とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part15

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見知らぬ記憶


「……ん……うん……とう…ま…」

「……ふにゃ~……エヘヘ……」

 現在は深夜、御坂美琴は夢の中である。

 ここのところ、私はアイツ中心の生活だ。毎朝6時にモーニングコールが入れるのが習わしなので、その少し前には起きる。モーニングコールで朝の他愛ない会話を交わし、幸せな気分でシャワーを浴びて、早めの朝食。身支度を調えて7時過ぎにはアイツの寮へ。7時半きっかりに寮に着いたら、朝食を作り、アイツがそれを食べている間にお弁当を作って、8時過ぎには寮を出て途中まで一緒に学校へ。(ア~ア、早くアイツと一緒の学校に行きたいな)
 授業が終わったらいつもの自販機の前で待ち合わせ。私はいつも少し前には着いてアイツを待つのが日課だ。アイツが3時半に来て(最近かなり時間を守るようになってきた。ムフフ、コレも私の教育の成果ね)、スーパーで一緒に買い物をしてからアイツの部屋へ戻って、アイツは勉強、私は夕食の準備に取りかかる。
 私の愛情たっぷりの夕食(エヘヘ……)を一緒に食べた後、後片付けをアイツがしてくれて(コレって、新婚さん……っぽくない?キャーッ!!!デレデレ)、その間に私が勉強内容をチェック。大体同じところばかりを間違うのよね……。何度言っても直らないからついつい厳しい言葉を言ってしまう。でも、そんな楽しい時間は瞬く間に過ぎてしまって……門限時間に間に合うようにとアイツは私を寮まで送ってくれる。嬉しいけれど、一番寂しい時間……。だから……別れ際は甘えてしまう。
 何度帰りたくない。泊まりたいと思ったことか。もっと一緒に居たい。離れたくない。それを何度か口にしたことがある。態度で示したことも。でも、アイツは絶対にそれを許してくれない。“理性”がどうとか。“中学生”だからとか。そんなの気にしなくてもイイのに……。私は……私は……ちょっと怖いけど……イイのに……。
 休みの日は、朝から夜まで一緒に居られる。今はまだ勉強のことがあるからあまりデートは出来てないけれど、当麻の成績を上げて、絶対、絶対、一杯一杯デートして、一杯一杯甘えてやるんだから!!!

 この前、アイツがスゴいことを言い出した。アイツと私が裸で愛し合ってる夢を見たというのだ。
 恥ずかしかった。真っ赤になった。でも、でもっ、いつかは必ず通る道。怖いけど、アイツなら……「イイよ」って。そう言ってしまった……。後悔なんてしてない。アイツになら、私が世界で一番好きな人。その人の前なら私は私で居られる。私に、御坂美琴に御坂美琴としての居場所をくれる上条当麻になら、私を全部あげてもイイ。
 でも、今はまだ早いと当麻は言った。だから、この想いは胸の中に秘めておこう。その時が来るまで……。そして、その時が来たら……絶対、一杯、甘えてやるんだ。あの日、私はそう誓った。
 それに、「その夢は“幻想”ではなく“記憶”なんじゃないか」という事も話した。続きが見られたら話してくれると約束した。どんなに隠したって、絶対に聞き出してやるんだからね。お嬢様、舐めんなよ!!!

 でもホントに私は今、当麻と一緒に歩けるようになったんだなぁ……。しかも、想い続けたあの人からの告白で。1月前にはこんな日が来るなんて想像も出来なかった。
 1月前の私が今の私を見たらどう言うだろう?でも1月前の自分に、今の自分が何を言っても通じないだろうな。と思う。ホンのチョットしたことなんだけど、でもそれは“超えない”と分からない。今の私はそれを“超えた”からそれが分かる。1月前の私はまだ“超えてない”からそれが分からない。それだけの違いなのに、なんて大きな違いがあるんだろう。
 レベル5になった時は気付かなかったのに、当麻と居ると色んな事に気付かされる。新しい自分をどんどん発見出来る。だから私は彼の右手を絶対に離さない。


 そんなある日の事。

(………あれ?………当麻?………なの……?)

(ちょっと、雰囲気が違う?………。何となく、ううんスゴくカッコいいし、何か逞しい!!………でも、やっぱり当麻だ)

(何か………スゴく大人っぽい………何か違う………でも、間違いない)

(え?………わわわわわわわわわわわわ………そ、そんないきなり………もう、強引なんだから………でも、嬉しい………幸せ………)

(あ、アレ?………と、当麻?………えええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

(そっそっそんなっ………だって………だって………この前、早いって言ってたばかりなのにぃ~~~~~~~~~)

(たったっ確かに、私はあの時“イイよ”って言ったけど~~~~~)

(待ってッ!待ってッ!!待ってッ!!!こっここっここここここここここここここここここ心の準備がッ!!!!!!!!!!)

(むねっ!!むねっを!!!………胸をッ!!!!………って、アレ?………私の胸、大きい!!!!お母さんにも負けてないっ!!!!!!!!!)

(えっ!?えっ!?えっ!?えっ!?えっ!?ええええええええええええええええええええええええええっ!?)

(まっ、まっ、まっ、まっ、まままままままままままままさか………えっ!?…それッ………)

(えっ、えっ、えっ、怖い、けど、イイけど……、やっぱり怖い。えっ、うそっ!?待って、当麻!!待ってぇ!!!きゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………)

『ガバッ!!!』

「ハッハッハァーッハッハッハァーッ………ンッ………ハッハッハァーッハッハッハァーッハッハァー………」

「ハァ………えっ?、えっ?、ええっ?えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」

「………私ったら何て夢を見ちゃってんのよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」

 今見た夢の内容に身悶えして苦しんでいる美琴。
 「だって、女の子だモンッ♪」
 では済まないようだ。



 上条が見たというあの夢が“幻想”なのか、それとも“記憶”なのか。分からないまま数日が過ぎた。
 上条が美琴に相応しい男になる。と誓いを立てたあの日から数日が経とうとしていた。
 この間は美琴にとっては普段と変わらぬ幸せな日々だった。

 あの日以来、美琴は上条に夢の続きを早く見るように催促し続けている。
 『続きを見たら話してやるよ』と上条と約束したからだ。
 しかし、上条にとっては無茶な話である。夢の続きなどそう簡単に見られる訳はない。自分の意志でどうなるものでもないのだから。
 だが、美琴はその無茶を言い続けている。過去の記憶(だと彼女はもう信じ切っている)だからこそ知りたいのだという。
 自分と上条が、どんな家庭を築き、どんな風に愛を深め、どれ程幸せでいるのかを知りたくて仕方がないらしい。
 その事を語り出すと彼女は止まらなくなり、どんどん話はエスカレートしていく。
 そして最終的に自ら地雷を踏んで『ふにゃー』化と共に漏電&気絶コースにまっしぐらなのだが、何度繰り返しても懲りないようだ。
 上条はそんな彼女を見る度に

「不幸だ……」

 といつもの口癖を呟くしかない。

 コレはそんな時間の中の物語である。


『ビリリリリ ピリリリリ』

「ん……んあ……あ、もうそんな時間か……」

 毎朝の習わし、愛しの美琴からのモーニングコールで上条は今朝も眼を覚ました。

「はいはい、今起きますよっと……もしもし美琴、おはよう」

『……おはよう』

「どした。エラく機嫌悪そうだな」

『む~~~~~~~~~』

「ヘッ!?……どうしたんだよ、ホントに。どっか具合でも悪いのか?」

『別に……』

「別に……って、じゃあなんでそんなに不機嫌なんだよ?」

『む~~~~~~~~~』

「あ、あの~、美琴さん。そんなに朝からむくれられても上条さんには理由が全く分からないのでせうが……?」

『……自分の胸に手を当てて、考えてみたらいいじゃない』

「えっ!?」

『(怖かったのに……)』

「えっ!?今なんて?」

『私、今日行かない』

「ええっ!?なっ何でだよ?」

『行きたくない』

「おっオイ、美琴……」

『当麻のバカ!!!』

『ピッ!』

「へっ!?……アレッ?……切っちまいやがった……。オレ、アイツに何かしたか?」

 心当たりが全くない上条は、まだ完全に目覚めてない頭の上に大きな“?”を大量に並べるのだった。

 一方、朝から超ご機嫌斜めの美琴は、先程から起きてはいるモノの、ベッドの上で枕を抱き締め、顔を半分だけ出して、座り込んだまま虚空を睨み付けている。上条のところに行かないにしても、そろそろ朝のシャワーに行かないといけない時間になのだが、一向に動く気配がない。
 ルームメイトの黒子は、起きるなりいつもの朝のスキンシップに持ち込もうとしたのだが、美琴の超ご機嫌斜めのとばっちりを受け、手加減なしで今は本当に真っ黒子にされて床に放置されている。
 因みに、この行為は寮監にはバレてないようだ。

 もうお気付きだろう。美琴が超不機嫌なのは昨夜の夢のせいだ。
 いつもは強気の美琴だが、やはりそこは女の子。昨夜の刺激的過ぎる夢に完全にやられてしまっていた。

(ホントに怖かったのに……。心の準備も出来てなかったのに……。当麻ったら、当麻ったら、止めてくれなかった)

 夢の内容は、上条の逆バージョン。つまり美琴の立場で同じ夢を見たことになる訳だが、彼女は夢の続きは上条が見るものと思い込んでいた。まさか、同じ夢を自分が見ることになるなど、想像もしていなかった訳である。
 その上で、昨夜の夢の内容が…(自主規制)…となると、嬉し恥ずかしどころではない。美琴としては“自分を大切にしてくれなかった”怒りを上条にぶつけたくなってしまう。
 何より彼女にとってアレは既に夢ではなく、“幻想”でもない。“記憶”なのだ。“実際に起こったこと”として“事実”として認識している。だから美琴としては『私が止めてって言ってるのに、当麻は止めてくれなかった。私を大切にしてくれなかった』という結論に既に達していたりする。
 だが上条にとっては理不尽極まりない感情の暴走であり、『うん、乙女心だね』という訳には行かない。

「つーか、オレ関係ないじゃん!!!アレは“夢”なんだし!!!!!」

 という上条の抗議の声が聞こえてきそうだが、そこはやはり彼の【不幸体質】の成せるワザ。
 理不尽だろうが何だろうが、やはり責任は彼に背負って貰うのが一番収まりがイイ。

(私が味わった恐怖を、アイツにも味遭わさなきゃ気が済まないんだから。当麻……覚悟しときなさい!!!)

 ……どうも八つ当たり極まりない臭いがプンプンするのだが……そんなことはお構いなしにゲームセンターのコインを握りしめる美琴だった。

 『不機嫌極まりない』といった表情で虚空を睨み付けていた美琴だったが、ふと時計を見て我に返ることになる。
 大慌てで身支度を調え、食堂で朝食を掻き込み、【学舎の園】に向かって走る、走る。(黒子は既に美琴の眼中にはない……)

(アレもコレも、全部当麻が悪いのよ!!!初めてだったんだから、もっと優しくしてくれたってイイじゃない!!!!!)

 と、誰かが聞いたら完全に勘違いしてしまいそうなことを呟きながら、美琴は通学路を全力疾走する。

 一方上条は、美琴が『私、今日行かない』『行きたくない』と言ったことにショックを受けつつも、普段通りのスケジュールをこなしての登校途中である。
 『御坂美琴に相応しい男になる』との誓いはどうやら嘘ではないらしい。
 先程まで『美琴が来てくれなくったって、上条さんは頑張っちゃうのですよ~』と、何処かの幼児先生のような口調でやるべきコトをしっかりとやっていた。
 その上条は、いつも美琴と別れる交差点を通り過ぎ、しばらく歩いたところで一瞬背筋に薄ら寒いモノを感じた。ちょうどその時美琴が、愛しの彼氏に対する恨み言を呟きながら、いつもの交差点を駆け抜けていったのだが、上条がそれを知る術はない。
 やはり彼は“不幸”だった。

 何とか遅刻せずに済んだ美琴だったが、朝からの不機嫌はその度合いは増すばかりだ。
 彼女の取り巻き達も、明らかに不機嫌な顔で虚空を睨み付け、時々どす黒いオーラを発する彼女を見て震え上がり、遠巻きにヒソヒソ話を繰り返す。その態度が余計に美琴をイライラさせるのだが、何故か小スズメ達はそれに気付かない。
 授業を行う先生達も、美琴の態度に恐れを成し、美琴の機嫌を損ねぬように細心の注意を払いながら、授業を進めていくしかなかった。
 とある新人教師は、目が合った瞬間に美琴のおでこの辺りを青白い光が飛ぶのを見てしまった。本当は朝からの不機嫌モードがピークに達しつつあったための漏電だったのだが、美琴の態度を完全に勘違いしてしまい、授業が終わった直後に涙ながらに辞表を提出し、教頭先生に宥められることになったとか、ならなかったとか。

 そんなこんなで大騒ぎの常盤台中学はちょっと置いといて、ココはいつも美琴や佐天、初春や黒子が屯してるファミレスである。
 今日も今日とて、美琴を除く3人が集まっていた。

「ハァ……ホンットに今朝は酷い目に遭いましたの……」

 いつものように黒子の前に座っている柵川中学コンビは引きつった笑いしか出せない。『自業自得だろ?』とは口が裂けても言えないし……。

「それにしても、御坂さん。どうしてそんなに不機嫌だったんでしょうね?」

「あの日……かな?」

 さすが、セクハラ女子中学生。コチラが言えぬコトをいともアッサリ言ってのけた。

「いえいえ、今日はまだその日ではありませんわ」

 自信満々に言い切った黒子に『何で知ってんの?』という視線を向ける二人。

「それよりも……昨夜お帰りになった時は、いつものように惚気話を連発されて……だから余計に、訳が分かりませんの」

「へぇ~、相変わらずラブラブなんだ~。そりゃそうだよね、あの二人なら」

「ああ~、私もあんな恋がしてみたい~」

「またアッチに行っちゃってるよ……でも、確かに羨ましいよね~」

「お二人とも、お姉様とあの類人猿がお付き合いされているのをご存知なのですか?」

「「類人猿って……」」

「確かに、上条さんは鈍感な上にバカですけど……」

「御坂さんに対してだけは、鈍感じゃないんです!!!御坂さんはスゴく愛されているんです!!!」

「大層な口ぶりですわね。わたくしの知らぬところで何かありましたの?」

「いや、そんな大したことは……ねぇ、初春」

「ええ、佐天さんが上条さんをひっぱたいモガッ……」

「そ、そそそれは言わなくてイイから!!!」

「モガッ、モガッ。グググ……」

「佐天さん、押さえるのは口か鼻のどちらかにしないと、初春が……」

「エッ!?」

「……」

「顔が紫色になってきましてよ。アラ?」

「どうかしたんですか?」

「……」

「頭の上の華飾りが先程より勢いがないような……」

「エエッ!?」

「……」

「佐天さん、もう少しそのままで。この後どうなるか見てみたいですわ」

「何、危ない発言してるんですか~ッ!?」

「……」

「それよりも、手を離した方がイイと思いますわよ。さっきからほとんど動いてませんから、初春が」

「あっ!!ごっゴメン、初春。大丈夫!?」

「……ップハァ……ハァ、ハァ、ハァ……佐天さん!!なんてコトするんですか!?白井さんもシレッと恐ろしいコト言わないで下さい!!!」

「チッ、もうちょっとでしたのに……」

「あ、アハハハ……」

「(いつか絶対……ブツブツ)」

「何か言いまして?う・い・は・る」

「い、いえ、別に……」

 といった具合の毎日のようである。それにしても、よく入店禁止にならないものだ……。

 そんな相変わらずのドタバタを展開する3人であったが、佐天がふと外を見ると、特徴的なウニ頭が店の横を通っていくのが見えた。
 それを見た佐天は、飲み物代をテーブルにおいて外へと駆け出して行く。

「上条さ~ん」

「ん?おお、佐天さんじゃないか」

「と、年下にさん付けは変じゃないですか?」

「イヤイヤ、この前やられたことを考えたら、さん付けしとかないと、後が怖い」

「あっ、アレは……その……ところで、今日は御坂さんと一緒じゃないんですか?」

「ん?いや、チョットな……」

「どうかしたんですか?」

「ん~……いや実はさ、今朝も電話はかけてきてくれたんだけど、その時からエラく機嫌が悪くってさ」

「うん、うん」

「『今日は行かない』『行きたくない』って言われちゃって……最後には『当麻のバカ!!!!!』って怒鳴られちまった」

「……上条さん、何かしちゃったんじゃないんですか~?」

「しっ、してねぇよ。昨日の夜も普段通り寮の前まで送ったし……別れ際もアイツからキ……(ポンッ!!!)」

「ムフフ~……相変わらずラブラブですねぇ~」

「おっ大人をからかうんじゃありません!!!」

「は~い」

「「プッ、アハハハハ……」」

 何かエラく意気投合しているこの二人だが、何があったのかはまた別の話……。
 ということで、今はコチラの話を進めます。

「それにしても御坂さん、どうしちゃったんでしょうね?」

「それが全然分からねぇんだよな……何かしたのかって言う心当たりもないし。良く言われるフラグってヤツ?そんなの立てるヒマもなかったはずだしなぁ……」

(イヤイヤ、上条さんの場合、ほとんど自動で立てまくりですから……鈍感すぎるけど……)

「ん?何か言ったか?」

「あ、いえ……それより、これからどうするんです?」

「いやまぁ……いつもの待ち合わせ場所には行ってみるつもりなんだけど……来てるかどうか……」

「あの……一緒に着いてってもイイですか?」

「そりゃ、別に構わない……けど……」

「……けど?」

「まさか、アイツらも一緒じゃないだろうな?」

 上条が指差す方向に振り返る佐天。するとそこにはどす黒いオーラを身に纏い、金属矢を手に上条に今にも飛びかからんとする黒子と、それを必死で止める初春が居た。

「あ、アハハハ……じゃ、じゃあ私、初春と一緒に白井さんを止めてきますね」

「あ、ああ。そうしてくれると助かるよ……んじゃ」

 と言って、上条はいつもの自販機に向かって駆け出して行った。
 この後佐天は初春と共に白井の説得に当たるのだが……それに時間がかかりすぎて、美琴と上条のドタバタには間に合わなかった。
 やはり神様は、この素直なセクハラ女子中学生には優しいらしい。


 上条はいつもの待ち合わせ場所にやってきたが、美琴の姿は見当たらない。

「やっぱ居ねぇか……『今日は行かない』なんて言ってやがったからなぁ……今日はホントに来ないつもりな「当麻~、見ぃつけたっ!!!」のかな?」

「へっ!?」

「覚悟はイイ?」

「あの……“覚悟”って?」

「問答無用!!!!!」

『バチバチバチッバッシーン』

『バッキーン』

「い、いきなり何しやがるっ!?」

「ウルサい!ウルサい!!昨夜の恨みよ!!!」

「昨夜!?」

「自分の胸に手を当てて、良~く考えてみなさいよ!!!!!(ビリビリ)」

「そっ、そんなコト言ったって……今右手を使ったら……(ダラダラ)」

「ふーん、そ~ゆ~コト言うんだ?(バチバチバチバチ)」

「おっ、落ち着け、美琴ッ!!!冷静に話し合おう。なっ!?」

「私は冷静よっ!!!!!(キィィィン)」

「どっどこがだよっ!?」

「行っっっっけぇ~~~~!!!!(ズドォ~~~ン)」

「マジッ!?(パッキーン)」

「チッ!」

「ひぇぇええええ。……って舌打ち!?」

「サスガに手強いわね。久々に、燃えてきたぁぁぁぁあああああ~~~~!!!!!!!」

「何、変なスイッチ入れてんだよっ!?ってか、落ち着けって言ってんだろ!?」

「ウルサい!ウルサい!!乙女の怒りを思い知れッ!!!!!!」

「乙女の怒りって何だよっ!?」

「まさかもう忘れたって言うの!?」

「だから、オレが何したって言うんだよっ!?」

「だからっ……えっ?……えっと……その……、……(ポンッ!!!!)」

「ヘッ!?」

 『夫婦喧嘩は犬も食わぬ』とは言うけれど、コチラの二人の擬似夫婦喧嘩は凄まじいコトこの上ない。
 それはさておき、上条の問い掛けに昨夜の“アレ”を思い出してしまった美琴は、一瞬にして固まってしまった。
 美琴が固まった瞬間は呆気にとられた上条だったが、ダテに戦場を右手一つでかいくぐってきた訳ではない。
 美琴が動きを止まったのを見て、この好機を逃すはずがなかった。
 自慢の脚力で一気に距離を詰め、そのまま美琴を抱き締める。

「オレが何かして、お前を怒らせてしまったんなら謝るから、とりあえず落ち着け。なっ?」

「~~~~~~~」

「なぁ、一体何でそんなに怒ってんだ?」

「……ったん…もん……」

「えっ!?」

「……かったんだもん……」

「何を?」

「……怖かったんだもん!……」

「ヘッ!?」

「……ホントに怖かったんだもん。……こ、この前はつい『イイよ』って言っちゃったけど……」

「……あ、あの~……」

「だって、だって、だって、当麻がいきなり私を押し倒して、強引に唇を奪って……」

「かっかっかか上条さんはそんなことをした覚えはありません!!!」

「うそウソ嘘っ、慣れた手つきで服を脱がせて、私を、私を……」

「待て待て待てッ!!!!美琴ッ、お前一体何の話をしてるんだ!?」

「何の話って……昨夜、当麻が……(ゴニョゴニョ)」

「昨夜って何のことだよ!!一体いつオレがお前を押し倒して、強引に唇を奪って、慣れた手つきで服を脱がせて、生まれたままの姿にして、全身にキスの雨を降らせたって言うんだっ!?」

「……言ってない……」

「えっ!?」

「そこまでは言ってない……」

「……えっと……」

「……言ってないのに、何で知ってんのよ!?」

「へっ?」

「やっぱり当麻だったんだ……」

「だっ、だから……一体何の話を……」

「あんなことして、しらばっくれる気?」

「あんなことって……ん?……お前……まさか……」

「まさかって何よ。ホンットに怖かったんだから。私は止めてって叫んだのに、当麻は止めてくれなかったじゃない!!!!!」

「もしかして……美琴、お前……」

「何よ……まだ、知らないって言う気なの?」

「まさかとは思うが……お前、オレと同じ夢見たって言うんじゃないだろうな!?」

「えっ!?……夢?」

「そうだよっ!!!で、それを“記憶”だと思い込んで、夢と現実を混同してるんじゃないだろうなッ!?」

「……」

「……み、美琴?」

「……」

「お~い美琴?……美琴さ~ん」

「……」

「もしも~し」

「……えっ!?……えっと……、……(ポンッ!!!)……エヘッ……」

「『エヘッ』じゃねぇぇぇぇぇえええええええ~~~~~!!!!!!!」


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