とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part23-2

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匿名ユーザー

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―制約と誓約―


4月8日3時頃

「ったく、本当に幸せそうな顔して寝やがってまぁ」

時刻は午前三時をまわったところ。
月は一番高く昇る時間は過ぎ、徐々にその高度を下げていた。
それでもやはりまだ辺りは暗く、依然として今や静寂に包まれている学習都市を煌々と照らし続けている。
上条の部屋もその光の恩恵を受けている場所の一つ。
深夜だというのに、窓に面しているところはまだ嘘のように明るい。
それは窓際に面していて、二人が横になっているベッドも例外ではない。
今上条の腕の中では、美琴がスヤスヤと静かに寝息をたてて眠っている。
その寝顔は何かをやり遂げた時のような満足感と、最愛の人に包まれているという幸福感で満たされている。

「果たして俺は今夜は寝れるのでしょうか…」

身体は疲れているはず。
夕飯の後の睡眠にしても、まだ寝足りないと体が主張していた。
その他にも色んな要因も重なって、体は睡眠を欲しているはずだった。
実際、寝付け自体はよかった。
寝ようと思った数分後には意識は落ちていたという自覚もある。
だがその寝付いた時間から数時間しか経っていないにもかかわらず、上条は目が覚めた。
再び寝ようとは思っても、何故だか完全に目が覚めていて寝れる気がしない。
恐らく夕飯後に二時間程寝てしまったのが原因だろう。
対して美琴はの方は、ぐっすりと眠っていて起きる気配は全くしない。

「……コイツも、色んなもんがたまってたのかな」

それは心労や単純な疲労、緊張の糸が解けたことによるどっとくる疲労感、そして今までずっと一人だったことによるストレス。
思えば夕飯後、それも自分が起きてからは彼女は終始甘えっぱなしだった。
くっついてきたり、抱きついてきたり、キスしてきたり、猫化したり、そして…。
色々と、たまっていたのだろう。
聞けば今日は高校の入学式で入学生代表をも務めたらしい。
それなのに今日は、それ以外にも様々なことが起きて、起きている時はあんなに元気に振る舞って、彼女も自分も大差ないではないかと思う。

「寝始めがそんなに深い眠りなわけがねぇだろうが」

美琴の自分の額と頬への二度のキス、彼女が自分に対して口にしたこと、眠気で意識は朦朧としていて反応することは本当にできなかったが、そういうことがあったのは知っている。

「まぁ、こいつもそういうお年頃ってか?」

恐らく甘えたい年頃を誰かにほとんど甘えることなく育ってた結果だろうか。
つくづく世間体、周りの目、超能力者の地位というのは面倒なものだと思う。
人とっては誰しも有り得る行動さえをも潰してしまう。
それが全くなかったとするとそれはそれでまた問題ではあるが、それはある程度の以上は人をも殺しかねない。
今腕の中で小さくしている少女は本当にとんでもない少女。
低能力者から超能力者に成り上がった努力はさることながら、14歳という歳でそれだけの重みに耐えてきた。
とにかくそれが原因なのか、それとも根っからの性格なのかはわからないものの、その時を取り返すかのように、彼女は甘えられるとわかればとことん甘えてくる。

「まぁ、それ自体は別にいいんですけどね」

甘える、という行為は人間の性質上誰もが経験するであろうもの。
それに本当に極一部の者達にしか素を出して接することができない、そんな彼女にとっての甘えは、彼女の自分に対する信頼を意味する。
信頼、もしくは愛情があるからこそ、彼女は甘え、素の自分をだそうとしてくる。
だからそれ自体は全く構わないどころか、むしろ光栄にすら思えてくる。

「とぅ…ま…」
「……なんですかい?お姫様?」

彼女の呼び声が寝言とわかっていながら返事をする。
そして、顔を自分の胸にすり寄せてくる彼女の頭に手を乗せ、サラサラとした良い香りのする髪を優しく撫でてみた。

「……そこ、はダメ…だってば……ふにゅ…」
「…………」

これを聞くと夢の中で自分と一体どんなことをしているのかと気になって仕方ない。
夢の中の自分は暴走しているのではと、心配にすらなってくる。

(いや、すでに暴走しちまったか…)

幸せそうな顔で眠る彼女に、少しだけ苦笑い。
せめて夢ではもっと紳士的な付き合いをしてほしい。

(でも、正直こいつと運命共同体みたいになるまでの仲になるとは思ってもみなかったな…)

出会った当初の彼女の印象は短気、生意気、ビリビリ。
今はその時の面影はほとんどない。
今はとにかく容姿も性格も可愛くて、優しく真面目。
一体どこでどんな化学反応を起こせばこうなるのか。
不思議で仕方ないが、やはり別に嫌ではない。
昔はどうであれ、今は彼女が好きなことには変わりない。
いざ抱きしめるとそれだけで壊れてしまいそうな、意外と華奢な少女のことを、心のそこから大切で、愛してることには。


4月8日6時頃

「うー……ん?」

窓から差し込む日差しが眩しく感じられ、目を覚ました。
今回みた夢は大好きな彼と、人には絶対に言えないし見せられない程のことをしていた夢。
だが目が覚めてしまうと、そんな夢の中の彼はいなくなる。
また彼がいない日常へと逆戻り。
だから彼との夢をみた時は、起きるのがつらい。
まだまだ彼と接して、会っていたいから。
だが現実はそれを許すはずもない。
起きないと学校に遅刻してしまうし、高校生活二日目から遅刻なんてカッコ悪すぎる。
仕方ないのでまだ意識ははっきりとしない中、とりあえず時間を確かめようと、枕元に置いてあるはずのカエルをモチーフにされた携帯へと手を伸ばす。

(……あれ?ない…?なんでだろ、いつもここに…)

しかし手で枕元をどれだけ探っても、携帯と思しき感触には出会えない。
その携帯の無機質な感触の変わりに、少しツンツンしたものばかりに腕があたる。

(何、これ…?)

少しずつ意識が戻ってきて、神経が回復していくと、なにやら自分があたたかいものに包まれているということもわかった。
それは布団などのあたたかさとはまた違い、何故だか自然と安心感が溢れ、布団よりもさらに心地良い。
その存在がなんなのか気になって、まだまだ重たい瞼をゆっくりと開いていく。

「………!!」

それが何なのかをはっきり視認すると、意識は完全に覚醒の方向へと向かう。
半開きの瞼は見開き、意識もはっきりしてきた。

(な、な、な…!……って、あぁそっか、昨日帰って私がコイツの家に泊まったんだっけ…)

意識がはっきりとしてきてようやく、今更ながら昨日の出来事、そして自分が今おかれている状況を思い出す。
目の前の、今自分を包んでくれている人は紛れもなく上条当麻その人。
彼が今自分の目の前にいるが、これは夢ではない。
何故なら昨日、彼はやっと長い長い旅路から帰ってきたのだから。
それを思い出すと、嬉しくなって今はぐっすりと眠っている彼に思い切って抱きつく。
これが夢ではなく現実であること、改めて再認識するために。
その感触とあたたかさを確認すると、やはりこれは夢ではないことを再認識する。
疲れているであろう彼の睡眠はあまり邪魔したくないので力はほどほどにして、時間も比較的短く済ます。
こんな言い方は響きが自分が変態っぽくて好きではないが、こういうのを充電完了、とでも言うのだろうか。

(となると、時計は……あったあった…6時かぁ…)

彼の部屋の内部事情は掃除でほとんど全て把握している。
どこに何があり、何が置いてあるか、今なら家主の彼よりも詳しいかもしれない。
そのため、時計の発見は意識が戻った今ならそんなに遅くはならなかった。

(この辺から高校までは確かそんなにかからないんだっけ…)

ここは一応高校の学生寮のため、高校へはさほどの時間はかからない。
そして大体8時半くらいまでに登校すれば遅刻にはならないので、時間的にはまだまだ余裕があり、あと一時間ほど寝ても大丈夫なほど。
しかし、二度寝する気分にはあまりなれなかった。
今目の前に彼がいて、抱きしめてくれているのに寝て過ごすのはもったいない。

(もう少し、このままでようかな…)

そうしようかと心が傾きかけたとき、不意に自分のお腹からぐぅと音がなった。

(……そういえば、昨日の夜はコイツとの話と食べっぷりを見てたから、あまり食べてなかったんだっけ…)

一応昨日の料理も少しは残ってはいるものの、それだけで朝食をしのぐには些か心許ない。
材料なら朝食くらいならなんとかなる程度でなら余っている。
そして昨日は前もって米を炊いておいたなどの前準備もしていない。
ならば、自分がこの後とるべき行動は一つしかない。

(ご飯、作ろっかな…)

彼から離れるのは少し寂しい気もするが、それは仕方ない。
未だに寝ている彼を起こさないよう慎重に自分を包んでいる腕をはがし、彼の抱擁から解かれる。
なんとかベッドから這い出ると、乱れた着衣を正し、少し背伸びをする。
恐らく寝ている間はずっと彼の腕の中で縮こまっていたのだろうか、背伸びをすると身体の節々からポキッコキッと関節がなった。

(さてと、とりあえず朝食作り頑張ろうかな…)

今日も学校があるので、時間にかなりのゆとりがあると言っても服もこのままで行くわけにはいかない。
一度帰って、その後、制服はここにあるのでとりあえず下着類を着替える必要がある。
だからそこまでゆっくりしていては、たとえ万が一の確率でも時間がなくなる可能性はある。
彼が起きて来る前に朝食の支度をし、近くにある女子寮へと行って着替えをする。
これが今自分に課しているとりあえずのノルマ。
窓の外の景色を見る限り、今日は雲一つない晴天。
まだ高度が低い太陽は、その空を鮮やかなオレンジ色で焦がす。
夕焼け空もきれいだが、朝焼けもなかなかに馬鹿にはできない。
朝でも強い光を放つ太陽から少しだけ元気と気力をもらい、朝食の支度をするために台所へと向かった。


同日7時半

「――て、――さよ、――さい」

なんとなく、声が聞こえた。
意識がイマイチはっきりしないせいか、ところどころの単語が上手く聞き取れない。

「―――起きて、――朝よ!」

今度は始めよりは聞き取れた。
どうやらこの声の主は自分に対して起きろと言っているらしい。
本気で起こしにかかっているのか、自分の体を揺すって覚醒を促してきた。
それだけのことをしてきたので、眠気で全く冴えていない頭でも、それはなんとか理解できた。
しかし、体はまだまだ寝たりないと訴えている。
瞼も重く、身体も思うように動かない。

「…………」

先ほどの声の主が諦めたのか、声は何も聞こえなくなった。
これでまたゆったりと眠りにつけ…

「…………!?っっぎゃあああああああ!!!???」

突然、身体をまるで高電流が流れたかのような激痛が、下腹部を中心にして身体中を駆け巡る。
あまりの激痛で、眠りにつくことはもちろんできず、体はほぼ条件反射的に跳ね起きた。

「あ、起きた?」
「!?お、お、おまっ…お前か!!」

飛び起きたら、ベッドの脇に美琴が立っていた。
どうやら、先ほどの痛みは電流のようなではなく本物の電流だったらしい。
彼女は何食わぬ顔で、微量の電気を頭から放出している。

「アンタがすぐ起きないのが悪いんでしょ?私が何回も何回も声かけてんのに起きないんだもん」
「だからと言ってビリビリはどうなんだよ!死ぬかと思ったわ!!」
「死なない程度で精一杯力加減はしてるから大丈夫よ」
「そういう問題じゃないような気がするんですが!?」

確かに目は一瞬で覚め、意識も完全もどっている。
けれども寝覚めすっきりかと言われれば、そうでもない。
電気を流された部分は神経が麻痺しているのか、あまり感覚はないし、何よりも覚醒の決め手はあの激痛。
それで寝覚めがいいはずがない。
すぐに起きなかったのは悪いと思うが、それでもどうせならもうちょっと粘って優しく起こしてほしかった。

「はぃはぃ、もうこの話題はいいから、さっさと顔洗ってきて、ご飯食べちゃいましょ」
「……なんか附にオチねぇ」

もしまた同じような状況があったとすれば、きっと彼女は同じことを繰り返すのだろう。
たとえダメ元でも、『次は優しくキスで起こしてくれよ☆』とでも頼んでみようか。

(……いや、それは俺もアイツも…特に俺がダメだろ)

恥ずかしがる彼女の反応は見たいような気もするが、それ以上に自分が失うものの方が明らかにでかい。
上条当麻という人間の、大事な何かを失ってしまうようで…


同日8時前

上条は顔を洗い、美琴と二人で朝食をとり、約一年ぶりとなる上条の通う高校の制服の学ランを身にまとう。
美琴は上条を起こす前には既に一度自分の寮へと立ち寄っており、セーラー服を着ていた。
二人の準備は整い、いつでも学校に行ける態勢であった。

「……あのさ、昨日からずっと気になってたんだけどよ」
「……?何?」
「お前が着てるその制服、やっぱりうちの高校の制服だよな?」

それは美琴にとっては本当に今更な質問で、昨日からずっと聞いてくるときを待ち遠しにしていた質問。
そもそもこの高校を選んだ理由の中の一つに上条を驚かせたいというものがあったのに、大した驚いているような素振りも見せず、質問もしてこないのは少し不満だった。

「……今になってやっとそこに突っ込むのはちょっと遅すぎる気がするんだけど?」
「いやー、どこかで見たことあるなとは思ってたんだけどさ、やっぱり時間が経ちすぎてるからイマイチ自信が持てなくて…」
「まぁそれはもういい。……で?どう思った?」

素振りも見せず、何も感想を言ってくれないのなら、いっそ自分から聞いてみる。

「制服なら似合ってると思うぞ?常盤台の制服もよかったけど、こっちもなかなか…」
「そ、そう…?」
「にしても、なんでうちの高校なんだ?お前ならうちみたいな平均以下のとこよりもっと上のとこもいけただろ?」

これは常盤台の先生達にも嫌と言うほど聞かれた質問。
彼ら達にはなんでかは適当にごまかし、本当の理由は言わなかったが、彼ならば言わなくてもわかるはず。
いや、わかってほしい。
こんな質問の答えなど、自分と彼の関係を考えればすぐにできそうなものだから。

「……察してよ」
「察しろって言われてもなぁ…」

しかしそこがわからないのが彼が鈍感大魔王たる所以。
どうでもいいこと、気づかなくてもいいことには敏感で、すぐに気づくクセに、こういったことにはまるでダメ。
彼に繊細な乙女心を理解しろと要求するのが最早無理難題であることはわかっていても、やはり少しはわかってほしいという気持ちは捨てきれない。

「……わからん」
「はぁ…」

いつにもまして大きくついたため息。
こんなのは赤の他人でもわかりそうなものなのに。

「答えは?」
「自分で考えろ!」
「美琴さんは上条の頭がよろしくないのはご存知でしょ?考えてもでないから困ってるんじゃないですか」

だからと言って、こういうことに限らず、勉強にしても何にしても、わからないからといって何でもかんでもすぐに答えを教えるのはよくない。
この際彼には精一杯悩んでもらって、少しでも乙女心を理解してもらう。
答えを要求する彼に対して完全無視の態勢をとり、教える気はないとアピールする。

「考えろって言われてもなぁ……ぅーん……って、あ」
「!!……わ、わかった?」

上条は急になにやら思いついたという声をあげた。
希望と期待に満ちた目で彼を見つめて見るが、やはりそれは簡単に裏切られる。
それは質問の答えを思いついたのかと思いきや、どうやら違うらしい。
自分に対して話しかけるでもなく、家の電話の元へ行き、ガサガサと束ねてある紙をあさる。
どうやら誰かに電話をかけたいらしい。
一つ、数字が書かれた紙をとり、それを家の電話へ入力していく。

(私を放っておいて一体誰にかけるってのよ…もぉ…)

そんな自分の微妙な心を彼はやはり気づくわけもなく、上条は受話器を耳にあて相手の応答を待っている。

「……あ、小萌先生ですか?実は今日から学校いけるんですけど、俺はどのクラスに…」

上条が電話をかけた相手が応答したらしく、彼はその電話の相手へと話し始める。
そんな中、冒頭で聞こえた気になるワードが一つ。
彼は相手に対して小萌先生ですか、と言った。
名前の後に先生とつけていることから、相手は高校の先生なのだろう。
それだけなら全く問題ないはないし気にもしないのだが、問題はその先生の名前。
小萌先生と言えば、外見はとてもじゃないが大人には見えず、小学生のような容姿ので、今まで見た中でもトップクラスのとんでも先生。
そして、自分のクラスの担任の先生。
何故彼がそのような先生に電話をするのかが疑問。

「ええええぇぇぇ!!!???」

急に彼が悲鳴にも似た奇声をあげる。
あまりに突然に大声を出してきたので、思わず肩がピクッと揺れた。

「そ、そんな…まさか、嘘ですよね?いや嘘と嘘だと言ってくださいお願いします先生!!」

さっきまでは平然と電話で会話をしていた彼が急に取り乱している。
電話の向こうで何やら動きがあったらしい。
電話の相手には見えないのに、壁に対して何度も何度もものすごい勢いで頭を下げて彼は何かを頼み込んでいる。
会話は最初以降はあまり注意して聞いていなかったので、何を頼み込んでいるのかまではわからない。
しかし彼の顔が真っ青で、壁に対して土下座さえもしてしまいそうな勢いをみると、ただ事ではないように思える。

「………は…は、ははは…」
「い、一体どうしたのよ…」

彼は話を終えたようで、受話器を置いた。
受話器を置いた後の背中からでも呆然とした表情をしているだろうというのが推測できる雰囲気、そしてとても乾いた笑い。
察するに、どうやら必死の頼み事も実らなかったらしい。

「…………からだって」
「……え?なんて?全然聞こえないんだけど」

彼は振り返らず、壁に対して何かを呟いた。
正面を向いていない上、彼の声量も小さいため何を言ったのかはまるでわからない。
ただ、何かに打ちひしがれているのは理解できる。
彼は振り返り、のそのそと自分に向かってゆっくり歩いてきた。
案の定、彼の表情は暗く、呆然としていた。

「……また、一年からだって」
「……は?」
「この一年間出席無し、一年の時の成績、出席日数、その他諸々!!これなら一年からやり直した方が俺のためだってよ!!」
「………………ぷっ」

彼の言葉を聞いた直後、体の内からとても強い笑いの衝動に襲われ、お腹を抱えて大声で笑ってしまった。
彼の心情を考えれば、笑ってはいけないことはわかっている。
しかし、これを聞いて笑わずにはいられなかった。
彼の陰鬱な表情、彼が言っていることの内容、その理由。
何をそんなに必死で頼み込んでいるのかと心配していたら、事実はそんなこと。
全てがおかしかった。

「わ、笑うなよ!!俺にとってはかなり重大かつ深刻な問題なんだぞ!?」
「だ、だって…くくっ…これは…ムリ…!……あははは!!」
「クッソー!俺だって、俺だって今は本当に泣きたい気分なんだぞ!?」

今では必死に馬鹿にしたような笑いをする自分を止める彼も何故だか面白い。
これは今日の学校でも思い出し笑いをしてしまうかもしれない。
もしそうなれば、クラス中の人達に変な目で見られること必然。
せめて学校にいる間はこらえなければならない。
それでも、堪えきる自信があるかと聞かれれば、答えは否。

「……あ」
「な、なんだよ。これ以上上条さんを蔑むのは酷じゃないか!?」
「いや、そうじゃなくて…」

学校、クラス、クラスの人達、それらのワードを脳裏に浮かべた時、同時にあることを思い出した。
それは昨日絶対に有り得ないと考え、事実そうであったこと。
だが今の彼の話、彼はまた高校一年からということを考慮すれば、あながち有り得ないことでもない。

「……そういえば、私のクラスに"上条当麻"っていう字も全く一緒で同姓同名の人がいるんだけど、それってもしかして…」
「はぁ!?……いやちょっと待て、もしかして、お前のクラスの担任は小萌先生か?」
「えぇそうよ、あの小学生にしか見えない先生」
「……始めから、決まってたのかよ…」

彼はうなだれ、今にも床に手と膝をつけてしまいそうなポーズをとる。
ネタのように見えても、彼はいたって真剣。
ここは笑ってはいけない。

「……や、やっぱり、そうなの?それって、アンタのことなんだ?」
「……さっき小萌先生が『また私が上条ちゃんの担任をするので大丈夫ですよー』とか言ってたから、多分…」

彼はやはり悲しそうに、そう呟いた。
彼は沈んでいて、本当に心の底から自分の不幸を嘆いたといった感じだった。
それでも、彼には悪いが自分は全くそうは思わなかった。
彼と同じ学校、同じ学年、同じクラスにいることができる。
自分にとっては本当にこれ以上ないくらいの幸運かもしれない。
学校にいるときでも、彼のそばにいることができるから。
一緒に登下校したり、クラスや学校のことなどの同じ話題を共有したり、一緒に昼食を食べたり。
歳の差を考えれば絶対に無理だとわかっていながらも、憧れていたことが全て実現することができるから。

「ま、この美琴センセーも一緒のクラスなんだからそこまで落ち込むこともないでしょ?」
「落ち込まずにいられるか!二年からならまだしも、一年からだぞ!?……あぁ、今の三年の奴らに、特に青ピに、土御門に、なんて言われるか……不幸だ…」
「そんな不幸も私がいるんだから万事解決!さぁ元気だして今日も学校頑張りましょー!」

とてもそんな気分じゃないと言いたげな表情で見てくる彼。
そんな落ち込む彼の背中をポンと軽く叩いた。
いつまでも立ち止まらず、ちゃんと前を見て進んでいけるように。
流石にすぐに立ち直れとは言えないが、それでも早く立ち直れるように支援はしたい。
これからは、一緒にいられるから。

「ほら、カバン持って!」
「なんで落ち込んでる上条さんを見たらそんな元気いっぱいになるんだぁ?そんなに俺が苦しむ様を見るのが楽しいのか?」

苦しむ彼の姿を見るのが楽しいかと聞かれれば、もちろんそんなわけがない。
だが、それは何に対して苦しんでいるか、何に対して落ち込んでいるのかにもよって変わる。
だから今は、

「うん!」
「鬼か!」

栄えある高校生活、新学期が昨日始まって今日で二日目。
昨日は明るい希望や未来、楽しい高校生活なんか全く想像できなかった。
彼がいなくて、精神的にもかなり追い込まれていたから。
けれども今は違う。
今は逆に暗い高校生活や未来なんか全く見えない。
目の前には暗い自分の恋人がいるが、明るい光景が広がっているようにしか見えない。

「そんなちんたらしてると、遅刻するわよ?」
「……学校、行きたくない」
「そんなわがまま言わないの!」
「あぁ…」

嫌がる彼に彼のカバンを持たせ、自発的に動こうとしないその背中を押す。
重たい背中を押してゆき、行き着く先は出入り口のドア。
彼の前に先回りをしてドアを開け放つと、広がっているのは雲一つない、とても透き通った蒼空。
まるで今の自分の心情を体現しているように思えた。

「ん~~ッ!」

その蒼空に向かって、思わず思いっきり背伸びした。
彼とこんな清々しい朝を迎えれて、とても気持ちよかったから。
こんなに明るい気持ちで学校にいくのは、久々だったから。
これからのことに想いを馳せて、希望に満ちていたから。

「……じゃ、行こっか」
「嫌だー!」

振り返って、依然として登校を拒否する彼の手を握りしめ、能力で以て少し黙らせると、前へと突き進む。
そもそも今彼には、自分がすることに対してことごとく拒否権はないのだ。
彼の反論を聞いてやるいわれはない。
彼を引っ張り出すのは苦労するが、部屋の外へとなんとか出す。
誰もいなくなった部屋のドアの鍵を能力を使って閉じ、改めて振り向くと、広がるのは部屋の中とはまた違った世界。
今から進む先は自分たちが通う高校へ。
これから向かう先は明るい将来へ。
もちろん、高校でも、その明るい将来でも彼と一緒。

「ねぇ、当麻…」
「うぅ……なんだよ…」

これからはいつでも彼と一緒。
どこでも、いつでも隣同士。

「こんな言葉知ってる?」

彼は少しだけ不思議そうな顔をしてこちらを向く。
その動作にはやはりやる気といったものは感じられないが、とりあえず注意を逸らせられたのでよしとする。

「これは英語で、イギリスに行ってた当麻なら多分わかるはず」

これはこれから自分達が向かっていく将来において、自分達の関係はこうあるべきという理想の形を表す言葉。
そして、自分達の関係がこれからも、一生そうでありたいという自分の願望を表す言葉。

「―――side by side」

その言葉の示す意味は、並んで、協力して、隣り合わせ。
自分は彼とずっとそんな関係でいたい。
他の誰でもなく、彼となら絶対やっていける自信がある。
彼のことは親と同じ位大切で、でも親以上に愛している。
だからこそ、ずっと隣り合わせで、互いに協力して支え合い、同じ道を進んでいきたい。
今いる場所は彼の部屋の前、外。
今の時間は登校時間の約30分前。
先のこと、将来のことは今言った通り。
そして今、この瞬間にもしたいことがある。
不思議そうな顔をしている彼に対して柔らかく微笑み、握りしめていた彼の手をさらに強く掴むと、彼を引き寄せ―――


一年間、止まっていた二人の時間は再び動き出した。
噛み合わず、狂っていた歯車は本来の動きを取り戻し、また時を刻み始める。
一年前の2月14日に告白し、ものの一ヶ月と半月の後に長い長い別れがあった。
そう、再び動き出してもまだ一月半の付き合いでしかない。
彼ら二人の物語は、まだ序章に過ぎないのだ。
今彼らの間には二人を結ぶ固い誓約はある。
しかし、二人を遮る制約となるものは何もない。
これから進むべき、二人の目の前の道の先にあるものは―――


―――しっかりと手を繋ぎ、隣り合わせで歩いてゆく二人の背中。



【side by side】―完―

Two ways spread out still more.


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