とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part07-1

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だれでも歓迎! 編集


-⑦閉幕から開幕へ-


もぞもぞと何かが胸元で動く感触で上条は目覚めた
「……おはよう、美琴」
自分に抱かれるように胸元に納まっている美琴と目が合い、朝の挨拶
「おはよう、当麻…」
美琴は顔を赤くし、モジモジとしている
そんな美琴を見ていた上条は昨晩から少し自分に素直になっていた為、気付いた時には
「なあ、美琴…美琴ってすげーいい匂いするし、暖かいし…しばらくこうしていたい……ダメか?」
と美琴の耳元でささやいていた…上条は自分で言ったことに顔を赤くし、美琴を少し強く抱き寄せる
「私も…もう少しこうしていたい……」
美琴も少しだけ上条の背中にまわしている手に力を込める

こうして共同生活を終えた二人は朝を迎えた

しばらく二人はお互いの体温でぬくぬくとしながら抱き合っていたわけだが
クゥ~
という美琴のお腹の音で朝食にしようということになった
「そういえば昨日お湯沸かしてた時に炊飯予約入れといたんだっけ」
と上条は昨晩、朝方困らないように炊飯の予約をしっかりセットしていたことを思い出した
「冷蔵庫の中身は…」と冷蔵庫を漁る上条
ちなみに美琴がキッチンに来ていない理由は幸せすぎて腰が抜けてしまった為だ
今はベッドに背を預け、パジャマのままテーブル前に座っている
そして冷蔵庫から出てきたのは…納豆二つ、長ネギ三分の一、冷凍シャケの切り身二切れ

「上条さんはあらかじめこうなることが分かっていたかの様な冷蔵庫の中身に少々恐怖感が…」
と上条は頬を引きつらせるが、まあ一般家庭の朝食が作れることに安堵するのだった
「美琴、解凍したりするから少し時間かかるけど大丈夫か?」
「うん、大丈夫だから…あと、楽しみにしてるね、当麻の手料理」
そう言って美琴が笑ってくれたことに上条はやる気を出す

トントントンッ
「そういや美琴、お前って納豆食えるか?食えるんだったらひき割りか小粒か…」
ザクッザクッザクッ
「食べれるわよ? 基本どっちでもいいから当麻に任せる」
「わかりましたよ、それじゃ…もちっと待ってくれな」
上条は小粒納豆を刻んで引き割りのようにする、そこに先ほど切った長ネギを混ぜる
「これでよし、えーっとシャケは…お、解凍出来てるな」
パウチに入れ少しぬるま湯に浸けて置けば解凍は簡単なのだ、その後パウチから出して水分を拭き取れば
「焼くだけっと…しかしなあ、こんな簡単なもんでいいのか…あー味噌汁、味噌汁…」
さすがに具材がないために味噌汁は大安売りで手に入れた粉末パックのインスタントだ

午前7時40分 上条のお手製朝食が完成した
「さ、上条さんの平凡な朝食ですよー」と上条は朝食を並べていく
「なんか嫌味に聞こえるわね…でもおいしそう、いただきます」
そう言って美琴は刻み納豆をご飯にかけて一口、すると普段たまに口にする納豆より美味しいと思った
上条の刻み納豆は引き割り納豆よりもご飯によく絡んで馴染み、小粒納豆よりも風味が豊かに感じられた
焼きシャケも身を解し、食べる…中までしっかりと火が通り、納豆とご飯の邪魔をしない程度の味付け
「おいしい…おいしいよ、当麻」
ぱぁっと満面の笑顔で食べる美琴を見て上条はそれだけで幸せ一杯になるのであった
「なんか美琴の笑顔だけで上条さんはお腹一杯です」
「ぶふっ、ごほげほ…なに急に恥ずかしくなる様な事言ってんのよ!」
味噌汁をふいてむせ、叫ぶ美琴
「なんかさ、美琴が俺に飯作ってくれる理由がわかった気がする」
上条はうんうん、と頷いて美琴に微笑んだ
「もう…」
そんな微笑みでも美琴には大満足であった、だって同じ感覚を共有できたから

それから上条も朝食を食べだし、仲良く談笑しながら箸をすすめる
そんな時に、ケロケロッ、ケロッと美琴の携帯が鳴った…どうやらメールだった為かすぐに音が止む
「あれ? 誰かしら」そう言って美琴は送信者を見て首を傾げる…見たこともないアドレスだ

From: turunoongaeshi@monotr.co.jp
件 名: 本日
本 文: ごめんね、ちょっとアドレス調べさせてもらいました。鶴の彼女です。
    どうやら、昨日の事件で私の能力に乱れが出ちゃって午後三時まで能力が解除できないの
    本当にごめんね…今すぐにでも解除してあげたいんだけど。精神が安定しなくて…
    あ、鶴からの伝言なんだけど待ち合わせは午後三時に件の公園だって、よろしくね。バイバイ

そうメールに書いてあった、美琴は上条とそのメールを見て、現時刻を確認し二人同時に「あっ」と声を上げた
「悪い美琴、俺………美琴の能力のことすっかり忘れてた」
「だ、大丈夫よ…私も……能力戻ること忘れてたし…」
そう言って心配してくれた縁田と縁田の彼女に「ごめん」と謝った
「それにしても、少なからずとも縁田さんも不幸体質かもしれないわね」
「だな…約束事、計画がすべて狂っちまってるからな…今のところ成功したのは俺と美琴が付き合ったことくらいか」
と二人でここにはいない今回の美琴と上条の騒動の犯人を思い浮かべた、頬を掻きながら苦笑いしている
「まあ…なんだ、ご飯食べちまおうぜ」
「そうね」
と二人は食事を再開するのであった

朝食を食べ終え、今日は上条が朝食を作ったので美琴が食器を洗う
「それじゃあどうする? 白井に会おうにも今は学校だろ?」
「ああ、それなら大丈夫よ? 今日は常盤台の入学式だから学校自体は午前中で終ると思う」
そう言って美琴は洗い終わった食器を立てかけ、水を止める
「まあ、私がメールしておいてあげるから当麻は説明することでも考えてなさい」
キッチンから出てきた美琴は携帯片手に上条に向かってそう言った
「ああ、わかった…」と上条は美琴に言ったが、実は上条は言う事は決まっている…
あとは覚悟だけなのだ…上条はそれができないでいた

時刻は午前8時になるところである
白井との約束を取り付けた二人は残りの短い時間を有効に使うべく街に繰り出した…

□ □ □

時刻は午前8時15分のとあるホテル
「ねえ鶴? 本当に三時まで能力解けないって曖昧な情報伝えてよかったの? 私、自分じゃ正確な時間わかんないよ」
そう話しかけたのは鶴…こと縁田の彼女ミリ
「大丈夫ですよ、私はミリを信じてますし…もし怒られるなら私が怒られます」
そう言って縁田はミリに微笑んだ

「むぅ…私的には鶴が怒られるのが嫌かも…」
頬を膨らまし睨んでくるミリを見て縁田が
「なんか、リスとかハムスターみたいですね」
と言いながらミリの頬を左右に引っ張る
だが実は心配してくれたことと頬を膨らませたミリが可愛かったせいもある、つまり照れ隠しだ
「ふぃたい、ふぃたい…うぅ…」
ミリが涙目になったところで縁田はしまったと思い、手を離したが遅かったようだ…

「怒ったよ? 鶴…覚悟を決める時間はいらないよね?」
と背後にはドス黒いオーラが見えた…
「ちょ、待ってくださいミリ…これは照れかく…」
「問答無用っ!」
縁田はミリの細腕のどこにこんな力があるのかと思うほどの力で抑えられ身ぐるみを剥がされる
「今日はきわどいバニーちゃんなんてどうかなー鶴? それともちょっと服の破れたいたいけな制服の女子校生とか」
と本日縁田は今まで以上の恥辱を味わうことになりそうで涙が出てくるのであった
「助けてくださーい!! 上条さーんっ」

もはや泣いても無駄であろう、ここはホテルのスイートルームで防音も完璧、地上40階ときている
第七学区で残りの時間を楽しもうとしている上条が気付くはずもない


これでもない、あれでもないと選択しているうちに怒りは消えたのか案外普通の服(ドレス)を着せられた
そもそも、男である縁田が着せられては案外普通でも異常であるのは確かだが…
「案外…普通なものに落ち着きましたね」
「ん? バニーの方がよかったの鶴?」
「いいえ、なんでもないです!」
最初の一言を言った瞬間ミリがバニーを持ってきたことに焦る縁田であった

「うーん、でも私的には満足だけど…路地裏の人たちには、うーん」
とその後の言葉も縁田には嫌な予感しか感じさせない

無事に午後三時の集合にいけるか不安になる縁田であった

□ □ □

午前10時、今の時間帯に授業が入っていない月詠小萌は考える
上条ちゃんあれから一切連絡がないのはなんでなのですか…しかもその数日後から縁田ちゃんも来てないですし…
とあれこれ考えていた、実は小萌も調べはしたものの今回上条に言われた情報で収穫は一切なし
しかし、今朝教室で聞いてしまったのだ

…………………

「カミやん部屋での独り言が多いにゃー、って思ってたら彼女が出来てたんぜよー」
「な、なんやて!! あのカミやんに彼女が…」
と言ったところで土御門と青ピは背後から肩をがっしりと掴まれ…
「ほほーう、学校を休んでおきながらそのような暇があるとは……上条当麻、登校してくるのが楽しくなりそうだな」
吹寄の鬼のような形相で土御門と青ピは固まる
「ところで……明日は具体的にどうするの?」
と、吹寄の背後からひょっこりと出てきた姫神が聞く
「んー、楽しくなりそうな予感はするけど具体的にって言われてもね」
吹寄がそう答えたら、姫神がボソッと
「魔女裁判とか…」
………姫神さん、それってほぼ拷問or死刑確定なんじゃ、と思う三人がいた

………………

そんな様子を教室の外で聞いていた小萌だった
「遊んでいたわけじゃないのはわかってるつもりなんですけどね~」
と一応理解したい小萌だが、その手には『上条ちゃん地獄の放課後・休日補習プリント集』なるものが握られていた

□ □ □

午前12時30分
上条と美琴は現在ファミレスで昼食をとっている
朝食後二人は仲良く街を歩いた、人目のない静かなところを歩いていたので邪魔は入らなかった
露店やらにも寄ったりして楽しく過ごした、そして時間もいい頃になり近くにあったファミレスに来た…訳なのだが

「……なんでここにいるんだ?」
上条は自分達と同席になった人物を見て問いかけた
「それはミサカ達の自由だよ、ってミサカはミサカは答えてみる」
そう、美琴と上条の目の前の席には打ち止めと……
「いては何かマズイ事でして上条さん?」
美琴と一緒に入ってきた時に真先に突っかかって来た白井黒子
「いやいやいや、そこではなくてだな…面識なかったはずだろお前ら?」
上条は一番の疑問を出すが
「このお姉ちゃんにはお姉さまを探してたら捕まったの、ってミサカはミサカはお姉さまに助けを求めてみる」
とかなり冗談に出来ないことを真剣な顔で言い出した打ち止め
「「「……………」」」
当然凍りつく白井、睨む美琴、気まずい上条、なぜか笑顔の打ち止め

「お、お姉様…く、黒子はそんなことしてまいせんの! お姉様を探しているこの子をお姉様と会わせる為にご一緒し
ていただけですのに……」
と白井は弁明した……が
「黒子……私の大事な妹に・な・に・を・しようとしていたのかしら?」
美琴はどうやら弁明を聞かないらしい、白井はガタガタ震えだし空間移動も出来ないようだが
「美琴、少し落ち着けって…白井だって「この子はお姉様の妹さんなのですねー」………」
割り込んだ白井は打ち止めを見てウへッ、ウヘヘと顔を崩す
上条の後半の沈黙は言うまでもない、弁護したのは見当違いだったようだ
そして……
「黒子………覚悟は決まってるわよね?」
妙に優しすぎる笑顔で迫る美琴に押されるかのように白井は滝のような汗を流し……
「お、お姉様ぁ………グェフッ」
言うまでもなく白井は制裁された

「ワーイ、ってミサカはミサカは目の前のパフェに喜んでみる」
白井がやられてる間に上条に頼んでもらったパフェが出てきて、それを見て喜ぶ打ち止め
「まあ、打ち止めに何もなくてよかったな」
と上条は目の前ではしゃぐ打ち止めを見て美琴に言う

どうやら白井は常盤台の寮に戻る途中に美琴を探している打ち止めに出会い
この後に会う約束があるという事で一緒にいたらしいが姉妹かどうかまで気が回っていなかったらしい……
つまり先程は打ち止めの冗談だったので美琴は白井に謝ることになった

各自の注文が揃い、昼食を始めたところで白井が上条に話しかける
「それで上条さん、どうせなら今お聞きしても宜しいですか?」
「ああ、だがまず飯食ってからな…せっかくの飯が冷めたら台無しだろ?」
そう上条は返し、昼食と談笑をすることになった

「あ、そうそうお姉さま、ってミサカはミサカは本来の用事を思い出したの
お姉さまの携帯アドレス教えて教えてー、ってミサカはミサカは頼み込んでみる」
打ち止めが美琴を探していた理由はどうやらアドレスを教えてもらいたかったようだ
「ねえ打ち止め、それって佐天さんに聞けば早かったんじゃないの?」
「それじゃあダメなのっ! ってミサカはミサカはお姉さまの意見を却下してみたり」
速攻で美琴の意見を却下して
「お姉さまから直接聞くことに意味があるの、ってミサカはミサカは今思いついた理由を言ってみる」
モジモジとしながら上目遣いでダメ? と訴える打ち止め…
「あーもうっ、そんな顔されたら断れないじゃない、って言っても断る気はないんだけど……」
上条は思った、多分だが人がいなければ美琴は打ち止めに抱きつき頬をスリスリしていただろうと

一方テーブルの隅で「なんで妹さんを佐天さんが知っているのに私に教えてくださらないのでしょうか…」
と暗い雰囲気になってる白井に上条はあえて目を合わさない様にする、目が合えば絶対八つ当たりが飛んでくる
そんな気がしてならないのだ

そして、美琴がアドレスを渡し終えると打ち止めは上条と白井からもアドレスを貰い
「ごちそうさまでした、ってミサカはミサカはお礼を言って感謝してみる」
そう言って頭を上条にペコリと下げ
「それじゃバイバーイ、ってミサカはミサカは手を振ってお別れを告げてみたりー」
もう昼食を食べ終えていた打ち止めはそう言ってダッシュで去っていった

「えーっと……この場合ってやっぱり…」
「そうね、あの子の分は当麻持ちって事になるわね」
不幸だーと叫ぶがもうそこにはパフェとハンバーグセットを食べた少女はいないのである

……………………

午後1時46分
昼食を食べ終えた三人はいつもの公園とは別の公園に来ていた
「それで、上条さん……話さなければいけないこととはなんですの? まあ、大体察しはついてますが…」
と白井は脚に巻いたベルトにある鉄矢に手を触れる
「ああ、多分予想通りだ・・・俺は美琴……御坂美琴と恋人になった」
その一言に白井は驚かなかった、なんとなくわかっていたから…そこに上条は続けて言う
「俺は、御坂美琴と彼女の周りの世界を守る…そう約束したって言ったのは覚えてるよな? 白井…」
白井は頷かない…ただ上条を睨みつけるだけだ
「俺はその周りの世界を歪めてしまったかもしれない、守ると言ったこの俺自身が・・・
 でも俺は美琴を守る! 歪めてしまったかもしれない世界もすべて守ってみせる…だから」
そこで上条は一度区切り、白井にこう言った
「もう一度、もう一度だけチャンスをくれ…今度はお前に誓わせてくれ、美琴を大事に思ってくれているお前に…
 俺が都合のいい事を言ってるのはわかってる、それでも白井…お前に誓わせてくれ」

「御坂美琴と彼女の周りの世界を守る…今度こそ絶対に」
上条は力強くそう言った

「一度破ったことがそう簡単にもう一度約束したから守れると…上条さんはそうおっしゃるのですか?」
白井は冷たく上条に言い放つ
「………」
上条は黙るしかなかった
「そもそも、上条さんとお姉様が恋人になったくらいで歪んでしまう世界なら上条さんにはその約束は絶対守れるは
ずがないじゃありませんの…破ったと思っているのは上条さん、アナタだけじゃありませんの?」
しかし、次に出た言葉は上条を諭すように…そして優しく白井は告げ
「私はお姉様が好きですの、それでも・・・お姉様が幸せでそのことに納得がいくなら私は一向に構いませんの
 お姉様の心の支えになれるのは今上条さんしかいないんですから…そこにはしっかり責任を持ってくださいな」
そう言って白井は美琴の方をちらっと目をやり、上条を見て
「私はそんな誓いや約束よりも行動で示されたほうがお姉様も喜ぶと思いますの」
と言って白井は笑顔を浮かべ、次の瞬間には空間移動するのであった

上条と美琴はしばらく互いに白井がいなくなった場所を見ていた

□ □ □

白井は二人に追いつけないところまで来ても空間移動し続けた

なんで私は泣いてますの…私は納得してあの二人を祝福しなければなりませんのに……何故…
白井は泣いていた、大好きなお姉様・美琴が選んだ相手上条当麻…自分でもその相手を選ぶ美琴の気持ちはわかる
いや、わかっていたつもりだった…しかし、この現状はどうだろう…みっともなく泣き、嫉妬している

思考はあの二人を祝福したい、しかし急に置いて行かれる様な寂しい感覚が嫉妬として思考を妨げる
そして、白井は泣きながらも空間移動を繰り返し着いた先は風紀委員の第一七七支部前

「……そうでしたわね…忘れていましたわ、自分で覚悟を決めたじゃありませんか」
ふと、去年の9月に抱いた想いを思い出し、先ほど自分が言った事も思い返した
「今はお姉様を支えられるのが上条さん一人なんですの、だったら私もお姉様を支えられる様になればいいんですの
…そうすれば上条さん一人で守れないことも私がいることで守れるかもしれませんわね」
そう白井は考え、泣くのを止めた
「待っていてください、お姉様…今度こそ黒子はお姉様を支えられる様に強くなりますの」
そう言って白井は支部に入って行くのであった

祝福もするが嫉妬もする、それでもお姉様の世界を少しでも守れるように努力しようと考える白井なのであった

そこには先程まで泣き、自分の心を整理できない少女ではなく…強い意志を固め、先に一歩踏み出す少女がいた

□ □ □

午後2時40分
縁田汰鶴は件の公園に向かっている、その姿は銀髪のロングに淡い紫のドレスに身を包んでいた
「なんでこんな姿で待ち合わせに行かなければいけないんでしょうか……」
縁田は今一度自分の姿を見て嘆く

縁田は送り出されるまでのひと悶着で体力を大幅に消費し、もう走ることはできないだろうと思っていたのだが
道中でいつぞやのスキルアウトのボスと再会(何故か同一人物と気づかれ)………で、走り回ることになった
そして逃げ切ったら現在の時間になっていた

「それにしても、あの二人には恨まれるようなことしかしてませんね…」
午前から今までのことを振り返るのを止め、そのかわりにこれから会う恩人の二人を思い浮かべる
縁田は自分の彼女が昨日二人に会っていること、話した内容は知らない…だからこういう呟きが漏れる

あの二人に恩返し、そう…自分が絶望していたこの腐ったような世界に少しでも希望という光が存在することを教え
てくれたという小さな理由からだ、縁田はミリという少女しかこの世で信じられる人がいない中で唯一損得なく手を
差し伸べてくれた二人…それは偶然だったのかもしれないがなんとなく情景がわかった途端に自分を救ってくれた

公園に向かう足を止めることなく先月の事を思い出す

……………………

「おいおい、逃げきれると思ってんのか? お譲ちゃんよぉ」
今時ないとも思われるありきたりな悪党の台詞、路地裏を走る数人の足音

それは3月のある日、いつもは逃げればすぐに撒けてしまうはずのスキルアウトだが今日はその途中で足を挫いた
その為に撒くに撒けず、段々と近づかれている

「はぁ、はぁ、はぁ………」
息も切れ切れで走っているがそれももうすぐ限界を迎えてしまう、そう思った時
路地にあった暗がりで見えない物体に足を取られ転ぶ
その時着ていたスカートが裂け着用している短パンが露わになる

「似合わねぇもん穿いてんじゃねぇか、それも込みでひん剥いて欲しいってかぁ?」
といやらしい表情で迫ってくるスキルアウトの男達
実はこの少女の格好をしているのは縁田なのであってこの野郎共の期待しているものとは真逆の存在である
声も男にしては高く、身体は中性的な体型である縁田はよく普段着でも女性と間違えられる
そのうえでこの格好だ、間違えられてもおかしくはないと思う…思いたくはないが

「ちょ、や…止めましょうこんなこと」
と追い詰められて立つ事もままならない縁田は這ったまま後ずさりそう言うしかない
「いやいや、ここまで走らされて黙って指くわえて見逃すってことするとでも思うかぁ?」
同性からみても嫌悪感を抱く顔をするこの男が一歩、また一歩と迫り
それに併せて後ろの仲間達も迫ってくる、しかし途中で他の声が聞こえてきた

「ちょ、タイム! タイム! タイム! 御坂ちょっと待ってくれっておわっ!」バチッ
「待つかっ! どんだけ今日待たされたと思ってんのよ、いい加減その遅刻癖叩きなおしてやるわ!!」バチバチッ
とこっちに向かってくるのか左側の通路から段々大きく聞こえてくる会話、そして…
目の前を自分と同じ高校の制服を着た一年でウワサの少年、上条当麻が走り抜けようとして目が合い立ち止まった
その後を追うようにやってきたのは常盤台の制服を着た少女、その少女もいきなり止まった上条にぶつかり止る

しばしの沈黙後、上条当麻と少女はボロボロの格好をしている自分とそれと対峙しているスキルアウトを見て
「てめえら(アンタら)なにしてやがる(なにしてんのよ)!」
と声を合わせスキルアウトをボコボコにしていった
主に少女が電撃で蹴散らしているのだが、それでもコンビネーションは抜群だと思えるほどであった
電撃を上条が避け(打ち消しているのは理解してない)少女も上条を信頼して電撃を撃っているのが見て取れた

「すごい……でも、なぜ彼らは私を助けてくれたのでしょうか」
縁田は二人共にちゃんとした面識があるわけでもない……例えあったとしてもこの姿ではわからないだろう
そして、上条には一度助けられているのだ…でもその時はただ単に上条の気まぐれかと縁田は思っていた
それでも、二人がスキルアウトをボコボコにするまで彼らになにか言う事も出来ず、見ていることしか出来なかった

そしてボコボコにし終わると
「大丈夫か?」と上条が声をかけ、手を差し伸べる
「ったく、この手の連中は絶滅しないわね」と少女はボロボロのスキルアウトに向って言う
手を差し伸べられた縁田であったが何故見知らぬ自分を助けてくれたのか理解が出来ないでいた
「何故、あなた方は見ず知らずの私を助けてくれるのですか? 先程だって別に見なかった事にも出来たはずです」
と縁田は上条と少女に向って呟いた
「んーそういわれても……なあ?御坂」
「なあ、ってそうね…困ってる人は見捨てられない性格だし、私もアンタも」
と理由がないことに困っている二人を見て縁田は思った…この人たちもミリ様と同じ人たちか
昔、荒んでいた自分に優しく手を差し伸べてくれた少女を思い出し、そう納得した

この人たちは心優しい人達なんだという久しぶりの安堵感と自分を待ってくれているであろう少女を思い出し
「ありがとうございます、この御恩はいつかかならずお返しさせていただきますね」
そう言った…縁田は無自覚で能力を乗せている事を忘れて
「まあ、そこまで気にしないでいいと思うぞ…困った時はお互い様だしな」
「そうね、まず無事に帰らなきゃ恩もなにもないわよ? ……あ、アンタ何気に今日はもうないだろって思ったわね?」
少女は少しほっとしている上条を見て話題を変えた
「げ、そ…そんなことはないですことよ」
汗をダラダラ流しながら後ずさりする上条
「あからさまな嘘ついてんじゃないわよ!」バチバチバチッ
そう言って二人は去っていった

「なんだ、あの二人相思相愛なんじゃないですか……」
追いかけられているがその時間を少女と過ごせることに喜ぶ上条
怒って追いかけているが上条と過ごせることに幸せを感じる少女

そんな感情を読み取ってしまった事に罪悪感を覚えたがあの二人を引き合わせなくては行けないなと思う縁田だった

……………………

それがあの二人に恩返ししなければいけないと思った主な出来事だった

「はあ、それにしても上手く計画は進まないものでしたね…」
公園に着いた縁田はベンチに腰掛け今まで計画失敗を振り返る
美琴が意外に素直になってくれたこと、上条がなんとなく本音を漏らしてしまい恋人に発展したことは良い失敗だ
しかし、遊園地での事件やそのせいで美琴の能力が戻る時間が大幅に遅れたのは悪い失敗だ

時刻は2時50分 待ち合わせまであと10分、それまで心を落ち着けて彼らを待つことにした


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