とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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甘い夢の中では

甘い夢の後には』の美琴サイド版です


「あれ、アイツ……なにしてんの?」
 薄っぺらい学生鞄を持った美琴は、ベンチに座っているツンツン頭を見つけるとその場に立ち止まる。
 すたすたと近づいていっても反応する様子はない。
「ちょっとアンタ……って、寝てる」
 すぐ近くまで近寄ってみると、上条はすやすやと眠っていた。
(また補習や課題がたんまり、って感じかしら)
 美琴はふぅっと小さく溜息をつき、上条の隣に腰掛ける。
 じっと横顔を見つめていても、上条は全く気付く様子はない。
 もっとも寝ている人間にそれを要求するのは酷ではあるが。
「コイツ、結構まつ毛長いわよね……」
 普段、じっくりと眺める事のない上条の顔を覗き見る。
 見る機会がないわけではないのだが、乙女の事情により見れないのだ。
「いっつもやる気なさそうな顔してるけど……」
(寝顔はあどけないもんねー)
 すやすやと寝息を立てる上条の顔は、柔らかに微笑んでいるようにも見えた。
(なんかイタズラしてやろうかしら………そうだ)
 美琴はポケットから携帯を取り出すとカメラでパシャリと撮影する。
「別にカッコイイ顔ってわけでもないのよね」
 撮った写真を見て、美琴は自嘲するように笑い、ベンチの背もたれに身体を預ける。
(ま、惚れた弱み、かな)
 美琴はそこまで考えて、頬を真っ赤に染める。
 学園都市第3位のレベル5も、恋する乙女となれば中学生でしかない。
 美琴はゆっくりと上条の左肩に頭を預ける。
 普段なら絶対にできない、むずがゆい距離感に心拍数が上がる。
「ねぇ、当麻………」
 今まで呼びかけたことのない名前を口に出してみる。
 答えは返ってこない。
 きるぐまーや枕に向かって呼びかけた事はあるその名前も、本人を目の前にするとなかなか口に出せなかった。
「どんな夢、みてるの?」
 美琴は上条にもたれながら想う。
(私はアンタの夢をみてる。アンタも、私の夢、みてくれたりするのかな) 
 他の女の夢だったら嫌だな、と思いながら美琴は目を伏せる。
 自分の能力が打ち消されて、上条を目の敵にした。
 『妹達』の件を終えて、上条が気になるようになった
 ボロボロの上条を見て、自分の『想い』を自覚して。
(いつの間にか、アンタの事ばっかり考えるようになっちゃったわよ)
「責任、とりなさいよね」
 美琴は口元を緩め、目を閉じた。
 『もしアイツが私の事を想ってくれていたら』
 そんな甘い想いが、美琴の中を溢れんばかりに満たしていた。
 ふわふわと、まるで水の上に浮いている様な、心地よい浮遊感に美琴は頬を緩める。
(いつもの………ゆめ)
 まどろみの中で感じる暖かさに身をゆだねる。
 まるで上条がすぐ近くに居るような、そんな気持ちになる。
(ふふっ………)
 普段は素直になれないが、夢の中では、なんだか気が軽くなったような気分だ。
 想った事が現実になる夢。
 目覚めているのか眠りの中なのか、よく分からない状態。
(今日は………膝枕がいいな)
 美琴の想いが通じたのか、本当に膝枕されている様な暖かさに包まれる。
 夢だという事は分かっている。願わくば現実となって欲しい、夢。
 でも今は、甘く儚い夢で、現実ではない。
 それでも、この甘い夢の中に出来ればずっと、浸かっていたかった。
(とうま………)
 夢の中なら素直に呼べる彼の名前。
 それを口に出すだけで、美琴は心が暖かくなるのを感じた。
『みさか……』
 上条の声が聞こえる。
 いつもと同じ、思いやりのこもった優しい声で。
(あと5ふんだけ……)
 美琴はそんな上条の声を嬉しく思いながらも、まどろみの中の幸せを享受しようと抵抗する。
 それでも、夢の中の上条は呆れながら、優しく美琴を起こそうとしてくる。
(キスしてくれたら起きる)
 美琴はふふーんと、得意げな顔をしてみる。
 こんな事を言えば、上条は固まって動けなくなるはずだった。
 偶に本当にキスされて、面を喰らったりもするのだが、それはそれで幸せな気分になれる。
(とうま―――?)
 普段と違う感覚に襲われる。
 ジェットコースターの落ちる瞬間の様な、エレベーターの動く瞬間の様な、一瞬の無重力感。
 ざぶんっと眠りの海から引きあげられた。

         ☆

「ううううわぁぁぁぁぁっっ!?」
 美琴は寮のベッドの上で悶々と転がっていた。
 なんの勢いか、上条とデートの約束までしてしまった。
(あ、ああ、アイツは、デートとか、思ってないかもだけどっ)
 白井黒子が見れば、何の事かと騒ぎだしそうなくらいの状態だ。
「そ、そういえば連絡しなきゃいけないんだっけ」
 美琴は落ち着かない手で携帯を持ち、メール画面を呼び出す。
 いつもより心なしか動きの悪い指をなんとか動かし、上条にメールを出す。
 便箋を持ったケロヨンがトコトコと歩くアニメーションが流れ、送信が完了した事を告げる。
「写真かぁ………」
 美琴はデータフォルダに入った上条とのツーショット写真を開く。
 ペア契約のときのものだ。笑顔にもぎこちなさが見て取れる。
 携帯を操作し、今日撮った上条の寝顔を表示する。
 自然と美琴の口元が緩んだ。
 それとほぼ同時に、美琴の携帯が振動する。
 上条からのメールの着信。
 美琴は急いでそれを開いて文面を読む。そして、呆れたように笑った。
 『わかった。たまには、ビリビリなしでゆっくり遊ぼうぜ』
 上条らしい飾り気のない文章。
 それでも美琴は胸が躍るのを感じる。
(今度は……もっと、自然に撮れたらいいな)
 上手く撮れたら待受けにしよう、美琴はそんな思いを胸に秘めて携帯を閉じる。
(もう少しだけ素直になってみようかな)
 美琴は大きな枕をぎゅっと抱きしめた。


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