とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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甘い夢の後には

ゆれる髪、時々ココロ」の続きを書いてみました


 そよそよとした風が吹いている。
 この季節特有の、ほんのり湿った空気に、少しだけ夏の匂いが混ざる。
 そんな爽やかな空気の中で、上条当麻は青い顔をしている。
「…………なんで、ゆ、夢じゃなかったんかよ?」
 上条は美琴を自分の頬を思い切りつねる。
「い、いはいへすね」
(ってコトは夢じゃないんですね)
 上条は肩をガクッと落としかけて、慌てて身を固める。
(っぶねぇぇぇぇッ!!)
 あまり身体を動かしては、自らにもたれかかっている美琴を起こしかねない。
 現状で何を差し置いても、それだけは阻止せねばならない。
 上条は夢の内容を思い出す。
(確か、寝ぼけてる御坂に俺が、俺が―――ッ!!)
 上条は知恵熱を出したように、『両手』で頭を抱える。
 ふっ、と左腕にかかっていた負荷が無くなる。
(ッ!? しまっ……)
 右腕はともかく、美琴がもたれている左腕を動かせばどうなるか。
 支えとなっていた『上条の左腕』を失った美琴の頭は重力に任せて落ちる。
(死んだ……上条さんは死にました)
 上条に宿る能力が『念動力』であれば、それを支える事が出来たかもしれない。
 最悪、『空間移動能力』であれば、美琴が目覚める前にこの場を脱する事が出来たかもしれない。
 だが、非常なる神様に与えられたのは『無能力者』という称号であった。
 ぱたり、という思いの外軽い音と共に、美琴の頭は上条の太ももの上に軟着陸する。
「………………あれ?」 
 ぐっ、と身を固めた上条を尻目に、美琴はすやすやと寝息を立てていた。
「………お、起きてない?」
 ふぅ、と安堵したかのような溜息をつき、上条は涙を浮かべた目で美琴の顔を覗き見る。
(ったく―――)
 普段の勝気な美琴からは想像しにくい、柔らかな微笑みがそこにはあった。
「幸せそうな顔しやがって。こっちの身にもなれっつーの」
 もう一度溜息をつき、上条はベンチの背もたれに身を預ける。
 暫くそのままの体勢でいたが、ふと何かに気づいたように周りに目をやる。
 誰もいない。少なくとも視界に入る中には誰もいなかった。
(いや、油断するな、上条当麻。舞夏あたりなら隠し撮りとかもやりかねんっ)
 茂みに動きがないか確認する。
 美琴が起きていれば、電磁センサーによって一目瞭然なのだが、彼女はまだ夢の中だ。
「だぁー、不幸だ」
 あまり喜ばしくない口癖が口から洩れる。
 ただいつもと違うのは、上条本人がどこか嬉しそうだということだ。

「こうしてるとコイツも可愛いんだけどな」
 上条は幸せそうな美琴の寝顔を見る。
 ときどき小さな声で何かを言っているようだが、上条には聞き取れなかった。
「どんな夢見てんだろうな」
(コイツの事だから、ゲコ太まみれな夢だったりしてな)
 ふっ、と鼻で笑ってしまう。美琴にバレるようなことがあれば、電撃キャッチボールになるところだ。
「アンタ、ばかにしてんでしょ」
「ッ!?」
 下から聞こえてくる美琴の不機嫌そうな声に、上条は身を固める。
 慌てたように右手を美琴に向けて雷撃の槍に備えるも、一向にそれが飛んでくる事はない。
「………ね、寝言かよ」
(ほんと、どんな夢見てんだよ)
 上条はぐでーっと肩を落とすと、ベンチの背もたれに身体を預けた。
 思い通りにならなくて不機嫌そうな、それでいて楽しそうな、そんな美琴の表情を見て、上条の頬が緩む。
(現実でもそんな顔してくれたら、上条さんももう少し楽しめるんですけどね)
 どうしてビリビリがセットになってんのかな、と上条は苦笑する。
 素直になれない美琴にとっての照れ隠しも、鈍感上条にはただの嫌がらせにしか思えない。
「いつまでもこんなことしてる場合じゃねぇよな」
 上条はどんどん暗くなっていく空を見上げてから、もう一度美琴の顔を見る。
「ちょっともったいねぇ気もするな………っと、そうだ」
 上条はポケットから携帯を取り出しカメラモードを起動する。
 カシャッ! 軽快な音と共に、携帯のディスプレイに眠れる姫君の顔が映る。
(そのうち、話のネタにでもしてやるか)
 忘れずに保存し、携帯をポケットしまう。そして、少しだけ名残惜しんだ後、美琴の頬をペチペチと叩いた。
「おい、御坂。そろそろ起きねぇと風邪ひくぞ」
「う………ん、あと5ふん」
「………ったく」
 上条は溜息を一つつくと、美琴の身体を揺さぶる。
「おら、起きろって」
「んー、キスしてくれないと起きないもーん」
「んなぁっ!?」
 上条の身体が固まる。夢の中でも美琴は夢の中にいたままであり、夢の中の上条は危うく暴走するところであった。
(なんだかよく分かんなくなってきた)
 上条はブンブンと首を振り、自分の両頬をパンッと叩く。
「寝ぼけてねぇでさっさと起きろっ!」
 上条は無理矢理に美琴の身体を起こす。美琴は抵抗するように上条の腕を掴んでいたが、そのまま起こされてしまう。
「うん………ここ、どこ?」
 美琴は眠そうに目を擦り、きょろきょろとしている。
 そんな表情もまた反則級に可愛らしく、年上好きと公言する上条の心にも何かを突き刺していくのだった。

「目、覚めたか?」
「………なんでアンタがいんのよ?」
「それは俺のセリフだな」
 上条はやれやれと肩をすくめる。
「俺が起きたらお前が横で寝てたんだけど」
「あ………」
 上条の説明に、美琴は何かを思い出したかのように小さく口を開いたまま呆けている。
「あ………じゃねぇよ」
「な、何にもないわよ! 別にアンタと一緒に寝たかったとか、そ、そんなんじゃないんだから………」
「?」
 そのままボンッと湯気を上げている美琴に対し、上条はキョトンとしていた。
 美琴はごにょごにょと何かを訴えているが、上条はただ首を捻るのみ。
(よくわかんねぇっつうか………何考えてるかも分からん)
 うーむ、と頭を悩ませてみるも、鈍感上条に分かる由もない。
「んー、なんかよく分かんねぇけど。御坂、門限とか大丈夫か?」
「えっ!? あ……あぁぁぁぁぁぁっ!?」
 美琴はバタバタと時計を確認すると、外からでも分かるくらいに一気に青ざめる。
「な、なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ!!」
「そ、それは、なんつーか。言い訳のしようもねぇんだけどさ」
「はぁ? どうせ美琴センセーの寝顔に見とれてたりしたんでしょ」
 美琴はうわーっという表情を作り、上条を流し眼で見る。
 いかにも『ドン引きです』と言わんばかりの表情に、上条は反論の1つでもしてやりたかった。
 が、実際その通りなので居心地悪そうに目線を逸らすことしか出来なかった。
「アンタ、冗談のつもりだったのに……マジなの?」
 そんな上条の様子を見て、美琴は目を丸くする。
「ううっ、そんな目で上条さんを見ないでぇぇっ」
「写真とか撮ってないでしょうね?」
「えっ?」
「えっ?」
「…………」
「…………」
 どよーん、とした重い空気が場を支配する。
 上条は真っ青な顔で冷や汗を流しており、美琴は照れたように頬を染めて目を伏せている。
「ねぇ、明日………ひま?」
「お、おう」
 気まずい空気を一変させようと、美琴が口を開く。
 半ば無理矢理な路線変更であったせいか、なんとなくぎこちないまま話は進む。
「じゃぁさ、明日、遊びに行くの付き合いなさい」
「なんで―――」
「アンタに拒否権はないわ。中学生の寝顔を盗撮した罪は重いわよ」
「ぐぅ……」
 言外に『バラされたいの?』と言われてしまえば、上条に為す術はなかった。
 抵抗をしようにも、ぐぅの音を出すだけで精一杯だった。
「分かればよろしい。別に一日言う事聞け、なんて言うつもりはないわよ。……それに」
「? それに?」
 上条は急に歯切れの悪くなった美琴の顔を見る。
 その顔はほんのりと赤くなっており、その先を言おうか否か逡巡してるように見えた。
「わ、私も、アンタとの……写真が欲しいっていうか……」
「ペア契約んときに撮ったじゃねぇかよ?」
「だぁぁ、もう、うるさい! 明日の事はまた連絡するから、じゃぁねっ」
 美琴は早口に言い切ると、顔を真っ赤にしたまま走り去った。
「何だったんだ、アイツ」
 街灯が灯り始めたベンチの上で、上条はポカンとしたまま取り残されていた。


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