好きの先にあるもの おまけ
上条達の里帰りから数日経ったある日の上条の部屋。
そこでは美琴が用意したプリントに、上条が半泣きになりながら取り組んでいた。
「すいません美琴先生。別に課題が出てるわけでもないのに、どうして上条さんはこんなに勉強をさせられてるんでしょうか? しかもまだ春休みですよ」
「文句言わずさっさとやりなさい。課題や試験があるときだけが勉強するときじゃないの。普段の努力が大切なの、常識でしょそれくらい」
「ですがお馬鹿な上条さんには拷問のようなものなんですよ、こういうことは」
「だったらもう少し成績を上げて拷問に感じなくなればいいだけでしょう」
「不幸だ……」
「何が不幸よ。……うん、まあこれで一応のめどは立ったわね。あ、ほら、このプリントとこのプリント、名前抜けてるわよ。名前までちゃんと書く。アンタってこういう、なんかどうしようもないレベルでミスするのよね。名前空欄で零点なんて、一度や二度じゃないでしょ」
「それは否定できないが、どうしてただのプリントに名前なんかを?」
「普段の癖が肝心なときに出るのよ、人間ってのは。だからこういうときでも手抜きはしない」
「はいはい」
上条はプリント上の名前をチェックして、名前が抜けているプリントを発見する度にそこに名前を書いていった。
「ほら、まだ名前書かなきゃいけない物はあるのよ。どんどん書く」
そう言いながら美琴がさらに机の上に置いていく紙に、上条は次々に名前を書いていった。
そこでは美琴が用意したプリントに、上条が半泣きになりながら取り組んでいた。
「すいません美琴先生。別に課題が出てるわけでもないのに、どうして上条さんはこんなに勉強をさせられてるんでしょうか? しかもまだ春休みですよ」
「文句言わずさっさとやりなさい。課題や試験があるときだけが勉強するときじゃないの。普段の努力が大切なの、常識でしょそれくらい」
「ですがお馬鹿な上条さんには拷問のようなものなんですよ、こういうことは」
「だったらもう少し成績を上げて拷問に感じなくなればいいだけでしょう」
「不幸だ……」
「何が不幸よ。……うん、まあこれで一応のめどは立ったわね。あ、ほら、このプリントとこのプリント、名前抜けてるわよ。名前までちゃんと書く。アンタってこういう、なんかどうしようもないレベルでミスするのよね。名前空欄で零点なんて、一度や二度じゃないでしょ」
「それは否定できないが、どうしてただのプリントに名前なんかを?」
「普段の癖が肝心なときに出るのよ、人間ってのは。だからこういうときでも手抜きはしない」
「はいはい」
上条はプリント上の名前をチェックして、名前が抜けているプリントを発見する度にそこに名前を書いていった。
「ほら、まだ名前書かなきゃいけない物はあるのよ。どんどん書く」
そう言いながら美琴がさらに机の上に置いていく紙に、上条は次々に名前を書いていった。
そして美琴が最後に置いた紙に名前を書いた後、上条は妙な違和感を感じた。
「あれ、今の紙ってなんのプリントだ? なあ美琴、今のって……ん? 何やってるんだお前?」
顔を上げた上条は、自分が最後に名前を書いた紙「だけ」を美琴が丁寧に封筒に入れているのに気づいた。
しかもその封筒には美琴の実家の住所が書かれているようだった。
「なあ美琴、俺の気のせいならいいんだけど、さっきの紙って、なんか印鑑が押されていたような気がしたんだが。それも実印……」
「そ、そう?」
上条から目をそらしたまま美琴は作業を続けている。
「俺も実物を見たことがないから確証は持てないんだが、その紙に『婚姻届』という文字が見えたような気もしたんだが……」
「気のせいじゃない? 私は気づかなかったわよ」
美琴は封筒を丁寧にのり付けすると、すっと立ち上がった。
「なあ美琴、お前いったいどこに行く気だ?」
「この封筒を出しに、ちょっとそこまで」
「それで、その封筒の送り先は?」
「えっと、私の母さん?」
「なんで疑問系なんだよ……とにかく、なあ美琴。とりあえず、なあ」
こめかみに指を当てながら言葉を選ぶ上条を見て、美琴は得心したとばかりに大きくうなずいた。
「だ、大丈夫大丈夫、何も心配しなくていいわよ!」
「え? いや、だから……」
「アンタの心配は、よっくわかったから、大丈夫! これの事でしょ?」
美琴は封筒をピラピラと揺らしながら笑みを浮かべた。
「心配しなくたって全然大丈夫よ! 私達がこれを役所に受理してもらえる年齢になるまで、これ、ちゃーんと実家の金庫で保管しておくから。しかもすごいのよ、その金庫。ナパーム弾の直撃食らっても傷一つ付かないらしいわ、さすが学園都市製よね」
「……いや、そんなことは誰も心配なんて……だから、あの……」
「ね、だからアンタはなんの心配もしなくていいから! じゃ、そういうことで! いってきます!」
ピッと片手を上げて上条に敬礼をした美琴は玄関に向かって歩き出した。
一方、呆然とした表情で上条は美琴に手を振る。
「あ、ああ、いってらっしゃ――って、そうじゃねーだろ! ごまかすんじゃねーよ! 美琴、お前いい加減にしろよ! この間のことといい、いったいどこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ!」
涙目になりながら必死で訴える上条。
だが美琴は相変わらずニコニコと笑みを浮かべていた。
「やーねー、追い詰めるなんて人聞きの悪い。こういうのは『外堀を埋める』って言うのよ」
「どう考えても内堀まで埋められてるじゃねーか! ちょっと待て、マジで待て、後生だから本気で待ってくれ――!!」
学生寮中に響く、上条当麻16歳、魂の叫び。
「イヤ」
だが美琴は、そんな上条の叫びをさらっと無視して部屋から出て行った。
「あれ、今の紙ってなんのプリントだ? なあ美琴、今のって……ん? 何やってるんだお前?」
顔を上げた上条は、自分が最後に名前を書いた紙「だけ」を美琴が丁寧に封筒に入れているのに気づいた。
しかもその封筒には美琴の実家の住所が書かれているようだった。
「なあ美琴、俺の気のせいならいいんだけど、さっきの紙って、なんか印鑑が押されていたような気がしたんだが。それも実印……」
「そ、そう?」
上条から目をそらしたまま美琴は作業を続けている。
「俺も実物を見たことがないから確証は持てないんだが、その紙に『婚姻届』という文字が見えたような気もしたんだが……」
「気のせいじゃない? 私は気づかなかったわよ」
美琴は封筒を丁寧にのり付けすると、すっと立ち上がった。
「なあ美琴、お前いったいどこに行く気だ?」
「この封筒を出しに、ちょっとそこまで」
「それで、その封筒の送り先は?」
「えっと、私の母さん?」
「なんで疑問系なんだよ……とにかく、なあ美琴。とりあえず、なあ」
こめかみに指を当てながら言葉を選ぶ上条を見て、美琴は得心したとばかりに大きくうなずいた。
「だ、大丈夫大丈夫、何も心配しなくていいわよ!」
「え? いや、だから……」
「アンタの心配は、よっくわかったから、大丈夫! これの事でしょ?」
美琴は封筒をピラピラと揺らしながら笑みを浮かべた。
「心配しなくたって全然大丈夫よ! 私達がこれを役所に受理してもらえる年齢になるまで、これ、ちゃーんと実家の金庫で保管しておくから。しかもすごいのよ、その金庫。ナパーム弾の直撃食らっても傷一つ付かないらしいわ、さすが学園都市製よね」
「……いや、そんなことは誰も心配なんて……だから、あの……」
「ね、だからアンタはなんの心配もしなくていいから! じゃ、そういうことで! いってきます!」
ピッと片手を上げて上条に敬礼をした美琴は玄関に向かって歩き出した。
一方、呆然とした表情で上条は美琴に手を振る。
「あ、ああ、いってらっしゃ――って、そうじゃねーだろ! ごまかすんじゃねーよ! 美琴、お前いい加減にしろよ! この間のことといい、いったいどこまで俺を追い詰めれば気が済むんだ!」
涙目になりながら必死で訴える上条。
だが美琴は相変わらずニコニコと笑みを浮かべていた。
「やーねー、追い詰めるなんて人聞きの悪い。こういうのは『外堀を埋める』って言うのよ」
「どう考えても内堀まで埋められてるじゃねーか! ちょっと待て、マジで待て、後生だから本気で待ってくれ――!!」
学生寮中に響く、上条当麻16歳、魂の叫び。
「イヤ」
だが美琴は、そんな上条の叫びをさらっと無視して部屋から出て行った。
上条当麻と御坂美琴。
二人の過ごす日常は、今日も平和そのもののようである。
二人の過ごす日常は、今日も平和そのもののようである。
全て世は事もなし。