とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part24

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集


―バレンタイン・もう一つの決着―


同日、常盤台女子寮前

「ははっ……ホント、馬鹿みたい…」

美琴はあの後走り続け、寮の前にまで来ると疲れたのか歩いていた。

「そうよね……あれだけ、雑な態度してたら嫌われるわよね…」

美琴はまだ先程のショックから抜けていない。
上条が自分を嫌っていたという事実には特に。
だが、嫌う理由は彼女には何故だか納得できてしまった。
会う度に電撃、罵倒を重ねていけば嫌われて当然。
彼女にはもう先の事はもう何も見えない。
唯一の支えであり、想い人である上条が自分を拒絶した。
たったこれだけでも彼女を壊すのには十分過ぎる。
ポケットには彼に贈るはずだったネックレスの袋。
思えば送らなくて正解だったかもしれない。
自分を嫌っている人にはあまりにこのネックレスは重すぎる。
彼女はまだ悲しみから抜けていないものの、ほんの少しだけ安堵した。
時間はもう門限をとっくに過ぎている時間であり、美琴はいつも門限破りをしたときと同じように寮の裏手にまわり、彼女の後輩の少女、白井黒子を呼ぶ。
電話をすると、すぐに黒子は美琴の前に現れた。

「……?お姉様…?何かありましたの?何やら顔色が悪そうに見えますの」

目の前に現れてすぐの彼女が見て何かあったとわかるほど、自分の顔はひどいらしい。
彼女は今日の自分の予定を知っている。
自分が今日誰と会い、そして何をするかということを。
そんな彼女に隠し事をするというのは無茶というもの。
それに今の自分の状態を見て騙すことなど、尚更不可能。
しかし無茶とわかっていても、今は彼女にも何も話したくなかった。
振られた、嫌われていたという事実を口にするのが、再認識するのが怖くて。

「……ごめん、今は何も言わないで」
「お姉様…?」

おかしい、黒子は思案する。
言うまでもなく、彼女は今日が何の日で、美琴が今日誰と会い何をしていたかは大体把握している。
そして昨日のこともあり、どういう決着になるかは大凡予測もできていた。
それが自分にとってどういう結末になるかさえも。
それなのにどうだろうか、今の美琴の姿は彼女の予想の遥か斜め上をいっている。
美琴が自らへまをする筈はない、それならば、

「……まさか、あの殿方が!?そうですの!?」
「……黒子、お願い黙って」
「なら、あの類人猿は今どこにいますの!?この私が再度正義の鉄槌を…」
「黒子!!」

突然美琴が大声をだしたせいか、彼女はピクッと肩を揺らし、黙った。
少しらしくないことをしたかもしれないが、たとえ彼女が相手でも今はとにかくそっとしておいてほしい。

「……とりあえず、部屋にいれて、お願い」
「え、えぇ…」

それだけ言うと、彼女は自分の肩に手を置き、能力を使用した。
一瞬視界が途切れた後、次に目に入った景色は見慣れた自分の部屋。
いつも寝起きをする自分の部屋。

「お姉様…」
「ありがとね、黒子」

心配そうな声で自分に話しかけてきた彼女には悪いが、反応は敢えてしなかった。
一つ礼を言うと、そのままベッドに倒れ込んだ。
本来ならベッドに横になる前に、今日かいた汗やついた汚れを落とすべきなのだろうが、今はそれさえもやる気にならない。
そっと横目で黒子の位置を確認すると、彼女はまだ入り口に立ったままこちらを見ていた。
ほっとけない、という表情をしているが、こればっかりは自分の問題であり、後輩の彼女に心配をかけるわけにはいかない。
今は彼女にそんな表情をさせている、泣きたい衝動に駆られている、ひどい顔をしているとにかく顔を隠したい。
そういう思いがあったので、その後もベッドに突っ伏したまま身動きは全くとらなかった。




2月15日16時、とある自販機前

「なんで、ここに来ちゃったんだろ…」

ここは昨日、彼に告白した場所であり、彼がよく現れる場所。
いつもは今日も会えるかなどの期待を抱いて、彼が来るのを待っていた。
今だって彼を待つことはできる。
しかし、待ってどうする。
もし仮に、待って、彼が来たとしても、彼は自分に対して良い感情を抱いていない。
会っても、彼の気分を害するだけではないのだろうか。
そもそも今まで彼の気を引くために会っていたのだから、振られた今ではもう何も意味をなさない。
それなのに、今までの日課だったからか、体は意図せずにここに向かっていた。

「……我ながら、未練がましいわね」

彼への感情は初めての恋であり、昨日経験したのは初めての失恋。
だから振られた後のこの喪失感、なんとも言えない感情を経験するのも初めて。
振られたら切り替えられるかとも思ったが、実際はそんなわけがなかった。
想いはなくなるどころか、尚も積もり、増すばかり。
しかし彼が自分を受け入れてくれなかった以上、一体この感情はどこに向ければいいのか、わからない。

「アイツが来る前に、ここを離れないと…」

同時に、今は彼になんて顔をして会えばいいのかもわからない。
もう前みたいに何かと難癖をつけては電撃を浴びせたり、追いかけまわしていた関係には戻れない。
自分にとってのとっかかりのツールもなく、彼の気持ちを知ってしまった以上、そう易々とは顔を出せない。
帰るため、その場所を後にするために、一度振り返る。

「……あ」
「あ…」

振り返った先には人が一人立っていた。
それは今だけは一番会いたくはなかった相手。
そして本能的な面では、会いたくもあった相手。

「えっと、その、なんだ…」

彼は何かを話そうと口を開くが、話し辛そうに視線あちらこちらに散らせる。
以前はしっかりと目をしっかりと見てくれていたはずなのに。
以前ではあまり見かけなかったその態度が、今の自分の懸念点を証明しているように思えた。
今や自信もへったくれもない自分。
次第に自分も彼に目を合わせ辛くなり、視線を地面へと落とし、

「ごめん、私なんか見たくもないし会いたくもないよね…」
「御坂…?」
「じゃあもう行くから、じゃあね」
「あ、ちょ!御坂!!」

すっと彼に背を向け、そのままこの場所を走り去る。
いいのだ、元々ここをこの場所から移動するつもりだったから。
この場所に未練がないかと聞かれれば、もちろんそんなわけがない。
むしろここは自分の未練の塊。
今なら彼が来なければあの場所でずっと感傷に浸っていたたかもしれない。
しかし、彼はここに来て、彼は居辛そうにする。
それならば、離れてしまった方が彼のため。
振られたとは言え、これ以上彼の自分に対する評価を下げたくない。
背後から彼の自分を制止を求める声がかけられたが、止まらない、振り返らない。
振り返ったところで、今の自分には何もできないから。
もしかしたら追いかけてきてくれるかもしれないと、淡い希望を抱き、しばらく走った後に立ち止まり、特に何の障害物もない歩行者用の道路で振り向いた。

―――しかし、振り返った先に彼の姿はどこにも見当たらなかった。

「は、ははは…」

当然と言えば当然。
彼の自分に対する気持ちを考えれば、なんら不思議なところもない、当たり前なこと。
何となく、乾いた笑いをこぼしたが、それはあまり人気のないこの場所で、哀しく響いただけに終わった。

「……こんな、こんなことになるんだったら」

告白なんか、するんじゃなかった。
それまでは伝えられない苦しみや、思い通りにならなくて辛い時もあったが、それはまだ耐えられた。
何よりも、彼が自分が好いているかもしれないという希望があったから。
そして何も知らない自分は普通の態度で接することもできた。
しかし今は希望もなく、普通に接することさえもできない。
流石に、これには耐えられない。

「これから、どうしよう……私、どうしたら…?」

目の前に広がる世界が少し滲んだ。
その呟きは、今にも消えいってしまいそうな強さ。
周りに今のところ人気はなく、世界中で独りになったような気分に襲われる。
いや、もう完全にこれからは独り。
もう対等に見てくれるような存在は誰一人いなくなったのだから。
今更彼に会う前の時のような生活には戻れない。
かと言って、つい最近の時のようにも戻れない。
何もかもが初めてのことばかりで、完全にこれからの方向性を見失っていた。


同日16時、とある自販機前

上条は走り去る彼女の背を昨日と同じく追うわけでもなく、見えなくなるまで見届けた。
走り去る前に彼女にかけた声は他でもなく、彼女を制止するためのもの。
しかし彼女は振り返らず、そのまま走り去った。
元々彼は話がしたくて制止を求めたのだから、本当なら止まらないのであれば追いかけてもよかった。
けれども実際はそうはせず、走り去る彼女の背をただただ呆然と見送っただけ。

(なんで、なんでだよ…!)

どうしてもっと強く制止を求めなかった、すぐにでも彼女を追いかけなかったと自分を叱咤し、歯を食いしばって力任せに握り拳をつくった。
今更、実は好きだから昨日のことは忘れて付き合おう、などというおごかましい真似をするために話がしたいわけではない。
昨日のこと、彼女を無闇に傷つけてしまったことを謝るためだ。
あれだけ酷いことを言ってしまった理由と共に。
かと言って、謝るにしても、本当の気持ちを伝えるつもりはない。
どれだけ謝っても、彼女を傷つけたことに変わりはなく、さらにこれ以上彼女を不幸にはしたくはないから。
彼女が好きで、彼女の幸せを願っているからこそ、彼女とは付き合えない。

(でも…あいつの表情、暗かった…)

去り際に見た彼女の表情は暗く、夏休みのあの時を彷彿させるかのような絶望をも覗かせた表情をしていた。
そして疑問に思い、迷う。
本当に彼女にとって、自分と一緒にならないことが幸せで、不幸ではないことなのかと。
昨日はまだそう思えていた。
しかし今は、彼女のあの表情を見た後では些か疑問でしかない。
彼女にあのような表情をさせたくないがための行動だったはずなのに、結果的にはあの表情をさせてしまっている。

「クソ!俺は、俺はどうすればいいんだよ…!」

彼女にとっての幸せとは、不幸でないこととは。
それを踏まえた上で自分がとるべき行動とは。
その答えがでず、より一層拳の力を強くする。
誰に言うでもない自分への怒りの言葉を、虚空へと投げつけて。

「簡単ではありませんの、今すぐお姉様を追いかければよろしいではありませんか」
「……?」

不意に背後からどこかで聞いたことのあるような、上品なお嬢様口調の少女の声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは一昨日、自分に対して何やらよくわからない質問をした後、勝負を挑んできた赤毛のツインテールの少女、白井黒子が立っていた。

「昨日お姉様の様子が明らかにおかしかったので後をつけてみれば、やはりあなたが原因でしたのね」
「お前…」
「いつもならお姉様がすぐに気付いて失敗する尾行にも気付かないのはおろか、終始私の存在にも気付かないとは……さぞ相当な精神的に深い傷でも受けているのでしょうね?」

聞いたことがある、美琴は自分の能力の性質上常にAIM拡散力場として電磁波を発していると。
そしてその電磁波の反射を利用して、死角でも何かがあるのがわかると。
その彼女が気づかなかった。
単に知っていたが敢えて無視していたという可能性も無きにしもあらずだが、彼女の性格を考えればそれは考えにくい。
目の前の白井黒子が言うように、彼女ならきっとすぐに突っ込むはず。
これらが示す意味。
超能力者として確たる自分だけの現実をもち、能力の制御も感情のコントロールも完璧なはずの彼女。
恐らくそれができない、もしくは気付かないほどまでに精神がぶれているということ。

「あなたがお姉様にしたことはお姉様の反応をみれば大方察しがつきますの。ですので昨日あなたが何をしたかなんてことを敢えて聞くつもりはませんわ。……ですけどこれだけは言わせてもらいます」

そこで彼女は一度言葉を切り、

「あなた、今のお姉様を見て本当に『御坂美琴とその周りの世界を守る』ということを守れていると思っていますの?」
「!!」

彼女の言葉は耳が痛かった。
それは先ほどまで自分に迷いを与えていたもの。
同時に疑問に思っていたこと。

「あなたの不幸話なんて私は興味はありませんわ、聞きたくもありませんの。ですが、あなたの思慮の欠けた行動でお姉様を不幸にするのなら話は別ですの。あなたがお姉様を気にかけて、お姉様があなたに好意を向けているのなら、それに応えれば良い話ではありませんの?」

そんな簡単な話ではない。
昨日ならまだそう言えたかもしれない、
だが昨日と今では状況が天と地ほど違う。
自分の起こした行動で彼女があんな顔をするとは、それほど精神を乱すとは思っていなかったから。

「本気で、あなたの今の行動で本気でお姉様を幸せにしているとお思いですの?……もしそうなら、あなたはとんだ私の見込み違いですの」

彼女の自分の目の奥、心の内を見透かしているかのよう思えた。
それほどまでに、彼女の話は自分の心の核心をついている。
それでもまだ、迷う。
確かに今の行動で美琴が幸せになるとは思えない。

しかし、かと言って自分が彼女の気持ちに応えたからといって、それで彼女が幸せになるとも限らない。
だから迷う、自分はこの先どう行動すべきか、どう振る舞うべきかと。
その未だに消えない迷いが、自分の顔を歪ませる。

「……まだふんぎりがつかないようなので、最後に一つだけ言わせてもらいますの」
「………」
「お姉様は例え目の前に"不幸"や困難という高く険しい壁があっても、それで簡単にへこたれ、越えるのをやめるほど脆弱な方ではありませんわ。ですが、人間誰しも越えたその先に"光"を見いだせなければ話は別ですの。そしてあなたはお姉様の"支え"、私から言えるのはこれだけですの」

目の前にいた彼女はそれだけ言い残し、彼女が立っていた場所から突如として姿を消した。
そこは今、先ほどまで人がいて、話していたのがまるで嘘のように静まり返っている。

「不幸…光……そして、俺が支え…」

そんな中、上条は未だその空間に取り残されている。
今頭の中に浮かぶのは複数のワード。
白井黒子が言っていたことは言い方が遠回しのようで案外直接的。
自ら頭が弱いと自分している上条でも、彼女の言いたかったことの真意はなんとなくだが理解できた。
彼女が言うように、美琴は確かに強い。

それは決して超能力者だからなどというものではなく、精神的にも強い。
多少の困難など、一人ではねのけてしまえるほどに。
それは結果として、彼女が超能力者の地位にいること自体が証明している。
けれどもそれは、はねのけた先に何らかの希望がある場合。
はねのけてもはねのけても希望が見えない時、その強さを以てしても超えられない時は必ずある。
それを代表するものが、絶対能力者進化実験の時の彼女。
今回にしても、状況は著しく違うけれど、似通っている部分もある。
恐らく黒子が言いたい越えられる壁とは上条の不幸を指し、越えられない壁とは上条の拒絶を指す。
確かに不幸が舞い降りても、それは上条が隣にいるということで耐えられるかもしれない。
しかし支えである上条からの拒絶はどうしようもない。
支えがなくなれば、その支えられていたものは倒れてしまうのが世の中の道理。

「俺の馬鹿やろうが…!!」

上条はその場を離れ、美琴がその背中を消していった方へと真っ直ぐ走り出す。
とは言ってもどこに彼女がいるかまでは流石に知らない。
それでも今は走るしかないと彼は思ったから。
ただがむしゃらに彼女を探して行けば、会えるような気がしたから。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー