とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

最終更新:

NwQ12Pw0Fw

- view
だれでも歓迎! 編集


胸に抱く、想い


11月下旬―――

現在は一端覧祭も終わり、それまであった校内の浮ついた雰囲気もひと段落ついている次期である。
放課後の教室で、上条当麻は窓際から部活動に勤しむ生徒をみつつ、
「このままだと、今月も節制生活かなぁ…」
そうポツリと呟いて、ふとこれまでを振り返った。


第三次世界大戦、そしてその事後処理も色々と大変だった。
インデックスは遠隔制御霊装によって受けた負担が大きかった為、療養で現在もイギリスに残っている。
必要悪の教会にとっても、今後の対策を施す為に手元に置いておきたい、というのが主な理由ではあるだろう。
いつぞやの『首輪』や『自動書記』と同じようなモノを施される恐れもあるが、今は色々な仲間が居る。
もしそんな事が行われるような事になれば、その仲間たちが守ってくれるだろう。 もしくは、有無を言わさずに自分が召集されるハズだ。
本当はインデックスの傍に居るのがベストであったのかもしれないが、現実がそれを許さなかった。
そう、高校の出席日数である。
授業中の小テストや定期テストなどの成績が悪いのに加えて、出席日数が完全に足らなくなっていた。
それもそのハズである。 空港に連れ去られた日から、海外を転々としていたのだから。

学園都市へと戻った日、早速担任の月詠小萌に連絡を入れた。
まずはこちらに顔を出しなさいと言われ、先生宅に向かう。
出迎えてくれた小萌先生は、安堵・嬉しさ・怒りなど様々な感情が混ざった複雑な表情をしていた。
そんな担任の様子を見て
「何も言い訳はしないっす! 今まですみませんでしたっ!!」
上条は素直に謝った。 そんな様子を見て小萌は上条に声をかける。
「また上条ちゃんは何かをしていたのですね。 まったく相変わらずの困ったちゃんです。 でもそんな上条ちゃんだからこそ、見捨てる事なんてしないのですよ~。」
必要以上は何も聞かず、更には見捨てはしない。 とまで言い切ってくれた小萌先生にただただ感謝するのみだ。
それから、上条と小萌は今後について話し合った。 が、結論からしてみればそれは簡単であった。
まずは近く開催される一端覧祭に協力する模範生徒として準備期間からその終了までを過ごす事。
そして、その準備期間中に1学期から今までの課題を改めて提出し直す事。 そして一端覧祭後には怒涛の補習コースを受ける事だった。

当初、こんな課題の量を一人でこなすのは無理ではないかと思われた。 が、小萌からそれとなく話を聞いたらしいクラスメイトが次々と集まりだして上条の課題提出に協力した。
吹寄は不承不承と言った感じではあったが、姫神を始めとした多数のメンバーが集まり出すと各自の担当分を振り分けし、見事なまでの効率化に尽力してくれた。
―――手伝いに集まったメンバーは女性の比率が高く、その事で土御門や青ピを始めとする男子生徒から怒りを買って一端覧祭で仕返しされたのは別のまたお話である…
とにかく、そんなクラスメイト達のお陰で出された課題は無事提出し、一端覧祭も色々とあったが盛況の内に終える事が出来た。


一端覧祭が終わってすぐに怒涛の補習が始まり、今日はやっと金曜日。
「上条ちゃんはみんなの思いに応えてこれまで良く頑張りましたからね。 明日は特別に補習はお休みにしますので、土日でリフレッシュして下さいね~。」
という小萌先生の気遣いに感謝した。
土日に何をしよう? と考えた所で、ようやく我が家の財政難を改めて思い出した上条であった。
インデックスが居ない為、食費はかなり減った。 が、いつまた戻ってくるかも分からない。
ならば出来るうちに節約し、少しでも蓄えを増やさないと。 と思った所で、絶望した。
まだ少し補習が残っている為にバイトは出来そうにない。 そう考えた所で出た呟きが先程のものだった。

「お?カミやん、まだ帰ってなかったのか。 何か考え事でもしてたのかにゃー。」
「まあそんな所だよ…考え事と言っても、所持金が少なくて困ったな、くらいのもんだけどな。」
「それなら、この土御門様が良いバイトを紹介してやるぜい。」
「まだまだ補習があるから、バイトなんて出来そうにないぞ?」
「大丈夫。 そのバイトは、複数の質問に答えるだけらしい。 しかも日払いだから給料もすぐにゲットできるし、額も結構良いみたいだぜい。」
今ひとつ信じられずにいる上条に、
「ま、その気があるなら今日の内にバイト先に連絡でもしておけ。 それじゃ俺は舞夏の手料理が待っているんでこれにて帰るにゃー。」
と言うと、土御門はバイトの連絡先を書いたメモ帳を上条に渡して教室を出て行った。
(…ま、怪しいが今は贅沢を言ってられる立場じゃないか……)
怪しい気もするが、日給という所が捨てがたい。
上条は少し悩んだ末、バイト先へと連絡する事にした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

翌日朝 いつもの公園―――

「ふ、不幸だ…」
いつもの台詞を呟くと共に、上条はガックリと肩を落とす。
朝、予定していた時刻通りに起きて準備も済ませ、駅へと向かった。 そこまで何も起きなく、久しぶりに順調だ!と思った矢先である。
途中で財布を落としたのに気が付いた。 移動中に落としたのであろうが、駅と自宅を何回も往復したが結局見つからなかった。
現在、休憩の為に途中にあるいつもの公園のベンチへと来ていた。
時間に余裕を持って出たが、探し物のお陰でそれも少なくなってきている。
(仕方無い…今から急げば何とか間に合うだろうから、歩いてバイト先に行くか…)
と考え、立ち上がろうとした瞬間―――バチバチッッ!!と心臓に悪いスパーク音が響いた。

「…人が話しかけてるのに、無視すんなやこらーっ!!」
上条は慌てて振り返ると、飛んできた雷撃の槍を右手で打ち消した。
声の主を見やる… 改めて確認するまでもなく、そこには御坂美琴が居た。
「お前は…いきなり人にビリビリする以外に―――」
「何度も声かけたけど、無視されたわよ! ったく、なんで未だに私の事だけは検索件数ゼロ状態なのかしら…」
言い終わる前に、呆れた美琴が答えつつ上条に近づいて来た。 改めて美琴を見やると、珍しく私服である。
「あれ? 珍しく私服なんだな。」
「あぁ、これ? 一端覧祭の直後だし、制服で出歩いてると目立っちゃうのよね。 それに、今日は寮監も居なかったから息抜きを兼ねて、ね。」
言われてみればそれもそうか、と美琴の後輩である白井から聞いていた話を思い出す。
「とりあえず、元気そうで良かったよ。」
「っ!? あ、ありがとう。 」
それまでの快活な態度から一変、何やらもじもじとしだした。
「あ、あの……こないだまでのアレ。 い、今更だけど、め、迷惑だったかな……?」
急に不安そうな顔になって美琴はこちらを見つめてきた。
「いや、全然迷惑じゃねえよ。 お陰で、こっちも良い気分転換にもなったし、それに安心もできたしな。」
「そっか、良かった。 安心、してくれたんだ…」
後半になる程声は小さくなり、最後は聞こえなくなった。 何を言ったのか気になりはしたが、元気そうだし大丈夫かと思い直す。
「そういえば、何か用か?」
「べっ、別に特別用事があるって訳でもないんだけど… 久しぶりにアンタを見かけたら、朝から不幸そうな顔してたからさ。 気のせいか疲れた顔もしてるし。」
疲れたのは不意打ちのせいもある。 と思ったが、それを口に出すと先程以上に面倒になると思い喉元まで出かけたその言葉を飲む。
素直に現状を説明する事にした。

「…ってな理由で、これからバイト先まで歩いて向かう事を考えてゲンナリしていた訳。」
「第5学区って、隣の区とは言え結構あるわよ? …う~ん…わ、私もたまたまそっちに用事があるし、途中まで送ってあげる。」
「いや、それは流石に悪いよ。 俺なら、歩いて向かうからさ。」
「電車代を出してもらうのが気が惹けるって言うなら、今度何か一つ私が言う事を聞いてくれればokよ?」
「その、『何か一つ』というのが上条さんとしては非常に怖いと言うか―――」
「怖いって何よ! お望みなら、超電磁砲100本ノックでもいいんだけど…?」
にやりと笑う美琴に、すぐさまガバーッ!と土下座体制へと移行する。
「ごめんなさい、それは許して下さい。 そういった類のお願い以外で、お金がそんなにかからないものであれば大丈夫かと…」
「そんな事分かってるわよ~。 それに、バイトの時間までそんなに余裕がある訳でもないんでしょ? 素直に着いて来た方が良いと思うけど?」
どんな事をお願いされるのだろう? と上条は不安になったが、止めておく。
下手に固辞して言い争いになり、いつもの追いかけっこが始まってしまうより、素直に好意を受けた方が良いか…
そう思い、美琴に着いて行く事にした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日朝 第7学区のとある駅 上条から見た美琴―――

あれから二人は駅に移動し、切符を購入するとホームへと移動した。
週末という事で空いているかと思ったが、第6学区のレジャー施設で新アトラクションが今日からお目見えするらしく混んでいる。
(これは来る電車も混んでそうだな、オイ…)
早くもゲンナリするが、混雑さえ我慢すればバイト先に余裕を持って着ける、というのが嬉しい。
そんな事を考えていると、ホームに電車が滑り込んで来た。


降車する乗客をやり過ごし、美琴を前に立たせて電車に乗り込む。 乗り込むと、乗客の多さに不安になったのか美琴がこちらを向いてきた。
大丈夫、と伝えるように頷いたが、後から乗り込もうとする客にすぐに押され始めた。
どこに立つのが安全か?と考えたが、そう考えている最中も乗り込んだ扉とは反対側の扉までどんどん押されていく。
危ない、このままでは美琴が背中を扉脇の手すりにぶつけてしまう。 そう思った瞬間、身体は勝手に動いていた。
右腕で美琴を引き寄せる。 左は肘から先を曲げ、扉に手を付けこれ以上押されないように踏ん張る。
結果、上条が美琴を半ば抱きしめるような格好となっていた。
美琴の頭が自分の頬辺りに当たるのを感じ、ドキっとした。
(かっ、か、上条さんには決して下心は無いのです事よ!?)
こういった事は一旦意識してしまうとどうにも気まずい。 どうしようか?と考えているとようやく扉が閉まり電車が出発した。

(とりあえず、右腕を少しでも…)
さり気無くずらそうとした所で、美琴がピクッ!と反応した。 どうやら右腕はずらせそうにない。
それならば、と美琴が少しでも楽になるように身体を少し離す。 …これは成功したようだ。
このまま何事も無く着いてくれ~という上条の思いとは裏腹に、急に押された。 どうやらカーブらしい。
再び押されて美琴が近付く。 近付いた美琴の髪からふとトリートメントの香りを感じた。
(な、何も疚しい事は考えていないのに、何故か背徳感が… まずは、押されて窮屈にならないようにしないとな。)
そう思い直し左腕に力を込めると、少し腕が震えた。 その感触に、美琴がビクッ!と反応する。 人いきれで暑いのだろうか?顔が少し赤い。

しばしの間躊躇った。 が、体調不良になっても心配なので
「あと4駅だけど、大丈夫か?」
そう声をかけようとした所で、再びカーブに差し掛かった。 その弾みで美琴に急接近し、結果耳元で囁くかのようになってしまう。
気のせいか、耳元まで赤くなっている。 それはまるで、照れているかのような…?
(こっ、こ、これは可愛いかも知れない… ッハ!? お、落ち着け自分!!)
美琴はコクンと頷いて、上条の服の端をキュッと握り返してくるだけであった。
思わぬ可愛い反応に、このまま抱きしめたい。 守ってやりたい。 とふと思ってしまう。
(そ、そんなに可愛い反応されてしまうと上条さんの理性が… って、いや、待て待て! というか、理性が持つうちに早く着いてくれ~!!)
上条はそんな叫びを心の中で上げた。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日朝 第7学区のとある駅 美琴から見た上条―――

到着した電車は予想どおり混んでいた。 降車する客をやり過ごし、乗車する。
中も人でいっぱいだった。 少し不安になり、上条の方へ身体を向けた。
大丈夫だ、とでもいうように上条が頷く。 が、頷きが終わるか否かの辺りで上条が凄い勢いで近付いて来る。
事態が掴めずに驚いているうちに、入ってきた扉がどんどん遠ざかる。
(このままだと、背中から扉にぶつかる!?)
この後あるであろう衝撃を覚悟し一瞬目を閉じたが、それはいつまで経ってもこなかった。
気が付けば、誰かが自分の背中に手を回しているようだ。 右腕でぶつかるのを防いでくれたらしい。
誰だろう?と思いその先を辿って行くと… それは上条であった。 しかも、抱きしめられている。
(ふぇっ!?)
思わず身体がピクッ!っと反応してしまう。
それじゃあ、左腕は?と反対に目をやる。 扉に手を当てていた。
上条の腕に不意に力が入る。 その突然の腕の震えに、ビクッ!と反応してしまう。 …恥ずかしい。
そこでふと、自分が扉にぶつからないように、そしてその後も窮屈になってしまわないように上条が守ってくれている事に気が付く。

それが分かった瞬間、コイツはズルい、と思った。
(自分の行動にも問題もあるのだろうが、)こちらが恥ずかしい気持ちを抑えてアタックしても思うような反応が返ってこない。
思うような反応が返ってこないどころか、不幸な出来事(アクシデント)が邪魔して流れてしまう場合もある。
ひょっとして、自分は何とも思われていないのではないか?と、思ってしまう事さえある。
自分は所詮、色々と助けた人達のうちの一人でしかないのか。と…
しかし、その度にこうも思うのだ。 夏休み最後の日、たまたまではあるが聞いてしまったあの約束は…と。
もう少し素直に行動すれば、こちらを振り向いてくれるのだろうか…
そう悩んでいると、不意にコイツは心の距離を一気に縮めてくるような行動をする。
助けを求めたくとも求められなかったあの夏、心の奥までズカズカと入り込み、地獄の底から救い上げてくれた日の様に。

そこまで考えた所で、らしくないなと思い、それ以上考えるのを止めた。
今は上条の右手のお陰で漏電の心配は無いが、なるべく意識を次の事へ、次の事へと集中して冷静になろうとした。
(目的の駅に着いたら、まずはバイト先とやらの場所を確認しないと。)
よし、それで仕切り直しをしようと思った矢先、電車はカーブに差し掛かった。 それにつられて乗客も揺れる。
次の瞬間、美琴の耳元に上条の言葉が優しく入り込んできた。
「あと4駅だけど、大丈夫か?」
不意打ちの行動とその言葉に何とか頷き、上条の服の端をキュッと握り返えす事で返事をする。
勘違いだとは分かっている。 けれど、勘違いと思いたくない、信じたいとも思ってしまう。
(ほんっとに、コイツはズルい…)

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

同日朝 第5学区のとある駅―――

ようやく目的の駅に電車は到着し、人を掻き分けてホームへと降りた。
大学では今日も講義があるのか、降車した客も多い。
人が多いおかげで、その流れに乗る事に集中して気を紛らわせる事が出来る。
上条は手を離したがっているようだが、そうはさせない。
「今手を離すと、能力が暴走するかもよ~?」
と表向きの理由を美琴はコソっと言ってみた。
もちろんそれもウソでは無かったが、裏の理由は私を意識させる為だ。
「そ、それは確かに困るな… うん、困る。」
困ったような、それでいて少し照れているような返事が返ってきた。
(いつも不意にドキドキさせられてるんだから、たまにはこちらがやるのも良いわよね?)
うんうん…と心の中で頷き、階段へと向かう。
もう少しで階段だ、といった所で

「ぬっふぇ!?」

後方からふと、何やら聞き覚えのある声を聞いた気がした。
急いで辺りを見回してみるも、誰が発したのか良くわからなかった。
気になりはしたが、いつまでもその場で立ち止まる訳にもいかない。 仕方無い、まずは改札へ向かう事へ集中しよう。
ヘタをすれば、上条の不幸で何かアクシデントが起こりかねない…


改札前辺りで繋いでいた手を離し、行き先を案内板で確認する。
出口も近く、目的地も割合簡単に見つかった。 幸い、上条が言っていた時間には十分間に合いそうだ。
とりあえず駅を出て、適当な所まで進む。
「ほら。ここから道沿いに少し歩いて、一つ目の交差点を左に曲がれば着くみたいよ~。 ここまで来れば、流石に大丈夫でしょ?」
「おぉ! サンキュ、助かったよ。」
ニカッと満面の笑みを向けたあと、手を振りながら上条は去って行った。
「気をつけるのよ~」
と胸元で小さく手を振りながらそれを見送る。
その姿が見えなくなった所で、美琴は近くのベンチに座り一旦落ち着くことにした。
久々の休日。 もし上条を見つけられなければ、ラブリーミトンのケロヨン新作グッズ探しにでも行こうかと考えていた。
が、会いたかった上条に会え、それに加えて思わぬイベントもあった。
今日はもう大人しく帰ろう… ケロヨンの新作グッズを見つけるよりも嬉しい事があった、それだけで十分だから。

ベンチから立ち上がり、美琴は駅へ戻る為に歩き出す。
その横顔はとても嬉しそうな表情をしていた―――


ウィキ募集バナー