とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

04章-2

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4.頼み事


美琴はベッドの上で一人悶えていた。
――――別にいかがわしいことをしているわけではなく
自分の身長ほどもあるぬいぐるみを抱きしめてベッドの上でもじもじとしていた。

(ちゃんと言えた・・・・・・お願いできた!)

自分を本当に褒めてあげたいぐらいだ。
今まで素直にお願いだとか頼みごとをした事のない美琴は言えた事の嬉しさで
満足げな顔をしている。

(名前で呼んでくれたし・・・・・・嬉しい)

それもかなり嬉しくあった。
電話で名前を呼ばれたときは意識が本当に飛びそうになったが
しっかり意識を持つ事が出来、踏みとどまれた。

(あー、もう!何にやけてんのよ!名前で呼んだだけだじゃない!)

恥ずかしくてやっぱり何度も通話中に意識が飛びそうになったりしたし
今は落ち着いたが、終って話した事を思い出すと意識しなくても
口元が上がっていってしまい自然と笑顔になってしまっていた。

(――――当麻)

心の中で好きな人の名前を呟く。
やっと言えた名前、とても小さいけど大事な一歩だ。

(―――当麻、好きだよ)

ただ、通話では想いを伝える事は出来なかった。
そこだけが今日は残念だった。

(当麻・・・・・・)

もう一度心の中で呟く。
顔が少しずつ赤くなっていくのがわかる。

(――――私も声が聞けて嬉しかったよ?)

逢えなくてもどかしかった。
美琴は上条にそう言えなくてそれも残念だった。
通話を切ったときには隣人や寮監が何事かと部屋に様子を見に来るくらい叫んでしまった。
凄く恥ずかしかったし、その後の寮監の説教などは耳に入らなかった。

(明日、逢えるかな?)

電話では約束しなかったが、明日は逢えるだろうかと考える。
ギュッとぬいぐるみを抱きしめなおし、またもじもじとし始める。

明日は逢いたい、逢わなければいけない、そんな予感がしていた。




日はもう完全に沈んでおり夕飯時となっている。
そんな中で上条と子供たちは美詠の作った料理を食べていた。
料理はカレーで、大きめに切られたジャガイモやそのほかの野菜類が
おいしそうに湯気を立てている。

「・・・・・・本当なのか?」

そんな中で上条の表情は険しかった。
場の雰囲気、というよりは食事中にする表情ではない。
別に味が合わないとか、猫舌だからでもない。
カレーはおいしいし料理に関しては全く文句は無い。
だが上条の表情が優れないのはある事実を告げられたからだ。

「あぁ、本当だよ」

当瑠がカチャカチャと音を立て、カレーを食べながら答える。
当瑠の表情はいつもどおりだが、ふざけた様子はなく真剣だった。

「―――――明日、未来に帰る」

上条は少し悲しそうに表情を崩す。
改めて彼等が未来の人間である事を思い出す。

「確かなんだよな・・・・・・」

上条に元気は無い、もしかしたら間違いでは無いか?と淡い期待を抱いている。
だが当瑠はポケットから携帯のようなものをとりだし画面を数秒見る。
それは、時空の歪みを計算する機械らしく、ほとんど計算に間違いは無いということだった。

「あぁ、明日は確実に時空の歪みが出る日だな」

「―――そうか・・・・・・」

事実は変わることなく、上条は肩を落とす。
もともと今の学園都市には時間移動のできる能力者は存在しない。
だからこそ、計算の間違いを期待したわけだが、未来では希少とはいえ
すでに存在している能力だ、学園都市がそんな能力を放り出すわけがないし
むしろかなり力を入れて研究をするだろう。
ほぼ100パーセント当瑠の言っている事は正確だ。

「・・・・・・だからさ」

「――――?」

何かあるのだろうか。
当瑠は無邪気にカレーを食べている美春を見たまま続ける。

「明日は、あの子と・・・・・・美春と母さんと親父の三人で一緒にいて欲しいんだ」

「それは――――」

上条が迷った声を出したせいか当瑠は申し訳なさそうに上条のほうを向く。

「母さんと一緒にいたいってのは分かる。
親父は俺たちよりも母さんの事が好きだってのは俺もよく分かってんだ。
だけど、美春も親父たちと一緒にいたいんだよ」

頼む、手を合わせて当瑠は言う。
その姿がごちそうさまに見えたのか話を聞いていなかった美春は「おにーちゃんもういいの?」と
キョトンとした表情となっていた。
この少年は分かった上で言っている。

「分かった・・・・・・明日は美春と一緒にいる」

上条自身は美春といても別に嫌な事は無い。
むしろ自分の娘の事はとても愛らしく思っているしその子が望んでいるのなら
自分と美琴が一緒にいただけで笑ってくれるなら自分のわがままなんてどうでもよかった。

「すまねぇ」

「あやまんなよ、みこ・・・・・・御坂もきっと美春と一緒なら嬉しいと思う」

「ありがとな、親父」

当瑠はその後上条とは話さずに美詠におかわりを頼み三杯も食べた。

(一緒にいたい、か)

それは小さな子なら当然親に望むことだ。
その気持ちは尊重するべきで大切な事でもある。

(親として・・・・・・か)

何をすればいいのだろう、考えはまとまりそうになかった。






深夜、当瑠と美詠はテーブルに向かい合って座っていた。
ベッドには父である上条と娘の美春が仲良く眠っている。

「本当に明日帰っちゃうの?」

残念そうに言ったのは美詠だ。
当瑠は何度目か分からない溜息をつく。

「何度いや分かるんだよ?仕方ないだろ?これを逃したらいつになるか分からないんだ」

このやり取りも幾度となくしてきた。
美詠としてはまだこの時代にいたいのだろう。
理由は分からないがこの場所を気に入ったのか、それとも今の自分の『立ち位置』を離れたくないのかの
どちらかだと当瑠は推測している。

「美春ちゃんもさ、もっといたいと思うんだけど?」

「んな事は分かってんだよ・・・・・・けどいつまでも迷惑をかけるわけにはいかねぇ
これ以上ここにいると『時間の流れ』を捻じ曲げちまうんだよ」

『時間の流れ』、捻じ曲がることがあれば未来が変わってしまう。
当瑠たちがこの時代にいる時点でかなりの捩れが生じているが
必要以上に関わらなければ捩れは修復される。

「捩れが自然に修復されるのは最高で一週間まで・・・・・・それを超えたら
捩れは捩れのまま進んでいって、未来は変わっちまう」

未来が変われば当瑠たちの存在が消える可能性もある。
存在が消えるという事は上条と美琴が結ばれない未来が出来てしまうことになる。

「どうして好き合ってる二人が俺たちのわがままで引き離されなきゃいけないんだよ。
ここに来た時に決めたことじゃねぇか、親父と母さんを幸せなままにする
離れることなく、一緒に入れる未来のまま帰るって、決めただろ?」

「・・・・・・そうだったわね。ごめん、勝手なこといって」

美詠が頭を下げる。
当瑠はそんな風に素直に頭を下げる姿が珍しくて慌ててしまう。

「あ、あやまんなよ。俺も無理言ってお前を連れてきちまったし
わがままの一つや二つ聞いてやんねぇといけないしさ・・・・・・」

その言葉で少し楽になったのか美詠は顔を上げたが表情は不安げだった。

「当麻さんと美琴さん・・・・・・ちゃんと面倒見れるかな?」

面倒を見るというのは勿論美春のことだ。
当瑠と美詠は多少慣れているが、まだ親になっていない上条と美琴はきちんと見れるのか
まさか事故にあわせたりはしないだろうが心配は心配だった。

「大丈夫だと思う、二人ともしっかり見てくれるさ」

そうだといいけどね、と美詠は言って、今度は顔を少し俯けた。

「つーかさ、私今日どこで寝れば良いわけ?」

昨日まで美春と一緒に寝ていたのは美詠だったので
今日は上条にそのポジションを取られてしまい寝る場所がない。
いや、あるにはあるのだが・・・・・・

「・・・・・・俺の布団で寝る?」

聞いた途端美詠の顔は一気に真っ赤になる。

「な・・・・・・ななななな!何言ってんの!?」

「や、やっぱ無理だよな?嫌だよなぁ」

じゃぁ俺は風呂場で寝るかと上条が寝ていた寝ていた場所まで移動しようとすると
突然服の裾を掴まれた。

「い・・・・・・嫌とはいってないでしょ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

かぁっとさらに顔を赤くした美詠がここから離すまいと力強く握っていた。

「ね、寝てもいいって言ってんのよ!馬鹿!」

「お前・・・・・・自分で何言ってるか分かってんのかよ」

当瑠は曲がりなりにも男性だ。
しかも思春期の真っ最中の高校生であるので一緒に女の子と寝ると言うのは
精神的にも肉体的にもかなり負担がかかってしまうのだ。
――――ただ、親からはなにも不自然な目で見られる事は今は無いが。

「ほ、ほら!入んなさいよ!」

当瑠が考えているうちに美詠は布団の中にはいって当瑠を引っ張っている。

「え・・・・・・本気?」

「ただし!へんな事したら承知しないわよ!
マ、マァアンタニナラベツニナニサレテモ・・・・・・ア、デモチョットハヤスギカナ?」

「あのー、大丈夫ですかー?私めの意見は無視ですか?そうですか」

結局当瑠は美詠と同じ布団で寝ることになり暫く全く寝れない状況が
続いてしまったが、お互いがお互いを意識しすぎたため石の様に固まったまま夜明け来ることになる。

―――――未来からの訪問者によって動き出した物語は
                 終着点を迎えようとしていた――――――


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