とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part01

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だれでも歓迎! 編集



「アンタみたいな役立たず要らないの。もう私に近寄らないで。」
一体何度この嘘を使って自分の周りの人間を偽り、拒絶し、失望させただろう? 
常盤台中学3年生、Lv.5のエレクトロマスター、超電磁砲の御坂美琴は長い欠席のため学校から進級試験を言い渡されたが、
先月丸一日掛かるはずの試験を難なく午前中に終わらせ、今日始業式を迎えた。
始業式の後、数人の教師から「よく頑張った」と褒められたが、一人として生徒が声を掛けることは無かった。
しかしそれは今に始まった事ではない。実はここ3ヶ月ほど教師や親、妹達以外で美琴に声を掛ける者など居なかった。

半年前、世界を巻き込んだ戦争はとある少年の活躍により事実上終結したものの、美琴は行方をくらませたその少年のためにミサカ10777号とロシアに残り捜索を続けた。
途中、打ち止めや番外固体と合流し捜索を続け2ヶ月が経った頃、学園都市で捜索の協力をしていた妹達から「ハッキングによりある情報を見つけました」と報告が入る。
そしてその情報を見た美琴はある決意を胸に秘め一度学園都市に戻る事になった。 

始業式の後、美琴は一人で学校を後にし今はビルの屋上の手すりに寄りかかりながら茜色に染まり始めた第7学区の町並みを眺めている。
そしてそのままポケットに片手を入れ小さなプラスチックの塊を握り締めた。それはもう長い事会っていないとある少年との唯一形のある思い出だった。
これを凍り付いた海から拾い上げて半年間、肌身離さず持っていたが未だに拾った時の様に冷たく感じて、それがあの時から何も変わっていないかの様に思わせる。 
だがそれも今夜で終わらせる。美琴は足元に置いた薄っぺらい学生鞄とスポーツバッグを取り空を見上げた。
「まったく、まだやる事ってどんだけ時間が掛かってるのよ。・・・・・いいかげん声ぐらい聞かせてもらうからね・・・・」
そう呟き、手すりに手を掛けて飛び越えようとする。美琴は磁力を操る事が出来るので20階建てのビルからでも階段を使わず楽々降りることが出来る。 
足に力を入れ一気に手すりを飛び越えようとした時、後ろから「カツッ」っと靴が地面を叩く音がした。 
美琴はそのまま振り返らずに動きを止める。 
「ジャッジメントですの!ここに不法侵入者がいると通報を受け・・て・・・・・・・・御坂さん?」
ズキンと美琴は痛みを感じた。振り向かなくても声ですぐ解る。かつてのルームメイトで元パートナー、誰よりも美琴を慕っていた後輩、白井黒子だ。
自分でそうさせたにもかかわらず、未だに苗字で呼ばれると距離を感じてしまう。
美琴が無言で唇を噛み締めているとガバッっと急に黒子がしがみ付いて来た。
「な!何をしようとしていますの?!ダメです!死ぬなんて!約束したでしょう!?グズッ わだぐじも強くなるって!!あなだの力になれるように強くなるって!!ウエッ だからそんな事はじないで下さいでずの!ヒック お姉さま!!」
黒子のしゃくり上げる声を聞いて美琴は心の中で温かい物を感じた。
まったくこの子は何を勘違いしてるんだか・・・・でも・・・・・「お姉さま」か・・・まだそう思ってくれているのね。
こぼれそうになる涙を必死に堪え美琴は振り向かずに声を掛けた。
「大丈夫よ 黒子」 
「え?」
フッと黒子の力が抜けたその隙に美琴はスっと黒子の腕からすり抜け手すりを乗り越えビルから飛び降りた。 
番外固体に教えてもらったように、着地地点近くにあった風力発電機に磁力で自分を引き寄せ軽やかに着地するとそのまま振り向かず夕日を背に走り去った。
「あっ!!」
黒子が急いで手すりから下を見下ろすと美琴が走り去って行くのが見えて軽く溜息を吐く。
それは美琴が無事だった安堵と美琴の発言による困惑が入り混じった溜息だった。
黒子はポケットから携帯を取り出すと電話を掛ける。
『あ!白井さんですか?!丁度良かったです。やっと監視カメラのノイズが取れたところだったんで』
「初春。監視カメラで何か見えましたか?」
『いえ。ノイズが酷くて、やっと映るようになったと思ったら白井さんしか居ませんでした。そっちは誰か見ましたか?』
「いいえ。誰も居ませんでしたの。多分電波障害か何かでしょう。アンチスキルに連絡するほどでもないでしょうけど、一応周辺を見回りしておきますわ」
『解りました。では気を付けて帰って来てください』 
「ええ」
黒子は電話を切ってポケットに仕舞って先ほど美琴が居た手すりに寄りかかりながらまた溜息をついた。
「お姉さま・・・・・」
さっきの声はなんだったのか?黒子は考える。あの声は久し振りに聞いた声だった。そう美琴が2ヶ月半ほど失踪する前、まだ拒絶される前の声だった。
美琴が学園都市に帰って来てから、最初に聞いたのは自分が彼女に必要とされて無く、ただの足手まといだと言う拒絶の言葉だった。
その時初めて彼女から逃げ出した。一晩中誰も居ない公園で泣いたのを覚えている。それからというもの、美琴はずっと自分に冷たかった。
最初は嘘だと思い、何か秘密があるのではないかと聞いてみたが「アンタに何がわかるの?」「話しかけないでよ」「うるさい」などと拒絶される一方で、本当に自分が足手まといだったんじゃないかと思って自ら身を引いた。
しかしさっき聞いた声は今までとは違った。思いやりのあるやさしい声だった。どうして今更そんな声で話しかけてくれたのか。
黒子にはわからなかった。
ピロリロリン 黒子が思いふけっていると携帯からメールの着信音が聞こえたのでポケットから携帯を取り出しメールを開く。

_________
From:御坂美琴
Re:お願いします

大丈夫。 
必ず帰ってくるから
そのときは話させて
_________

「え?」
黒子は驚いた。なぜならそのメールはもう返信される事は無いと思っていたからだ。


今年に入って1ヶ月が経った頃、急に美琴が「勉強に集中したい」という理由で寮監に一人部屋にしたいと言い始めた。
学校側も美琴の勉強のためになら、と一人部屋を承諾した。
黒子は部屋が別々になってしまったらもう和解する事は出来なくなってしまうと思ったが直接話しても相手にしてくれないと思い、意を決して「本当の理由を聞かせて下さい」とメールで聞いた。
翌日美琴にメールを読んでくれましたか?と聞いてみたが「え?メール?見てない、てか着拒してるし」と返事をされ、それ以降美琴を「お姉さま」と呼んだり必要な時以外話しかけるのを止めた。
やっぱり何か違う理由があったんですね・・・お姉さま! 
パタタッと涙が手すりに落ちる。そして気が付いた。手すりには白くて丸い、まるで塩水を乾かした様な跡が無数にある事を。
「まったくバカですわね。パートナーを信用出来ないなんて」
黒子は思った、どうして信用出来なかったのか?と、どうして勝手に決め付けたのか?と、どうして「自分は役立たずだ」と諦めてしまったのか?と。
「後悔なんて後でいくらでも出来ますわよね・・・お姉さま」
そう言うと黒子は携帯を取り出しリダイアルボタンを押して電話を掛けた。
『はい。どうしました?白井さん』
「初春!!先ほどの監視カメラを中心に半径5km以内のカメラの5分以前からの映像にサーチを掛けて!!今すぐですわ!!」
『ひゃい!?急にどうしたんですか?ていうか誰をサーチするんですか?』
「きまっていますわ!お姉さまですの!」
『お姉さま・・・って御坂さんですか!!仲直りできたんですか!?』
「いいえ!これからしますの!!だから急いで!」
『わかりました!5分ほどで出来るので見つけたら連絡します!』
ピッ
黒子は電話を切り群青色になった東の空を見る。
「お姉さま、もうわたくしはもう逃げません!」
そして美琴が走り去った方向へ瞬間移動した。


「意外と遅かったですね。なにか問題でも?、とミサカは少々溜息交じりで呟きます」
「ごめん。ちょっと色々あってね。虫の方は大丈夫?」
美琴は第16学区にあるホテルの一室に入りミサカ10032号と合流していた。
「既にジャミング電波を発信していますので盗聴の心配はありません。まずはこの間渡した服に着替えて下さい。しかし、お姉様は最近ルーズすぎます、とミサカはやれやれという感じで愚痴ります」
「愚痴こぼせるならそろそろ社会勉強は必要なさそうね。こっちは大丈夫、問題ないわ」
美琴はスポーツバッグから黒い服を取り出しながら話す。
「そうですか」
そう言いながら御坂妹はテーブルに大きな紙を広げた。
美琴は御坂妹から貰った黒いジャージの上下に着替え終え、ニット帽を被りながらその紙に目を落とすと御坂妹は口を開いた。
「ではブリーフィングを始めます。これが地下施設の見取り図です。ここが港でこのA地点深度約15mから巨大な地下水道が続いています。長さはおよそ800m。そして地下水道の突き当たりの真上に巨大冷凍倉庫がありますがこれ

は倉庫ではなく潜水艦用のドッグ兼研究施設への昇降機だと思われます。この倉庫をB地点としそこから北西へさらに530mほど地下施設が続いている事がわかりました。さらに張り込みの結果、作業員に偽装した研究員が数人

出入りしている事がわかりましたので研究施設と見て間違いないでしょう。そしてこのC地点から奥に10mほどの所に目標があると思われます。」
御坂妹は淡々と説明しながら紙に赤いマジックで書かれたアルファベットを指差していく。
「よくこんなに詳しく調べられたわね」
美琴は関心しながら声を漏らす。
「ソナーの原理を利用して大体の構図を解析し、その後工作員として忍び込みました、とミサカは説明します」
「え?侵入出来たのにどうしてアイツを助け出さなかったのよ!!」
美琴は声を張り上げた。
「私たちはチームワークがあっても個々の戦闘力はそれほどありません。なので彼を発見出来たとしても彼を連れて施設外に脱出するにはリスクが高すぎたのです、とミサカは自分の非力さを悔やみます」
「なるほど。じゃあ今回は私がいるから救出できるってわけね。」
「はい。今回は偵察ではないので人員を増やせます。ルートは3つ用意しました。侵入はB地点から10人。青、緑、橙のルートでC地点に向かいます。
このライン上のセキュリティだけを解除しますのでこれ以外のルートは使わないで下さい。基本はスリーマンセル、お姉様だけフォーマンセルで行動してください。
最短ルートの青と最長ルートの橙を私たち、お姉様は中間距離の緑のルートを使って下さい。作戦開始は21:45。開始と同時に先ずA地点の水道を爆破して封鎖します。
その後お姉様と私たちは昇降機より施設内に侵入。残りは施設外からの監視とセキュリティの解除、通信妨害、破壊工作、増援の阻止などをします。」
「随分と忙しそうね。大丈夫?」
「問題ありません。施設外は36名で担当するので人手は足ります。とにかくお姉様はC地点に行く事だけに専念してください。そこで一番最初に付いたチームが10分だけ待ちます。
他のチームと合流したらそのまま目標を救出した後脱出して下さい。」
「わかったわ」
「では。派手に行きましょう、とミサカは興奮を抑えられずにニンマリします」
「ええ。ここまで来るのに半年も掛かったけど、これで終わらせるわよ」
そして二人は部屋を後にした。


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