とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part4

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陽が傾き始め、少なからずではあるが徐々に帰る人が増え始めた。
それでも、園内にはまだ多数の学生達がアトラクションに乗る為の列をなしていた。

打ち止め「今日は楽しかったー!二人とも、ありがとねってミサカはミサカは改めて感謝してみる」

上条「そっか、良かったな。じゃあ、そろそろ俺達も帰るか」

打ち止め「ダメー!まだ観覧車に乗ってないよ!ってミサカはミサカは制止してみたり」

上条「観覧車?……げ、あの長蛇の列に並ぶのか……」

打ち止め「あれに乗らなきゃ遊園地に来た意味がないよ、ね?お姉様ってミサカはミサカは同意を求めてみる」

美琴「え?え、ええ、そうね」

上条「……ま、ここまで来たんだし、最後まで付き合ってやりますか」

高さ120mもあるこの大観覧車からは学園都市の全景が大体見渡せるようになっている。
特にこの時間帯は、夕陽と学園都市のライトアップとが重なってとても幻想的に見えると言われていて、
恋人同士で来るには最高のスポットであるともっぱら評判である。その結果が、この長蛇の列なのだ。

上条「一周するのに20分か……。そりゃ、長時間待ちにもなるか……」

美琴「でも、だいぶ前の方に来てるからもう少しで乗れるんじゃない?」

打ち止め「……トイレに行きたい!ってミサカはミサカは大声で自己主張してみる!」

美琴「ばっ、バカ!アンタ何大声で言ってんのよ!大体、今からじゃ間に合わないわよ!?」

打ち止め「大丈夫、その時は二人で乗ってきてー、ってミサカはミサカは気を使ってみたり
      それじゃ、早めに戻るからーってミサカはミサカはトイレはどこかなーって探してみる」

美琴「ちょ、ちょっと!待ちなさいってば!!」

上条「……どうすんだ?そうこうしてる間に、もうすぐ乗る番なんですが」





打ち止め(わざとらしすぎたかな?ってミサカはミサカは「てへ☆」って言わんばかりに拳をコツンと頭に当ててみたり)

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

上条と美琴を乗せたゴンドラが、ゆっくりと動き始めた。打ち止めの姿はどこにも見えない。
つまりこの20分の間、この狭いゴンドラの中に、男と女が二人っきりという状況である。

上条「結局、打ち止めのやつ来なかったな。アイツが乗りたいって言い出したのに」

美琴(……ななな何なのこの状況!?あ、ありえない!!夢とかじゃ、ないわよね?
    っつーかあの子、最初っから「これ」が目的だったのね!あーもう!どうしたらいいのよ!)

上条「……あのー、御坂さん?何イライラして―」

美琴「うっさい!!」

上条「うわああ!?この狭くて地上から何mあるかも分からない密室の中で
    ビリビリするのはマジで死ぬからやめてー!!」

上条の嫌な予感は半分的中した。
美琴の放った電撃がゴンドラを伝って観覧車全体に行き渡り、その動きを止めてしまった。

上条「……ほら見ろ!言わんこっちゃない!」

美琴「うっさい!大体アンタが悪いんでしょうが!!」

上条「勝手にイライラしてキレたのはお前じゃねえか!何で俺のせいなんだよ!」

美琴「……う、うっさ―」

上条「わああ!?だから、ビリビリは止めろってのー!!」

美琴が頭からビリビリと電撃を放とうとするよりも先に、上条の右手が彼女の頭の上にポンと触れた。
電撃が再び観覧車に走る事はなかったが、何故か美琴までもが借りてきた猫のように大人しくなってしまった。

上条「……あ、あのー……御坂さん?い、一体、どうなさったんでせうか?」

御坂「……な、何でも……ないわよ……。……ね、ねえアンタ、頼みがあるんだけど」

上条「は、はいっ!?な何でございましょうか!!?」

御坂「……そ、その……わ、私がまたビリビリしないように、……その……あ、頭をずっと触っててくれるっ……?」

美琴の声は裏返っていて、緊張の色が強く表れていた。
それが何故なのかは上条にはよく分からなかったが、それを聞いた上条は小さく笑った。

上条「……わかったよ。ってか、このままじゃ触りにくいな。そっち、座ってもいいか?」

美琴「い、いいいわよ。た、ただ傾くから、ゆっくりね……」

上条「分かってるよ……しょっ、と。こ、これでいいか?」

上条は美琴の隣に座り、彼女の肩に腕を回して手で頭に触れた。
何の事情も知らない人が見れば、彼女の肩を抱く彼氏、という風にしか見えないだろう。

美琴(ちっ……近い……!!す、すごい、心臓が……ドキドキしてるっ……!)

上条「どうしたんだ?借りてきた猫みたいに大人しくなって。大丈夫か?」

美琴「ひゃっ、ひゃい!?らっ、らいひょうぶっ!!」

上条「……あ、あのー、これは仕方ないんでございますよ?狭いゴンドラの中じゃこうなるのは必然でして、
    上条さんには悪意とかやましい気持ちは一切ありませんでございますよ?」

美琴「そ、そう!仕方ない、仕方ない事なのよねっ、あはっ、あははは」

美琴は心ここにあらずといった感じで、無理に笑おうとして顔が引きつっている。
そして観覧車の復旧が終わったというアナウンスが流れ、ガクン、とゴンドラが動き出す。
しかし、急に動き出したために美琴はバランスを崩してしまい、上条の胸に寄り添うような格好になってしまった。

上条「お、おわっ!!?あ、あああの御坂さん!!?」

美琴「ひゃっ、ひゃい!!?ちっ、違う!違うのっ!!これは仕方なくてっ、そのっ」

上条「うわあっ!?み、御坂落ち着け!!暴れると危ね―うおっ!?」

美琴「ちっ、違うんだから……。そういうのじゃ、ないんだから……」

上条は気が動転して慌てふためく美琴を何とかなだめて、
結局また元の向かい合った状態で座っていた。その方がまだ安全だと判断したからだ。

上条「……ったく、事情が事情とは言え、暴れすぎだっての。また観覧車止める気か?」

美琴「しょ、しょうがないじゃない!!大体、あんな事があって平然としてられる方がどうかしてるわよ!!」

上条「わかった、わかったから!ほ、ほら御坂!!もうすぐ頂上だぞ」

美琴「……・わあ」

頂上から上条と美琴が見た景色は、まさに幻想そのものだった。
ちょうど陽が沈み始め、空が濃紺色へと変えていく中で、地上では色とりどりの光が輝いている。

美琴「……凄いわね。学園都市も、見る角度を変えたらこんなにも綺麗に見えるのね」

上条「そうだな。恋人達にとって絶好のスポットってのも、分かる気がするよ」

美琴「こっ……こい……!!?」

上条「ん、どうした御坂?この幻想的な景色に、圧倒でもされたのか?」

美琴「まっ、まあそんなもんよ!!あはっ、あははははっ」

上条「だよなあ、俺も学園都市に住んでてこんな綺麗な景色、初めて見たぜ」

消えゆく夕陽の残光が上条と美琴の乗るゴンドラ、そして中にいる二人を儚く照らす。
その光を浴びた上条の横顔は、美琴にとって普段見る上条よりも数倍輝いて見えた。

美琴(やっ、やばい……。わ、私今コイツの事「かっこいい」って思っちゃった……
    ああ……。や、やっぱり私、何だかんだ言ってもコイツの事が大好きなんだ……)

上条(この景色に圧倒されて、言葉も出ねえのか?
    それにしても、コイツもこう少女らしさをもっと見せていれば、十分に可愛いんだけどな)

ま、恥ずかしくて口には出さねえけど、と上条は更に付け加えた。
こうして二人だけの甘い時間は、ゴンドラに揺られながらゆっくりと過ぎていった。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

打ち止め「おかえりーってミサカはミサカは目をキラキラさせながら出迎えてみたり」

上条「本当に乗らなくて良かったのか?頂上からの景色、すっげー綺麗だったぜ?」

打ち止め「うん、ミサカは今すっごく楽しいからいいの!ってミサカはミサカはニヤニヤしてみる
      お姉様はどうだった?ってミサカはミサカは放心状態のお姉様に問いかけてみたり」

美琴「ふぇっ?あっ、ああ、綺麗だったわよ」

打ち止め「ふーん……?良かったね、ってミサカはミサカはニヤニヤが止まらなかったり」

上条「さて、そんじゃ今度こそ帰るか。ほら、御坂ー、行くぞー」

美琴「ふぁ、ふぁい!」

陽はもうほとんど沈み、濃紺の空には星がぽつぽつと輝き始めている。
園内にいた学生達も、順々に出口へと向かっていく。こうして、彼らの長い一日は終わった。

打ち止め「今日はとっても楽しかったよ、ありがとう、ってミサカはミサカは深々とおじきをしてみたり
      それじゃ、ミサカはそろそろ帰るねってミサカはミサカは大きく手を振ってみるーっ!」

上条「あ、おーい!送って行かなくていいのか?」

打ち止め「あの人が心配するから早く帰らなきゃ。それに……ってミサカはミサカは意味深な言葉を口にしてみたり」

上条「そっか。じゃあ、またなー!」

ばいばーい、と打ち止めは大きく手を振りながら走り去っていった。
彼女は、上条達の姿が見えなくなるまで振り向いて手を振り続けていた。

上条「……さて、そんじゃそろそろ俺達も帰るか」

美琴「そうね」

上条「今日はありがとな。俺だけじゃどうにもならない事もあったから、助かったよ」

美琴「いいのよ、乗りかかった船だもん。それに、あの子は―」

上条「お前の大事な妹、だもんな?」

上条と美琴は笑い合いながら夜の学園都市を歩いていく。
休日とは言え、学生達の活動時間を過ぎているため、町を歩く人の姿は疎らだった。

上条「……そういや、晩飯どうっすかなー?またスーパーで惣菜でも買って帰るか……?」

美琴「……そういや私も。今から帰っても、夕食の時間には間に合わないわね」

上条「……そうだ。なあ御坂、どっかで飯食ってかないか?その方が、手軽でいいだろ?」

美琴「ふぇっ!?べ、べ別にいいけど」

上条「んじゃ、決まりだな」

平日の学校の下校時刻は既に過ぎているので、最終のバスもだいぶ前に行ってしまった。
そのため、彼らは歩いて帰らなければならないのだが、美琴にとってはそれがとても幸せな事に感じた。





◆         ◇         ◆         ◇         ◆

上条と美琴は、彼らの暮らす第七学区内にある小洒落たレストランに入った。
しかし、ここは学園都市。当然ながら、客のほとんどが学生である。

美琴「いいレストランでしょ?お手頃な値段で料理も美味しくて、隠れた名店って言われてるのよ」

上条「お手頃な値段……ねぇ。上条さんには、どの辺がお手頃な値段なのかちっとも分からんのですが」

美琴「ま、まあ人によってはそう感じるかもしれないわね。でも、料理はほんとに美味しいんだから」

上条「ふーん。ま、とりあえず食べてみない事にはわかんねえしな。お、このスパゲティ美味そうだな!」

この後、上条はボンゴレビアンコ、美琴はシメジとエリンギの入ったクリームスパゲティ、
そして二人で食べる用にピッツァ・マルガリータとコーンスープを頼み、食後のデザートに美琴がチーズケーキを付け加えた。

上条「今日は楽しかったな。俺、遊園地行った事ないからさ。新鮮ですげえ良かったよ」

美琴「アンタ遊園地行った事ないの!?……あ、そう言えばアンタ、夏休み以前の記憶がないんだったわね」

上条「……記憶を失う前の「俺」は行った事あるのかもしれないけどな。でも、体験する事すべてが新鮮ってのもなかなかいいぜ?」

美琴「なかなかいいぜ、じゃないわよ。アンタ、そのままでいいの?そのままじゃ、色々と不便なんじゃない?」

上条「でもだいぶ皆の生活にも適応してきたしな……、不便って程でもねえよ。ま、記憶が戻るに越した事はねーけどな」

そのすぐ後、料理が次々と運ばれてきて上条の記憶についての話はそこで遮られた。
しかし、上条にとってはあまり触れられたくない話ではあるし、美琴もそんな上条を気遣ってか再びその話題が上がる事はなく、
主に今日の遊園地の話から彼らの学校の話、好きな漫画の話など、色々な話題に花を咲かせた。

上条「なかなか美味かったな。ただ、少し値が張るってのが痛いところだけど……」

美琴「美味しい料理にはそれくらいの対価が付きまとうもんよー」

上条「……さっき、「お手頃な値段」とか言ってたのはドコのドナタでしたっけねえ?」

美琴「あははっ、しーらない。さ、時間も遅くなってきたし、帰りましょ」

上条と美琴は、すっかり暗くなった学園都市を肩を並べて歩いていく。
先程のレストランでは話し足りなかったのか、再びレストランでの話の続きを始める。
しかし、ここは彼らの暮らす第七学区。楽しい話は、そう長くとは続かなかった。

美琴「じゃ、私はこっちだから」

上条「おう。今日は本当にありがとな」

美琴「別にいいって。私も今日一日楽しかったし」

上条「でも、好きだった絶叫マシンにはあんまり乗れなかっただろ?今度は二人で行こうぜ」

美琴「ふ、ふふ、ふぇっ!?ふふ……二人で!!?」

上条「打ち止めがいると、どうしても絶叫マシンには乗れないだろ?仕方ないけど……。
    そうだ、あの観覧車からの景色はもう一回見たいよなー。次行くときも乗ろうな」

美琴(こ……ここ、コイツと二人っきりで!!?こ……こここ、これってひょっとして、デートのお誘いってヤツ!!?)

上条「それじゃ、またな御坂」

美琴「う、うんっ、ま、またねっ」

美琴(アイツからデートのお誘いアイツからデートのお誘いアイツと二人っきりでデートアイツと二人っきりでデート)

美琴「……ふ、ふにゃあ~~」

美琴は完熟したトマトのように顔を赤らめ、思考能力が停止してしまったのか、しばらくその場に立ち尽くしていた。
そして寮に戻れば寮監からのきつーいお仕置きと「こんな遅くまで一体何をしていらしたんですのーっ!!?」と
黒子からの質問攻めにあい、夜の町にボーッと突っ立っていたせいもあって、次の日美琴は風邪で寝込む事になった。





おわり


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