウンと頷きあう。その筋の人が見たら異様に思うかもしれ ないが、大抵の人から見れば若いくせに何かを悟った気で居る中学生そのものだろう。 初春「ところで御坂さん、ひょっとして風邪ですか? 若干鼻声な気が」 美琴「え、あー。うん、ちょっとね。くしゃみ何回かした程度だけど」  『只今絶賛鼻血垂れ流し中です。テヘ☆』などと戯ける事は出来ない。  理由を聞かれたら慌てそうだ。 初春『今日も一段と冷えますからね。雨も降りましたし。あ、休み中に何かあったら、気軽に相談して下さい    ね。風邪で寝込んで、白井さんの強襲を回避できそうにないとか。執拗に座薬を勧めてくるとかがあれ    ば。私すぐに駆けつけますので』 美琴「確かにそれは怖いわね。じゃあその時はお願いしようかしら」 初春「はい。任せて下さい! えへへ」 美琴「……、」  ふと、話題が途切れる。  携帯電話の向こう側からは、何か雑談のネタは無いかと考え込んでいる雰囲気が伝わってきていた。  美琴は試しにそれを切ってみる。そろそろ落ち着いた頃だろう。 美琴「それでだけど、本題は? 何か話しにくそうな事?」 初春『いえ………………、えっと、はい。ちょっと私の口からは話しにくいんですが』 美琴「うん、ゆっくりでいいわよ」 初春『はい。……、実はその、上条当麻さんについてご報告とご相談したい事がありまして』 美琴「……へ?」  友人の口から恋人の名前が出てきて美琴は内心動揺する。  『ふふふ。先日はお楽しみでしたね。ついに映像、見つけちゃいました!!』なんて言われるのではない かとハラハラしていると、 初春『妙な噂が流れていまして』 美琴「噂?」 初春『はい、ネット上に』 美琴「……」  美琴は瞬時に幾つかの事件を思い浮かべる。  二人の噂となればそっち方面だろう。どれが流れても面倒くさいことになりそうだが。 初春『……内容もその、言いにくいんですが、お二人がお付き合いをされている。と』 美琴「は……、はいぃ?? そ、え? 何で……」  美琴はその予想もしていなかった内容に混乱する。そんな人気芸能人の熱愛報道みたいな事が自分たち に起きるとは、あまり想定していなかった。大体にして、付き合いだしてからそんなに日数も経っていない。 初春『あ、お二人が実際にどういったご関係か、私自身は伺いません。その、この前の事は本当に申し訳    ありませんでした』  この前、というのは恐らく美琴と上条が映った写真を間接的にとはいえ消失させてしまった事だろう。 美琴「ああ、あれはホント、痛くも痒くもないんだって。良いわよ別に気にしなくて」 初春『いいえ、気にします!! お二人の大切な思い出の品を……って、別にお二人の関係をこちらが    決めつけているという訳ではありませんよ? 何と言いますか……、そう! つまり道義的責任とい    うか……えーっと、ジャッジメントとしてこう言うところはきっちりですねぇ』 美琴「初春さん。分かったから。それで? ただの噂……って訳じゃないんでしょ?」  インターネットというのはある意味噂の吹きだまりみたいな所である。一件二件見つけた程度で、インタ ーネットの初心者とは決して言えない初春飾利がわざわざ連絡してくるとは考えにくい。 初春『すみません……。はい、その通りです。御坂さんは有名人ですので、これまでも掲示板やなんかで    眉唾情報は散見されていたんですけれど、今回のはちょっと様子がおかしいんです。噂の広まるス    ピードが不自然な程早いのに、有力なソースが見つからない。ちょっとした都市伝説状態になってる    って感じでしょうか』 美琴「……、つまり誰かが何かの目的で流してるって事?」 初春『だと思います』  噂が広まると結果どうなるだろうか。そもそもアイドルでもタレントでもない美琴にとって風評被害という のは精神的影響しか出ない。 美琴(でも、最終的にほとんど全員に知られるって事よね? ママにもパパにも、黒子や佐天さんや寮監、    学校の皆やら、妹達含めアイツの知り合いや両親にも、全部? ……、あ、ああ、ああああ。ヤバイ    わよそれ絶対ヤバイって!!)  一瞬、『公認のカップルになったら、外で思う存分べたべた出来るかも?』――――なんて幻想が頭に 浮かんだが、すぐに不都合な予想の方に追い出された。  周囲にばれるのは死ぬほど恥ずかしい。と言うのもあるが、それよりも一気に面倒事に発展するような 予感がビシビシ感じる。ひょっとしたらそのせいで周囲の環境が変化し、二人の関係にも悪影響が出かね ない。例えば、誰か他の女に間を引き裂かれるとか。 美琴(ったく、一体どこの馬鹿がやってんのよ。レベル5を茶化すとか自殺行為ってくらい分かりなさいよ!)  とは言っても、初春が連絡してきたという事は、犯人にそれなりのスキルがある可能性が高い。恐らく、 よっぽどでない限り怨恨や悪戯が目的ではないだろう。でなければインターネット上で超電磁砲に喧嘩を 売るわけがない。 美琴(となると、目的次第では別のトラブルが出現してきそうね)  美琴は眉をしかめる。彼女はインターネットの怖さ、というか面倒くささをよく理解していた。噂を流す側と 防ぐ側、どちらが手間取るかなんて、使っている人なら考えるまでもないだろう。 美琴「いつ頃からってのは分かる?」  美琴は努めて冷静に聞く。  ここで狼狽えたらとりあえず初春には二人の関係がバレる。 初春『うーん。多分ですけど、今日の夕方頃からだと思います』 美琴「夕……方?」 初春『御坂さん?』  その時間帯は、ある出来事を想起させた。美琴の脳裏に物凄く嫌な予感が思い浮かぶ。 美琴「ねえ初春さん」 初春『はい。何でしょう?』 美琴「もしかしてそれって、画像や動画も流れてたり……する?」 初春『…………』 美琴「お願い何か言って」 初春『…………大丈夫です安心して下さい。とりあえず8割、いえ9割方は消しました』 美琴「……」 初春『そ、それに、アレは女の子的に一種の憧れみたいなものだと思いますし。全然恥ずかしくなんか無い    ですよ。むしろ、私としては羨ましいくらいです!!』  美琴は膝からガックリ崩れ落ちそうになった。  それは噂というより確定情報に近いのではないだろうか。 美琴「ど、どこまで? どこまで流れてたの? 正直に教えて」 初春『え……っと。どちらにせよ御坂さんなら調べられてしまうと思うので話しますと、「俺の美琴に気安く    触ってんじゃねー」と、「感激してふにゃふにゃになった超電磁砲」と、「お姫様抱っこで愛の逃走」が    大人気……じゃなくて、甚大な被害です』 美琴「うわぁぁ……」  美琴の顔がかああッ! と赤くなり、若干涙まで出てくる。  あの瞬間だけでも恥ずかしかったのに、ネット上で一体何百人、何千人に見られてしまったのだろうか。 初春『でも先ほど言ったとおり私が消しましたし、アレは能力者が作った偽造動画だったって情報も自然な    感じで流しましたし、再アップも防ぎました。これから学園都市中の噂を誘導するつもりですし。……、    だから安心して、落ち込んだりしないで下さい』 美琴「うん。ごめんありがと。……って学園都市中!? それってつまりウイルスでも流すって事? いや、    学園都市なら検閲システムを最大利用すれば上手く出来るか……。ううん、どちらにせよ危ない事よ。    そこまでは頼めない」  一つ一つのサーバーに侵入して手作業で、なんてことはエレクトロマスターでもない初春が一人で出来 るわけが無い。ということは特殊な手法を用いるつもりだろう。しかし学園都市内でそれは違法行為にあ たる。そればかりか、もし噂を流しているのが暗部だったりしたら初春にも危険が及ぶかもしれない。 初春『いいえ!! 何と言おうと私がやります。この前の罪滅ぼしもありますし、それに学園都市の強力    な端末や回線が手元にない御坂さんには無理だと思います。検閲システムならジャッジメント権限    で途中までは潜れますのでそれほど難しい作業ではありません。それに事は一刻を争う状況です』 美琴「……」  悔しいが正論であった。  学園都市外から学園都市内のネットワークにアクセスするだけですら一手間。そこから検閲システムに 潜るのはさらに手間が掛かる。そればかりか、こちらから学園都市内のインターネットへ潜るとなると、回 線速度などの物理的な問題が生じる。他の端末を遠隔で動かす手も考えられるが、外と内の技術レベル の乖離を考えると、逆に手間が増えるだけだろう。 初春『あ、噂が流れていた方が好ましいというのであれば』 美琴「それは無い」 初春『……、ですよね』 美琴「ホントごめん。私が帰るまでだけお願いするわ。無茶はしちゃだめよ?」 初春『はい。分かりました。……ただえっと、それに関連してもう二つほど残念なお知らせとお願いがあり    まして』 美琴「……何?」  少し自棄気味に応じる。 初春『一つはその、噂を加速させている人は、今日あった出来事に多分乗っかったんだと思うんですけ    れど、その適用範囲が学園都市の外にも及んでいてですね。そちらの対応を御坂さんにお願いし    たくて、お電話差し上げたんです』 美琴「そう。まあこっちならそこまで面倒じゃないわね」  全て削除とかそういうのは難しいが、あくまで噂レベルに抑えるのは超電磁砲たる美琴にとって難しく ないだろう。ある意味適材適所である。 美琴「悪いわね、面倒な方を受け持たせて」 初春『任せてください。これも勉強です』 美琴「そう……、今は自宅?」 初春『いえ、支部です』 美琴「確か貴方達、正月は休むはずだったわよね」 初春『はい……、そうなんですけど。二つ目のお知らせに関係していまして、その……』 美琴「白井黒子《あのこ》にばれた、のね」  美琴はついに頭を抱える。  一番面倒な、最後の関門にしておきたかった白井に、こうも早くバレるとは思わなかった。 初春『すみません。察しが良くて本当に助かります。私がもっと早くに気づいていれば良かったんですけれ    ど。白井さん、定期的に御坂さんの名前で検索してるらしくて……』 美琴「はぁぁー。ったく、あの子は」 初春『あ、でも不幸中の幸いな事もありまして』 美琴「ん?」 初春『白井さんはまだ悪質な噂だと思っています。動画や画像はなんとか見られずに済みました。さすがに    白井さんの端末にハッキングするのは肝が冷えましたが』 美琴「なるほど、ってことはギリギリセーフって事ね。初春さんありがとう!! グッジョブ!!」 初春『あはは……』 美琴「んで、黒子は今どうしてるの?」 初春『白井さんは今出払ってもらっています。実はこの電話自体内緒でしていてですね。そのために』 美琴「そっか。まあ努力次第で誤魔化せるって事ね。うん、分かった」 初春『それともう一つ』 美琴「……ま、まだあるの?」  怯えた調子で聞いてみる。 初春『あ、いえ、これは本当にただの眉唾情報だと思うんですが、気になる書き込みがありまして』 美琴「気になる書き込み?」 初春『はい。「御坂さんと上条さんがくっついた事で統括理事会が不穏な動きを見せている」とか何とか。    情報が錯綜しすぎているせいでソース元に辿り着けないんですが。それに色々ツッコミ所が多いです    し、多分誰かの悪戯だと思うんですけれど、一応報告をと思いまして』 美琴「……。そうね、多分悪戯だと思うから無視してちょうだい」 初春『はい。そうですよね、すみません』  電話口から少しほっとした声が聞こえる。 初春『えと、私から報告することは以上です』 美琴「何から何までありがとね初春さん。いつかお返ししなくちゃ」 初春『ホントですか!? あ、でもこれは以前の罪滅ぼしって事ですので……』 美琴「遠慮しなくていいわよ。って、まあ何にせよ事を片付けてからね」 初春『そうですね。それじゃあまた何かあったら、今度は多分メール送ります。白井さんが帰ってくるので』 美琴「オッケー。お願いするわね。それじゃ」 初春『あ、御坂さん!』 美琴「うん?」 初春『あの……、私は、応援してますから!! その、お二人の事。とてもお似合いだと思いますし……、    なので頑張ってください!!』 美琴「えっと、あははは……」 初春『そ、それだけです失礼します』  そう言うと、初春は慌てた様子で電話を切った。  ◆ 初春「ふう。どうにかこれで作業の半分が終了って所でしょうか」  初春飾利は端末の前で椅子に背を預け、思いっきり伸びをする。  柵川中学の校内にある風紀委員第一七七支部。完全下校時間どころか、そもそも正月休みであるため 人気はほとんど無い。がらんとした部屋はその一角のみに明かりが灯されている。  初春は一息付くと、体に掛けている毛布を手繰り寄せ、紅茶を飲む。結構前に淹れたはずだが、冷えた 体にはまだそれは熱く感じられた。  最先端都市の中学校、とは言ってもさすがにこの時期のこの時間帯は暖房が入らない。夕方までの余 熱はそろそろ貯金を使い果たし、徐々に外気温へと近づいていく。足下には電気ストーブがあるが、出力 が弱く、全身を温めるまでには至らない。  それでも辛いとは思わなかった。むしろ心はホクホクと温かい。  初春はもう一度端末に向き直ると、一つの動画ファイルにカーソルを合わせる。目の前に置いてある携 帯電話を申し訳なさそうに見つめた後、辺りに誰も『出現してこないか』を確認しながらイヤホンを耳に付 け、静かにそのファイルを開く。すると作業中のウィンドウの画面に、新たなウィンドウが開いた。学園都市 製ではない携帯電話かデジカメで撮ったような、少し荒いビデオ映像である。  再生された動画には一組の男女による珍事というか痴態というか、微笑ましくも小っ恥ずかしい青春の 一ページが記録されていた。  初春はそれを凝視する。 初春(ふふ。うふふふ。むふふふふふふふふふ)  自分の頬が徐々に持ち上がっていくのを感じる。 初春(ダメですよダメですってこれ。顔が、ニヤニヤが止まりません!! さ、最高です。御坂さんには申し    訳ないですが、この貴重な品はわたくし、初春飾利が永久保存させていただきますッ!!)  初春は美琴に『ネット上のファイルは削除した』と言ったが、『保存していない』とは一言も言っていない。  後ろめたさもあった。しかし、こんな映画やドラマみたいなリアルお嬢様の恋愛動画、初春には捨てるこ となんてできない。墓場まで持って行く覚悟で厳重に保管しようと決意する。 初春(……ふう。もう10回は見てしまいましたが全然飽きません。大体なんですか、この御坂さんのおめ    かしっぷりは!? 上条さんに褒めてもらう気満々じゃないですか。それにどれだけ気持ちをアピール    しまくってるんですか!? こっちが恥ずかしくなってきます!! ふふ、ふふふ。か、可愛い………    可愛すぎます!!)  ちなみに初春はもちろん美琴の振り袖が意味するところを理解していた。  赤いコスモスの花言葉は『乙女の愛情』 、紫のライラックの花言葉は『初恋、初恋の感激、愛の芽生え』 花水木の花言葉は『私の想いを受け取ってください』である。  まとめると『私はあなたにメロメロです』という感じだろうか。 初春(きっと、上条さんには理解できなくて、御坂さんはドキドキしているんでしょうね。それで、上条さんが    無意識に振り袖を褒めて……御坂さんが真っ赤になって……きゃー!!)  初春の頭の中では二人が少女漫画級にキラキラした恋愛を繰り広げていた。  妄想で顔がさらに緩む。 初春(ふふ。ココとか、お二人の照れた表情だけでご飯三杯はいけますよ。一体誰ですか撮影した人は!?    まったくけしからん、けしからん事ですよ!! こんなの見せられません!! きちんと削除して差し上    げます!!)  やがて動画が一周してリピートされる。 初春(それにしても、さすが御坂さんです。こんな恋、ホントに憧れちゃいますよー。しかも相手の方だって、    一見普通の方と思いきや、実は何と) 白井「初春。何見てますの?」 初春「ッッきゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」  ズバァ!! と、ファイルを閉じるでもなくディスプレイを隠すでもなく、端末の電源を抜いてしまう。  抜いた瞬間に保存していないファイルがあったことに気づいて泣き出したくなるが、白井に見つかるわけ にはいかない。 初春「何でもないです何でもないです何でもないですー!! というかテレポートでいきなり背後から現れ    ないでください!! 心臓止まるかと思いましたよ!!」 白井「んん? まあどうせサボってたんでしょうけれど。任せてくださいって言ったのはあなたでしょうに。    はい差し入れ」 初春「あ、ありがとうございます」 白井「ったく、私に使いっ走りさせるとは中々良い度胸ですのね」 初春「そりゃまあ、今の段階では白井さん役立たずですし」 白井「だーったーらー、さっさときりきり働く!! 大体何ですのその蓑虫みたいな格好は?」 初春「寒いんです。仕方ないじゃないですか」  初春は制服の上からカーディンを着て、その上から毛布を被っていた。だらしがないのは確かだが、1月 の寒さに対抗するにはまだ足りないくらいだ。 初春「ていうか、白井さんの格好の方が理解できないんですけど」  白井はブレザーの制服だけで、コートすら着ていなかった。スカートも短く、サイハイソックスを履いている 以外に防寒対策している様子が見受けられない。見ているだけで余計寒くなってくる。 白井「不必要に着込むのは淑女たり得ませんの。それにいざというとき動きにくいでしょう。初春……はまあ、    動きやすくてもどうにもならないでしょうけど。って、ぶーたれていないで、進行状況はどうなってますの?    削除とか、あと犯人の目星も」 初春「……、削除は今夜中に終わると思います。犯人が諦めたのか、ついさっき拡散スピードが落ち着き    ましたから」  それを聞いて白井は少しほっとする。 白井「そうですの。ならこの調子で何とかなりますわね。何としてでも水際で食い止めますわよ! お姉様    に要らぬご心配をお掛けしないためにも!」 初春「……は、はい」 白井「ああ、お姉様がこんな事知ったらきっと胸をお痛めになりますわ。よりによってあの忌々しいクソ類人    猿と、だなんて!!」 初春「あはは。白井さんと付き合ってる、なんて噂よりはずっとマシだと思いますけど……って痛い痛いです」  白井は無言で近づくと、初春のこめかみに両の拳を当ててぐりぐりと捻り出した。  初春は止めるために無理矢理話を続ける。 初春「それで、犯人の目星なんですが」 白井「……、聞きましょう」 初春「えー、怪しいってだけなので外れてるかもしれませんが、数人挙がりました。これからもう少し詰めて    いこうと思います」 白井「一番可能性が高いのは?」 初春「……それを知ってどうするんですか?」 白井「決まっていますの」 初春「もう一度言いますけど、怪しいだけで犯人と決まったわけではありませんよ? それに、白井さんが    そこへ向かうという事は、私がこれまでの作業とバックアップを同時にやらなきゃならないって事で、    正直面倒くさ……痛、いたた痛いですって!」 白井「お姉様に迷惑を掛ける輩ですのよ? さっさと捕まえて八つ裂き……もとい、教育的指導して差し    上げるべきだと思いませんの?」 初春「わか、分かりました、だから止めてください!」 白井「……で?」 初春「一応ですけど、私は止めますよ?」 白井「やけに勿体ぶりますわね。何か他に問題でもありますの?」 初春「まあ、白井さんなら大丈夫だと思いますけど」  そう言うと初春は机の引き出しから書類を出して渡した。  犯人の候補者一覧と個人情報、能力や怪しい理由などをまとめたものである。  余裕たっぷりの表情であった白井の表情も、それを見て固まる。が、それも一瞬で、すぐにニヤリと不敵 な笑みを浮かべた。 白井「……ふん。相手にとって不足無し、って事ですのね」  書類の最上部には次のような事が書かれていた。  氏名:文津幸美  学校:長点上機学園  学年:高校1年  能力レベル:大能力者、レベル4  能力種類:情報観測(ウォッチャー)  能力特徴:エレクトロマスター。情報に特化していて、端末を介さずに様々な情報媒体へアクセスする。  注意点:攻撃力は高くないが、擬似的に精神感応や透視能力に近い事が可能。遠隔攻撃が有効か。 &sizex(1){&color(white,white){&counter(yesterday)}} ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)

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