とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part14

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見知らぬ記憶


 …覚悟を決めた上条は、唇を避け美琴を“フワリ”と抱き締めると…自嘲するようにこう言った。

「ゴメン、オレはまだ、そこまでの覚悟が出来てない。美琴の気持ちに応えられるほどの男になってないんだ。…だから、今は…ゴメン」

「…バカ…何で謝るのよ…」

「だって美琴が恥ずかしいの我慢して、勇気を出して言ってくれたのに…それに応えられないのが、自分が情け無くてな…」

「でも…それって、私を大切にしてくれてるってコトなんでしょ?」

「ん…ああ、それはもちろんそうだぞ。オレは美琴を傷つけたくないし、泣かせたくない。でも、今の情け無いオレだったら美琴を傷つけることしかできないし、泣かせちまうだろうから…だからスゴく嬉しいし、ホントのこと言えば、そうしたいってのも本音なんだけど…でも、絶対後悔すると思うから。今はまだ…な」

「うん…当麻、ありがと…」

「オレの方こそ、ありがとな。美琴」

 そういって上条は美琴にキスをする。
 でもそれは、先程の止まれなくなる口づけとは違う意味を持つキス。
 必ず、この人に相応しい男になる。
 その決意を大切な人に誓うキスだった。



「うぅぅぅぅわぁあぁぁ~…緊張したぁ~~~~~。良く耐えたぞ、オレ!良く耐えたぞ!オレの理性!!」

「もう当麻のバカ、何言ってんのよ!!…でも、ちょっと残念だった?…かな」

「ばっバカやろう。今そんなコト言うんじゃねえよ。ホント言うと今だってまだ危ねえんだぞ、理性保つのマジでギリギリなんだからな!!!」

「そ、そ、そ、それは、私だって…(…だって、期待しちゃったんだし…さ…ゴニョゴニョ)」

「ん?何か言ったか?」

「えっ?べっべっべべ別に、何でもないっ!!!」

「それにしても…ハァ…」

「どうしたのよ?その“幻想(ゆめ)”を見たことをまだ落ち込んでるの?」

「あ…えっ?…うん、ま、まあ…その、なんだ…“幻想”って言うにはさ、スゴいリアルって言うか…な、生々しかったって言うか…」

「(なっ、生々しいって…)~~~~~~~~~~~~~~~」

「何かホントにそういう事をしてるって言うか…そんな現実感があって…」

「~~~~~~~~~~~~~~~…あ…」

「ん?どうした?美琴…?」

「ね、ねぇ…当麻。それってホントに“幻想”だったの?」

「へっ?」

「もしかして…もしかして、よ。それって“幻想”じゃなくって、“記憶”なんじゃ…」

「ちょっ、ちょっと待てよ。美琴…“記憶”って?」

「だって、この前当麻は色んな夢を見続けて、その後私に『好きだ』って言ってくれて、その時にそれが失われたはずの“記憶”だって分かって、最後に守るのは私だって誓ってくれて、ずっと一緒に居るんだって、絶対幸せになって自分たちとその周りの世界を守るって二人で誓って…」

「ああ。その気持ちは今も変わらない。イヤ、変わらないんじゃないな。むしろ強くなってる…と思うし、思いたい」

「それは、私もだもん」

「う、うん…で、でもさ。それがどうして今回の“幻想”と関係あるんだ?どうしてそれが“記憶”ってコトになるんだよ?」

「コレはあくまでも私の推測でしかないんだけど…」

「うん、うん」

「良く、テレビやマンガなんかで生まれ変わりとかあるじゃない。【転生輪廻】ってやつなんだけど…」

「ああ、それならオレにも分かるよ。何度もこの世に生まれて来るっていうアレだろ?」

「そう。で、私たちはその記憶も何処かに持っている。そういう話も出てくるし…そう考えたら…」

「そう考えたら?」

「もっ勿論、いいいい今の私と当麻はそういう関係にはまだなってない。将来はなる…かも…というか絶対にそうなるんだけど…(ボンッ)…」

「(ボンッ!!!)~~~~~~~~~~~~~~~」

「だっだっだからホントは“記憶”じゃなくって“予知夢”って言った方が正しいのかも知れない。でも当麻がさっき言った『生々しい』ってコトを考えると…“予知夢”とするには無理がある…と思うのよね」

「“幻想”じゃなくって、オレの“記憶”…」

「当麻の右手は“神様から貸し与えられた浄化の力”を宿す右手。この世界では“神様の理”から外れた“幻想”を“浄化”する役目しか果たせない。でも…」

「…でも?」

「この世界じゃない世界なら…違う不思議を起こせるんじゃないかって…前世の記憶も、思い出させるコトが出来るんじゃないかって…第一、当麻の【右手】は、“幻想”は打ち砕くけど“記憶”はこの前戻してくれた。そしてその事を教えてくれたのも間違いなく当麻の【右手】だった訳だし」

「…(ボムッ!!!…プシュ~~~~~~~~~~~~~~)…」

「アレ?当麻?どうしたの?」

「む、無理です。上条さんのオツムでは、とても着いて行けませんです、ハイ」

「もう、ホントにこういうコトにはまるでダメなんだから…。でもさでもさ、もし当麻の“幻想”が本当に過去の“記憶”だったとしたら、わたっわたっ私たちって前世も結ばれてる運命だったってコトよね?」

「ヘッ?」

「そ、それってもしホントだったとしたら、キャー!キャー!!それってスゴく素敵じゃない?…私と当麻は前世からの関係で、だから今こうして恋人としての関係はもう当然のことで、今以上に結ばれてて、だからっだからっ、前世ではもうっ完璧に夫婦でスゴい愛し合ってて、子どもなんかも居ちゃったり何かして…キャー!!!キャー!!!!恥ずかしいけど、嬉しい。どうしよ!?どうしよ!?…やっぱり子どもは女の子と男の子と一人ずつは最低欲しいし…ねぇ、当麻!!」

「はっ、はひッ!?」

「当麻が見たっていう“幻想”じゃなくって“記憶”のこと。もっと私に詳しく話しなさい!!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~ばっばばっバカ言ってんじゃねえ!!あんなモン詳しく言える訳ねえだろが。そ、そそそそそそそんなコトしたら、オレの理性なんてあっという間に崩壊しちまう!!!第一、何でそんなこと知りたがるんだよッ!?」

「だって…知りたいんだもん…」

「ヘッ!?」

「だから、知りたいの!!!!!!」

「あ、あの…み、美琴…さん?」

「だから、前世の私ってどんな感じなのかな?とか。胸は大きくなるのかな?とか。前世の当麻はどんな風に私を愛してくれてるのかな?とか。その時の当麻ってスゴい優しいのかな?とか。それとも激しかったりするのかな?とか。どんな家庭を築いているのかな?とか。モチロン愛し合ってるのは間違いないんだろうけど、どんな風に愛を深め合ってるんだろう?とか。それから、子どもは何人くらい居て、どんな感じの子どもなのかな?とか。それから、それから…」

「えっ?えっ?えええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?胸?…大きい?…、…愛し合ってる?…優しい?…激しい…?家庭を築いて…愛を深め合って?…こっここっこここ子どもぉ~~~~~~~!?」

「だからァ~、ねぇぇ~~~、教えてッ!!」

 必殺の『ウルウル瞳に上目遣い』攻撃に、『無意識に首を傾げてのお願いモード』のコンボ攻撃は破壊力満点だった。

「(ボンッ!!!!!!!!)~~~~~~~ふにゃぁ~~~~~~~~」

「ええっ!?…もうっ!!何でそうなるのよっ!!!!!当麻のバカッ!!!!!!」

 乙女モード全開の美琴の追求に上条あえなく撃沈である…。
 コレは確かに“不幸”じゃない。
 でも上条にとっては“不幸”じゃないけど“不幸”な出来事だった。

 その後、上条が目を覚ました後も美琴の追求は続いたが、上条はそれを必死に拒否し続けた。
 一言でも話してしまったら、もう止まらないだろうし、美琴はもっと聞きたがるだろう。
 そうなってしまった時に、自分は理性を保っていられるだろうか?という自問自答に、上条は『NO』の答えしか出せなかったからである。
 斯くして今日は、勉強も食事もそっちのけで、“幻想”から“記憶”の話へと終始してしまい、美琴を寮まで送る時間になってしまった。
 仕方がないので今日の夕飯はコンビニ弁当に決定してしまった。

「むぅ~~~~~~~。今度は絶対に話して貰うんだからね!!」

「ハァ、まだ言ってんのかよ…分かった、分かったから。今度落ち着いた時に話してやるから…」

「絶対ッ!!絶対だからねッ!!!!!約束破ったら…」

「はいはい、オレの部屋の家電がどうなるか?…だろ?」

「それだけじゃ済まないかもね。この前編み出したコインの陰にコインを隠して発射する【超長距離射程型強力超電磁砲(ロングレンジハイパーレールガン)】をお見舞いしてあげる」

「おっ、おまっ、お前なぁ…まだそんなもん開発してたのかよ?一体何のためなんだ?」

「そんなの、モチロン当麻に勝つために決まってるじゃない!!!」

「まだ勝負にこだわってんのかよ?…恋人になったんだから、そんなの必要ないだろッ?」

「何言ってんのよ。それはそれ、コレはコレよ。私は当麻に勝つのをまだ諦めてないんだからね…」

「あのなぁ…オレに言わせりゃ、ここんとこ負け続けてんのはオレの方なんだぞ?もう、オレん中じゃ美琴には絶対に適わないって思い始めてるし…」

「えっ!?そ、そうなの?」

「そうだよっ!!美琴に告白してから、連敗街道まっしぐらなんだからな。まあ、それはそれで良いと思ってるけど。美琴が傍に居てくれるからな」

「(ポンッ!!!)~~~~~~~~~~~~~~~」

「とは言え、今回の“記憶”はそう簡単には話せないからな」

「ええぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~むぅ~~~~~~~~~~~」

「自分の理性を保てる自信がないんだから仕方無いだろ?変に暴走しちまって美琴を傷つけたくないしさ…」

「あ…うん…」

「それに、もしかして美琴の言う通り“幻想”じゃなく“記憶”だとしたら…」

「だとしたら…?」

「続きがあるかも…」

「えっ!?…あっ!!!」

「その続きを見たら、その時はまた話してやるよ。但し…その…」

「ダ~メ、そっちの方も全部話して貰うんだから…」

「おっおまっお前なぁ、何“十八歳未満お断り”の不穏当な発現してんだよ!!!」

「イイじゃない。どっちにしたって、洗いざらい全部吐いて貰うんだからね。こ~ゆ~時の美琴センセーを甘く見ないコトね」

「“女の子に夢見んなよ”ってヤツか?…ハァ…不幸だ…」

「…エヘヘ…当麻、大好きッ!!!!!!」

「何でそうなるんでせう?確かに上条さんは嬉しいですけどね?ンムッ!?」

「…ン…」

「…(い、いきなり…かよ)…」

「…」

「…(あ)…」

「…ン…ンン…」

 もう少しで常盤台女子寮というところで、美琴はいきなり上条の唇を奪った。
 そして、何かを訴えるように濃厚なキスを美琴は続けてくる。
 上条も朧氣ながら、美琴が意図していることが分かるのだった。

「…ン…あ、あの…」

「何も言わなくてイイ。美琴の気持ちは分かったから」

「ご、ゴメン…」

「謝るなよ、今変に謝られると、オレがおかしくなっちまう。今度はオレがこのまま美琴を部屋に連れ帰りたくなっちまうじゃねぇか…」

「えっ!!!(ボムッ!!!!!!)」

「オレもだけど、お前も…美琴もかなりキテたんだよな。テンパってたっていうかさ…」

「…う、うん」

「ホントは震えが止まらないほど怖かったクセに…強がって見せて…でも、オレに気付かれまいと必死になってくれて…」

「うん…」

「そんな美琴だから、オレは大切にしたいんだよ。今の二人がそうなるコトよりも、もっともっと今の美琴を大切にしたい。そう思ってるんだ。それに…」

「それに…?」

「“幻想”の中の美琴よりも、オレは“今”の美琴の方が好きだからさ」

「…バカ…でも、嬉しい…」

「美琴…愛してる」

「私もよ…当麻」

 そういって、再び唇を重ねる二人。
 先程の濃厚なそれとは違い、でも、互いの気持ちを確かめ合う。
 そして、そんな時間は瞬く間に過ぎていく。

「明日は来てくれるんだろ?」

「当たり前じゃない。それに今日は勉強が出来なかったから、明日はその分取り返せるようにビシビシやるわよ!!!」

「え~~~~~~~、そ、それは…」

「ダメよ!!さっきの話について来れないようじゃまだまだすぎるわ。もう少し処理能力を増やせるようにしないとね」

「何がイヤだって、それが一番イヤなんだよ!!!」

「アハハ…じゃあね、当麻。また明日ね」

「ああ、明日な。美琴」

 そう言って別れる二人。
 玄関先でこちらを向いて手を振る彼女に応える彼氏。名残惜しそうに寮の中に入ってゆくその背中を見送りつつ、上条は考える。
(でも…アレは単なる“幻想”なのか?それとも美琴の言うように本当に“記憶”なのか?)
 その答えはまだ出ていない…。


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