とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part16

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見知らぬ記憶


 美琴が起こした騒動にさすがの上条もかなりお冠である。
 それはそうだろう。身に覚えのないことで【雷撃の槍】は降らされるわ、【超電磁砲(レールガン)】は打たれるわでは、たまったものではない。
 美琴としては『エヘッ』でごまかしたかったようだが……さすがにそれは無理というものだ。
 とは言え、上条の弱点を知り尽くしている美琴のこと。
 必殺の“上目遣い”攻撃と“腕をギュッ”作戦を先程からずっと続けている。
 (こうして見ると、五和の「おしぼり作戦」は超控えめなんだなぁ……結構スキなんだが……)
 上条の怒りが解けるのも時間の問題であろう。

「分かった、分かった、分かったよ……もう……」

「ホントッ!?ホントに許してくれるのっ!?」

「ああ……元はといえば、オレが見た“夢”が原因だしな……」

「アレは……“夢”じゃ……ないもん……」

「まだ言ってんのかよ?」

「だって……」

「まぁ……美琴の言い分も分かんない訳じゃないけどさ……だからって……アレはなぁ……」

「そっ、それはだから……さっきから謝ってるじゃない……」

「分かった、分かったよ。だけど、今度やったら……」

 上条は隣に座っている美琴の首根っこを“ギュッ”と掴むと

「コレだかんな」

 と言った。

「ピギッ!!!」

 首根っこを右手で掴まれた美琴が変な声を出したかと思うといきなり固まった。
 つい先日、上条が偶然発見した美琴最大の弱点。
 美琴はうなじの生え際が弱点なのだ。
 どうやら、能力的にこの部分が後方の感覚センサーの役目をしているのだが、センサーなだけにかなり敏感に出来ているらしい。
 普段は能力でガードしている訳で、誰かが触れれば間違いなく感電するはずである。
 だが、上条の右手には【幻想殺し(イマジンブレーカー)】が宿っている。それらのガードが一切通用しない。
 それだけならまだ良いのだが、その右手が宿す“浄化の力”が美琴の能力を中和する際に、美琴の能力が逆流するらしいのだ。
 それは美琴が今までに味わったことのない感覚らしく、正に全身を電気が逆流するような感じだという。
 本来なら、発電系能力者として体内電気を自由自在に操る美琴なのだが、この逆流する電気には完全に翻弄されている。
 故に、上条に右手で首根っこを掴まれると、変な声を出して、正に首根っこを掴まれたネコの如くなってしまう。という訳である。
 因みに、右手で身体に触れられて能力を止められた状態で左手でそこを触られても、それほどの反応はない。電気が逆流しないからだ。
 やはり右手で……というところがミソらしい。
 さすが“神様より貸し与えられた浄化の力”を宿す右手はダテではないらしい。
 しかし……そんな大切なものを何に使ってるんだか……。

「み、みみ、み……みぃ……」

「ホント、ネコみたいになっておんもしれーぞ、美琴」

「みぃ……み、み、み、……みぃ」

「ダ~メ、今止めたらお仕置きじゃねぇだろ?」

「み、みぃ……」

「ちょっと強めに……」

「みっ!!!みみみ、みっみ……みみっ、みぃ!」

「分かった、分かった。じゃあ、お終いだ。……だけど、またやったら……分かってるだろうな?」

「うう……、当麻の……意地悪……」

 と言って、“上目遣い”攻撃をするくらいしか抵抗出来ない美琴。
 上条、久々(と言うより初めて?)の完全勝利である。

「んじゃ、買い物に行くか?」

「うう……」

「ほら、行くぞ」

「うん……」

 上条が差し出した右手を掴み、右腕に“ギュッ”としがみつく。
 こうすれば、首筋への攻撃はない。
 美琴とすれば、安心して甘えられる。
 で、仲良くお買い物を済ませて、いつも通り上条の部屋へご到着である。

「ぐわぁ~、重かったァ~」

「ちょっと買い過ぎちゃったかしら?」

「いくら何でも買い過ぎだろ?アイツがいるんならまだしも……」

「えっ!?“アイツ”って?」

「(あっ、ヤベッ)……」

「ちょっと、当麻。アンタ今何か隠そうとしたでしょ?」

「(ギクッ!!)……な、何のことでせう?……か、上条さんは別に疚しいことなどありませんのコトよ」

「ふ~ん、そういう言い方するんだ……。誤魔化そうとする時に、その口調が出るって気付いてる?」

 知らず知らずのウチに地雷を自ら踏んでしまった(口が滑ったとも言う)上条。
 1発目に吹き飛ばされ、今は地雷原のど真ん中……。
 先程までの勢いはドコへやら。
 完全に形勢逆転である。

「みっみっみ……」

「何、さっきの私みたくなってんのよ!?」

 笑顔は笑顔なのだが、全身から電撃が迸り目が全然笑っていない美琴を見て上条は、自然と土下座モードに入ってしまう。

「ゴメンなさいゴメンなさい別に隠していた訳ではないのですがなかなか話をする機会がなかったというか機会を見て話させて戴こうとは考えていた訳でして洗い浚い全て話させて戴きますので何卒家電製品達をあの世に旅立たせるのだけは平に平にご容赦を~」

「その潔さと土下座の美しさだけは、ホント天下一品よね……まぁ、いいわ。でも……」

「ヘッ!?……でも?」

「その“アイツ”ってヤツのこと、しっかり聞かせて貰うからね。もし例の『銀髪シスター』と同棲してました。何て言い出したら……」

「……(ダラダラ)……い、言い出したら……?」

「アンタの首根っこ掴んで、体内電気をしっかり逆流させてあげるから……覚悟なさい!!!」

「ひぇぇぇぇえええええええ~~~~~~~~~っ!?」

 この後、事の次第を全て洗い浚い吐いた上条がどうなったのかは……ご想像にお任せします。
 えっ!?ちゃんと書けって?
 イヤですよ。美琴が「みっみみっみ」ってなってるシーンは可愛いからイイけど、上条がそうなってるシーンなんて……書きたくありませんから。

 【閑話休題(それはさておき)】

「ハァ……まさかホントにあの子と一緒に住んでたとは思わなかったわ……」

「まぁ、ホントに一緒に住んでただけだったけどな」

「ホンットに何にもなかったんでしょうね!?」

「あっある訳ねえだろ!?第一あんなツルペタロリシスターなんざオレの好みじゃねぇしっ!!!それにそういう関係どころは雰囲気になることすらなかったよ」

「何で“ツルペタ”だって知ってる訳?」

「そっそそそれはぁ……」

「と・う・ま・あ~(バチバチバチバチッ)」

「やっ!やめろって!!言うッ、言うからッ……ハァ……不幸だ……」

「で、見たのね?」

「……ハイ……何度か……」

「何度か?何度かってどういう意味よっ!?まっ、まさかアンタたちって……」

「ばっバカ野郎!!そんなんじゃねぇよっ!!!全部事故だ、事故!!!」

「事故って何よ?」

「アイツの着てた修道服ってのが“歩く教会”って言う霊装でさ……。それをオレの右手で触ったら……全部吹っ飛んじまったんだよ」

「ふ~ん……(バチバチ)」

「まっ、待てッ!美琴ッ!!落ち着け。落ち着こう。落ち着いて下さ~い。お願いします~~~」

「これは……ちゃんと説明してもらう必要がありそうね」

「せっ、説明ったって……何から話せばいいか……」

「洗い浚い全部って……さっき言ったわよね……」

「……はい……」

「全部よっ!分かったわね!!」

「はっはっはひぃぃぃいいいい!!!!!!!!!!」

 地雷を踏みまくった上条。
 結局、洗い浚い全部を話すハメに陥った……。

 「不幸だ……」

 と、代わりに言っといてやろう。

「で……アイツと初めて会ったのが、この部屋のベランダなんだよ」

「ハァ?ベランダって……あそこ?」

「ああ……」

「何であんなとこに……?」

「布団を干そうと思って外に出たら……ベランダに引っ掛かって居やがってさ……」

「引っ掛かってたって、ココ7階よ?」

「分かってるよ。でも、ホントに引っ掛かってたんだから、しょうがねぇだろ?」

「そんな話を信じろと?」

「何だったら、インデックスに連絡取って直接聞いてみろよ?俺の言ってることは間違いないって分かるし、それにアイツは“完全記憶能力”の持ち主なんだから」

「え……何それ……その“完全記憶能力”って?」

「アイツは生まれついての“完全記憶能力”の持ち主でさ、つまり一度見た本や今オレたちがしているような会話まで、全てを完璧に記憶出来るんだよ」

「それってどういう能力なのよ?」

「この学園都市で言う“能力”じゃないよ。生まれついての持って生まれたモノらしい。で、その能力をアイツは悪用されててさ……」

「悪用?」

「そっ。アイツの頭ん中には103,000冊の魔道書の原典が記憶されてるんだよ」

「魔道書?原典?」

「オレだって良く分かってねぇんだ。どっちかって言うと単語を覚えてるってだけでさ……だから詳しくは説明出来ないんだけど……」

「ふーん」

「オレたちに取っちゃ何の意味もないらしいけど、持つヤツが持ったら大変なコトになるらしい。それこそ世界がひっくり返るようなことになるんだそうだ」

「何が何だか……訳が分かんないわ」

「だろうな。オレがインデックスから聞いた話によれば、魔道書ってのは普通の人間が呼んだら、それだけで発狂してしまうくらいに危険なモノらしい」

「えっ?……何それ?」

「だから、分からないんだよ。……とにかくそれくらい危険だってコトだけ覚えててくれたらいいよ」

「じゃあ、どうしてあの子はそれを記憶してても大丈夫な訳?」

「アイツは魔道書の記憶は出来るけど、魔術は使えないんだ。逆に言えば、魔術が使えないからこそ、魔道書の原典を記憶しても大丈夫だってコトらしい」

「ふ~ん」

「話はちょっと変わるけどさ、この前の戦争でオレがロシアに行ったのは、アイツの遠隔操作霊装を奪い返して破壊するためだったんだ。戦争を起こしたヤツもインデックスの頭の中にある魔道書がどうしても必要だったらしい」

「えっ!?」

「さっき言ったろ。持つヤツが持ったら……って……」

「それを当麻が止めに行ったってコトなの?」

「ああ、オレの右手もそいつに狙われてたしな……」

「なっ、どういうコトよ?」

「どうもこうも、そのままだよ。美琴が来てくれた時には、もう其奴との闘いは終わってたんだけどな……」

「ふ~ん……(バチバチ)」

「まっ、待てっ、待って下さい、美琴様ァ~」

「土下座はもういいわよ……それよりあの子って……そんな力を持ってたんだ……」

「ん?ああ。……だけど、アイツはオレと会う前は1年ごとに記憶を消されていたらしい」

「ええっ!?なっ何よそれッ!?そっそんなことが許される訳ッ!?」

「何でもアイツが所属してる組織のトップ連中が、インデックスが裏切ったり浚われたりするのを怖れて施した魔術だったらしいんだけどさ」

「だとしても、人道的に許される訳じゃないわ」

「だよな。だからオレはその記憶が消されるのを何とかしようとして、何とかインデックスとその記憶は助けられたんだけど、自分は記憶喪失になっちまったって訳」

「!!!」

「どうしたんだ……美琴?」

「……当麻……アンタねぇ……」

「ん?どした?美琴」

「当麻にとってあの子って一体何なのよっ!?そりゃ今の話は私とつき合うずっと前のことだけどさ。だからって私じゃない女の子を助けるために当麻が命がけで闘ってる話なんて……そんなの……そんなの……」

「……美琴……」

「そんなの……私聞きたくない!!!!!」

 そう言い終わるかどうかという瞬間に美琴は部屋を駆け出そうとした。
 ところが……
 駆け出そうとする美琴の手を上条はしっかりと握っていた。

「ゴメンな……でも、美琴だから聞いて欲しかったんだよ。オレがどんな闘いをしてきたのか。何のために闘ってきたのかを」

「でもっ……でもっ……」

「インデックスはオレにとっちゃ、家族みたいなもんでさ。妹って言うか、変な言い方だけど娘?かな。お前が【妹達(シスターズ)】を助けようとしたのと同じ……って言えば分かるかな?」

「えっ!?」

「そういう関係だったんだよ、アイツとはさ……」

「……当麻……ゴメン……」

「何でお前が謝るんだよ。謝らなきゃならないのはオレの方だ……お前の気持ちも考えずにこんな話してさ……この前佐天さんに言われたのに……ホント、オレって残酷だよな……」

「当麻……当麻……当麻……」

「泣くなよ……美琴……」

 そう言うと、上条は立っている美琴を“グイッ”と引き寄せ、美琴を自分の膝の上に載せて抱き締めた。

「お前にはオレの全てを知っておいて欲しいんだ。オレが何と闘い、何のために闘っているかを。それはオレのワガママなんだけど、今しっかりとお前に伝えておきたいんだよ。ずっとオレと一緒に歩むって言ってくれたお前だからこそ、知っていて欲しいんだ」

「うん……」

「ホントはもっとお前の気持ちを考えなきゃイケないんだろうけど……オレってバカだから……ゴメンな……美琴」

「ううん……私こそ、ゴメンね……」

「美琴……」

「当麻がそんな風に考えてるなんて、想いもしなかったし……それに……」

「それに……?」

「当麻が命がけであの子のことを救いに行ったなんて言われたら……そんなの……そんなの……」

「?」

「ヤキモチ妬くなんてコトで済む訳無いじゃない!!!」

「……美琴……」

「もう、当麻は私のなんだからっ!!!私の恋人なんだからっ!!!当麻は私にとって、世界で一番大切な人なんだよっ!!!ずっと一緒に歩んでいくって決めたんだもんっ!!!当麻を全部独り占めしたいって思ったって当たり前なんだからねっ!!!!!」

「……みこっ…ン?……」

「んんッ……渡さないっ……誰にも……あの子にも……当麻を……んっ……」

「んむっ……まっ……ん……」

「ん……んんっ……んっ……んふっ……んんっ……」

「……ん……んんっ!?(こ、コイツ!?……し、舌ッ……!?)ん~……」

「……んん……ん~っ……(ぴちゃ)……んふっ……んっ……ん~っ……」

「……んはぁ……、ハァ、ハァ、ハァ……」

「……当麻……んっ!!……好きッ……愛してるの……んんッ……」

「んんっ!?(マジッ!?……やべえ……マジ、やべえ)……んっ~~……」

「ん……ん……ぷはぁっ……当麻……当麻ァ……いやっ……離さない!!」

「まっ……んむっ……んん~……待てっ……やっ……やめ……んっ!!」

「いやっ……やめない……離さない……んんッ……」

「んっ……みこっ……とっ……やっ……ヤバイって……んぷっ……」

「んん……いいもん……当麻なら……んっ……んん……えっ!?」

 濃厚なキスをで美琴が上条を求め続ける。
 永遠にその時間が続くかと思われた時、上条は膝の上にのせていた美琴を抱きかかえると、そのままベッドまで運び、美琴をその上に乱暴に放り投げた。

「きゃっ!?」

「……美琴……悪ィ……スイッチ入っちまった……」

「えっ!?」

 上条の態度が豹変したことに“ビクッ”と全身を震わせ、上条を見つめる美琴。
 ベッドの上から逃げようと背を向けた瞬間……上条が覆い被さってきた。

「イヤッ!!……当麻……まっ……てっ!!!」

「何言ってんだっ!?お前がオレのスイッチ入れちまったんだろっ!!!」

「でも、だって……イヤッ!!……まだっ!!!!!」

「美琴……」

「えっ!?……うそっ!?」

「ヤッ!!ヤダッ!!……待って……やめてよっ!!……当麻ッ……きゃっ!!!」

 上条は後ろから美琴に覆い被さり、両手でその肩を押さえる。

「お願いッ!!当麻ッ……お願いだからっ!!!……ヤッ、やめてッ、やめてよぉ……」

「……」

「と、当麻ッ……、……ピギッ!!!」

「美琴……さっきは良くもまぁ……オレの鉄壁の理性に……ヒビを入れてくれたなぁ~!!」

 そう言うと、上条は美琴の弱点である首根っこを“キュッ”と掴んだ。

「みっみみみっみみっっみ、みぃ~~」

「美琴ォ……“お仕置き”を……す・る・ぞッ!!!」

「みぃ~~~~~~~~」

「マジで危なかったんだからな。それに、ホントは怖いクセに……あんなキスして来やがって……」

「みみみみみみみみぃ~~~~~~~」

「ホントにスイッチ入っちまったら、どうするつもりだったんだ?……そうなったら、マジで止まらなかったんだからな……」

「み……みぃ……」

「お前が泣こうが喚こうが、オレは止まらなかったんだぞ。そんなのお前だってイヤだろう?」

「みぃ……」

「この前、お前を傷つけたくないって言ったの、もう忘れたのかよ。ったく……」

「みぃ……」

「……んじゃ、反省したみたいだし、これで“お仕置き”はお終いな」

 そう言うと、上条は美琴の首筋から手を離し、身体も同じように美琴から離して、ベッドの端に腰掛けた。

「我ながら、ホント良く保ったと思うよ。ホントもうちょっとでマジヤバかったからな……」

「……うう、……当麻の意地悪……ホントに……されるかと……」

「だから、それは自業自得だろう?」

「そ、それは……そう、だけど……でもっ……あんなに乱暴にすること無いじゃない!!!」

「悪いとは思ったけど、怖がらせないとお前が止まらないって思ったからな」

「うっ……」

「オレが言うのもなんだけどさ……もうちょっと後先考えようぜ。特にそっちの関係はさ……」

「うう……その言葉……当麻にだけは言われたくなかった……」

「ハハハッ……そりゃそうだ」

「うう……もう、当麻のバカ……バカ、馬鹿、莫迦~~~~~~~~~~~~~~~」

 そう言うと美琴は上条の胸に飛び込み、その胸板を可愛くポカポカと叩きだした。

「怖かったんだよっ!怖かったんだからぁ~!!」

「ハハッ、ゴメン、ゴメン。だけど、ああしないと美琴が止まらなかっただろ?」

「うう……だけど……だけどぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「ああ、分かった、分かったから……もう機嫌直そうな?」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「ん?」

「……意地悪……」

「拗ねてる美琴も可愛いぜ……『チュッ』」

 そう言うと上条は美琴のほっぺに優しくキスをした。

「……バカ……」

 美琴はそう言って、顔を真っ赤に染めるのだった。



「はぁぁ~~~~~……しかし、前回もだったけど、今回もオレの理性は良く保ったなぁ……うん、エラい、エラい」

「もう、言わないでよぉ~。スッゴい恥ずかしいんだから……」

「ん~?インデックスにヤキモチ妬いて……」

「言っちゃダメェ~~~!!!!!」

 顔を真っ赤にして上条に抗議する美琴。
 そんなドタバタもかなり落ち着き、今は上条は勉強、美琴は夕食の準備に勤しんでいる。

「くわぁ~……あんなドタバタの後だと、体力的にキツいなぁ……」

「もう……いい加減その話題から離れてよ……」

「ゴメン、ゴメン。だけどなぁ……」

「それに『体力的に』っていう言い訳は変なんじゃないの?」

「上条さんはおバカですから、勉強すると知力より体力を消費してしまうのでせう」

「またそんなコト言って……」

「……ん~、いい匂いだ……」

「あ、今日はちょっと早めにするね。ドタバタしすぎてお腹も空いてるだろうし」

「そうだな……かなり減ってるよな……」

「もうちょっとで出来るから、それまではしっかり勉強してね」

「ヘイヘイっと」

「……もう……またそんな返事して……でも、当麻らしい……フフッ」

 と、こんな何気ない会話だが、それが美琴には一番嬉しかったりする訳で……。
 だからこそ、そんな日常を壊しかけた自分の行動をしっかり反省していた。


 そんなこんなで、ちょっと早めの夕食を終えて、後片付けも終了。
 二人は食休みも兼ねて、ベッドにもたれながら肩を並べてのおしゃべりタイムである。

「今日はゴメンね、当麻」

「もうイイよ。ホント……ドタバタはあったけど……何とか収まったしな」

「……うん……」

「そ、それよりさ……ちょっと聞きにくいことなんだが、聞いてイイか?」

「聞きにくいコトって?」

「ああ、……“夢”の話……だよ」

「えっ!?」

「美琴が見たっていう“夢”なんだけどさ……ホントにオレが見たのと同じなのかなって」

「どういうコト?」

「……ああ、同じならいいなって言うか……同じじゃなきゃ……ヤダなって……思ってさ」

「あ……」

「美琴が見た“夢”がオレが見たのと同じ“夢”で、そしてそれが美琴のいうように同じ“記憶”であるなら……オレと美琴はホントに前世からの縁があって……ずっと繋がってて……」

「……当麻……」

「ホントにそうだったら、イイな……っていうかさ……そうじゃなきゃヤダなって、ガラにもなく思っちまった……」

「……うん……私もそう……」

「でもさ……それってやっぱり“過去”なんだよな……」

「えっ!?」

「それは“記憶”である以上“過去”の話でさ、その中味は変えられないんだよな。だけど、オレたちは“今”という時間を生きてる」

「……うん……」

「そして、オレたちは“今”を生きて“未来”を作っていくしかないんだよな」

「……」

「だったら……あんまり“過去”に囚われるのもどうかと思うんだ……」

「……あ……」

「美琴が知りたいと思うのは当然だと思う。でも……それに囚われちゃいけない……」

「……うん……」

「前にも言ったけど、俺は“今”の美琴が好きなんだ。だから、“今”の美琴と“未来”を作っていきたいんだ」

「……ありがと……当麻……」

「うん……。……た……たださ、どうしても気になることもあったりして……」

「……気になること?」

「あ、あのあのあのっ……あ、あの“夢”って、無茶苦茶リアルだったろ?」

「う……うん……(ポンッ!!!)」

「なんつーの、触れてる感覚とか……そういうのも結構あったりして……」

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「で、でさ……その……」

「ぅ、うん……」

 なぜか二人きりの部屋なのに、上条は美琴の耳元に手を当て、ヒソヒソと話し出す。
 それを聞いていた美琴は、いきなり真っ赤になったかと思うと顔を伏せて、フルフルと震え出した。

「~~~~~~~~~~~~~~~」

「……美琴?」

「……と、当麻……」

「……ひゃっ、……ひゃいっ!!!」

「アンタは、デリカシーが無くって、鈍感だとは思ってたけどさぁ……」

「ガクガクブルブル(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」

「花も恥じらう乙女にそ~ゆ~コト聞くんだ?」

「いっ、いやっ、そのっ……かっかか上条さんも一応普通の男子高校生ですのでそういう事に興味が全くないという訳ではありませんのでちょっと聞いてみよ~かなぁ~何て思っちゃったりした訳でしてでも美琴がそんなに怒るなんて思ってもみなかったからゴメンナサイゴメンナサイだからビリビリしないで上条さん家の家電製品が全部あの世に旅立っちゃうしヘタをすると上条さんがココから追い出されて住むとこなくなっちゃうかも知れませんからお願いですからやめて下さい~」

「別にこの部屋も家電製品も傷つけるつもりはないわ」

「ヘッ!?」

「その代わり……私がされた十倍のお仕置きを当麻にし・て・あ・げ・る!!!

「いやっ、待てっ……美琴……落ち着け、落ち着いて。落ち着こう……なっ」

「私は充分落ち着いてるわよ!!!!!」

 そう言うが早いか、上条の左腕を掴むが早いか。
 掴んだ瞬間に美琴は、ちょっと強力なスタンガン並みの電流を上条に流し込む。

「あがッ!?」

 いつもの【雷撃の槍】や【超電磁砲(レールガン)】に比べれば大したことのない電撃だった訳だが……如何せん、左腕では防ぎようがない……。
 一瞬で全身が硬直し、身動きが取れなくなる上条。
 そのままの姿勢でベッドの端に倒れ込んで行く。

「シビシビ~」

「そう言うギャグ漫画チックなコト言っても許さないからね」

「え゛っ!?」

「さっきのお返し、し・て・あ・げ・る」

 そう言って美琴は上条の首根っこを右手で掴むと、自分が味わっている感覚によく似た電撃を放出する。

「みっみみみみみみみみみっみみみみみみみみ……」

「カッコいいコト言って、思わず惚れ直したのに……その後に何?さっきのアレは!?」

「み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛」

「舌の根も乾かないうちに、ホンット信じられない!!!」

「み゛~~~~~~~~~~~~~~~」

「当麻は大好きだけど、そう言うデリカシーのないところはお仕置きして直してやるんだからッ!!!!!」

「み゛み゛ィみ゛(不幸だぁ)ィィィ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ」

「当麻のバカ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」

 上条の悲鳴と美琴の叫びが重なり、夜の帳に吸い込まれて行く……。



「……ン……あ……うん……」

 美琴の電撃で気を失っていたのだろうか。
 どれ程の時間が経ったのだろう?
 そんなコトをボンヤリ考えながら、上条はようやく目を覚ました。

 頭が何か柔らかいモノの上に乗っている。
 そして、自分を心配そうに覗き込む顔がある。
 どうやら膝枕をされているらしい。

(心配するなら、やらなきゃイイのに……でも……らしいよな……)

 そんなコトを考えながら、安心した笑みを浮かべる。

「起きた……の?……当麻?」

「ああ……」

「ゴメンね……ちょっとやり過ぎちゃった……」

「ホント……効いたよ……」

「……バカ……」

「なぁ、美琴……」

「何?……当麻」

「今、……何時だ?」

「……門限……過ぎちゃった……」

「えっ!?」

「日付も……変わっちゃった……」

「えっ……ええっ!!!」

「起きちゃダメ……もうちょっとこのまま……」

「でもっ、もう門限も過ぎて、日付も変わってるんだろ?こんなトコに居てる場合じゃないよ。連絡して帰らないと!!!」

「お泊まり」

「えっ!?」

「お泊まりする」

「なっ!?」

「お・泊・ま・り・す・る・の」

「バカ言ってんじゃねぇ!!そっそそっそんなことさせられる訳ねぇだろうがッ!!!!!」

「ヤダ……」

「美琴、あのなぁ……」

「当麻と一緒に居る。当麻と一緒に寝るの」

「襲っちまうかも知れないぞ」

「いい……」

「強がるなよ……ホントは怖いクセに……」

「当麻ならいい……」

「バカ言ってんじゃねぇよ……オレだって、どうなるか分からねぇんだぞ」

「当麻になら……傷つけられたってイイの……」

「……美琴……」

「当麻を独り占めしたい。誰にも渡したくない。当麻に私だけを見て欲しい。だから……だから……」

「バカ……オレはもう、お前しか美琴しか見てないよ」

「でも、いつかまた、あの子を助けに行っちゃうかも知れない……」

「……そ、それは……」

「だから……今だけは、一緒に居られるのなら一緒に居たい。離れたくない。当麻が抱きたいって言うんなら抱かれたってイイ。当麻の傍に居たいの」

「……分かったよ……」

「えっ!?……イイの?」

「美琴にそこまで言わせて……それを『ダメだ』って言えると思うか?」

「……当麻……」

「それにもう、何もかも手遅れだし……」

「……あ……うん……」

「但し、寝るところは別々だ」

「……傍に居るって言った……」

「あのなぁ……美琴……」

「傍に居るって言ったもん」

「美琴……分かってくれよ」

「ヤダ……」

「襲うかも知れないぞ」

「いいもん……」

「怖がっても、泣き叫んでも、止まらないかも知れないぞ」

「いいもん……」

「お前が良くても、オレが良くねぇんだよ!!!」

「いいもん……」

「あ、あのなぁ……」

「当麻は……しないから……」

「えっ!?」

「当麻は優しいから、私を傷つけたくないから、当麻はしない」

「美琴……」

「私は当麻を信じてる」

「美琴……」

「だから、一緒に居て。傍に居て、私を抱き締めて。そして、私を安心させて……」

「そんなに美琴に信頼されてるんだったら、その期待は裏切れないよな……」

「信じてるもん、当麻を」

「ご期待に添えるよう、頑張ります」

「……好き、当麻……愛してる……」

「……美琴さん……あまり刺激しないで下さい。……上条さんの鉄壁の理性には……もうヒビが入ってますので……」

「……もう、バカ……」

 互いの温もりを感じながら、そして何度目かのキスを交わした後、二人はそのまま眠りに落ちていった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あなた……あなたったら……もう、こんなところで寝ちゃって……」

「ん……、ああ……。ミコトか?……お帰り」

「疲れてるのなら、寝室に行けばいいのに……」

「お前の居ない寝室なんて、行っても寒いだけだろう?」

「もう、またそんなことを……でも、しばらくはおあずけですよ」

「えっ!?」

「二ヶ月……ですって……」

「ホントかっ!?ホントにオレたちの子どもがッ!?」

「はい」

「お、オレが……父親に……」

「はい……あなた……私、幸せです。あなたの子どもが産めるのですから」

「ミコト……ありがとう」

「私こそ……トーマ、私、嬉しい……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……ま……当麻、朝よ……起きて……」

「ん……んぁ……アレ?……美琴?」

「お早よ……ん……」

「ん……刺激的な朝だな?」

「バカ……もう……」

「アハハ……」

「ねぇ……あのね……話したいことがあるんだけど……」

「えっ!?」

「大事なことなの……」

「大事なこと?」

「うん……あのね……」

「うん……」

「……あのね……」

「うん……」

「……出来ちゃった……」

「へっ!?」

「出来ちゃったの……」

「な……何が……?」

「……だから……出来ちゃった……」

「だから……何が?」

「……赤ちゃん……出来ちゃった……」

「え゛……」

「……赤ちゃん……出来ちゃったの……」

「みっみ、みみみ美琴さん?いいいいいきなり何を……?」

「……当麻の赤ちゃん……出来ちゃった……エヘッ……」

「そそそそそっそそそれって……夢……なんじゃ……」

「うん……でもね……私にも……それが伝わってきて……」

 そう言って、頬をうっすらと染めながら、愛おしそうにお腹を擦る美琴。

「い、いいいいや……だから……それは……夢だから……」

「でも、当麻と私の赤ちゃんなんだよ」

「それはそうだけどさ……でもそれは夢で……現実にはオレたちはまだ……」

「うん、でもね……私には……、……だから……」

「だから……?」

「うん……だから……」

「だから?」

「……責任……取ってね♪」

 『中学生に手を出した上に、結婚の約束までさせたスゴい人』は、ついに身に覚えの無いまま、『中学生に手を出した上に、結婚の約束までさせ、母にまでしたスゴい人』になったようだ。
 あくまでも『二人だけの秘密』ではあり、現実ではないのだが……。

 何にせよ、もうしばらく美琴の“夢”に翻弄される日々を上条は送らねばならないらしい……。


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