とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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小ネタ 彼女の指先が描くのは



 "彼女の指先が、背中に触れる"
 "触れられて、くすぐったいような、気持ちいいような"
 "離れると、寂しいような、もっと触れて欲しいような"
 "縦に伸びたり、横にはねる、斜め、くるりと弧を描く"
 "その指先が描くのは――――"

「あのー美琴さん?さっきから、わたくしめの背中で何をしていらっしゃるので?」
 上条は、何を書いているのか気になって、美琴に声を掛ける。
「やー…だってさー、暇だし…アンタの背中で遊んでるだけよ?」
 まさか上条の作業妨害してるとは思ってもみない為、美琴は事も無げに言う。
「…遊んでるって…上条さんは、それで課題に集中できなくて困ってるんですけれども?」
「どうして?」
 と美琴は上条に尋ねつつ――背中をなぞるのは止めない。
「一体、背中に何を書いているのかと…ね」
「気になるの?」
「そりゃ、気になるに決まって…教えてくれるのか?」
 それなら早く教えて欲しい、それで上条の問題――課題を除いて一つ片付く。
「やだ」
「んなっ?!…それじゃあ、何時まで経っても課題が終わらないぞ!」
「それはアンタの集中力の問題でしょー」
「ぐっ…でもなぁ、課題が終わらねぇってことは、この休み――どこにも遊びに行けないってことだぞ?」

 上条の言い分を聞いて、美琴は背中をなぞるのを止めると――後ろから上条の右頬に、ふにふにと人差し指を押し付けて反論する。

「えー何、それって、私のせい?…大体、今日まで課題をしてないのが悪いんじゃなくて?ん?」
 
 上条は、美琴に右頬をふにふにされながら――そうでした、すいませんでしたと敗北を認めざる得ない。

「う…もっともな意見に、上条さんは返す言葉もアリマセン」
「分かればよろしい…、だから」
「だから、何だ?」
「だから背中ぐらい貸しなさいってこと!…分かった?」
 美琴の勝利宣言。そう、上条は負けたのだ――言うことを聞くしか選択肢は無い。
「はぁ…いいよ、もう好きにしてくれ、どうぞどうぞ、美琴様。不肖・上条の背中で良ければ、お好きなだけご自由にお使いくださいませー」
「…なーんか引っかかる言い方ね、ま、いいわ。遠慮なく使わせてもらうからね?」
「ははーお手柔らかにお願い致します」
「…それも引っかかる言い方なんですけど…あ!ねぇねぇ」
「今度は何だ?」 
 上条は、人が課題に集中しようとしている時にと、少々口調がぶっきらぼうになる。
「……怒ってる?」
 美琴は、少し怒らせちゃったかな?と上条の機嫌を伺う。
「怒ってないぞーこれっぽちも怒ってないぞー」
「ほんとに?」
「すいません、嘘つきました、少しだけ怒りました…っつーかあれだ、投やりになってるだけだ…で、何だ?」
「えっと…ゲームしない?」
 少々控えめにお願いすることにした美琴。
「ゲームって…何がいい?ロープレ?格ゲー?お勧めは格ゲーだな、ほれ、PSPならここに…1人用だが、俺は課題してるし、いいよな?」
「違う違う、そのゲームじゃなくて、文字当てゲームしない?」
「文字当てゲームって…どうやって?」
「……今してるじゃない」
「?」
「ほら…」
 と美琴は、上条の背中に指を滑らせて、文字らしきものを書き始める。

「…これがゲーム?」
「そーいうこと」
「いや、でもなぁ…遊んでる暇は…俺の背中でお前1人遊んでいるのは、一向に構わないんだがな」
「ちょっとだけ、だめ?…あ!そうだ、じゃあ、当てたら…」
「当てたらなんだ?」
「背中で遊ぶのをやめます、それと…」
「それと?」
「んー…当ててからのお楽しみ」
 目が輝いて、どこか意味深な美琴。
それを見て上条は、何故か不吉な予感しかしない…とりあえず思ったことを突っ込む。
「思いつきで…何にも考えてないだけじゃなくてか?」
「ちゃーんと考えてるわよ、どう?やらない?」
「…ちなみに当てれなかったら?」
 当てれなかったときの方が怖い、少しだけ警戒しながら上条は美琴に質問する。
「当てれなかったら…、あー…そっちの方は考えてなかったわ」
「おい、いいのかそれで…」
「いいっていうか…むしろ簡単すぎてすぐに分かっちゃうと思うし、当てれないときの方を考えてなかっただけ」
「それって、俺が有利なのか?」
「ま、そうなるかな…で、どうなの?」
「……そうだな、」
 と上条はそこで一端、言葉を切った。
遊びに行けない分、少しぐらい美琴の遊びに付き合うのもいいかもしれない。
それに、背中をなぞられるというのは、どうしても気が行ってしまって集中できなくなる――つまり、願っても無い申し出だ。

「よし、この勝負受けて立とうじゃないか!」
「そうこなくっちゃ…じゃあ、早速、準備はいい?」
「ちょ、待て……よし、いいぞーいつでも来い!」
「じゃ、今から…スタート」と美琴の号令。
 
 上条は背中に意識を集中させる。
美琴は人差し指を踊るように動かす、横一直線に伸びて、続いてくるりと弧を描くように舞った。
タッと離れて跳躍したかと思えば、次の文字が描き出される――2本線?どうやら長さが違うようだ。

「なーんだ?」
「……す、すみ?いや…すいか?待てよ…すいかと見せかけて、実はメロン!…どうだ!?」
「ぶっぶー、どれもはっずれー」
「メロンでもないですとッ?!」
「えー…何で分かんないかなぁ…意外。けっこう簡単なハズなんだけど?」
「いや、難しいだろ、これ…」
「そう?平仮名しか使ってないのに?」
「…平仮名でも、分からん、っつーか今の片仮名使ってないのか?まじでか?!」
「…使ってない」
「……だぁッーーほんとに分からん!」
 美琴からの回答に、これのどこが簡単なのだろうか?と、上条は首を傾げる。
「しょうがないなぁ、もう一回書くから…次こそは当てなさいよ?」

 美琴は楽しそうな声で告げると、上条の背中に人差し指を乗せる、その指は絵筆に変わる。
そして背中をキャンバスに見立て、大きく文字を描く――分かりやすいように、通った道を2回ほど強めになぞる。

「はい、なーんだ?」
「……『す』は合ってるよな?」
「ノーコメント」
「『す』は分かるんだけどな…次がどうにも、次の文字だけ、もう一回、頼む!」
「…じゃ、次でラストね?」
「おう!」
 もう少しで最後の文字の正体が分かりそうなのだ、このままでは終われない。
上条は、絶対に当ててやると、背中により一層、意識を集中させる――その背中に美琴が文字を描く。

「えーと…、上が短い横線で、次が少し長めの…ん?もしかして…『き』、そうだ『き』だ!」
「分かった答えは、『き』だ!合ってるだろ?」
 答えが分かった嬉しさで、思わず上条は美琴の方へと向き直り、言いなおす。
「…二文字だけど?上の字と下の字…つなげたら?」
 
 はめられた。

「す…き?」
「じゃあ、ご褒美…すきの反対は――」

 そう言って、触れるもの。


"彼女の指先が描いたのは、甘い時間"


(終)


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